WTSA-16総会に向けた欧州CEPTの準備会合に参加して
前回ブログでは、ITU-T総会WTSA16会合に向けたアジア・太平洋地域のAPT(Asia-Pacific Telecommunity)でのWTSA準備会合の結果を報告しました。本ブログでは、9月6日から8日までデンマークのコペンハーゲンで開催された欧州CEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)でのWTSA準備会合の結果概要について報告します。会議はコペンハーゲンの市庁舎の近くにあるCEPT事務局のECO(European Communications Office)の会議室で開催されました。
CEPTは欧州48カ国からなる会議機構で電気通信分野での欧州としての政策と規制課題を扱いますが、その検討実施は組織的には、ECC(The Electronic Communication Committee)、ComITU(The Committee for ITU Policy)、CERP(European Committee for Postal Regulation)の三つの独立した委員会から構成されます。この中で、ComITUは、ITUにおける無線関連のWRC(World Radiocommunication Conferences)を除く、全権委員会(Plenipotentiary Conference)やITU-D総会であるWTDC(World Telecommunication Development Conferences)、ITU-T総会WTSA(World Telecommunication Standardization Assemblies)、ITU理事会(ITU Council)などへの対処についても責任を持っています。
今回のComITU会合ではWTSA準備会合として開催され、CEPT加盟国48カ国の内、21か国の主管庁代表と、オブザーバーとして、ICANN、GSMAなどの代表と主要企業の専門家を含め、約45名が参加しました。オブザーバーの中には、ITU-T事務局の他、他の地域標準化機関から、南北アメリカの地域標準化機関であるCITEL(米州電気通信委員会)、ロシアのRCC(ロシア通信地域連邦)の代表も参加しました。私はAPT(アジア太平洋電気通信共同体)の代表として参加するとともに、APTでの最新の検討状況の概要を紹介しました。初日のComITU会合のプレナリーでは、アラブのArab StatesとアフリカのATU(アフリカ電気通信連合)のWTSA準備会合との電子会議を設定し、地域間のWTSA-16への準備状況の情報交換を図りました。
WTSAでは、ITU-Tの標準化作業内容、作業計画や組織構成提案に関する合意は決議(Resolution)として発行されます。4年前のWTSA-12では、6件の新規、44件の改訂、5件の廃止を含む50件の決議が発行されました。
WTSA-16に向けた今回のComITU会合では、欧州共同提案(European Common Proposal:ECP)として14件の決議に関する提案が合意されました。その提案は、APTや他の地域の提案と異なり、開発途上国が求める先進国との標準化格差是正や人材育成支援の強化などの課題よりは、番号計画などの規制政策に関する課題への関心が強い傾向があります。また、途上国に関する課題はITU-Dでの検討集中を指向しており、ITU-Tでの課題拡大を牽制する傾向が表れています。この他、サイバーセキュリティやスパム対策についての関心は高いものの、業界のソリューションを考慮し、ITU-Tが取り組む課題としては、あまり拡大、活発化しない方向に誘導する提案に重きが置かれているように感じます。欧米先進国と開発途上国との間での国際標準化への期待と活用レベルの意識の差がWTSAでのITU-Tの今後の方向性の議論において対立の要素となることが予想されます。
WTSAは決議に関する議論の他、ITU-TのTSAGやSGが作成した勧告(Recommendation)の最終承認を行う権限を持っています。今回のWTSAでは、TAP(Traditional Approval Procedure)によるSG3から5件の勧告承認審議の予定がありますが、これらの勧告承認について、米国から承認反対の寄書提案が予定されています。SG3の勧告承認審議においても欧米先進国と開発途上国とのITU-Tの役割に関する期待と活用の仕方の意識の差がWTSAでの審議の争点になることが予想され、日本としての対応判断も重要になります。
WTSAで決定される重要事項として、ITU-TのSG新体制の決定とその議長と副議長の指名があります。APTのSG構成の提案は、「現在のSG構成を維持する」もので、昨年新設されたSG20を含めた11個のSG構成を継続することを提案しています。欧州の共同提案では、CATVを扱うSG9については、SG12とSG15への課題分割による解体を、信号プロトコルを扱うSG11については、SG12、SG13、SG20への課題分割による解体が提案され、APT提案とは対立するもので、WTSA-16での大きな審議課題となるでしょう。ComITU会合初日のプレナリーで、ロシア、アラブ、アフリカ地域との情報交換を行いましたが、SG11については、相互接続性とコンフォーマンス(Conformance and Interoperability)の課題への関心が高く、また端末偽造やスパム対策などの検討強化を図るうえでSG11の存続を支持する意見が多いことが分かりました。一方で、SG9については、SG単独での存続を支持する提案は現状ではAPT以外ではない状況となっています。WTSAに向けては、他の標準化地域の提案変更への働きかけや妥協案に向けた検討が必要になります。
以上が今会合での欧州共同提案に関する結果概要で、今後、14件の提案はEPCとしてWTSA-16へ寄書提案されます。
WTSA-16は10月25日から11月3日まで、チュニジアのヤスミン・ハマメット(Yasmine Hammamet)で開催されますが、寄書の一次締め切りは9月26日で、最終締め切りは10月10日です。今後、各地域や各国の寄書が提出されますが、それぞれに対して、日本としての対処分析が必要となります。TTCでは、総務省と連携を図り、国内でのWTSAやAPT関連会合での対処方針の取り纏めに貢献していくともに、今後ともITU-Tおよびその他の標準化機関・団体との連携を図りながら、情報収集を図り、グローバル標準の実現に向けた標準化活動の推進とアジア・太平洋地域への普及活動を推進していく予定です。
最後に、9月上旬のコペンハーゲンの気候は、気温は15度から20度で、湿度も低く爽やかでした。天気にも恵まれ、青い空に運河沿いのニューハウンのカラフルな街並みが映えていました。