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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

ずっといい音聴いていたい「Safe listening」勧告

 世界保健機関(WHO)は2月12日、スマートフォンなどの携帯音楽機器で長時間、大音量の音楽を聴き続けると聴覚障害(難聴)になる恐れがあるとして、音量制限機能などの搭載を求める国際標準勧告に関する発表「New WHO-ITU standard aims to prevent hearing loss among 1.1 billion young people」を行いました。

WHOのMake Listening Safeのマーク 【出典】https://www.who.int/pbd/deafness/activities/MLS/en/
WHOのMake Listening Safeのマーク 【出典】https://www.who.int/pbd/deafness/activities/MLS/en/

 12〜35歳の人々の50%近く、または11億人の若者が、パーソナルオーディオデバイスを介して聴く音楽を含む、大音量の音への長時間の過度の曝露により聴覚障害のリスクがあると言われています。

 世界耳の日(3月3日)の前に、世界保健機関(WHO)と国際電気通信連合(ITU)は、スマートフォンやオーディオプレーヤーを含むこれらの機器の製造者と使用に、より安全に聴くための新しい勧告を発行しました。

 国際標準勧告は、ITUの電気通信標準化部門(ITU-T)のマルチメディアに関する研究専門委員会SG16が2018年8月に制定した、勧告H.870 「Guidelines for safe listening devices/systems」 です。詳細検討はSG16の課題28(E-health)で行われ、課題28のラポータと勧告H.870のエディタは川森雅仁先生(慶応義塾大学)です。

 この勧告は、騒々しい娯楽施設で音楽やその他の音に晒されているとき、および個人のオーディオ機器を介して音楽を聴いているときの両方で、特に青少年のリスニング習慣を改善することを目的に、2015年にWHOの「Make Listening Safe」イニシアチブを立ち上げ、そのイニシアチブの下で、政府、産業界、消費者、市民社会の専門家を含むさまざまな利害関係者との最新の証拠と協議をもとに、2年間のプロセスでWHOとITUの専門家によって開発されました。

 WHOのテドロス・アダノム事務局長は「失った聴力は元には戻らないことを理解しなければならない」と強調し、各国政府やメーカーに勧告に沿った規制や機器製造を要請しています。

 この勧告では、安全なリスニング装置の特徴として、例えば次のものを具備していることを推奨しています。

  • 「サウンド許容量」機能: 安全利用の目安を大人で音量80デシベル、子供で75デシベルを1週間に40時間までとし、機器にどの音量をどのくらい聴いたかを明示する機能。
  • パーソナライズドプロファイル: ユーザーにどれだけ安全に聴いているか(または聴いていないか)を知らせ、この情報に基づいて行動のヒントを与えるためのユーザーのリスニング習慣に基づいた個別のリスニングプロファイル。
  • 音量制限オプション: 自動音量調整や大音量で聴き続けた場合、自動的に音量を下げる機能など、音量を制限するためのオプション。
  • 一般的な情報: パーソナルオーディオ機器を聴く場合と他のレジャー活動で聞く場合の、安全なリスニング実践に関するユーザーへの情報とガイダンス提供。

 2017年5月に開催されたWHOの総会決議において、失聴・難聴の問題は、禁煙、生活習慣病、ガンなどとならんでWHOの重要項目として取組みが強化されることとなりました。耳と聴覚を守るための予防やケアが、誰にでも受けられる対応が世界中で必要とされています。ITU(国際電気通信連合)では2016年から、WHOと協力してSafe Listeningに関する標準化作業を進めています。

 スマートフォンの普及とともに、ヘッドホンなどの音響機器も進化し、より良い音響環境や臨場感を得られる技術が開発されていますが、今後は安心安全な機器の開発が業界にとっても課題となります。例えば最新音響テクノロジの難聴予防への対応や、難聴予備軍の方への保護やサポートについて、議論や検討が期待されます。

 これに対応してTTCでは、マルチメディア応用専門委員会 電子情報健康管理SWG (e-health SWG)(リーダは、慶応義塾大学 川森雅仁先生)において、ITU-T SG16での勧告化を推進しています。

 TTCでは、2017年12月15日、TTCセミナー「Safe Listening 2:ずっといい音を聴いていたい~難聴予防のWHO決議と音に関する最新ICT技術動向」を開催し、WHOのSafe Listeningに関する総会決議とその取組みについて、また医療従事者から難聴発症の適切な予防についてご紹介いただきました。さらに難聴予防の教育の必要性と啓蒙活動のご紹介、また新しい技術を活用した音響機器による難聴者支援など、安心安全や社会貢献に関る取組みも含めて、それぞれの専門家による解説とともに、ITU-Tでの標準化活動についてご紹介いただきました。

今後は、ITU-T勧告H.870「Guidelines for safe listening devices/systems」基にした「TTC標準」について、検討を進める予定です。また、最新のTTCセミナーも企画を予定しております。TTCのマルチメディア応用専門委員会 電子情報健康管理SWG (e-health SWG)の活動に関心のある方は、
事務局:大友 克彦【E-Mail: ohtomo[atmark]s.ttc.or.jp: TEL: 03-5776-7794】までお尋ねください。

 

参考

★日経新聞:「携帯音楽、若者11億人に難聴の危険 WHOが音量基準」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO4119766013022019CR0000/

 

★朝日新聞:「若者11億人に難聴リスク WHOが音楽機器使用に基準」

https://www.asahi.com/articles/ASM2F2FCBM2FUHBI008.html

 

★WHOの発表

https://www.who.int/news-room/detail/12-02-2019-new-who-itu-standard-aims-to-prevent-hearing-loss-among-1.1-billion-young-people
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/280085/9789241515276-eng.pdf

 

★ITU側の発表

https://news.itu.int/safe-listening-standard/

 

★TTCセミナー (2016年8月30日開催、 2017年12月15日開催)

http://www.ttc.or.jp/j/info/seminar/history/rep20160830/
http://www.ttc.or.jp/j/info/seminar/history/rep20171215/