TSAG会合速報: WTSA-20に向けた準備検討が本格化
2月10日から14日まで、ITU-TのTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)会合がジュネーブで開催されました。今回のTSAG会合は、ITU-Tの2017年~2020年研究会期における第5回会合で、2020年11月のITU-T総会WTSA-20までに9月会合を残すだけになりました。
私は、TSAGにおける標準化戦略ラポータグループの共同ラポータとして、総務省の参与として参加しました。本ブログでは、TSAGの審議結果として、WTSA-20に向けた各ラポータグループ(RG)で行われた審議概要を中心に速報します。
本ブログの目次構成
1.TSAG全体概要
第5回となるTSAG会合では、今研究会期の全てのSG の標準化活動を検証し、今後ITU-Tが取り組むべき標準化課題を分析し、WTSA-20における次会期(2021年~2024年)に向けた標準化機関としての検討体制案の見直しの議論を行いました。本報告では、今後の検討材料となる関連TD(Temporary Document)文書についての情報が提供されます。ITU-TのTD文書の入手にはTIESアカウントの登録が必要となります。
TSAG会合構成は、全体審議を行うプレナリー(月曜と金曜)と、その間の3日間で課題毎に詳細検討を行うRG会合で分担して審議しました。プレナリーはTSAG議長(Bruce Gracie氏(カナダ、エリクソン:写真1)が、RG会合は以下の6つの課題毎に各ラポータがそれぞれ議事運営を行いました。
今会合には40か国から97名の加盟国代表を含む175名が参加しました。日本は、総務省国際戦略局通信規格課の萩本猛国際情報分析官を日本団団長(HoD)として、国内各社・団体(NICT、NTT、KDDI、NEC、日立、三菱電機)から9名の現地参加者で対応しました。
今会合は、新型肺炎コロナウィルスの影響で、中国の海外渡航自主規制等により参加できない者に対して、Web会議による対話型のリモートアクセスの環境が提供されました。ITU-Tの決議を伴う本会議でのリモートアクセスのガイドラインを急遽見直し、緊急事態の危機管理対応での開催となりました。中国のHoDは1月下旬から開催されていたSG15のLi FANG氏が引き続きTSAG会合に対応されました。
ITU会議でのコロナウィルスの対策に関しては、現地ジュネーブ会場には以下の注意喚起の掲示がされ、会議室の入り口にはアルコール消毒液が設置されました。マスクについては、病気の方の飛沫を防ぐことが目的と考えられており、会場でマスクを着用した人はほとんど見られませんでした。ITUでの会議は予定通り実施されましたが、ジュネーブで2月末恒例の時計見本市を中止する等の影響は出ており、ITUでの関連会議の運営についても柔軟な検討が必要になっています。
今会合でのWeb会議システムとしては“Zoom”を利用するとともに、クラウド型リモート同時通訳プラットフォームアプリの“Interprify(インタープリファイ)”が初試行されました。ただ、Interprifyの品質性能に関しての課題が認識され、今後、品質改善に向けた検討を行うことがTSB局長から表明されました。
TSAG会合全体の詳細結果報告と今後の対処方針については、TTCの国際連携アドバイザリーグループのTSAG対応タスクフォース会合で報告・審議しますので、関心のある方はTTCにお尋ねください。
2. ラポータグループ(RG)会合
2.1 標準化戦略RG-SS(Standardization Strategy)
RG-SSは前田を含む5名の共同ラポータで議長役を順番に交替して運営を行っており、今会合のRG議長はRim Belhassine-Cherif氏(チュニジアテレコム)でした。次会合はArnaud TADDI氏(Broadcom)が担当する予定です。
このRGは、今後の標準化課題を戦略的に評価分析し、将来課題に反映させることを目的とし、特に、CTO会合の提案を基に産業界の意見を標準化戦略に反映させる観点から、標準化ホットトピックを検討しています。アップデートしたホットトピック情報は全てのSGにリエゾンとして送信され、各SGでは次会期に向けた課題の見直しの検討に活用するとともに、分析結果を次回TSAGまでに回答することになりました。
日本寄書による新規課題とSDGsゴールとのマッピングに関する検討手順に関するガイドラインの提案については引き続き検討を行うとともに、TSBが開発中のAIベースSDGsマッピングツールの活用について検討することとなりました。
各SGの標準化活動状況に関する評価統計データについては、自動集計を実現するため、優先付けによるデータ項目の絞り込みを引き続き検討することになりました。現時点で集計可能なデータについて、TSBから以下の報告があり、SG再編における既存の組織の活動状況を分析する資料として役に立つでしょう。
TD660:SG毎の参加者数、寄書数、成果物数等の統計データ
TD729:SGの課題レベルの作業項目数、寄書数等の統計データ
TD755:SG毎のメンバータイプ別の参加者数の統計データ
これらのデータを基に、統計データ項目の優先付け、標準化課題とSDGsとのマッピングガイドライン、ホットトピックの分析、CxO会合コミュニケの分析などの検討を継続するため、3回のWeb会議の開催を合意しました。
2.2 作業計画・体制RG-WP (Work Programme and structure)
今回のTSAGの検討の中心は、SG再編の課題を扱うRG-WPであり、4セッションの時間枠が与えられ、ラポータのReiner Liebler氏(ドイツ、連邦ネットワーク規制庁)の下で検討を行いました。
このRGは、全てのSG の活動報告を検証し、SGが提案する課題構成の変更案についての是認(endorse)を判断します。今会合では、Q20/SG13のAI課題を取り込むための課題修正、光部品に関するSG15におけるQ.7/SG15のQ.6/SG15への課題統合と、ホームネットワークに関するQ.15/SG15のQ.18/SG15への課題統合、UNESCOとの連携によるデジタルカルチャに関するQ.23/SG16の課題新設が認められました。
SG再編に関しては、TSB局長による「Food for thought」と題した大幅なSG統合案(TD717)が12月に出されたのをきっかけに、再編に対する基本原則の明確化や具体的なSG統合案に関する議論が行われました。日本からはSG再編の考え方に関わる要求条件の明確化を提案しました。英国や韓国からは具体的なSG構成案が示されましたが、各国や各地域組織(APT、ARAB、ATU、CEPT、CITEL、RCCの6組織)での詳細議論はこれからであり、SG再編に関して集中審議を行うために中間会合(8月5日~7日、ジュネーブ)を開催することが決定されました。
今後のSG再編検討を促進するために今会合での提案状況をまとめたリエゾン文書をSGと地域組織に送付することを合意しました。今後の検討に向けては以下のTSAGのTD文書を分析するのが有効と思います。
TD717:TSB局長のSG再編案「Food for thought」
TD730:SG再編原則(ハイレベル再編7原則)
TD732:TSAG今会合へのSG再編に関する各国寄書提案のまとめ
TD759R1:SG再編構成提案のまとめ
2.3 作業方法RG(Working Methods)
このRGのラポータはSteve Trowbridge氏(米国、ノキア)で、ITU-Tにおける様々な作業手順やルールを規定するWTSA決議1やAシリーズ勧告の維持管理を行います。このRGでは、SGの作業方法を規定する勧告A.1とフォーカスグループに関する勧告A.7の改訂検討を行っており、次回TSAG会合までに2回のWeb会議の開催を合意しました。
2.4 標準化協調強化RG(Strengthening Cooperation/Collaboration)
このRGのラポータはGlenn Parsons 氏(カナダ、エリクソン)で、他の標準化機関との協調の在り方や強化策について検討を行っています。前会合で主要な勧告改訂の検討を終了しており、ITU内のセクター間の連携強化のためのリエゾン活動を継続しています。
ITUと他団体との標準化連携に関して特質するべき事項は、ETSIとITUとの協調連携に関する幹部会合(2月7日開催)の結果が報告され、TTCも標準化を推進するIoT関連の標準化団体であるoneM2Mとの連携を強化することが確認されました。
2.5 地域グループRG (Rapporteur Group on Creation, Participation and Termination of Regional Groups)
このRGラポータはKwame Baah-Acheamfuor氏(ガーナ、国家通信局)で、全権会議PP-18で承認された決議に関する課題で、各SGが設立するRegional Groups(地域グループ)の設立、参加、解散に関わる基準の明確化を検討しており、今会合でこのRGの終結を合意しました。
2.6 WTSA決議レビューRG (WTSA Resolutions Review)
このRGラポータはVladimir Minkin氏(ロシア、国立無線通信研究所)で、WTSAの決議の進捗検証を行うとともに、関連の強い決議の統合化や決議記述の簡易・合理化を図り、WTSAの決議文書のスリム化の推進が課題です。
WTSA-16では約60件の決議が合意されましたが、WTSA-20ではそれらの継続、修正、廃止を検討します。WTSA-20での決議検討を促進するために、6つの地域組織(APT、ARAB、ATU、CEPT、CITEL、RCC)の窓口に対して、決議の審議進捗管理のためのテンプレートの配布を合意しました。次回のTSAGまでに、1回の対面会議(理事会期間中)と1回のWeb会議の開催を合意しました。
3. 標準化新規課題動向
3.1 NET2030と新IPに関する将来網課題
FG-NET2030の議長であるRichard Li氏が将来網に関するFGの動向を講演する情報セッションが開催されました。ITU-Tでは将来網に関しては、FG-NET2030と新IPの検討があるが、これらは独立に検討されています。Network2030は2030年以降のネットワークの機能を研究しており、新IPは新しいプロトコルとそれに対応するネットワークアーキテクチャ、要件、機能、シグナリング、および制御に関する研究のことで、FGが検討したシナリオに対するソリューションを提供する可能性があります。
このような新プロトコルは、産業界と学術界の両方で研究され、三つの異なる組織からの三つのPoC(Proof of Concept)デモが2020年1月のFG-NET2030(リスボン開催)で紹介されましたが、標準化はまだ開始しておらず時期尚早であるが、将来網に関する検討には取り組むべきであるという認識が紹介されました。
今後、将来網課題についてはFGの親SGであるSG13が今後の検討を主管するとともに、WTSA-20での将来網に関する新規課題の設立が議論になるでしょう。
4. 今後の予定
4.1 TSAG会合(WTSAに向けた関連会合のスケジュールを表1に示す)
- 2020年8月5日-7日(ジュネーブ):SG再編に関するRG-WP中間会合
- 2020年9月21日-25日(ジュネーブ):第6回TSAG会合。
なお、TSAG直前の9月18-19日には、WTSA-20準備に向けた地域組織間会合(Inter-regional meeting)が実施される予定であり、APT代表としての対応が必要である。
4.2 標準化戦略RG中間会合(Web会議)
- 第1回Web会議:2020年4月23日 (日本時間20:00-22:00)
- 第2回Web会議:2020年7月2日 (日本時間20:00-22:00)
- 第3回Web会議:2020年9月4日 (日本時間20:00-22:00)
表1. ITU-T WTSA総会に向けた主な関連会合スケジュール
会合
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開催時期 2020年 (記載のない会合はジュネーブ開催) | ||||||||
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3月
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4月
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5月
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6月
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7月
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8月
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9月
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10月
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11月
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SG2
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5/27-6/5 |
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SG3
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3/31-4/9 |
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SG5
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3/10-3/19 |
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10/19-10/23
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SG9
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4/16-4/23
(日本) |
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9/23-10/1
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SG11
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3/4-3/13
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7/22-7/31
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SG12
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4/15-4/24
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SG13
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3/2-3/13
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7/20-7/31
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SG15
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9/7-9/18
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SG16
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6/22-7/3
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SG17
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3/16-3/26
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8/25-9/3
(韓国) |
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SG20
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3/26-4/13
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7/6-7/10
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TSAG
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8/5-8/7
【*】 |
9/21-9/25
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APT準備
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4/8-4/10
(タイ) |
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6/22-6/24
(中国) |
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8/18-21
(フィリピン) |
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WTSA |
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11/17-11/27 (インド) |
【*】 SG再編に関する中間会合(ジュネーブ)