第42回APT管理委員会の会合結果速報 ~ ASTAP提案のV-HUB勧告の承認達成 ~
APT(Asia-Pacific Telecommunity:アジア・太平洋電気通信共同体)の第42回管理委員会(MC-42:The 42nd Session of the Management Committee)会合が、モンゴルの首都ウランバートルの Best Western Premier Tuushin Hotelにおいて、2018年10月9日〜12日まで、モンゴル政府の情報通信技術庁(CITA: Communication and Information Technology Authority)のホストにより開催されました。MC-42会合前日の10月8日には、「2018年APT活動セミナ」を開催し、APTの1年間の活動状況のレビューが行われました。
私はASTAP議長として、MCに対して2018年の活動報告を求められており、今年開催のASTAP-30会合結果を報告するとともに、次年度のASTAP会合開催計画の承認を得る審議のために出席しました。
本ブログでは、MC-42会合におけるASTAP関連の情報を中心に会合概要を速報します。
目 次
この記事の目次
1.MC会合とは
1.1 MCの役割
MC-42会合は、GA-14(総会)が決定した2018年~2020年のAPT戦略計画における2018年度分の全ての作業プログラム(Work Programme)の進捗内容を検証するとともに、2019年度のAPTにおける作業プログラムの年間計画とその予算(Budget)計画を検討し、決定する役割を持っています。
APTの戦略計画は図1(「2018年APT活動セミナ」資料)に示す5つの戦略的柱によって構成されます。
- Connectivity: 接続性(デジタルインフラストラクチャの開発)
- Innovation: 技術革新(支援的な環境を実現し、新技術の利点を生かす)
- Trust: 信頼(ICTを通じたセキュリティと回復力の促進)
- Capacity Building: 能力開発(包括性の促進と専門知識の強化)
- Partnership: 協調関係(ステークホルダーとの戦略的協力を固める)
1.2 MC体制
MCの議長はIlyas AHMED氏(モルジブ)、副議長は Sang-hun LEE氏(韓国)とCharles CHEW氏(シンガポール)です。MCでの詳細検討は、MC副議長がそれぞれリーダを担当するアドホックグループを構成し、作業プログラム(Work Program)と予算(Budget)の課題に分担して検討されます。
今回のMC-42会合は、APTメンバー38カ国のうち、定足数となる20 カ国からの代表120名が参加し、審議されました。
1.3 APT活動予算
APTの2018〜2020年の年間支出限度額および各国の分担金額はGA-14(総会)で決定されています。参考までに、2018年の年間予算の支出限度額は2,638,738米国ドル、日本の年間確定分担金は40ユニット(412,200米国ドル)で、また、各国が政策上の必要に応じて拠出を決定する任意拠出金(EBC: Extra Budget Contribution)は1,425,010米国ドルで、日本はAPT加盟国38ヵ国の中での分担金・拠出金の最大の貢献国です。
なお、日本には32社(団体)がAPTのAffiliate会員として登録されており、TTCはAffiliate会員として登録されています。日本は今後とも、官民合わせた貢献度に見合ったアジア太平洋地域でのリーダーシップを発揮できるよう、APTを通じたグローバル活動を推進していくことが望まれます。
2 APT作業プログラム
APTの活動は、MCの管理のもと、複数の作業プログラムとして実施されます。作業プログラムは、図1のAPT戦略計画における5つの戦略的柱に従って、図2のように整理されます。日本から議長を輩出する「ASTAP」と「AWG」は、戦略的柱のConnectivityとInnovationにおける技術的側面を扱う作業プログラムとして位置づけられます。
MC-32会合では、それぞれの作業プログラムの2018年の活動報告をそれぞれの議長から受け、その活動内容を検証し、承認するとともに、2019年の活動計画について、計画概要と割当て予算を承認しました。AWGは佐藤孝平氏(ARIB)が、ASTAPは私が議長として、活動報告を行いました。
図2に示す作業プログラムは以下の通りです。それぞれの作業プログラムの詳細はAPTの関連サイト情報を参考にしてください。
【Connectivity and Innovation (政策面)】
- APT法的文書に関する管理委員会ワーキンググループ(WGMC)
- APT通信・ICT開発フォーラム(ADF)
- APT政策と規制フォーラム(PRF)
- 太平洋に関するAPT政策と規制フォーラム(PRFP)
- 南アジア電気通信監督委員会(SATRC)
- スペクトラム管理(Spectrum Management)
【Connectivity and Innovation (技術面)】
【Trust】
- APTサイバーセキュリティフォーラム(CSF)
- 災害管理(Disaster Management)
【Capacity Building】
【Partnership】
- ITU全権会議開催のためのAPT準備グループ(APT-PP)
- 2019年世界無線通信会議APT会議準備グループ(APG)
- 世界電気通信標準化総会APT準備グループ(APT-WTSA)
- 世界電気通信開発会議APT準備グループ(APT-WTDC)
3 ASTAPの活動報告
3.1 ASTAPの位置づけ
ASTAPは、APTの戦略計画の中で、APT地域における電気通信標準化活動の促進、調整、調和を図り、地域協力を通じた技術課題を研究する役割を有し、会員間の標準化の専門知識のレベル向上とAPT地域のICT問題に関する実践的な検討を通じた調査活動を行うグループとして位置付けられます。
私が担当したASTAP-30会合結果の報告は無事に了承され、ASTAP作業方法(Working method)の改定提案と勧告草案の提案はMCでの最終承認が得られました。
3.2 V-HUB勧告草案の承認達成
ASTAP-30会合で完成した勧告草案「Standard Specification of Information and Communication System using Vehicle during Disaster」(略称:V-HUB)については、ASTAP-30会合後に、APT加盟国による郵便投票での承認賛否の照会が行われ、投票結果は「15カ国の支持と反対無し」の回答結果が得られたことがAPT事務局から報告されました。この結果は「勧告草案をMCでの最終承認を伺う条件」を満たすもので、MCでの勧告化承認の最終判断が得られました。
このV-HUB勧告は、2011年の東日本大震災と津波災害、2013年のフィリピンでの台風による高潮災害を踏まえ、災害地域におけるクルマを活用した情報通信基盤の迅速な構築を目指した勧告で、2014年から、災害リスクを共有するAPT加盟国によって検討してきたものです。この勧告は、車両を利用した災害時の情報通信システムの技術要件と機能アーキテクチャ仕様を規定するもので、災害で破壊された通信インフラストラクチャを車両から車両(V2V)への通信で支えるシステムです。
この勧告の検討は、TTCのコネクテッド・カー専門委員会のメンバーが推進役となり、フィリピン、タイ、マレーシア、パプアニューギニア、日本からの専門家の参加を得て進められました。勧告のエディタには、大西亮吉氏(トヨタIT開発センター)、千村保文氏(OKI)、眞野正稔氏(TTC)が寄与されました。
3.3 APT勧告承認手続き
上記のAPT勧告の承認手続きについて補足します。ASTAPなどの作業プログラムの会合で承認された勧告草案は、まずAPT加盟国38カ国の主管庁に、郵便投票による6週間の期間を設けて意見照会されます。勧告化賛成か反対かの意見が集計され、「APT加盟国の25%(10ヵ国)以上の賛成回答が得られ、かつ2ヵ国以上の反対回答が無ければ」勧告草案としてMC会合に報告され、MCでの最終承認を得たうえで正式な勧告となるルールです。
承認ルールでの「10カ国以上の積極的賛成回答を得る」のは現実的には厳しい条件ではないか、という懸念があります。V-HUB勧告は二回目の承認手続きであり、ASTAP-29の後で行った投票では9カ国の賛成回答で条件を満足せず、ASTAP-30での承認手続きの再審議を行うことになりました。
3.4 APT勧告承認手続きの見直し
上記の勧告草案の承認ルールの懸念について、AWGの活動報告の中で、勧告承認照会手続きの改訂が提案されました。提案は、APT事務局から各国主管庁の窓口への投票要請や紹介手続きの強化を図るものです。ただ、今回のMC会合では課題は認識されたものの、AWGからの承認手続きの改善策については、AWGだけではなく、ASTAPに対しても手続きに関する提案が要請され、その提案を待って、改めて次回MC-33会合において、承認手続きの見直しの必要性を含めて検討することとなりました。
3.5 ASTAP会合およびWTSA準備会合の日本招致
次回の「ASTAP-31会合」と「2020年開催のWTSA会合(ITU-Tの総会)に向けた第一回準備会合(APT-WTSA)」について、日本政府から東京への招致表明が行われ、2019年6月11日~15日までの5日間での開催が承認されました。
5日間のうち、初日の6月11日に「APTのWTSA-20準備会合の第一回会合」(APT-WTSA20-1)を開催するとともに、二日目以降は、半日の「IoTに関するインダストリ・ワークショップ」を含む「ASTAP-31会合」を4日間で開催する予定です。
なお、TTC活動においては直接の関係はありませんが、日本が誘致するAPT関連会合としては、上記の他、無線関連で、「WRC-2020準備会合の第5回会合」のAPG会合を2019年7月31日~8月5日の予定で、日本が都内で誘致することが表明されました。
インダストリ・ワークショップの講演や日本への招致会合の詳細内容に関心のある方は、TTC事務局にお尋ねください。また、総務省およびTTCのAPT関連の委員会での報告会をご参考ください。
4 次回会合に向けて
4.1 MC議長と副議長の選任
今会合では、2年間2期の任期満了に伴うMC議長のIlyas AHMED氏(モルジブ)の退任を受け、次期MC議長と副議長の選任が行われました。定数での立候補に基づき、現副議長の Sang-hun LEE氏(韓国)の議長昇格、Charles CHEW氏(シンガポール)の副議長再任、Lindl Rowe女史(オーストラリア)の副議長新任が決定されました。
4.2 アジア太平洋ICT閣僚会議
APTが5年ごとに開催している「アジア太平洋ICT閣僚会議」が、2019年6月25~26日にシンガポールで開催される予定です。この会議はAPTの重要イベントであり、その中でAPT設立40周年記念の祝賀会も予定されています。
「アジア太平洋ICT閣僚会議」の準備に当たり、会議のアジェンダ構成や共同声明草案などの検討を行うコレスポンデンス・グループ(CGMM)の設立が合意され、CGMM議長にホスト国からCharles CHEW氏(シンガポール)が選任されました。
4.3 次回MC会合予定
次回のMC会合日程は、ホスト国の調整中で確定していませんが、2019年11月または12月での開催が予定されています。
4.4 ウェルカム・レセプション
10月9日の夕方、ホスト国のモンゴル情報通信技術庁によるウェルカム・レセプションが行われ、モンゴル政府のChinbat Baatarjav長官の挨拶、モンゴルの民族舞踏と伝統音楽演奏などによる会食が行われ、参加者相互の交流が図られました。写真は舞踏団の代表との記念写真です。