マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

IMT-2020(5G)に関するフォーカスグループのトリノ会合速報

 日本ではシルバーウィークの大型連休の中、9月21日から24日まで、ITU-TのIMT-2020に関するFocus Group会合(FG-IMT2020)がイタリアのトリノで、テレコムイタリアのホストで開催されましたので、会合結果を速報します。

FGトリノ会合会場模様
FGトリノ会合会場模様

 会場はトリノ市内から地下鉄やトラムで10分ほどのテレコムイタリアの会議室でした。今回の会合への入力文書は32件、参加者は遠隔での電話会議の参加を含め約45名、日本からトリノ現地への参加は10名、日本からの寄書提案も11件あり、FG会合での審議をリードすることが出来ました。FG会合への対応を頂いた皆様に対し、心より御礼を申し上げます。

 5Gは、今後のモバイルトラヒックの急増と、あらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)時代の様々なサービスに柔軟に対応するための将来の重要な情報通信システムになると考えられています。日本においては、5Gに関して産学官連携により、その研究開発や標準化の検討を推進する場として、2014年9月に「第5世代モバイル推進フォーラム」(The Fifth Generation Mobile Communications Promotion Forum(5GMF))が発足されました。5Gは、無線技術だけでなく、5Gネットワークを支えるモバイルフロントホールやコアバックボーンのネットワーク課題も含め、無線と有線技術が連携したトータルな通信ネットワーク技術に関する検討が必要です。5GMFのネットワーク委員会(委員長:中尾彰浩教授(東大))では、有線系のネットワーク課題の検討を推進するとともに、次世代モバイルネットワークの構築を支えるネットワーク技術に関する最新の標準化重点課題として、TTCにおける標準化のための検討を加速させています。また、ARIBとTTCは5GMFの事務局として本活動を支援しており、5GMFによりオールジャパンでの5Gに関する検討体制の確立を推進します。

 今回のFG会合への対処にあたり、日本としては、以下の2点に重点を置いて寄書提案を行いました。第一に、ITU-Tでの検討における次世代PON(Passive Optical Network)光アクセス技術を、10Gb/sクラスの大容量データを数多くのセルに効率的に運ぶ必要のある次世代モバイルアクセス網に活用することを目指し、モバイルフロント・バックホールの検討に積極的に取り組んでいます。第二に、次世代モバイルネットワークでは超高速で多彩なモバイルサービスに加えて、M2M/IoT等の新たな端末やアプリケーションの出現に柔軟に対応することが必要であり、SDN(Software Defined Networking)やNFV(NetworkFunction Virtualization)技術を発展させ、データプレーンでのプログラム化までを対象としたNetwork Softwarization(注:NWソフトウェアライゼーション)の新概念の検討加速が必要であると考えています。

 TTCでは、昨年度「将来のモバイルネットワーキングに関する検討(FMN)アドホック」を設立し、将来のモバイルネットワークの実現に必要な技術課題の抽出と、国内外の研究機関、標準化団体で検討されている要素技術との関係を分析し、ホワイトペーパーとしてまとめました。FG会合に対しては、ホワイトペーパーの内容を基に提案を行い、成果文書の作成を推進してきました。TTCのホワイトペーパーはTTCホームページからダウンロードできます。

 今回のFG会合では、初日の9月21日に「Network Softwarization」に関するワークショップ を開催し、新技術に関する議論の深堀を行いました。プログラム構成を表1に示します。今回のワークショップにより、5Gモバイルネットワークを支える要素技術として、日本の5GMFが提唱するNetwork Softwarizationが、様々な新たなサービス要求条件を柔軟に迅速に実現するためのネットワーク技術のトレンドとして共通認識として定着してきたと思われます。

 表1;Network Softwarizationワークショップ プログラム

 

 
講演内容
講演者
基調講演
5G vision of Telecom Italia
Luigi Licciardi氏
(Telecom Italia、標準化室長)
基調講演
5G softwarinzation and slicing
Peter Ashwood-Smith氏
(Huawei Canada、FG議長)
Overview of network softwarization and adoption to 5G
中尾彰浩教授
(東京大学、5GMFネットワーク委員会委員長)
Challenges in network softwarization
Alex Galis教授
(UCL)
R&D status of network softwarization
Antonio Manzalini氏
(Telecom Italia、IEEE SDN議長)
Key technologies to support network softwarization
Yachen Wang氏
(China Mobile、FG副議長)
CCN (Content Centric Networking) implementation by network softwarization
津田俊隆教授
(早稲田大学)
ICN (Information Centric Networking) based scalable audio-video conferencing on virtualized edge service router (VSER) platform
Ravishankar Ravindran氏
(Huawei)

 今会合では、FG成果文書にまとめる主要検討課題毎に文書草案編集責任者(チャンピオンと呼ぶ)を中心に文書作成を進めており、検討課題毎に文書草案のレビューと更新を行いました。最終的なFG成果文書の構成案については以下の構成とすることが合意され、各技術課題はAnnexとして個別に記述されます。ユースケースは各技術課題に盛り込むこととなり、単独での作成は行わないこととなりました。

・1章:エグゼクティブサマリ
・2章:ギャップ分析と親SG(SG13)への提言
・3章:まとめと今後の予定
・Annex(付録)
A1:ネットワーク・ソフトウェアライゼーション
A2:アーキテクチャ
A3:エンド-エンドQoS
A4:モバイルフロントホール/バックホール
A5:新技術(ICN/CCN)
 

 FGとしての最終会合となる次回の北京会合(10月27日~30日)の後、SG13会合(11月30日~12月11日)へFG成果文書の報告が行われる予定であり、日本として5GMFやTTCの将来のモバイルネットワーキング検討会アドホックでの検討成果を効率的にFG成果文書に反映できるよう、次回会合までに開催される電話会議での具体的な成果文書作成への対応が必要となります。特に、5GMFとTTCがリードするネットワーク・ソフトウェアライゼーションモバイルフロントホール/バックホールの検討課題では、具体的な文書提案が必要と考えています。

 本ワークショップの講演資料および会合文書は、FG会合に登録することにより入手できますが、ご希望の方はTTCまでお問い合わせください。TTCでは、より多くの皆様に議論にご参加いただき、これからの5Gのモバイルネットワーキングの検討を盛り上げていただければと思います。TTCへの入会に関心のある方は入会案内をご覧ください。

ポー河のほとり
ポー河のほとり

 最後に、帰国のフライトまでの空き時間で散策したトリノ市内の景色をお送りします。上の写真はトリノ市内を流れるポー河のほとりの景色、下の写真はモーレ・アントネリアーナ塔からのトリノ市街の眺め、トリノ王宮前の広場の眺め、トリノ名物の飲み物でコーヒーとホットチョコレートとクリームが3層になったビチェリンです。博物館を見学する時間はありませんでしたが、バスとトラムを活用すれば半日で市内を眺めることが出来ました。

左上:モーレ・アントネリアーナ塔からのトリノ市街  右: トリノ王宮前広場
左下:トリノ名物 ビチェリン
 

【注】 FG: ITU-Tにおいて新規課題を始めるにあたり、勧告策定前の基礎調査や情報収集を行うための時限的な組織体制で、ITUメンバー以外の参加も可能なオープンな審議の機会です。FG-IMT-2020は、2015年4月のSG13会合で、Future Networks技術の将来モバイルネットワークへの適用と、モバイル網における有線と無線の連携技術についての検討を加速するために設立されました。

【注】 ネットワーク・ソフトウェアライゼーション(NetSoft): IEEE学会の中で使われ始めた用語(http://sites.ieee.org/netsoft/)で、SDNやNFV(網機能仮想化)、ソフトウェアベースクラウドコンピューティングなどを含めたネットワークのソフトウェアプログラム化による実現を目指す広い概念。