日本開催CJK CTO会合速報
目次
1.CTO会合とは
CTO会合(TSB Director’s CJK CTO Consultation Meeting)は、ITU-TのTSB局長(Chaesub Lee氏)が主催し、TSB幹部とICT産業界を代表する民間企業や研究機関のCTO(Chief Technology Officers:最高技術責任者)とが会し、ITUにおける国際標準化の優先課題や今後の国際標準化の戦略的方針、標準化活動の効率化のための標準化機関相互の連携方針などについて意見交換を行うことを目的として開催されます。CTO会合の議論結果はCOMMUNIQUÉ(コミュニケ)として公開されます。
CTO会合は、WTSA決議68として規定されているTSB局長に課せられたアクションの一つです。Lee局長は、業界ニーズを基にした標準化課題の優先付けに関心が高く、CTO会合を積極的に活用しています。CTO会合の開催は、ITU Telecom Worldのイベントの前日に開催することが基本となっていますが、北米やアジアといった地域毎のCTO会合を開催することにより、より多くのCTOの意見を集める配慮をしています。
2.CJK CTO会合概要
2.1 CJK CTO会合の開催概要
今回のCTO会合は、アジア地域版で、ITU-Tの主要セクターメンバである日本、中国、韓国の三カ国のCTOを対象にCJK CTO会合として企画されました。Lee局長によれば、ITU-Tの扱う寄書の40%以上はこの三ヵ国からの貢献によるものであり、CJKのCTOの意見を尊重した標準化の推進が期待されています。
今回のCJK CTO会合は、2016年3月に韓国(ソウル)で、KTのホストで開催して以来の二回目の開催であり、TTCの理事会社を中心に会合貢献を行うことを目指し、TTCがホストとなり、7月16日(火)、東京都港区芝公園のTTC会議室で開催しました。
2.2 参加者
今回のCTO会合に参加した組織一覧を表1に示します。企業からは研究機関を含む14組織の代表者と陪席者、TSBからはLee局長の他、ITU-TのStudy Group(研究委員会)の部門長であるBilel Jamoussi氏が参加し、総勢35名を超える盛況な会議となりました。参加者の集合写真を以下に示します。
CTO会合の初参加会社である中国のCAS Quantum Network社とQuantumCTek社は、昨年ITU-Tのセクターメンバに新規加入したばかりの会社であり、量子通信関連の標準化を推進するために、SG13やSG17を中心に積極的に参加している会社です。
表1. CJK CTO会合参加組織
No. | 組織 | 国 |
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1
|
CAS Quantum Network Co., Ltd.
|
中国
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2
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China Mobile Research Institute
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中国
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3
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Fujitsu Ltd.
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日本
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4
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Huawei Technologies Co., Ltd.
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中国
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5
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KDDI Corporation
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日本
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6
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Korea Telecom Corporation
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韓国
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7
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Mitsubishi Electric corporation
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日本
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8
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NEC
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日本
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9
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NICT
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日本
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10
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NTT DOCOMO
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日本
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11
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QuantumCTek Co., Ltd.
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中国
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12
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SK Telecom
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韓国
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13
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Sumitomo Electric Industries, Ltd
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日本
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14
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TTC
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日本
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15
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ITU
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スイス
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3.今回の主要な議論概要
今回議論された主要課題のキーワードは、「オープンイノベーション」、「AI(人工知能): Artificial Intelligence」、「量子情報通信(Quantum Information Technologies)」、「光ファイバー網」、「データセンタ」です。
CTO会合では、情報通信の標準化におけるオープンソースの動きとネットワークの「ソフトウェア化」の動向を踏まえた影響、ネットワーク運用と保守の自動化に対するAIの活用価値、量子情報技術の到来に備えた準備の重要性、今後の全光化ネットワークへの継続的投資の必要性、データセンタ相互接続を実現するための革新技術の必要性、などを考慮した標準化活動の今後の方向性について議論しました。
以下に、COMMUNIQUÉの合意内容を基に、CTO会合での議論要点を概説します。
3.1 標準化とオープンイノベーション
IMT-2020/5G、IoT、AIへの期待が高まる中で、ネットワークに接続された様々な商品やサービスの拡大は標準化に大きな影響を与えています。CTO会合では、ソフトウェア駆動型のネットワーク管理とオーケストレーションへの移行の重要性が高まっていることと、5G及びその後に必要とされる迅速で柔軟なネットワークリソース割り当てに対するオープンソースの動きの重要性が指摘されました。
CTO会合では、ソフトウェアとハードウェアの両方の開発でオープンイノベーションが重要であり、より多様化した標準化活動が必要となり、その標準化活動はオープンイノベーションの技術面とビジネス面の両方に対応する必要があります。また、ITUとオープンソース・コミュニティとの連携の成功事例を議論し、標準化とオープンソース・プロジェクトの両方との交流が重要であることが指摘されました。
3.2 ネットワークスライシングとAI
CTO会合では、ネットワークサービス制御の自動化に対するAIの活用価値を検討し、ネットワーク運用・保守の自動化においてAIが果たす役割の重要性を認識しました。ネットワークの複雑化に伴い、AIの重要性は高まり続けています。
ネットワークスライシングを可能にする重要な要因であるSDN(Software Defined Networking)とNFV(Network Function Virtualization)は、ネットワークの運用とシステム構築にソフトウェアの高度なスキルが必要となる大規模ネットワークをサポートし、この変化は、ネットワーク設計、構築、運用、保守のための自動化技術の開発が必要となります。
CTO会合では、ITUが、オープンデータの利用可能性を促進することを推奨しましたが、これには、データ共有のためのフレームワークとデータ品質の保証と改善のための方法の開発が必要になります。ネットワークスライシングとAIの実装が増えることを考慮して、エンド・ツー・エンドのサービス品質(QoS)を評価するメカニズムの重要性が唱えられました。さらに、ITUが、ネットワーク、技術、およびデータに関して相互運用可能なAI技術を促進する標準を開発することを要望しました。
3.3 量子情報技術
ITUは、量子物理学の特性に基づいた量子情報技術の到来に備えをしており、量子情報技術は、古典的な情報技術の範囲を超えた問題を解決することができるようになるでしょう。CTO会合では、これらの量子情報技術は、セキュリティ防御を強化することは確実ですが、反面、攻撃に対してより強い力をもたらすと警告しました。
CTO会合は、量子情報技術のセキュリティとネットワーク面でのITUの継続的な標準化活動を支持しました。QKD(Quantum Key Distribution)やQRNG(Quantum Random Number Generator)などの量子情報技術は、それ自体が量子安全であることが証明されており、それらの技術レベルは、大規模な導入展開ができるレベルにあります。例えば、5GおよびIoTネットワークを安全にするための技術の成功には、量子デバイスの効率的でコスト効率のよい展開とそれらの相互運用性をサポートする標準が必要になります。
CTO会合は、ITU内の量子専門家のエコシステムの拡大へのコミットメントを表明し、ITUが、新たな標準化要望を先取りできるように、量子情報技術に対して先見的アプローチを取ることを奨励しました。また、ITUが、量子関連の標準化活動の効果的な協調を保証するために、標準化団体を一緒にまとめる主導的な役割を担うことを要望しました。
3.4 ファイバー網の将来
光ファイバ網は、情報社会の「バックボーン」を形成しており、今日の超広帯域・ギガビット時代の基盤となる重要なインフラストラクチャとして認識され、光ファイバ網への投資は増加し続けています。アクセス速度の向上により提供サービスの範囲が拡大し、1~5Gbit/sのアクセス速度があればバーチャル・リアリティ、クラウド・ゲーム、およびスマート・シティをサポートできます。5-10Gbit/sのアクセス速度があれば、ホログラフィック通信や遠隔医療などの用途をもたらす可能性があるでしょう。
CTO会合は、ITUが光ファイバ・ネットワーク、技術、およびインフラストラクチャの標準化におけるリーダーシップを有していることを踏まえ、ITUが、標準化したFTTH(Fiber to the Home)技術を最大限に活用するよう業界をサポートすることを要望しました。
CTO会合は、ITUに対し、高度なFTTH技術間の関連する標準化ギャップ分析、超低遅延を特徴とする高品質なサービス体験、データセンタやホームネットワーキングを含む全てのシナリオにおける光ネットワーキング、クラウドコンピューティングとネットワークスライシング、AIによる自動化されたネットワーク運用と保守などの課題を分析することを奨励しました。
3.5 データセンタ課題
シスコ社の2016-2021年のGlobal Cloud Indexによれば、データセンタ内に設置されたサーバは、13%の年平均成長率(CAGR)で増加しており、グローバルデータセンタのIPトラフィックは、25%のCAGRで増加しています。2021年までに、グローバルデータセンタトラフィックの71.5%がデータセンタ内で発生し、データセンタ間で13.6%、データセンタとユーザ間で14.9%が発生すると予測しています。
これらの数字は、高速データ通信、ネットワークスライシングおよび仮想化、ならびに高電圧直流(HVDC)電源の重要性を唱える動機となります。CTO会合では、サーバ間の接続速度と容量が増加することにより、ケーブルとコネクタの進化、ネットワークスライシング、およびネットワークノードの仮想化の検討が必要となるとともに、データセンタ運用のエネルギー効率を高めるためのHVDC電源の可能性を提言しました。
CTO会合は、HVDC電源の採用と同様に、サーバ間の400 Gbit/s接続実現を推進することをITUに提言し、さらに、ITUが対処するべき問題を特定するために、標準化団体全体にわたって進行中のデータセンタ関連の標準化活動の動向を調査することを要求しました。
3.6 TSB局長によるITU-Tの活動報告
(1)WTSA-20について
4年毎に開催されるITU-Tの総会(WTSA-20)の開催情報として、2020年11月17~27日にインドのハイデラバードで開催されることが案内されました。WTSA-20は、ITU-Tの会員にとって、市場動向と業界の優先事項を反映したITU-Tの標準化戦略とその体制および作業方法について議論する貴重な機会となります。
WTSA-20の議論では、ITU標準化のコアコンピタンスを維持する必要性と、新たな標準化要求に応えるために必要な柔軟性を組み込むためのITU標準化の必要性との間で適切なバランスをとることが重要です。TSB局長からは、ITU-Tは12年以上SG体制の大きな変更はしてきていないが、デジタルトランスフォーメーションによる標準化課題の大きな変化の中で、分野横断的な課題や業界のコンバージェンス動向に対処するため、何らかのSG体制の見直しは必要となるであろうという感触が感じられました。
(2)Study Group リーダーシップ会合
WTSA-20の準備として、ITU-TのSG全体の様々な技術的な議論を促進し、SG間の調和を図り、戦略的事項について話し合うために、2019年9月9-10日、ハンガリーのブダペスト(ITU Telecom Worldの会場)で、リーダーシップ会合を実施することが案内されました。
この会合には、ラポータを含む全てのSGとFG(Focus Group)の役職者が招請されます。主要なテーマとしては、「IMT-2020/5G」、「番号、アドレス指定および識別」、「マルチメディアコーディング、システムおよびアプリケーション」、「セキュリティ、プライバシーおよび信頼」などが想定されます。日本の役職関係者は、この機会を活用し、ITU-Tの戦略的標準化に向けた提案を行うことが望まれるでしょう。
(3)新規会員の増加
ICTが全ての経済分野に影響を与えるデジタルトランスフォーメーションの出現は、ITU-Tのメンバーシップの大幅な増加に寄与しており、2018年には、ITU-Tは、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)、MVNE(Mobile Virtual Network Enabler)、無人航空機メーカー、テレマティクス会社、自動車会社、OTTアプリケーションプロバイダ、フィンテック会社、エネルギー事業者、量子暗号・量子通信専門会社など45の新規会員を獲得しました。
4. まとめ
4.1 CTOコミュニケ
今回のCTO会合の議論概要はCOMMUNIQUÉ(コミュニケ)として公開されていますので、より詳細な内容に関心のある方はご覧下さい。CTOコミュニケの内容は、今後、全てのSGとTSAG会合に展開され、私が共同ラポータを務めるTSAGの標準化戦略に関するラポータグループで分析を行い、今後のITU-Tでの標準化戦略の検討に反映していく予定です。
4.2 今後の予定
ITU-Tの扱う課題とそれらを議論するメンバの範囲が拡大しつつある中で、これらの動向に対応していくために、日本として、WTSA-20での合意に反映できるように、SGリーダーシップ会合やTSAG会合を活用し、ITU-TのSG体制の見直しについて検討していく必要があると考えます。
次回のCTO会合は、2019年9月9-12日にハンガリーのブダペストで開催予定のITU Telecom Worldのイベントの前日、9月8日に開催する予定です。これらの課題に対する日本としての対処や提案については、TTCの関連委員会で検討を行う予定です。