国際標準化における共通関心課題の動向―第19回GSC会合に参加して―
「残暑お見舞い申し上げます。」今年は特に暑い日が続きましたが、立秋も過ぎ、暑さが峠を越えて後退し始める「処暑」の季節を迎えました。皆様の夏休みはいかがでしょうか。マエダブログでは、夏の恒例となります海上花火の写真作品をお届けします。
本ブログでは、先月行われた第19回GSC(Global Standards Collaboration)会合の結果を踏まえ、各標準化機関が関心を有する標準化課題の動向についてご報告します。新年の挨拶ブログでは、「本年の重要標準化課題として、5Gで代表される次世代モバイルネットワーク課題の立ち上げと、IoT(Internet of Things)及びM2M(Machine to Machine)の標準化活動の本格化を図りたい。」と述べましたが、今回のGSC会合を通じて、世界各国の標準化機関が同様な方向感で、グローバルな標準化活動での連携を強化していく必要性を共有することができました。
今回のGSC会合は、ITUのホストにより、2015年7月15日-16日に、スイスのジュネーブにあるITU本部会議場にて開催されました。GSCは世界の主要な標準化機関 (SDOs : Standards Development Organizations) の代表者が一堂に集まり、ICTに関する標準化活動についての情報交換を行うとともに、各SDOでの検討の重複を避け、グローバルな標準化を促進するためのSDO間の協調と連携の戦略を検討するための集まりです。各SDOのHoD(Head of Delegation)が直接顔を合わせ、いつでも情報交換できる関係を構築することを重要な狙いとしています。
今会合には表1のGSCメンバーSDOと、オブザーバーとしてISO、IEC、JTC1、OMA、BBFの代表を含め、92名が参加しました。TTCからは前田がHoDで、総計6名がTTCを代表して参加しました。今会合の結果報告は、TTCの関連する委員会で議論していますが、TTCレポート10月号(10月23日発行予定)でも掲載の予定です。
表1.GSCメンバー組織一覧(2015年8月時点)
組織名
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URL
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ARIB (Association of Radio Industries and Businesses)
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ATIS (Alliance for Telecommunications Industry Solutions)
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CCSA (The China Communications Standards Association)
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ETSI (European Telecommunications Standards Institute)
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IEEE-SA (IEEE Standards Association)
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ITU (International Telecommunication Union)
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TIA (Telecommunications Industry Association)
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TSDSI (Telecommunications Standards Development Society, India)
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TTA (Telecommunications Technology Association)
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TTC (The Telecommunications Technology Committee)
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本GSC会合では、各SDOの共通の関心課題を3つ抽出し、
(1)緊急通信:Critical Communication and Public Safety、
(2)IoT:IoT includes M2M, smart cities and smart cars、
(3)次世代モバイル:IMT-2020/5G
の3課題を戦略的標準化優先課題として特別セッションを構成し、議論しました。
緊急通信のセッションでは、通信形態を、1)個人→公共機関(199・110通報など)、2)公共機関→個人(地震警報など)、3)公共機関相互(警察無線など)、4)個人相互(安否確認など)の4つのカテゴリに分類し、各SDOで協力し合う課題を議論しました。その中で、3GPPにおけるPublic safetyに関する国際標準の必要性を認識するとともに、緊急通信のための各国の周波数割り当ての整合の重要性についても議論されました。また、各国のPublic safetyに関する検討動向では、米国商務省電気通信情報局NTIA:National Telecommunications and Information Administration の電気通信科学研究所ITS:The Institute for Telecommunication Sciences におけるFirstNetは予算規模が大きく、検討状況を注目していく必要があると思われます。
IoTに関するセッションでは、初めての試みで、グループディスカッションによるブレーンストーミングを実施しました。参加者は8名程度の11のグループに分かれ、セッション議長の提起課題についてグループ討議を行いました。提起課題は、「IoT/M2Mの共通プラットフォーム標準化を進めるoneM2Mの外部環境において、各産業界でフォーラムやアライアンスが乱立し細分化していることに対し、なぜそのような状況に陥っているか理解するとともに、各SDOが協調してそれぞれの業界にいかにアプローチし標準化をプロモートすべきかを明確にする」でした。各グループからは様々な見方や意見が提示されましたが、現状分析として、各産業界ごとにそれぞれ独自のIoTモデルを構築し、それぞれのビジネスを展開・推進しており、各産業界が必ずしも共通の視点を持つ必要性を認識していない点、Googleのようなインターネット企業など、キープレイヤーが参加していない点が問題として認識されました。oneM2Mの標準化活動を通じて、今後、産業界への働きかけやマーケティングを強化していくことが必要でしょう。
次世代モバイル(IMT-2020/5G)のセッションに関しては、日本からNTTドコモの中村武宏氏が議長を担当され、ITU、3GPP、4G America、5G Forum(韓国)、5GMF(日本:ARIBとTTCを含む)、5GPPP(欧州)、欧州委員会、CCSA(中国)、NGMNがそれぞれの5Gに関する活動を紹介しました。報告を通じて、今後取り組むべき課題としては、5Gに関するユースケースと要求条件、トラヒック増に対応したWiFiへのオフロード、非ライセンス帯域でのLTEの利用、NFVの利用、低遅延を活かしたアプリ、センサーのような低消費電力化などが抽出されました。ネットワーク技術としてはSDN/NFV, Mobile edge computing, Fronthaul/Backhaul, ICN/CCNなどを候補技術として挙げているSDOが多いようです。これらの特徴を生かして、運輸、製造業、金融、教育、都市のインフラ管理など様々な分野でのネットワークの利用が期待されます。無線周波数の追加は、2019年世界無線通信会議WRC-19で決定される予定です。
すべてのGSC会合文書は以下のURLからダウンロード可能です。
http://www.itu.int/en/ITU-T/gsc/19/Pages/documents.aspx
最後に、今会合ではGSCの新規メンバーの加入について議論が行われ、今回オブザーバー参加であったISOとIECは、次回のGSC-20会合から正式メンバーとして迎えることを合意しました。GSC-20会合は、インドのSDOであるTSDSIのホストにより、ムンバイで、2016年4月26日-27日に開催する予定です。