第3回APT WTSA準備会合速報
5月19日号マエダブログで報告した第2回APT(アジア・太平洋電気通信共同体)の WTSA(世界電気通信標準化総会)準備会合(以下、「APT WTSA」と呼ぶ)に引き続く第3回APT WTSAが、7月13日から17日まで、ウェブ会議で開催されました。
本マエダブログでは第3回APT WTSAの会合概要を速報します。
目次
1.WTSA日程変更
ITU-T総会であるWTSA-20は、2020年11月16日から27日まで、インドのハイデラバードで開催の予定でしたが、長引くCOVID-19(新型コロナウィルス感染症)の影響で、ホスト国のインド政府からITU理事会(バーチャル、6月開催)において、WTSA開催日を2021年2月23日から3月5日までの期間に延期すること提案がされました。提案承認には、最終的にITU加盟国193カ国の過半数の賛成が必要で、賛否を問うコンサルテーションが行われる予定です。早ければ8月末には正式な日程変更が決定される予定です。WTSA日程変更の決定後、WTSAの開催場所と開催形式については、今後のCOVID-19の動向を見て再検討されます。
2.リモートウェブ会議形式
COVID-19の影響により、APT WTSAの第2回から次回の第4回会合をリモートウェブ会議での開催とし、オンライン会議ツールとしてZoom最新版を使用して実施しました。
リモートウェブ会議により、参加者数が増加しました。海外出張を伴わない会議への参加の容易さが要因の一つとして考えられます。一方で、多地域にわたる参加者の時差による開催時間の公平性維持、各国のインフラ環境に依存した回線品質劣化による会合中断、議事紛糾時の個別交渉の実施の難しさなど、リモート形式での国際標準化会議の在り方について今後の課題も多く認識されました。
会議の開催時間の設定に関しては、今会合では会議時間は一日に6時間程度とし、開催時間は会議運営支援を行うAPT事務局のあるタイ(バンコク)時間(UTC+7:00)を基準に午前10:30~16:00での開催としました。
3.APT WTSA参加者数
今会合の参加者数は、APT加盟国の正会員が146名(16ヵ国)、準会員と賛助会員が96名、ITUなどの他の国際機関からの参加が17名、APT事務局員7名の総計266名でした。集合形式の通常の会合参加者数は約100名程度ですから、リモートウェブ会議では倍以上の参加者数となっています。リモートウェブ会議による新たな会議形式により、課題対応にリモートで担当者がそれぞれ対応することが可能となるとともに、海外出張費用を削減できることから参加者が増加しています。実際、インド、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムなど新興国からも積極的な対応をしており、リモートウェブ会議のメリットと考えられます。
ウェブ上での参加者の集合写真をZoomの画面キャプチャとして撮った写真の一部を示します。
参加者の国別内訳では、中国が63名で全体の4分の1を占め、最大の寄与をしています。中国の代表団長はMIIT(Ministry of Industry and Information Technology)のCAICT(China Academy of Information and Communications Technology)が担当しており、個別の寄書審議対応の活動者として、賛助会員であるChina Mobile、China Telecom、ZTE、Huawei、China Unicom、CICTの専門家が対応をしています。
日本は、中国に次ぐ2番目の参加者数で、総務省を代表団長とし、賛助会員を含めて26名の日本団を構成しました。日本国内では、総務省関係者、ITU-TのSG役職者、APT WTSA準備会合役職者、TTCの国際連携アドバイザリーグループ配下のTSAG対応タスクフォースのメンバーで構成されるWTSA準備アドホックを構成し、対処方針や日本寄書を検討しています。
4.APT WTSA準備会合のマネジメント体制の更新
APT WTSAの役職者について、中国からのWTSA準備会合の副議長とWG2の副議長の変更提案があり承認されました。役職者の更新リストを表1に示します。
詳細な議論を推進する3つのWG議長とWG副議長には、日本から3名の専門家の方々が選任されており、中国と韓国とのバランスを維持しながら、日本としては強力なマネジメント体制を構築しています。
表1. APT WTSA準備会合マネジメント体制 (2020年7月17日版)
APT WTSA | 議長 | 副議長 |
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Plenary
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前田洋一(日本・TTC)
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Dr. Hyoungjun Kim (韓国)
Ms. Li Fang (中国)
Mr. Arvind Chawla (インド)
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作業グループ | WG議長 | WG副議長 |
WG1:
ITU-T
作業方法
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Dr. Kangchan Lee (韓国)
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永沼美保(日本・NEC)
Mr. Ashutosh Pandey (インド)
Mr. Tong Wu(中国)
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WG2:
ITU-T
組織構成
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荒木則幸(日本・NTT)
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Mr. P.K. Singh (インド)
Mr. Nguyen Van Khoa (ベトナム)
Mr. Kihun Kim(韓国)
Ms. Wang Liang(中国)
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WG3:
規制/政策と
標準化
関連事項
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Dr. Cao Jiguang (中国)
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本堂恵利子(日本・KDDI)
Ms. Arezu Orojlu (イラン)
Mr. Premjit Lal (インド)
Ms. Nguyen Thi Khanh Thuan (ベトナム)
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5.国際標準化機関との情報交換
前会合に引き続き、ITU-T局長のChaesub Lee氏、また、地域標準化機関としては、欧州のCEPT(European Conference of Postal and Telecommunications Administrations)、アメリカ地域のCITEL(Inter-American Telecommunications Commission)、旧ソビエト地域のRCC(Regional Commonwealth in the field of Communication)からの代表者に参加いただき、各地域での検討状況についての情報交換が行われました。
今後はAPTからも他の地域標準化機関の準備会合にオブザーバー参加を行い、標準化連携のための情報交換を促進していく予定です。7月29日~31日にはアフリカ地域のATU(African Telecommunications Union)の準備会合が開催される案内が届いており、APT WTSA副議長の一人がAPT代表者として参加する予定です。
6.WG会合の概要
WGの審議は、3つのWGで分担し、各WG議長がIssue Paperを発行することにより各WGの検討内容を明確にし、詳細検討となる決議案や勧告案について、寄書をもとに審議を行っています。図は、APT WTSAでの寄書提案からWG会合での審議を経て、Plenaryでの合意となる予備共同提案(PACP: Preliminary ACP)、最終的な共同提案(ACP: APT Common Proposal)の合意までの流れを示します。
- 各国からの提案は「INP」文書として入力され、各WGでは、まず、予備共同提案の候補(Candidate draft PACP)を選定します。WGでは、予備共同提案の草案を「TMP」文書として作成し、WGでのコンセンサスが得られれば「OUT」文書としてdraft PACPの位置づけでPlenaryに付議されます。
- draft PACP がPlenary会合で合意(コンセンサスが基本で、意見対立の場合はPlenary出席国の25%以上が賛成)が得られたものがPACPとなります。
- PACPは全てのAPT加盟国(38ヵ国)に対して承認照会が行われ、加盟国の25%(10カ国)以上が賛成し、50%(19ヵ国)以上が反対しなければACPとなり、WTSA-20にAPT共同提案として正式に提案することができます。
6. 1 WG1:ITU-T作業方法
- WG1では、ITU-Tの作業方法に関するWTSA決議とITU-T Aシリーズ勧告(勧告A.1、A.7等)での規定について、決議の改訂(MOD)または廃止(SUP)を検討しています。
- 今会合では、11件のcandidate draft PACPが作成され、その中で、決議18, 決議22, 決議32, 決議45, 決議55の5件についてはdraft PACPとしてPlenaryに提案承認され、PACPとなりました。決議22と決議32の修正と決議45の廃止は日本の提案に基づくもので、提案文書のエディタは日本が担当しています。
6. 2 WG2:ITU-Tの作業計画とSG再編構成
- WG2では、決議2が規定するITU-Tの各SGが取り組む作業計画と課題(Question)を含むSG構成を検討しています。また、新規標準化課題の進め方は今後のSG構成に密接にかかわることから、日本としての対処が重要です。特に、COVID-19に対するEヘルスを含むパンデミック対策、ICTにおけるAIの活用、Machin Visionに関する検討推進、量子情報技術(QIT)に関する検討強化、Vertical applicationを考慮した将来網の検討、などの新規決議に関わる課題については、ITU-TのSG13、SG11、SG16での議論課題と密接な関係があり、今後の進捗に注目していただきたい。
- SG構成のハイレベルな再編原則については、WTSA-16で合意したハイレベルSG再編7原則を基本とし、オーストラリア、日本、マレーシア、インドネシア、ベトナム、中国からの提案がありますが、ハイレベルSG再編原則の記述を統一するかどうかについては合意に至っておらず、継続課題となっています。
- SG再編構成案については、TSAG会合において、ITU-T局長のたたき台(Food for thoughts)が提案されており、現状11個のSG構成に対して、6個に大幅削減する提案が検討のベースとなりつつあります。これに対して、APT WTSAでは、ベトナム、韓国、中国、インドネシア、マレーシア、日本からの提案があり、提案の中で、ITU-T局長案を修正する構成案が多い中で、中国はSGの既存構成を変更しない現状維持案を強く主張しており、APT統一案の合意に至るには数多い課題があります。また、SG再編構成が、SG議長及び副議長の選挙に密接に関係することから、それぞれの国の事情を把握しつつ、WTSA本番での決着に向け慎重な対処が必要と思われます。
6. 3 WG3:規制・政策と標準化課題全般
- WG3は、規制・政策および標準化課題全般に関わる決議を扱うことから、対象文書数も多く、今会合に入力された寄書は33件と最多のWGです。
- 今会合では、18件のcandidate draft PACPが作成され、その中で、決議79, 決議76の2件についてはdraft PACPとしてPlenaryで承認され、PACPとなりました。
6. 4 合意されたPACPs
本ブログの中で決議および勧告の番号を示す記述がありますが、各WTSA決議とAシリーズ勧告のタイトルと出典リンク情報、各文書の担当WGの分担、準備会合における各国からの関連寄書番号との関係を検討管理表(Tracking Table)としてまとめたものを以下に添付します。
この管理表は2020年7月17日時点のもので、今後会合毎に更新していく予定です。
上記の決議と勧告のリストの中で、今会合で合意されたPACPについては、APT非会員の方を含め以下から入手できます。今後、他の地域機関からの提案との比較検討を行い、WTSAでの合意に向けた対処検討が必要になります。
https://www.apt.int/sites/default/files/2020/07/APT-WTSA20-3-OUT-PACPs.zip
7.今後の予定
今後の関連会合の開催の予定を表2に示します。
表2:今後の関連会合予定
会合 | 日程 | 場所 |
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TSAG作業計画ラポータ会合
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2020年8月5日~7日
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リモートウェブ会議
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APT WTSA WG中間会合
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2020年8月18日~21日
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リモートウェブ会議
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WTSA-20地域連携準備会合
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2020年9月18日
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リモートウェブ会議
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TSAG会合
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2020年9月21日~25日
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リモートウェブ会議
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APT WTSA WG中間会合
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2020年10月13日~16日
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リモートウェブ会議
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第4回APT WTSA会合
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2020年11月16日~11月20日
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リモートウェブ会議
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TSAG追加会合(予定)
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2021年1月11日~1月15日
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スイス(ジュネーブ)
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WTSA-20(予定)
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2021年2月23日~3月5日
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インド(ハイデラバード)
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WGの中間会合の予定を表3に、各WGの中間会合の主要課題は以下の内容が合意されており、日本としてのWG対処が必要です。
- WG 1 中間会合(10月15日)
- ITU-T A .1勧告の改訂 (APT-WTSA 20-3/TMP-06)
- ITU-T A .7勧告の改訂 (APT-WTSA 20-3/TMP-08)
- ITU-T A .8勧告の改訂 (APT-WTSA 20-3/TMP-04)
- WG 2 中間会合(8月21日)
- WTSA決議78を含む新決議案に関するcandidate PACPについての討議
- マシンビジョンに関する新決議案の作業文書に関する討議。
- WG2中間会合(10月13~14日)
- SG再編案に関する議論。
- WG 3 中間会合(8月18~20日)
- 決議.50, 52, 58, 60, 64, 72, 73, 76, 77, 79, 84, 88, 89, 92, 95, 96, 97, 98を含むWTSA決議のPACPs案に関する議論
- WG 3中間会合 (10月15~16日)
- WTSA決議に関するPACPs草案についての議論
表3: APT WTSA WG中間会合のワークプラン