TSAG会合速報:標準化戦略に関して
2月25日から3月2日まで、ITU-TのTSAG(電気通信標準化諮問会議:Telecommunication Standardization Advisory Group)会合に出席のためジュネーブに出張しました。今回のTSAG会合はITU-Tの2017年~2020年研究会期における第2回会合です。私は、TSAGにおける標準化戦略ラポータグループのラポータとして、総務省のメンバーとして参加しました。
TSAG会合では、ITU-Tにおける全てのSG (Study Group) の活動が報告され、活動の進捗と他の標準化機関を含めた連携の在り方、標準化会議に関わる会議規定の見直し、標準化計画など、幅広く審議されます。新研究会期が2017年から始まり、各SGの検討も本格的な活動が始まったことから、ITU-T全体の運営管理を行うTSAGとしては、比較的穏やかな会合であったという印象です。今回のTSAG会合には35か国から約120名の参加者がありましたが、TSAG会合に対して日本として対処するため、総務省国際戦略局通信規格課の戸田国際情報分析官を日本団団長として、今回は国内各社・団体(NTT、KDDI、NEC、OKI、日立、富士通、三菱電機、NICT、TTC)の参加者からなる11名の日本団を構成して対処しました。
本ブログでは、私が担当したTSAGにおける標準化戦略ラポータグループの体制と今後の課題を中心に会合概要を速報します。TSAG全体の他のRGの会合結果と、今回日本が提案したSociety5.0の国家ビジョンを標準化戦略に反映させる寄書の審議結果については、TTCの国際連携アドバイザリーグループのTSAG対応タスクフォース会合で報告、審議しますので、関心のある方はTTCにお尋ねください。
1) ラポータグループ構成及び運営体制
TSAGにおける主要課題の詳細検討は、TSAGプレナリーの配下に以下の6つのラポータグループ(RG)を構成して分担検討され、RGでの検討結果をTSAGプレナリーに報告、承認を得る形で行われます。
- Standardization Strategy(標準化戦略の推進)
- Work Programme and structure(各SGの作業計画と体制管理)
- Working Methods(ITU-Tにおける作業方法や会議規則)
- Strengthening Cooperation/ Collaboration(標準化機関相互の協力/連携強化)
- Strategic and Operational Plan (ハイレベルな戦略・運用計画)
- WTSA Resolutions Review(WTSA決議の進捗検証)
この中で私は、TSAGにおける標準化戦略ラポータグループ(RG)を担当しました。
2) 標準化戦略RGのマネジメント体制
標準化戦略RGを取りまとめる役職者としては、TSB局長(Mr Chaesub Lee、韓国)の指名により、今まで私が正ラポータを担当し、加えて他に各産業界(通信オペレータ、ベンダ、OTT事業者、主管庁)から地域バランスを考慮して以下の6名のアソシエート(副)ラポータでマネジメントグループを構成してきました。
- Mr Yoichi Maeda(日本)
- Ms Rim Belhassine-Cherif (チュニジアテレコム;チュニジア),
- Mr Stephen Hayes (エリクソン;カナダ)
- Mr Didier Berthoumieux (ノキア;フィンランド),
- Ms Judy Zhu (アリババ;中国)
- Mr Vasily Dolmatov (ロシア政府)
- Mr David Ward (シスコ、アメリカ)
しかしながら、今会合に出席した副ラポータは3名のみで、ラポータの役職として正と副の区別を設けることの弊害も考えられたことから、副ラポータの活動をより活性化するために、今後は、標準化戦略RGについては、私を含め、役職者全員を「Co-Rapporteur:共同ラポータ」と呼ぶこととし、全員参加のマネジメント連携を強化する体制としました。また、各ラポータの担務を見直し、それぞれの責任感と緊張感を持てるように、RG会合の議長役をTSAG会合毎(約9か月間毎)に交代し、共同ラポータの中で持ち回る形態を採用することとします。私は2017年5月から2回のTSAG会合での議長役を担当しましたので、今回以降、次回のTSAG会合終了までは中間会合を含め、Stephen Hayes氏(エリクソン;カナダ)に交代することとしました。
また、米国からは、標準化戦略RGの役割規定(Terms and Reference)の修正寄書提案があり、米国は、RGはTSAGの判断のための助言に限定し、決定権はTSAGプレナリーに保持することと、RGでの提案内容はメンバーからの寄書に基づくことを再確認するもので、RGのマネジメントによるトップダウン的なマネジメントを牽制し、RG活動を限定的にしたいという意向の表れと考えられます。これに対して、標準化戦略RGの役割を少しでも拡大することを優先したいアラブ諸国との対立がありましたが、結果としてのRGの役割規定は、「ITU-T分野における主な技術動向、市場、経済、政策ニーズを分析することにより、ITU-Tの標準化戦略についてTSAGと各SG(Study Group)に助言する」ことであり、「ITU-T局長が企画するCTOグループ会議やTechnology Watch調査等を通じて得られる業界の意見や最新の技術動向を分析することに依り、市場動向を予測し、ITU-Tが取り組むべき新しい標準化トピックを見出し、将来の標準化の方向性や他の標準化機関との協力の必要性などについて助言すること」です。
共同ラポータの採用と議長役の持ち回り、RGの役割規定の修正により、各ラポータと各国の寄与が増加し、RGにおける標準化戦略議論の盛り上がりを図ることが期待されます。しかし、この体制見直しはTSAG議長(エリクソン;カナダ)の提案であり、米国とカナダ政府の意向を受けたものと考えられます。今後、TSAGでの審議への北米の影響力が強化されることも考えられ、日本提案をTSAGでの合意事項に反映するためには、米国などとの相互理解のための交渉が重要になると予想されます。
3) 標準化戦略におけるホットトピック
標準化戦略RGでは今までの議論を通じて、ITU-Tにとっての標準化戦略上の優先的検討課題となるホットトピックの整理を行ってきました。今回、表1の11の主課題(各主課題に含まれるサブトピックの詳細はITU-T TSAG TD288R1の文書参照)を参考に、課題に関連するTTCの専門委員会と関係を示します。今後、TTCとして、どの課題に関心はあるか?課題の漏れはないか?検討にふさわしくない課題はあるか?を分析し、既に活動がある場合は現在の検討状況についての情報を共有すること進めていきたいと思います。今後のTTCでの検討を基に、次回TSAGまでにITU-Tが扱うべきホットトピックの審議への貢献をしていきたいと考えます。日本における各社におかれましても、表1のホットトピックに対する関心度と今後取り組むべき課題を分析いただき、今後の日本提案に反映できるように議論いただければと思います。
なお、9項目にアクセシビリティに関する項目がありますが、この中で、障碍者及び高齢者に係わる英語表現にelderly personという表現を使っていましたが、JCA-AHF(Joint Coordination Activity on Accessibility and Human Factors)議長のMs Andrea Saksの指摘で、高齢に限らない様々な助けが必要になる「by persons with disabilities and other persons with specific needs」という表現が望ましいという指導がりましたのでご紹介します。
4) 標準化協調体制
国際標準化デジュール機関として、ISO、IEC、ITUの3機関の局長レベルが集まり、協調連携を議論するWSC(World Standardization Collaboration)のハイレベルな枠組みがありますが、標準化戦略議論での将来重要課題については、IECとISOとITU-Tが協働しISOが主導する JTFEC(Joint Task Force on Effective Collaboration)と、IECが主導するStrategic Group 11「Hot Topic Radar」というグループがあり、二つのグループのITU-T代表として、TSAGでの標準化戦略RGのラポータである前田が指名されました。近年では、いずれの標準化機関も5G、IoT、AI(Artificial Intelligence)、Eヘルス、ITS(Intelligent Transport System)など似たような課題を挙げており、それぞれの機関での検討の重複の回避のみならず、役割分担した協調連携の取り組みが重要になります。
また、ITU-TとISO/IECのJTC1との間には従来から連携関係があり、今回、JTC1に対するITU-T側窓口(リエゾンオフィサー)の交代があり、日立の三宅滋様が新しいリエゾンオフィサーに指名されましたので情報共有させていただきます。
5) 標準化戦略ラポータグループの今後の予定
標準化戦略RGでの検討の加速を図るため、以下の中間会合の開催計画を計画しました。寄書が十分に集まらない場合は、RGのマネジメント会合として利用する予定です。
- 中間ラポータグループ会合(電子会議):全てのメンバーに参加資格あり
- 第1回電子会議:2018年4月27日(ジュネーブ時間13:00-15:00)
- 第2回電子会議:2018年6月29日(ジュネーブ時間13:00-15:00)
- 第3回電子会議:2018年8月31日(ジュネーブ時間13:00-15:00)
- 第4回電子会議:2018年9月28日(ジュネーブ時間13:00-15:00)
- 第5回電子会議:2018年11月30日(ジュネーブ時間13:00-15:00)
- CTO/CxOグループ会合:標準化戦略RGラポータにも参加要請
- 北米版CTOグループ会合:2018年5月8日(カリフォルニア、米国)
- アフリカ版CTOグループ会合:2018年9月9日(ダーバン、南アフリカ); ITU Telecom World 2018と併催
- アラブ版CxOグループ会合:詳細調整中(サウジアラビアの Communications and Information Technology Commission (CITC)がホストの予定)
- ITU/ISO/IEC 標準化戦略関連協調会合
- IEC/SG11 (Strategic Group 11 “Hot Topic Radar”:未定
- IEC/ISO/ITU-T JTFEC :2018年4月12-13日(ワシントン、米国)
- 第3回TSAG会合:2018年12月10日―14日(暫定)(ジュネーブ、スイス)
おわりに、写真は3月1日の朝のジュネーブ市内の景色です。ジュネーブに到着した2月25日の週の初めは快晴ながら、気温は-10度くらいを記録し、加えて風も強く、肌を刺すような気候でしたが、3月に入り、日本では春一番の風が吹き荒れていたころ、ジュネーブは一夜にして一面の銀世界になりました。私は標準化活動でジュネーブを訪れるようになって20年くらいになりますが、このような大雪は今までに記憶になく、特に3月の暦に入っての大雪の経験は初めてです。3月1日の早朝は交通機関は麻痺をしていましたので、ホテルからITUの会場までは30分ほどかけて歩いて辿り着きました。会議は予定通り進行しましたが、会場に遅れたり、来れなかった人もいたと思います。冬のジュネーブでは、防寒具としてコートはもちろん、手袋、耳当てか帽子、滑りにくい靴底で防水の履物、保湿クリームは持参したほうが良いでしょう。私はマスクもしましたが、マフラーやスキー帽の方がジュネーブの景色には合うかと思います。
表1. 標準化戦略ホットトピック課題候補とTTC専門委員会との関係
ホットトピック課題候補
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関連TTC専門委員会
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1) OTT services and the economic impacts, Cross-industry collaboration
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ー
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2) VoLTE/ViLTE interconnection and adoption of ENUM for IMS interconnection
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信号制御、番号計画
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3) Intelligence for network automation, augmentation and amplification
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企画戦略(AI関連)
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4) Open APIs, enabling third parties to access and build on network capabilities to develop innovative, reusable services
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Network vision、oneM2M
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5) Realizing 5G/ IMT-2020 vision
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Network vision、3GPP、
網管理、移動通信網M
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6) Gigabit-speed broadband access services and networks
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アクセス網
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7) Data Center Interconnection for OTT and vertical industries
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伝送網電磁環境
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8) Augmented reality & virtual reality, video services
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マルチメディア応用
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9) Accessibility by design, mainstreaming the consideration of needs of persons with disabilities and other persons with specific needs to build inclusive ICT solutions
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マルチメディア応用
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10) Security, Privacy and Trust
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セキュリティ
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11) Analytics, supporting the development of evidence-based, data driven services
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IoT/SC&Cアドホック、oneM2M
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