日中韓・情報通信標準化(CJK-17)会合速報
日本、中国、韓国の3カ国間の情報通信に関する4つの標準化機関(SDOs : Standards Development Organizations)の協調連携プログラムであるCJK情報通信標準化会合(正式名称“CJK IT Standards Meeting”、以下“CJK会合”)の第17回会合が、10月24日から26日まで、日本のARIB(電波産業会)とTTCとの共同ホストにより、島根県松江市の東急エクセルホテルで開催されました。本ブログでは、CJK会合の概要を速報します。
目 次
この記事の目次
1. CJK会合とは
1.1. CJK会合の目的
CJK会合は、3カ国の4つのSDOs間の相互連携に関するMoU(Memorandum of Understanding:覚書)に基づき、各国の情報通信分野のSDOsが窓口(中国はCCSA、韓国はTTA、日本はARIBとTTC)となり、情報通信の産業界の動向に関する情報交換を図り、アジア地域及びグローバルでの標準化に関する3カ国間での連携を図ることを目的としています。
CJK会合は、2002年から開始し、12~18か月の間隔で、3カ国で順番にホストを持ち回り開催することとしており、今回は日本の担当で、通算17回目となります。
日中韓の複雑な政治状況の中で、CJK会合は標準化活動を通じて、3カ国間で自由に意見交換ができる貴重な国際連携の枠組みであると認識しており、4つのSDOsの代表者HoD(Head of Delegation)間の友好的な交流を重視しています。
1.2. CJK会合の組織体制
CJK会合は、重点的な標準化課題や全体組織構成の決定を行う「プレナリー会合」の下に、技術課題毎に情報交換を行う5つの作業部会(WG:Working Group)で構成されます。
CJK会合の今後の主要課題の選定、WGの再編など基本方針については、CJKの4つのSDOsの代表者からなるHoD会合によって調整され、プレナリー会合での承認を得て決定されます。また、次回会合に向けた準備については、HoDによる電子会議HoD会合を適宜開催し対処検討します。
現状の作業部会は以下の5つのWGで構成され、それぞれWG毎に議長、副議長がおり、個別WG会合を3カ国間で持ち回りながら運営し、主要結果についてはプレナリー会合に報告されます。
- IMT-WG:次世代移動通信システム課題
- WPT-WG:無線電力伝送課題
- NSA-WG:IoTやスマートシティを含むネットワーク課題
- IS-WG:セキュリティ課題
- TACT-WG:CJK会合に関する運営管理課題
上記のWG課題のうち、日本ではIMT-WGとWPT-WGはARIBが主担当となり、NSA-WGとIS-WGの課題はTTCが主担当となって対応しています。
2. CJK-17会合の主要トピック
2.1. 会合構成
今回のCJK会合では、全体会合の会合規模を最小限とするために、個別の技術課題を扱うWG会合は実施せず、全体方針の議論と各SDOsの最近の標準化動向について情報交換を行う全体プレナリー会合とHoD会合のみを開催しました。
参加者は、CCSAは5名、TTAは9名、ARIBは7名、TTCは9名の30名でした。
2.2. 各SDOの活動報告
4つのSDOsから、前回CJK-16会合以降の活動報告が行われました。以下では、中国CCSAおよび韓国TTAの報告から、彼らが現在取り組んでいる標準化課題について、特徴的な動向情報を共有します。
(1)中国CCSA
中国CCSAからは、「AIoT」というキーワードを使用し、AIがビジネスと生活を変革するとし、AIに関する標準化への高い関心を示すとともに、バーティカル・インダストリーにおける大規模IoTアプリケーションが最大のビジネスチャンスであり、アプリケーション・レイヤの標準化が大きな課題である視点が紹介されました。
CCSAでは、これらの議論を進める仕掛けとして、CCSAの傘下に、AIoTアプリケーション課題に応じて、企業・機関の有志により組織化される"Standards Promotion Technical Committee"を設立できるようにし、バーティカル・インダストリー、特にIoTプラットフォーマーとのコミュニケーションの強化を図る場をCCSAが提供していることが紹介されました。
CCSAにとっての標準化重点課題としては、5G(実用化は2020年)、IoT(エッジコンピューティング、車、家電)、情報セキュリティ、量子暗号化通信(QKDテクノロジー)、将来網(Network 5.0)、AIなどが挙げられました。
(2)韓国TTA
韓国TTAは、標準化部門だけでなく、ICT・ソフトテスト認証ラボ部門を有し、5GやIoTに関するテスト・認証活動を推進している点が特徴的です。
主要な標準化活動としては、Smart City、Smart Farm、5G関連の課題に積極的に取り組んでいます。また、2019年に向けた戦略的主要技術として、以下の20個の課題による標準化戦略マップを作成していることが紹介されました。
2.2. 各SDOの活動報告
4つのSDOsから、前回CJK-16会合以降の活動報告が行われました。以下では、中国CCSAおよび韓国TTAの報告から、彼らが現在取り組んでいる標準化課題について、特徴的な動向情報を共有します。
(1)中国CCSA
中国CCSAからは、「AIoT」というキーワードを使用し、AIがビジネスと生活を変革するとし、AIに関する標準化への高い関心を示すとともに、バーティカル・インダストリーにおける大規模IoTアプリケーションが最大のビジネスチャンスであり、アプリケーション・レイヤの標準化が大きな課題である視点が紹介されました。
CCSAでは、これらの議論を進める仕掛けとして、CCSAの傘下に、AIoTアプリケーション課題に応じて、企業・機関の有志により組織化される"Standards Promotion Technical Committee"を設立できるようにし、バーティカル・インダストリー、特にIoTプラットフォーマーとのコミュニケーションの強化を図る場をCCSAが提供していることが紹介されました。
CCSAにとっての標準化重点課題としては、5G(実用化は2020年)、IoT(エッジコンピューティング、車、家電)、情報セキュリティ、量子暗号化通信(QKDテクノロジー)、将来網(Network 5.0)、AIなどが挙げられました。
(2)韓国TTA
韓国TTAは、標準化部門だけでなく、ICT・ソフトテスト認証ラボ部門を有し、5GやIoTに関するテスト・認証活動を推進している点が特徴的です。
主要な標準化活動としては、Smart City、Smart Farm、5G関連の課題に積極的に取り組んでいます。また、2019年に向けた戦略的主要技術として、以下の20個の課題による標準化戦略マップを作成していることが紹介されました。
2.3. 戦略的標準化トピック:Smart City
今回のCJK会合での4つのSDOsが合意した戦略的トピックは Smart Cityで、各SDOが取り組む関連の活動内容を共有するとともに、今後の日中韓での情報交流の仕組み(例えば、共同での白書の作成)など連携の可能性について議論しました。
(1)中国CCSA
中国からは、"Smart City – Values & Landscape"と題してHuaweiから3都市での成功事例の紹介がありました。
- 貴陽市(ビッグデータを活用したディジタルエコノミー関連企業の誘致)
- 高清郡(Smart Medical Service、Smart Industry, Smart Public Safety等の展開)
- Saudi Yanbu(オイル・シティからディジタル・シティへの転換実現)
(2) 韓国TTA
韓国は、国家プロジェクトによるSmart Cityに関する取組みが多く、KETI(Korea Electronics Technology Institute)を中心としたSmart City国家戦略(Presidential Committee on the Fourth Industrial Revolution (PCFIR))、国家戦略National Strategic Smart City (NSSC)プログラム、Smart Cityデータハブプロジェクトなどの紹介がありました。
Smart Cityの実現に向けたICT分野の貢献、標準化の役割の重要性を認識するとともに、Smart Cityで提供される様々なアプリケーションに応じたバーティカル・インダストリーとの連携を図ることが課題であることが共通認識となりました。以下の図2(CCSA提案)に示すSmart Cityに関連する複雑な標準化状況についても問題認識を共有しました。
2.4. 各WG活動報告
5つのWGの活動状況について、それぞれWGの代表から報告が行われました。 CJK会合の各WGの詳細結果は、今後、TTCの関連専門委員会で議論するとともに、TTCレポートなどで報告される予定です。
(1) IS(Information Security)-WG
IS-WG の活動報告が三宅優氏(KDDI)から報告されました。昨年のCJK-16会合以降、2回のWG会合を実施し(東京とソウル)、ITU-TやISOに向けたBlockchain標準化、GSMAにおけるセキュリティ関係の活動、IoTセキュリティ、FintechサービスやAI向けセキュリティ等の議論が行われました。 また、IS-WGの中にBlockchainアドホックグループが設立され、新規課題として取り組むこととなりました。
IS-WGの今後の新しい課題として以下が挙げられました。
- Big Data security and its privacy;
- Vulnerabilities disclosure procedure (standards);
- Secure firmware update for ICS environments;
- DLT and DFC;
- Security for 5G and future networks including quantum safe communication;
- Security for AI/ML, Security using AI/ML
次回IS-WGは2019年2月に中国で開催の予定です。
(2) IMT(International Mobile Telecommunications)-WG
IMT-WGの活動報告が加藤康博氏(ARIB)より行われました。IMT-WGはSpectrum、 V2X、Evaluationの3つのSpecial Interest Groupで構成されます。V2Xグループは第52回WG会合で新設されました。CJK-16 会合以降、IMT-WGは4回の会合を開催し(蘇州、沖縄、杭州、済州島)、ITU-R WP5Dに向けた連名寄書を計8件提出しました。次回IMT-WGは2019年1月に中国広州で開催の予定です。
(3) NSA (Network Service Architecture)-WG
NSA-WGはCJK-16以降活動が中断していましたが、本年8月に電子会議を開催し、その概要が Shizhuo Zhao氏(CCSA)より報告されました。NSA-WGとして、以下の項目を課題として取り組むことについて共通認識を得ました。
- NW slice in the context of IMT-2020
- Network2030 (Network 5.0)
- AI/ML
- IoT and Smart City
- Edge computing
- Industry Internet of Things
また、NSA-WGに関連する標準化機関としてSG13とSG20があり、これらのSGへの出席者がCJKでの連携の場として活用すべきとの議論がありました。さらに、本年11月27日~29日にTTCで開催されるFG-ML5Gの場を利用して、NSA-WG会合を実施する案が検討されました。
(4) WPT(Wireless Power Transmission)-WG
WPT-WGの活動報告が庄木裕樹氏(東芝)より行われました。CJK-16会合以降、2回のWG会合を実施し(桂林と札幌)、EVにおけるWPTシステムのインパクトを議論し、またBEAM WPTに関する技術レポートの作成計画を承認しました。なお、WG新議長として、Hongbo Wang氏(CCSA)が選出されました。次回WPT-WGは2019年の2月に済州島で開催の予定です。
(5) TACT-WG
事前のHoD電話会議での議論を踏まえたCJKの運営ガイドラインの修正案について、熊谷佳晶氏(ARIB)より報告が行われました。このガイドラインにより、CJKプレナリー会合は、標準化戦略に関するハイレベルな方針議論を目的とすること、プレナリー会合と年二、三回開催する各WG会合とは独立に開催すること、プレナリー会合の開催は12か月以上の間隔を置き2日間とすること、プレナリー会合の参加者は各SDOの代表者(HoD)、事務局員、戦略担当者、各WG役職者などに限定すること、などの運営方針を合意しました。また、会合規模の増大によるホスト国SDOの経費負担を軽減することが可能となります。
効率的な運営体制により、日本、中国、韓国のSDO間連携交流を今後も継続維持し、それぞれの国内標準化のみならず、国際標準化にも寄与していく方針を再確認することができます。
2.5. 今後の課題
各SDOの活動報告や戦略的トピックについての議論の中で、今後の課題がIoTアプリケーションであり、バーティカル・インダストリーとの連携が共通の問題意識として共有されるとともに、自動車(ITS)関連の取り組みについて、3カ国での情報共有の必要性が認識されました。
CJKとして、今後、ITS関係課題をどのように扱っていくのか、HoD電話会議の中で「ITSに関するアドホック」を構成し議論することとしました。ITSアドホックにおいて、新しいITS-WGを作ることを含めて、検討グループのスコープ、ポリシー/ストラテジー、スケジュール、成果物などについて議論します。自動車業界の関係者をいかに巻き込めるかが共通の問題意識となっています。また、ITSアドホックの議論を踏まえ、Smart CityにおけるVertical課題に関連するIS-WGとNSA-WGとの課題との関係を整理することとなりました。
3. おわりに
3.1. 会合ホストに当たって
CJK-17会合の日本でのホストに当たり、ARIBとTTCが共同運営をしましたが、今会合では、会合議事運営については、プレナリー議長は佐藤孝平氏(ARIB)が担当するなど、ARIBを中心に、会場や宿泊などのロジスティックの準備についてはTTCが中心となって分担運営しました。
TTCにとって、標準化関連の国際会議の松江市での開催は初めての経験で、海外からの参加者にとっても新鮮な開催地となりました。松江市のシンボルとなる松江城は、全国で現存する12天守のうち、国宝の一つで唯一の正統天守閣と言われており、文化的にも観光的にも魅力的な開催地でした。
参加者歓迎のレセプションでは、TTAの設立30周年を記念した祝賀会を行うとともに、出雲神楽と安来節の催し物を提供し、喜んでいただけました。
また、国際会議開催に当たって、「松江市コンベンション開催支援補助金」の制度を活用することができ、松江市にとっても意義あるイベントとなったと思います。
3.2. 次回会合予定
次回CJK-18会合のホストは、2020年4月初旬に中国杭州で開催することをCCSAが提案し承認されました。開催時期については、一年半後となりますが、2019年秋に予定されているITUの2019年世界無線通信会議(WRC-19)との重複を避け、会合日程と開催地の気候を考慮し決定しました。