お世話になりました:専務理事退任のご挨拶
拝啓 歳末の候、皆様には益々ご隆盛のこととお慶び申し上げます
2020年12月23日開催のTTCの臨時総会と理事会を経てご承認をいただきましたが、私は本年12月31日をもちまして代表理事専務理事の役職を退任し、NTT出身の岩田秀行さんに引継ぎます。新生岩田TTCに対しましても、今まで以上のご指導とご鞭撻を賜り、更なるTTC運営の活性化と発展を期待していただければと思います。
退任にあたり、このブログを通じましてご挨拶させていただきます。
まず、TTC会員の皆様には、新型コロナウイルス感染拡大の中で、不自由な環境にもかかわらず、TTCでのオンラインでの各専門委員会活動や、セミナー企画運営などの持続的な標準化活動にご尽力をいただき、お陰様で、2020年度事業計画での目標をほぼ達成できる見込みであり、事業収支は6年連続で黒字化の見通しとなっています。皆さまのご貢献あっての成果であり、心より御礼を申し上げます。
このマエダブログは2011年1月から開始し、今回号で209回を迎えました。図はブログタイトル画の主な作品集です。標準化活動に関する備忘録と情報発信の手段として、月に一件以上のブログ発行を目指してきましたが、皆様方の激励をいただきながらなんとか目標は達成することができました。ご愛読いただきました皆様に御礼を申し上げます。
10年前、私は2010年10月1日付けで、井上友二理事長のご退任にともない、後任として専務理事に就任しました。その後、TTCの一般社団法人化への移行、業際イノベーション本部の設置、フォーラム標準とデジュール標準との連携強化、新規課題対応(光ファイバ伝送、番号計画、セキュリティ、OneM2M、コネクテッドカー、AI活用、IoTスマートシティ)の新専門委員会の設置、アジア新興国を含む様々な国際標準化機関との連携強化、標準化人材育成のための標準化テキストの作成公開など、TTC会員皆様のご支援のお陰で、充実したTTCでの業務を担当させていただきました。
私がいくつか担当してきた国際標準化における役職のうち、APT(アジア・太平洋電気通信共同体)のWTSA(世界電気通信標準化総会)準備会議の議長については継続します。WTSAはITU-Tの最高決定機関で4年に一度開催される総会で、当初計画では、本年11月16日~27日にインドのハイデラバードでの開催が予定されていました。しかし、コロナの拡大が進む中で、WTSAホスト国のインド政府から、2020年6月のITU理事会において、2021年2月末に開催延期が提案されました。しかし、コロナの収束が見られない状況で、さらにインド政府は2020年11月のITU理事会において、WTSAの再延期を提案し、1年4か月遅れの2022年3月1日~9日の開催日程での再延期の調整が進んでいます。WTSA開催が再延期された場合、その議長任期は延長されることになり、追加のAPT WTSA準備会合やWTSA本番の現地対応など、WTSA終了までは議長としての責任を果たせるように対処する必要があります。
私が専念してきました標準化人生を振り返りますと、私は、1980年にNTT(当時は電電公社)の電気通信研究所に入所し、26年間、主に、ブロードバンドネットワークおよび光アクセスシステムの国際標準化を含む研究開発に従事してきました。NTT退職の後、約4年間、NTTアドバンステクノロジー株式会社で標準化推進の業務を経験し、2010年よりTTCにお世話になりました。
この40年間で、1988年4月から一年間、英国電信電話研究所(British Telecom Research Laboratories, Martlesham Heath)の交換研究員として留学する機会を与えられ、帰国後の1989年から、ATM(Asynchronous Transfer Mode)やFTTH(Fiber To The Home)の研究成果を国際標準化に生かすために、DAVIC(Digital Audio Visual Council)やFSAN(Full Service Access Network)というフォーラム系の標準化とともに、ITU-T(当時はCCITTと呼ばれていた)におけるデジュール系の国際標準化に深く関わるようになりました。諸先輩のご指導のおかげでいくつかの標準化機関での役職を与えていただき、貴重で有意義な経験を積むことができました。
標準化機関の役職に関しては、浅谷耕一先生(工学院大学名誉教授)のITU-TのSG13副議長職を引き継ぐのをきっかけに、ITU-TでのSG13副議長を2000年から1会期4年間、2004年からはSG15議長を2会期8年間担当させていただきました。TTCに異動してからも標準化活動を現役として継続し、2012年からITU-Tの新組織であるReview Committee議長を4年間、2016年からはTSAGの標準化戦略ラポータを4年間担当させていただきました。並行して、APTでは2014年からASTAP議長を7年間担当させていただきました。日本が新規課題の標準化推進を主導し、仲間作りのための有益な人的チャネルを確保するうえで、標準化機関におけるリーダーシップの確保は重要であり、役職者として標準化現場から得られるホットな情報を日本の標準化戦略の検討の一助とすることができたかと思います。
今までTTCは、日本における情報通信分野の標準化機関SDO(Standard Development Organization)として、インターネット・モバイルの発展、通信のグローバル化など、情報通信ネットワークの発展に寄与してきましたが、今日では、産業・技術革新が世界的に進みつつあり、あらゆる産業において、既存事業のデジタル化によるビジネスモデルの転換を意味する「デジタルトランスフォーメーション」が急速に進展し、更にコロナ禍がこの転換を加速させていると思います。
これからのTTCが目指すべき方向は、世界をリードする企業の多くが、デジタル化された基盤の上に、それぞれの技術やサービスを持ち寄ることで全体が機能する仕組み「エコシステム」を作り上げ、利益を共有する協業体制を実現し、急速なICTの発展に伴うサービスの多様化やビジネスのグローバル化が進む中、一社単独で開発競争力を維持することは容易ではない時代となっていることを踏まえ、既存の枠組みを超えて技術やアイデアを集約し、短期間で新製品や新サービスを開発する「オープンイノベーション」に注目すべきではないでしょうか。また、「エコシステム」の拡大には、標準を活用して他社に自社の技術をオープンにすることで利益を得るオープン戦略と、知財などを駆使したクローズ戦略の両輪が必要となり、新しいビジネスを創出し、そのグローバル展開を加速させる国際標準の活用がますます重要性を増すと思います。
標準化活動の範囲は、技術面のみならずビジネス面から支える活動に拡大しています。一方で、国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」の達成に向けて、国内外問わず企業が果たす役割はますます高まっています。TTCにおいても社会課題の解決に向けて時代の流れを先取りする議論を行ない、的確な標準化テーマの設定や国際標準化の推進などに貢献するとともに、ICTを活用した事例の創出・展開などその普及活動を推進することが期待されています。
TTCが、日本の国際競争力強化に向けて、総務省などの政策に連携し、タイムリーな標準化アップストリームおよびダウンストリーム活動はもとより、デジュール標準とフォーラム標準、サービス・アプリケーションレイヤのオープンソースソフトウェアの動向に柔軟に対応できるよう、今後も組織や運営体制を柔軟に見直すとともに、各種グローバル標準化機関との連携強化、アジア諸国並びに周辺諸国との標準化連携の推進、さらに、IoTによるスマートシティ実現に向けた分野横断的な活動を戦略的に進めていくよう、新生岩田TTCに期待しています。
最後に、TTCが、標準化の推進と普及活動を通じて日本の国際競争力の向上に貢献できるよう、TTCへの皆様方のさらなるご支援ご鞭撻を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。また、一日も早い新型コロナウイルス感染症の終息と、皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。ありがとうございました。