ITU-T総会WTSA16に向けたAPT準備会合速報
タイ王国のバンコク市内南部に位置するアナントラ・サソーンホテルで、10月15日(水)~17日(土)に開催された第2回WTSA16に向けたAPT準備会合に議長として参加しました。
今会合は、来年2016年秋に開催されるITU-T総会WTSA16会合に向けた電気通信分野におけるアジア・太平洋地域としての対処方針を議論するための準備会合で、4回計画されている中での第2回目の会合です。今回の準備会合には、APT(Asia-Pacific Telecommunity:アジア・太平洋電気通信共同体)加盟国38ヶ国の内、21か国の主管庁代表を含め、約75名が参加しました。本ブログでは、第2回目となるAPTのWTSA16準備会合の模様を報告し、今後のWTSAに向けた標準化課題を解説します。
次の写真はWTSA準備会合のプレナリ会合の模様で、演壇の私の両側はAPTの事務局長のAreewan Haorangsi女史とITU-T局長のChaesub Lee氏、その両端は準備会合副議長のHyoung Jun Kim氏(ETRI、韓国)と事務局次長の近藤勝則氏です。
ITUにおける地域標準化組織としては、APTの他、欧州、南北アメリカ、アフリカ、アラブ、旧ソ連地域の6地域があり、各地域のWTSA準備会合には、ITU-T局長自らなるべく参加し、情報収集を図っています。Chaesub Lee局長は、韓国出身であり、APTとの連携を強く期待しておられます。本会合の直前には、私の前回ブログで触れましたCTO会合とITU Telecom World 2015の対応でハンガリーのブダペストに出張されており、多忙なスケジュールの中、プレナリ当日の早朝にブダペストから飛んできていただきました。
APT地域は約40億人の人口を抱えており、開発途上国も多く、今後の発展が期待される市場であることから、APT地域の要望を考慮した標準化技術の展開と支援が重要となります。また、193カ国が加盟する国連機関のITUでの標準化活動においては、各国主官庁の投票で決定されるWTSA総会などでの標準化政策や標準化機関の役職人事など重要事項の決定において、APT地域としての合意形成ができれば、APT構成メンバーである38ヶ国の合意はITUでの決定に影響力を発揮することが可能となります。ITUへのAPT共同提案を実現するためには、常日頃からAPT諸国との交流が図れ、日本のリーダーシップを示すことができるAPTの場は貴重な機会と考えています。
APT WTSA16準備会合は、プレナリと3つの作業グループ(WG)で構成され、それぞれ議長と2~3名の副議長で構成されます。WGは、ITU-T作業方法(WG1)、ITU-T新体制(WG2)、政策や規制などの標準化全般課題(WG3)を扱う3つのグループに分類されます。今会合では、各WG議長からは検討課題文書(Issue paper)が提案され、各WGにおいて、APT各国がどの課題に関心があるかを抽出し、課題の明確化を図っていくことを合意しました。
今回、WG役職者の指名変更要望があり、表1の役職者を改めて承認しました。役職者の人選の結果、日中韓の連携を図るとともに、日本はいずれのWGでの議論でリーダーシップを発揮できる体制となっています。
表1.APT WTSA-16準備グループ体制(2015年10月更新:下線部分)
組織・WGs
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議長(敬称略)
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WTSA-16準備グループ議長
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前田洋一 (日本)
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WTSA-16準備グループ副議長
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Dr. Hyoung Jun Kim (韓国)
Ms. Weiling Xu (中国) |
WG1議長 (Working Methods)
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釼吉薫 (日本・NEC)
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WG1副議長
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Mr.Muhammad NeiEHiman
(インドネシア)
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WG1副議長
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Mr Jeong Sik Park(韓国)
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WG2議長 (Work Organization)
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Dr. Seungyun Lee (韓国)
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WG2副議長
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荒木則幸 (日本・NTT)
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WG2副議長
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Mr Abdul Karim Abdul Razak (マレーシア)
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WG3 議長 (Standardization Issues)
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Ms. Fang Li(中国)
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WG3副議長
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Dr. Seyed Mostafa Safavi (イラン)
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WG3副議長
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Ms. Nguyen Thi Khanh Thuan (ベトナム)
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WG3副議長
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深堀道子 (日本・NICT)
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ITU-T局長からの講演では、ITU-Tでのホットトピックと今後の課題候補として、次の課題が例示されました。
- 5G/IMT2020(非無線課題、固定・モバイルハイブリッド)と将来ネットワーク
- IoT(Internet of Things)/WoT(Web of Things)/M2M
- セキュリティとプライバシーとトラスト(Trust)
- ビックデータ
- クラウドコンピューティングと仮想化(Virtualization)
- ホームとアクセスと伝達網
- 映像符号化とe-everything
- ICTと気候変動
- デジタルファイナンス(モバイルマネー)
- 国際ローミングとOTT(Over The Top)
- 標準化と技術格差是正(開発途上国の参加強化)
WTSAでは、ITU-Tの国際標準化機関としての役割と他の標準化機関との連携の在り方、より効率的な作業方法の見直し、新しいITU-Tの研究委員会(Study Group:SG)の体制を審議します。これらの課題に対して、ITU-Tは何をすべきか、それぞれの技術をどの研究委員会で扱うか、そのリーダーシップ(議長などの役職者)をどうするか、などについて、日本として、また、APTとしてどうしていくか、を検討することになります。
WTSAでの主要な審議課題の一つであるSGの議長、副議長の選挙に関しては、Lee局長からは、現在、新設のSG20を含め11のSGがあるが、SG5(環境と気候変動)、SG11(プロトコルと試験)、SG16(マルチメディア)、SG17(セキュリティ)の4議長は任期満了であるとともに、SG9(CATV)議長は退任の予定であること、SGの副議長で任期満了となる人数が示されました。この機会にSG体制を見直す良い機会であることと、女性役職者を増やしたいという意向が示されました。
WGレベルでの議論では、ITU-T作業方法(WG1)では、既存の作業方法の見直しの他、5GやIoTなどの標準化を進めるうえでの他機関との連携方法の改善、電子会議による遠隔参加の方法、標準化検討における地域グループの活用方法などを検討していくことになりました。
ITU-T新体制(WG2)では、日本からの提案により、現状のSGが取り組む主要課題について、SG相互間の関係を整理した標準化展望(Standardization Landscape)のマップを作成し、SG再編への検討の参考にすることとなりました。また、Lee局長が挙げた重点課題に対して、どのようなSG体制で検討するのが望ましいかを検討することになりました。
政策や規制などの標準化全般課題(WG3)では、今会合ではベトナムからの提案で、途上国との格差是正(Bridging the Standardization Gap)、ICT と気候変動及び環境、相互接続性とコンフォーマンス(Conformance and Interoperability)の課題への関心が示され、これらの課題についてWGで議論していくことが確認されました。また、4年前のWTSA-12で合意された決議(Resolution)について、今後の見直しの必要性について、APT各国メンバーにアンケート調査を行うことを合意しました。
次回の会合は、2016年6月にバンコクで開催の予定です。TTCでは、総務省と連携を図り、国内でのWTSAやAPT関連会合への対処方針の取り纏めに貢献していくともに、今後ともITU-Tおよびその他の標準化機関・団体との連携を図りながら、情報収集を図り、グローバル標準の実現に向けた標準化活動の推進とアジア・太平洋地域への普及活動を推進していく予定です。