第2回北米地域CTO会合速報
ITU-TのTSB局長(Chaesub Lee氏)が主催し、ICT産業界を代表する民間企業の最高技術責任者(Chief Technology Officers:CTO)の集まりであるCTO会合が、インターネットセキュリティを扱う米国のSymantec社のホストにより、5月9日(水)に開催されました。会場は、カリフォルニア州マウンテンビューにあるSymantec World Headquarterビルでした。
CTO会合の開催は、ITU-T総会WTSAの決議68として規定されているTSB局長に課せられたアクションの一つであり、産業界幹部(Industry executives)とITUにおける国際標準化の優先課題、今後の国際標準化の戦略的方針や標準化活動の効率化のための標準化機関相互の連携方針などについて意見交換を行う場です。
今会合は、2017年4月開催の北米地域CTO会合につづく2回目の会合となり、会合では、AI(人工知能)とML(機械学習)の活用におけるセキュリティ、プライバシーおよびトラスト(信頼)に関する課題、5G(IMT-2020)を支えるトランスポートに関する課題、スマートスピーカーの登場で注目される音声によるヒューマンマシンインタフェースに関する課題などについて、Symantec、Nokia、Dolby社などからのプレゼンを基に、今後のITU-Tでの標準化課題としての扱いについて議論しました。
表1に、今回のCTO会合に参加した組織を示します。シリコンバレーに活動拠点を置く米国企業を含む8組織の代表者とITU-T局長、TSB幹部(Bilel Jamoussi氏)が参加しました。また、今回のトピックに密接に関係するITU-TのStudy Groupから、トランスポートシステムの標準化を扱うSG15議長(Steve Trowbridge氏;アメリカ)とセキュリティを扱うSG17議長(Heung Youl Youm氏;韓国)が初めて参加しました。私は、ITU-TのTSAG標準化戦略ラポータグループのラポータとして、ITU-T局長の招待を受け参加しました。
本ブログでは、CTO会合で議論されたITU-Tで優先的に検討すべきとされた今後の標準化課題に対する意見の概要を紹介します。
1) Security, privacy and trust in the presence of AI and MLAIとMLの存在下でのセキュリティ、プライバシーおよびトラストに関する課題
- 近年、AIやMLの活用に対する関心が高まっていますが、現在のAIアプリケーションは限られた環境で、ネットワークの効能と効率の向上に重点を置いて開発されており、新たなセキュリティ上の脆弱性や他の意図しない結果の出現に対するセキュリティ面での考慮や防護措置が不十分です。 AIがセキュリティ、プライバシーおよびトラストに与えるリスクには、悪意のある脅威を良性と誤って分類してしまう脅威検出手法や、誤って識別してしまう認証メカニズムなど様々なケースが想定され、まずは幅広いユースケースからリスクと防護措置を検討することが重要です。
- データ分析においては、適切で多様なデータを持つことが鍵となりますが、利用可能なデータ量が膨大なものとなっており、それを分析する熟練したセキュリティアナリストの数が不足しています。このために、セキュリティに対するデータ分析に関しては、AIやMLを活用することになり、AIとMLは、人間であるアナリストがセキュリティ上の脅威検出や関連する意思決定において、より効果的かつ正確に行えるよう支援することで、セキュリティシステムの拡張に貢献できる可能性が生まれます。また、AIとMLがセキュリティ防御の一部である場合、これらの防御がどのように破壊されるのかを検討する必要があります。
- AIとMLの存在下でのセキュリティ、プライバシーおよびトラストに関連する標準化ニーズに関して、ITU-TのSG17において、優先的に調査を行うことが期待されます。
2) 5Gによるエンドツーエンドセキュリティへの移行
- 5Gシステムでは、高度なSDN(ソフトウェア定義ネットワーク)、NFV(ネットワーク機能仮想化)、およびクラウドコンピューティング機能が組み込まれ、ネットワークアーキテクチャとネットワーク管理制御が大幅に変わるでしょう。 ICT業界は、他の産業部門がICTの適用を拡大するにつれて、新たなステークホルダーを獲得し続けることが期待されます。
- 5Gシステムが形作られるにつれて、セキュリティへの関心が増加することが望まれます。5Gへの移行により、エンドユーザーに対してセキュリティソリューションを提供するためのゲートウェイとしてデジタルサービスプロバイダが機能するとともに、エンドツーエンドセキュリティへの移行を支援することが必要となります。このため、今後の5Gセキュリティに対して、統合された総合的なアプローチを検討することが重要です。
- ICTエコシステムの進化する技術的およびビジネス的ダイナミクスによって、デジタルサービスプロバイダの形態は多様化しています。例えば、OTT (Over The Top)、CSP (Communication Service Provider)、ASP (Application Service Provider)、ISP (Infrastructure Service Provider)など様々な名称とビジネス形態のプロバイダが出現しており、従来からある「電気通信事業者(テレコムオペレータ)」の古典的定義を見直す必要が生じており、ITU-T SG2(運用的側面)での議論が必要です。
- エンドツーエンドセキュリティの実現にあたり、ITU-T SG17(セキュリティ)のSG構成に関し、現在の水平関連性に加えて、業界固有の「垂直」環境を支援するために、構成の見直しを含めた継続的な検討が必要です。 このようなSG再編の重要な狙いの1つは、クラウドコンピューティングのセキュリティ要求を満たす検討ができるようにすることです。
3) 主要なヒューマンマシンインタフェースとしての音声
- 米国家庭におけるスマートスピーカーは年率500%で増加しており、人間と機械の主要インタフェースとしての音声にAIを活用することが急速に浸透しています。スマートスピーカーは、ユーザー、サービス、サービスプロバイダー間のスムーズな関係を実現するAIの代表的な活用例であり、このトレンドは引き続き加速されるでしょう。 AIを搭載した音声支援のユーザーインタフェースとユーザーエクスペリエンス(AI-voice-UI/UX)の開発速度があまりにも速いので、標準化と規制が遅れるという問題が出現しています。
- 現状のスマートスピーカーのセキュリティ上の脅威の一つは、他人もアクセスできることで、個人認証やアクセス妨害が課題です。また、盗聴などプライバシーに関する課題なども多く、ITUはAI-voice-UI/UXの認証と電子商取引、オーディオセキュリティと個人データの保護、制御プロトコルと相互運用性の影響を調査する必要があります。
4) クラウド最適化と5GトランスポートにおけるITUのリーダーシップ
- エンドツーエンドフレキシビリティは、5Gネットワークの重要な機能要件の1つであり、低遅延または高信頼性などの特殊な機能を備えた仮想ネットワークによりスライスを構成できるプログラム可能なネットワークを基盤とします。ネットワークのソフトウェア化とスライシングにより、特定の5Gアプリケーションの特定の要件を満たすためのネットワークの俊敏性を実現できることになります。
- 5Gビジョンに対するクラウド最適化ネットワーキングの検討が重要です。 場合によっては、分かりやすいパフォーマンス監視と高度で動的なネットワーク運用と最適化が必要になります。トランスポートネットワークは、すべてのタイプのクラウドを相互接続するように進化しています。動的で自動化されたネットワークスライスの実現には、関連するサービスを含め異なるスライスに特有の異なるアーキテクチャと性能保証メカニズムを可能にする必要があり、パケットと光レイヤーにプログラマビリティを組み込んだ適応型アーキテクチャが必要となります。
- オーケストレータがネットワークスライスを作成する際に、迅速にそのリソースを設定できるよう、プログラム可能で再利用可能な資産とリソースは、ネットワークの全体最適化にとって不可欠であり、将来のサービス特性を予測するために、動的プログラマビリティが重要となります。
- フェデレーテッドネットワークオーケストレーション(federated network orchestration;異なるネットワーク事業者のネットワーク間を跨ってエンドツーエンドのネットワークを実現する能力)が今後の課題の一つとして提案されました。適切なパフォーマンス指標の重要性と、5Gネットワークがどのようにトランスポートネットワークからサービスを要求するかについての検討の必要性が認識されました。
- 5Gおよびクラウド最適化サービスをサポートするためのトランスポートネットワークの国際標準化作業に関して、今後もITU-T SG15のリーダーシップを期待するとともに、MEF、ONF、 3GPP、NGMN、TMF、およびETSI ZSMを含む機関との協調が必要です。
5) ITU-T活動報告
ITU-T局長から今研究会期(2017年-2020年)のITU-Tの活動報告があり、ITUの会員登録状況が報告されました。ITUのセクターの中で、複数の新規会員の加入があったのはITU-Tだけであり、新たな検討分野の拡大が功を奏しているようです。参考までに、局長プレゼン資料から以下に加入会員の一覧を紹介します。
※画層クリックで拡大します
6) その他
- 次回のCTO会合は、2018年9月9日に、ITU Telecom World 2018の開催と合わせ、南アフリカのダーバンで開催される予定です。
- 北米地域での第三回CTO会合は2019年4月頃に、Dolby社のホストによりシリコンバレー地域で開催される予定です。
- 以上のCTO会合での議論概要はCOMMUNIQUÉ(共同声明)として公開されています。このコミュニケの情報は全てのSG会合に展開されるとともに、TSAGにおける標準化戦略に関するラポータグループの検討に反映していく予定です。
表1 北米地域CTO会合参加組織
No.
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企業・団体名
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国名
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1
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アメリカ
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2
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Apple
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アメリカ
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3
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アメリカ
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4
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Ericsson
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カナダ
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5
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Huawei
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中国
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6
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アメリカ
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7
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Nokia
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フィンランド
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8
|
アメリカ
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9
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TTC
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日本
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10
|
アメリカ
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11
|
ITU-T SG15議長
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アメリカ
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12
|
ITU-T SG17議長
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韓国
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13
|
ITU-T幹部
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