マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

ASTAP-30会合速報:IoTに関するインダストリ・ワークショップ

 5月21日~25日に、タイ王国の首都バンコクで開催された第30回ASTAP (Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program) 会合にASTAP議長として対応するために出張しました。今回のASTAP会合には、APT (Asia-Pacific Telecommunity:アジア・太平洋電気通信共同体) 加盟国38ヶ国の内、19か国の主管庁代表を含め、約120名が参加し、90件を超える入力文書(Information文書を含む)を基に熱心な議論が行われました。写真1は参加者集合写真です。

写真1.ASTAP-30会合参加者の集合写真
写真1.ASTAP-30会合参加者の集合写真

 写真2は、ASTAPプレナリー開会式におけるAPT事務局長(Areewan Haorangsi氏)と事務局次長(近藤勝則氏)とASTAP副議長(Haifua Li氏とHyoung Jun Kim氏)との写真です。なお、事務局長と事務局次長は、2017年11月にバンコクで開催された第14回APT総会(General Assembly)にて再選(任期は2018年2月9日から3年間)されたことが報告されました。近藤次長の再選をお祝い申し上げます。

写真2.APT事務局長・次長・ASTAP副議長によるASTAPプレナリーでの議長団写真
写真2.APT事務局長・次長・ASTAP副議長によるASTAPプレナリーでの議長団写真

今会合の特徴は 

  • 会合初日に「IoT」に関する「インダストリアル・ワークショップ」を開催 
  • ASTAPの成果文書として5件のレポート文書と1件の勧告草案を承認 
  • 新規提案6件を含む34件のASTAP作業計画を拡大・更新、などが挙げられます。

 日本国としての主な成果は、

  • ワークショップの全てのセッションで日本からの講演者が登壇し議論を主導
  • 日本の講演者による発表での提案が支持され、ASTAPの新規作業計画に反映されるとともに、レポート文書におけるユースケース記述への盛り込みを合意
  • 日本を中心に、APT各国の参加者と共に検討を推進してきた V-HUB (Vehicle Hub:災害時にクルマを使った情報通信システム) に関する勧告 (Recommendation) 草案の修正案を承認、などが挙げられます。

 本ブログでは、ASTAP会合の主要結果概要について報告します。

1.IoTに関するインダストリ・ワークショップ

 前回のASTAP-29での合意に基づき、ASTAP-30初日(5月21日)に、最新の市場・技術動向を踏まえた産業界の関心課題である「IoTにおけるサービスとアプリケーション」に関するインダストリ・ワークショップを開催しました。ワークショップの企画運営は、ASTAP副議長のHyoung Jun Kim氏(韓国、ETRI)をリーダとするプログラム委員会(日本代表は成瀬由紀氏(NICT))が担当しました。

 今回の運営方針として、講演時間を十分に確保しQ&Aをしっかり行えるセッション構成とし、IoTを活用したアプリケーションとサービスに関する議論では、APT加盟国の関心が高い農業分野に関する課題を含むことと、IoT関連の最新技術に関しては、IoTセキュリティやブロックチェーンの新技術に関する議論を含むプログラムとしました。表1にプログラム構成を示します。青字は日本からの講演者です。

 表1. ASTAP-30 インダストリ・ワークショップのプログラム

Program of ASTAP Industry Workshop, Internet of Things (IoT)
09:30-09:40  Introductory Remarks
  • Deputy Secretary General of APT, Ms Areewan Hoaransi
  • Chairman of ASTAP, Mr. Yoichi Maeda
  • Chairman of the Program Committee, Dr. Hyoung Jun Kim
09:40-12:00  (Session 1)  IoT Applications and Services
 (Chair: Dr. Seungyun Lee, ETRI, Korea (Rep. of))
  • 1-1 UMW’s Journey into Industrial IOT : Building Blocks and Architecture, 
    Mr. Ghazali Juhari (UMW Equipment, Malaysia)
  • 1-2 Road Accident Record in Asia and its Benefit for Standardization 
    Dr. Chang-Yi Luo (Toyota Info Technology Centre, Japan)
  • 1-3 Development and application of IoT in China  Ms. Haihua Li (CAICT, China)
13:00-15:00  (Session 2)  New and Emerging IoT Technologies 
(Chair: Mr. Kaoru Kenyoshi, NICT, Japan)
  • 2-1 Emerging Technologies in IoT and its implications 
    Mr. Aftab A. Siddiqui (Internet Society, Australia)
  • 2-2 Reducing urban garbage generation using the information force  
    Dr. Jin Nakazawa (Keio University, Japan)
  • 2-3 Blockchain security in ITU-T  *Remote Presentation
    Dr. Heung Youl Youm (Chairman of ITU-T SG17, Korea (Rep. of))
15:30-17:00  (Session 3)  IoT and Agriculture and Energy 
(Chair:  Ms. Nguyen Thi Khanh Thuan, MIC, Vietnam)
  • 3-1 Digital Transformation of Agriculture 
    Mr. Stephen Cheon (SK Telecom, Korea (Rep. of))
  • 3-2 Introduce of IoT solutions and related promotions for agriculture  
    Dr. Hideyuki IWATA (NTT, Japan)
17:00-17:30  Conclusion of Industry Workshop
 (Chairman of the Program Committee)

 プログラムは、日本、韓国、オーストラリア、中国、マレーシア からの8つの講演で構成されました。日本からはトヨタ開発センター、慶応義塾大学、NTTにご講演をいただき、三つの全てのセッションをカバーするとともに、講演内容はASTAP会合の中で、IoTに関する新規課題提案、IoTユースケースに関するレポートなど成果文書への盛り込みに反映されました。

 まとめセッションでは、ITU-Tの IoTとスマートシティの標準化を扱うITU-T SG20において、oneM2M仕様のITU-T勧告化への反映作業がほぼ完了したことが紹介されました。また、IoTに関しては、oneM2M、ITU-T SG20 (IoT and Smart Cities) だけでなく、OCF(Open Connectivity Foundation)など様々なSDOのIoT関連標準化活動の状況を把握し、APTとして引き続き情報を共有していく必要性が指摘されました

2.ASTAP-30 主要な成果文書

 ASTAPの検討体制は11の専門グループ(Expert Group)と技術分野ごとに専門グループを取りまとめる3つの作業グループ(Working Group)で構成されます。各専門グループからの成果文書は作業グループでの承認を得たうえで、プレナリーにおいて最終審議が行われます。今会合では、5件の新規レポート文書 (Report)、4件の調査質問表(Questionnaire)、4件の他標準化団体へのリエゾン文書、1件の勧告草案(Draft Recommendation)文書が承認されました。

 承認した1件の勧告草案のタイトルは “Standard Specification of Information and Communication System using Vehicle during Disaster” (略称:V-HUB)、2011年の東日本大震災と津波災害、2013年のフィリピンでの台風による高潮災害を踏まえ、災害地域におけるクルマを活用した情報通信基盤の迅速な構築を目指した勧告で、災害リスクを共有するAPT加盟国にとって有益なものです。勧告草案は、車両を利用した災害時の情報通信システムの技術要件と機能アーキテクチャ仕様を規定するもので、災害で破壊された通信インフラストラクチャを車両から車両(V2V)への通信で支えるシステムです。この勧告草案の検討は、TTCのコネクテッド・カー専門委員会のメンバーが推進役となり、フィリピン、タイ、マレーシア、パプアニューギニア、日本からの専門家の参加を得て進められました。勧告草案のエディタとしては、TTCから大西氏(トヨタIT開発センター)、千村氏(OKI)、眞野氏(TTC)にご貢献いただきました。

 なお、APT勧告承認手続きでは、ASTAPプレナリーで承認された勧告草案は、まずAPT加盟国38カ国の主管庁に6週間の期間を設けて意見照会されます。勧告化支持か不支持かの回答が集計され、APT加盟国の四分の一(10ヵ国)以上の支持回答が得られ、かつ2ヵ国以上の不支持回答が無ければ承認され、更に勧告草案はAPTの管理委員会(MC:Management Committee)に報告され、MCでの最終承認を得たうえで正式な勧告となります。この勧告草案はASTAP-29で承認され、勧告化意見照会が行われましたが、残念ながら支持9カ国で、さらに中国からはコメント付き不支持回答があり承認されませんでした。今会合では、差し戻し審議として、中国からのコメントを解決し、修正案を改めて承認することができました。勧告草案の承認まではタイムリーで複数国の支持が必要なことから、最終承認が得られるまでの各国への今後のフォローアップが重要となります。

 新規レポート文書については3つのWGで合わせて以下の5件が承認されました。3と4の将来トランスポートネットワークに関するレポートはNTTがエディタとして貢献した成果文書です。

WG PSC
  1. Status report on Standardization Activities for e-Waste and Rare Metals
  2. Report of Conformity and Interoperability Event
WG NS
  1. APT Report on SDN-based Network Control Management in Future Transport Networks
  2. APT Repot on Precision Time and Frequency Synchronization in Future Transport Network
WG SA
  1. APT Report on Smart Sustainable City use cases and Information & Communication Technologies in APT Region

3.その他の合意内容

(1)ASTAP組織構成と役職者の更新

 ASTAP運営を推進する役職者には、多くの日本の専門家の方々に参画いただいておりますが、今会合で役職者の一部更改を承認し、表2の通り承認されました。今会合でWG-SA議長のSafavi氏(イラン)が退任され、永沼氏(NEC、日本)に新WG議長にご就任頂きました。また、WG-PSCの副議長に岩田氏(NTT、日本)、EG-SACS議長に小川氏の欠席に伴う代理議長に川西氏(NICT、日本)、EG-DRMRS議長の千村氏の退任にともなう代理議長に荒木氏(NTT、日本)にご就任頂きました。

表2.ASTAP組織体制 (敬称略)

組織・作業グループ/専門家グルーブ
役職者
ASTAP議長
前田洋一(日本)
ASTAP副議長
Ms. Haihua Li(中国)
Dr. Hyoung Jun Kim(韓国)
WG PSC (Policy and Strategic Co-ordination)
Mrs. Nguyen Thi Khanh Thuan(ベトナム)
副議長:岩田秀行(日本・NTT)
EG BSG (Bridging the Standardization Gap)
Mrs. Nguyen Thi Khanh Thuan(ベトナム)
EG PRS (Policies, Regulatory and Strategies)
Mr. Felix Rupokei(パプアニューギニア)
EG GICT&EMF (Green ICT and EMF Exposure)
Dr. Sam Young Chung(韓国)
EG ITU-T (ITU-T Issues)
釼吉薫(日本・NICT)
WG NS (Network and System)
Dr. Joon-Won Lee(韓国)
副議長:小川 博世(日本・NICT)
EG FN&NGN (Future Network and Next Generation Networks)
Dr. Joon-Won Lee(韓国)
EG SACS (Seamless Access Communication Systems)
小川博世(日本・NICT)
代理:川西哲也(日本・NICT)
EG DRMRS (Disaster Risk Management and Relief Systems)
千村保文(日本・OKI)
代理:荒木則幸(日本・NTT)
WG SA (Service and Application)
永沼美保(日本・NEC)
副議長:Dr. Jee-In Kim(韓国)
EG IOT (Internet of Things)
山田徹(日本・NEC)
EG IS (Security)
永沼美保(日本・NEC)
EG MA  (Multimedia Application)
山本秀樹(日本・OKI)
EG AU (Accessibility and Usability)
Dr. Jee-In Kim(韓国) 

 

(2)次回ASTAPにおけるインダストリ・ワークショップ企画提案

 今回の「インダストリ・ワークショップ」に対するアンケート結果を踏まえ、次回ASTAP-31会合の初日に半日のインダストリ・ワークショップを開催することとなりました。引き続き「IoT」をテーマとして、APT地域におけるIoTに関するアプリケーションとサービス、革新技術、サイバーセキュリティなどを含む内容構成をベースにプログラム委員会を設置して検討することになりました。

 ワークショップの運営のため、ASTAP副議長であるHaifua Li氏を議長とするインダストリ・ワークショップのプログラム委員会を設立し、日本からは成瀬由紀氏(NICT、日本)にご担当頂くことになりました。

 

(3)今後のASTAP会合誘致

 次回ASTAP-31の日程は2019年6月に予定されている「アジア太平洋ICT大臣会合」の日程を考慮し、2019年の5月または7月に、中国がホストで西安での開催が予定されています。ASTAP-31では、WTSA-2020に向けたAPT準備会合の第一回会合が併催される予定です。

 また、2020年のASTAP-32開催について、日本代表から「2020年初めに日本でホストする意向がある」ことが表明されました。ASTAP-32では、ASTAPの議長と副議長の任期満了に伴う新たな議長と副議長の選挙が予定されます。

 上記で触れましたインダストリ・ワークショップの講演、ASTAP成果文書の詳細内容に関心のある方は、TTC事務局にお尋ねください。また、総務省およびTTCのASTAP関連委員会での報告を参考にしてください。