ITU-T次会期のSG再編検討の前哨戦が行われる
ITU-Tの次会期(2017年-2020年)のSG(Study Group:研究委員会)体制の再編草案を検討するTSAGのラポータ会合(RG-WPR)(6月29日-7月1日開催)に参加するため、スイスのジュネーブ(写真:ITU本部タワー)に出張してきました。
SG再編の原則、現状のSG活動評価、既存体制の問題点の洗い出しなどについては、私が議長を務める「レビュー委員会」で検討してきましたが、WTSA-16で決定する具体的なSG構成草案については、TSAGが検討する役割を持っており、前回のTSAGにおいてSG構成案検討のためのTSAGラポータグループ(RG-WPR)が設立されました。その第一回会合が今回のTSAGラポータ会合の位置づけとなります。
ITU-Tの標準化課題とその研究を行うSG体制については、ITU-T総会であるWTSA:World Telecommunication Standardization Assembly)で決定されます。2017年-2020年会期の体制を審議する「WTSA-16」は、2016年10月25日~11月3日にヤスミン・ハマメット:Yasmine Hammamet(チュニジア)で開催されることが決定しました。
WTSA-16に向けた最終のTSAG会合は2週間後のジュネーブ(7月18日ー22日)で開催されますが、各国のSG構成案情報を収集し、合意の方向性を探るのが今回のTSAGラポータ会合の目的です。各国が具体的なSG再編案を持ち寄るのは今回が初めてとなります。今回のブログではSG再編の様々な提案状況について概要を報告します。
国連193ヶ国が加盟するITU-TのWTSAの審議は、世界の地域を6つ(アジアはAPT(アジア太平洋電気通信共同体)、アラブはArab States、アフリカはATU(アフリカ電気通信連合)、欧州はCEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)、南北アメリカはCITEL(米州電気通信委員会)、ロシアはRCC(ロシア通信地域連邦))の地域に区分し、各地域単位で共同提案を持ち合うことで合意形成の効率化を図っています。
(1)APT提案
私は現在、APTのWTSA-16対処の準備グループの議長を担当しており、今回のラポータ会合には、APTの一次提案(APT View)を携えてAPT代表として参加しました。日本にとっては、日本提案をAPT共同提案にすることにより、国連加盟国の約20%にあたる38ヶ国支持の提案となり、単独提案よりは、欧州、アメリカ、アラブ、アフリカ、ロシアの地域レベルの主張として合意形成を図り易くになります。その意味において、APTでの連携はITU-Tへの標準化戦略として重要であり、APTでの主要な活動国である韓国、中国や東南アジア諸国との連携が重要になります。APTでは、WTSA-16にむけたアジア・太平洋地域としての対処方針を議論するAPTのWTSA準備会合が4回計画されており、その第3回目の会合は6月12日~19日にネパールのカトマンズで開催され、その会合での合意をAPT提案として、今回のTSAGラポータ会合に提案しました。APTの最終共同提案は、8月23日~26日にベトナムのダナンで開催される第4回のWTSA準備会合で議論する予定です。
今回のAPT提案は、「現在のSG構成を維持する」もので、昨年新設されたSG20を含めた11個のSG構成を継続することを主張しています。
現状のITU-TのSG構成
SG2
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サービス定義と番号計画、電気通信管理、災害対応
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SG3
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電気通信の料金及び会計原則
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SG5
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EMC(電磁的な不干渉性および耐性)、ICTと気候変動
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SG9
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CATV網
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SG11
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信号プロトコル、適合性と相互接続性試験
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SG12
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QoSとQoE
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SG13
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将来網、NGNと移動管理、クラウドコンピューティング
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SG15
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アクセス網、光通信技術、光伝達網、スマートグリッド
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SG16
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メディア符号化とアプリ、アクセシビリティ、ITS、IPTV
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SG17
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セキュリティ、ID管理、記述言語
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SG20
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IoTとスマートシティとコミュニティを含む応用
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(2)欧州提案
前会期のWTSA以来、欧州はSG数の削減を主張しており、「SG2とSG3」、「SG9とSG16」、「SG11とSG13」などの関係が課題となり、今会期では二つのSGの同地開催などを実施してきました。APTではこれらの背景を踏まえ、各SGの課題責任分担とSG相互間の課題の重複などを分析したうえで、現状のSG構成の問題点は見出されなかったことと、欧州が主張するSG数を削減することの運営財政的メリットが見出されないことから、SGレベルでの現状構成を維持することを提案しています。特に、APTでは、SG9のCATV課題はCATVと電気通信分野の業界、市場、規制関係の特殊な環境の違いを考慮した体制が望ましいこと、また、SG11は主管課題であるプロトコルの適合性と相互接続性試験とcombating counterfeiting(端末の偽造対策)の重要性の拡大の背景から、それぞれの存続が有益であると提案しています。ただ、APTとしては、各SGの活動効率を向上するために、一部課題をSG間で移動することは許容するという提案です。
ITU-T局長は今会合のオープニングでの挨拶で、「SGの数を優先して考えるのではなく、標準化課題の見えやすさと標準作成の高品質化と効率化を重視すべきであることと、事務局の財政的な運用の点から、現在の11のSGを運営することに問題はない。」という見解が示されました。
(3)各地域提案の主な主張点
APT提案に対して、今回のラポータ会合では、それぞれの地域から様々なSG再編案が提案されました。アラブとアフリカ地域は9月に準備会合の予定で、まだ提案は出ていませんが、現状の提案状況からSG再編の見方を大まかに整理すると、以下の3点がSG再編提案の主要な傾向と考えられます。
- SG3、SG5、SG17はほぼ変更なし
- SG12、SG13、SG15、SG16、SG20は既存課題を維持し、一部他SGの課題を取込み課題の統合化を図る
- SG2、SG9、SG11は分割、解体を含め、SG数削減の対象となる
特に、第3点目の「SG2、SG9、SG11の分割、解体」の是非が大きな議論対象となります。3点目のSG9、SG11の大幅な再編については、APT提案と大きく異なる点ですが、提案国は米国、カナダ、イギリス、ドイツが中心となっていますが、これらのSGの再編オプションはさらにSG毎に以下のように整理できます。
SG2については、
- 現状構成を維持しSG2単独維持
- ヒューマンファクタ課題(Q4/2)をSG16に移行し、残りの課題はSG2として維持
- ヒューマンファクタ課題(Q4/2)をSG16に移行し、WP2の網管理・運用関係(Q5/2、Q6/2、Q7/2)をSG13に移行し、WP1/2における番号関係(Q1/2、Q2/2、Q3/2)に特化したSG2として維持
SG9については、
- 現状構成を維持しSG9単独維持
- 映像品質に関する課題(Q2/9、Q12/9)をSG12に移行し、残りの課題はSG9として維持
- 映像品質に関する課題(Q2/9、Q12/9)をSG12に移行し、残りの課題を統合してSG15に移行
- 映像品質に関する課題(Q12/9)をSG12に移行し、ホームネットワークと光アクセスに関する課題(Q9/9、Q11/9)をSG15に移行し、残り全ての課題を放送課題を扱うITU-RのSG6に移行し、SG9を解体
- SG9の現状課題を維持したままで、SG15またはSG16の新たなWPに移行
SG11については、
- 現状構成を維持しSG11単独維持
- 測定・試験に関する課題(Q10/11、Q15/11)をSG12に移行し、残りの課題はSG11として維持
- 測定・試験に関する課題(Q10/11、Q15/11)をSG12に移行し、IoT試験課題(Q12/11)をSG20に移行し、残りの課題を全てSG13に移行し、SG11を解体
(4)WTSA-16に向けた展望
これらの大幅な再編提案におけるSG9とSG11に関しては、APTとしては反対の立場で今後の交渉を進めていかなければなりません。また、各SGが何を推進するかの主要課題を明確にするとともに、それらの検討を効率的に進めるための課題の統合や配分の詳細検討が必要です。さらに、想定されるSG構成に対して、議長と副議長の指名を受けるための立候補の手続きも考慮していく必要があり、役職者数の出身国の地域バランスを考慮しなければいけない場合については、政治的な調整の要素も考慮する必要があります。
今回のTSAGラポータ会合では、SG再編の可能性を探る情報交換の場であり、交渉前の前哨戦であり、まだ何らの決定がなされた会合ではありませんが、欧米が大幅なSG再編を求めてくる姿勢は明確になりました。WTSA-16での合意に向けては、他の地域や他国の支持を得る努力が必要です。SG9とSG11の解体案への反対理由の詳細については、今月開催のTSAG会合に向けたAPTや日本からの寄書で主張していく予定ですが、詳細に関心のある方はTTCまでお問い合わせください。
最後に、会合の終了後、ITU-Tのチェイサブ・リー局長を表敬訪問し(写真:リー局長のオフィスにて)、先月TTCで開催したITU-T創設60周年記念表彰式典に際し、お祝いのビデオメッセージをお送りいただいたことに対してお礼を申し上げました。