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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

ITU-T局長主催 第2回CxO会合の概要速報

 ITU-TのTSB局長(Chaesub LEE氏)が主催するCxO会合が、UAE(アラブ首長国連邦)のThe Meydan Hotel(ドバイ)で、Trace Media社のホストにより、12月7日に開催されました。CxO会合は民間企業のハイレベルな幹部として、CTO(Chief Technology Officer)の他、CEO(Chief Executive Officer)などを含めCxOと呼び、技術のみならず経営、情報管理などの幅広い責任幹部を招いての会合です。WTSA-2008の決議68に基づき、今までにCTO会合は9回開催され、さらに対象幹部の枠を広げたCxO会合としてはWTSA-16会合と併催した2016年10月23日のチュニジア会合に続く第2回会合となりました。今会合は中東地域のICT業界の幹部の参加を考慮して、Trace Media社が企画するTelecom Review Summit 2017(12月6日~7日開催)との併催で開催されました。

 今回のCxO会合は、ITU-Tの標準化活動に積極的な企業に加え、中東地域のICT業界をリードするサービスプロバイダや新興企業を含む幹部を交え、電気通信によるスマートで持続可能な社会への転換(トランスフォーメーション)が可能となる人工知能(AI)と次世代モバイル5Gシステムに関わる課題を対象とし、最新の産業界の要望と標準化に関する今後の優先課題について、18社のICT業界幹部との意見交換が行われました。

 今会合の参加組織を表1に示します。日本からは富士通の雄川様とNECの原崎様が参加されました。私はTSB局長からの招請を受け、TTC代表およびTSAGの標準化戦略ラポータグループのラポータとして参加し、ITU-Tの標準化戦略の立案とCxOおよびCTO会合との関係について紹介を行いました。今回のブログでは、その議論概要について、1)スマートシティ、2)5G、3)人工知能と機械学習、の課題について紹介します。

CxO会合参加者の集合写真
CxO会合参加者の集合写真

1)スマートシティの革新と効率的サービス提供を可能にする重要原則

 シティや政府は、グローバル化、オートメーション化、気候変動、人口変動、インフラの老朽化などの社会課題や環境変化への対応と、公共サービスの質の向上、ビジネスの成長と革新を支える環境の創造を、ICTの活用により、いかに実現していくかについて議論しました。会合では、ネットワーク事業者にとって、効率的で相互運用性が高く、信頼性と拡張性があり、セキュアなICTプラットフォームを構築することが、よりスマートな社会への転換を可能にし、5Gがその転換を促進する機会となる点が強調されました。

 会合では、この転換を可能にする標準化作業の重要な原則として以下の点をITUに対して要望が示されました。

  • セキュリティとプライバシーを考慮したサービス設計
  • サードパーティによる革新的で再利用可能なネットワークサービス開発を可能とするオープンAPI
  • ネットワーク仮想化(NFV)やソフトウェア定義ネットワーク(SDN)技術による低遅延、高効率、柔軟性なサービス実現
  • セキュアで効率的なサービス提供に不可欠な信頼性の高い身元確認(Identity)と承認(Authorization)の仕組み
  • エビデンスベースでデータ駆動型サービスの開発支援する分析学
  • 高齢者や障害者のニーズを考慮したアクセシビリティ、など。

2)5Gビジョンの実現

 将来の5Gシステムを、スマートシティや産業デジタル化における広範なユースケースを可能にする技術的転換の代表例として考えており、5Gの標準化は研究機関やITU-TのSG2、SG5、SG11、SG13、SG15を含むいくつかの標準化団体において進展していると認識しているものの、5Gシステムを導入展開するにはまだ克服すべき課題が多くあり、以下の課題が指摘されました。

  • 5Gシステム用のスペクトルの割り当てと調整
  • 柔軟で、自動化され、固定・モバイルのコンバージェンスを可能にする5Gネットワ​​ークの統一アーキテクチャ
  • 広帯域なバックホールおよびフロントホールの実現解
  • 4Gから5Gシステムへの移行のための具体的な戦略、など。

 これらの課題には複数の関係者が関連しており、5Gビジョンのタイムリーな実現には、オペレータ、ベンダ、規制当局、そして標準化機関との協力と変革への強力な信念が必要であるという認識に至りました。更に、5G関連の今後の標準化課題として以下の課題が挙げられました。

  • エンドツーエンドのネットワークオーケストレーションと制御と管理(ITU-T SG13関連)
  • サービスベースのネットワークアーキテクチャ(ITU-T SG13関連)
  • IoTのためのオープンなサービス管理API(ITU-T SG20関連)
  • 5Gスペクトルのビームフォーミングに関連する電磁関連課題(ITU-T SG5関連)
  • 公共安全(public safety)を実現するためのサービス相互運用性(ITU-T SG2関連)、など。

 上記の未解決の問題を明らかにし、標準化開発を加速するために、ITU-TのSGと5G分野で活躍する他組織との協調をより強化することが要望されました。それにより、オプションの増加とマルチベンダー相互運用性の促進によって生じた不安を軽減することができるでしょう。

 議論を通じて、5G標準の開発と調整のための中立的なプラットフォームとしてと、公的標準を補完するためのオープンソースコミュニティの活動を活用する機会としてのITUの価値を再認識しました。

3)人工知能と機械学習

 AI活用のサービスとネットワーク管理課題について整理しました、AIのユースケースとしては、犯罪防止のための顔認識、橋梁などの劣化検査のための光学振動検診、プラントの故障兆候検出のためのシステム変動分析、電力需要予測のための自動予測、などの例が紹介されました。また、ネットワーク管理でのユースケースでは、顧客の行動分析、動的ネットワークリソースのプロビジョニングと最適化などへの適用例を議論しました。この中で、複数のネットワーク提供業者に跨る制御およびネゴシエーションが必要な形態では、AIを活用するための標準のインターフェイス規格が必要であると認識しました。

 会合参加者からは、ITUにおけるAIに関する標準化活動について、ITU-TのSG13が新設したFG-ML5G(「5Gを含む将来のネットワークのための機械学習」に関するITUフォーカスグループ)におけるインターフェイス、ネットワークアーキテクチャ、プロトコル、アルゴリズム、データフォーマットなどに関する技術仕様の検討活動への支持が表明されました。また、AI技術のパフォーマンスには大きなばらつきがあり、性能のベンチマークとその認証の仕組み作りへの対処が今後の課題として認識されました。

4)その他:関連課題に関するITU活動の紹介

 その他の課題としては、

  • ENUM(Telephone Number Mapping)に関する検討促進: チャイナテレコムから、グローバルでのVoLTE/ViLTE(Voice over LTE/Video over LTE)の相互接続に関するITU標準化の重要性について指摘があり、ENUM(インターネット電話を実現するための電話番号によるインターネット上のサービスを識別するメカニズム)の適用の遅れとIMS相互接続のための主要標準化課題の促進が認識されました。

 また、AIや最近のITUの活動成果について以下の活動紹介がありました。

おわりに

 次回第10回CTO会合として、2018年9月9日に南アフリカのダーバンでの開催が案内されました。これは、ITUテレコム・ワールド2018と併催される予定です。また、サウジアラビア通信・情報技術委員会(CITC:Communications and Information Technology Commission in Saudi)が2018年にサウジアラビアで第3回CxO会合を開催することが案内されました。なお、北米地域でのCTO会合が2018年3月末に開催される可能性も示されました。

 今会合での議論概要はCOMMUNIQUÉ(共同声明)として公開されますので、より詳細な内容に関心のある方はご覧下さい。この共同声明の情報は全てのSGとTSAGメンバーに展開され、私の担当する標準化戦略に関するTSAGラポータグループで更なる分析を行い、今後の標準化戦略の検討に反映していく予定です。

 

おまけ: 今回の会場となったThe Meydan Hotelはドバイの郊外にあり、競馬のドバイワールドカップが開催される競馬場が隣接するユニークなホテルでした。

会場となったThe Meydan Hotel
会場となったThe Meydan Hotel
ホテルに隣接するメイダン競馬場
ホテルに隣接するメイダン競馬場
会場からのドバイ市内の眺め
会場からのドバイ市内の眺め

表1 第2回CxO会合参加組織

No.
企業・団体名
国名
1
チュニジア
2
中国
3
サウジアラビア
4
UAE
5
UAE
6
スウェーデン
7
Fujitsu
日本
8
中国
9
NEC
日本
10
UAE
11
フィンランド
12
フランス
13
米国
14
UAE
15
カナダ
16
米国
17
レバノン
18
TTC
日本
 
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