初議長のASTAP会合とAPT WTSA-16準備会合の新体制について
タイ王国のバンコク市内南西のチャオプラタヤ川岸に位置するアナントラ・リバーサイドホテルで、3月2日~7日に開催された第25回ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program)総会とWTSA-16に向けたAPT準備会合に参加しました。今回のASTAP総会には、APT(Asia-Pacific Telecommunity:アジア・太平洋電気通信共同体)加盟国38ヶ国の内、23か国の主管庁代表を含め、約130名が参加しました。
私は2014年8月のASTAP総会でASTAP議長に指名され、加えて、今会合で、APTのWTSA準備グループの議長にも指名されることになりました。下の写真はASTAP総会のプレナリ会合の模様で、私の両側はAPTの新事務局長のAreewan Haorangsi女史と新事務局次長の近藤勝則氏です。本ブログでは、私が初めて議長を担当するASTAP総会とAPTのWTSA-16準備会合の体制に関する会合結果について報告します。
ASTAPは、アジア・太平洋地域における電気通信分野の標準化プログラムのことで、1998年に発足しました。その目的は、①地域内の標準化における協力・協調体制を構築し、国際標準化に貢献すること、②地域内の標準化活動者を育成するとともに、地域内メンバー、特に開発途上国メンバーの電気通信分野のスキル開発を支援すること、③ITU等の国際標準化機関へ地域標準化機関として共同提案を行う、などです。
APT地域は約40億人の人口を抱えており、開発途上国も多く、今後の発展が期待される市場であることから、APT地域の要望を考慮した標準化技術の展開と支援が重要となります。日本が、APT地域での仲間作りと開発途上国への貢献の場として、ASTAPを活用していくことは重要であると考えており、TTCにおける標準化の国際連携の戦略としても重要な課題の一つとなっています。
また、193カ国が加盟する国連機関のITUでの標準化活動においては、各国主官庁の投票で決定されるWTSA総会などでの標準化政策や標準化機関の役職人事など重要事項の決定において、APT地域としての合意形成ができれば、38ヶ国の合意はITUでの決定に影響力を発揮することが可能となります。ITUへのAPT共同提案を実現するためには、常日頃からAPT諸国との交流が図れ、日本のリーダーシップを示すことができるASTAPの場は貴重な機会と考えています。
1.新ASTAPの役職者の選出
第24回ASTAP総会で私はASTAP議長に選出されました(報道発表)が、ASTAP副議長とWG議長の指名は今会合まで決定が先延ばしになっていました。ASTAPの新体制は、標準化課題を12の専門家グループ(Expert Group: EG)で分担し、EGを3つの作業グループ(Working Group: WG)に束ねることにしました。WGは、組織横断的に関連する政策と他組織との戦略的連携グループ(Working Group on Policy, Strategy and Coordination: WG PSC)、ネットワークとシステムグループ(Working Group on Network and System: WG NS)、サービスとアプリケーショングループ(Working Group on Service and Application: WG SA)の3つに分類され、各WGが配下のEGの成果の取りまとめとEG相互間の調整機能を持ち、プレナリーが全体調整と最終承認を行う3階層構成としました。
表1は、ASTAPの新体制を示します(WGとEGの副議長名は省略)。今会合でASTAP副議長、3つのWGの議長と副議長、EGの議長と副議長について、正式指名が行われました。新体制において、EG議長の過半数を日本が占めるとともに、日本と韓国がリーダーシップを発揮する体制となっています。
表1.ASTAPの新体制
組織・WGs/EGs
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議長
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ASTAP議長
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前田洋一 (日本)
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ASTAP副議長
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Dr. Hyoung Jun Kim (韓国)
Ms. Li Haihua (中国) |
WG PSC (政策と戦略協調)
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Ms. Nguyen Thi Khanh Thuan
(ベトナム) |
EG BSG (標準化格差の解消)
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Ms. Nguyen Thi Khanh Thuan
(ベトナム) |
EG PRS (政策、規制と戦略)
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Mr. Felix Rupokei
(パプアニューギニア)
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EG GICT&EMF (グリーンICTと電磁界暴露)
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Dr. Sam Young Chung (韓国)
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EG ITU-T (ITU-T課題)
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釼吉薫 (日本・NEC)
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WG NS (ネットワークとシステム)
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Dr. Joon-Won Lee (韓国)
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EG FN&NGN (将来網と次世代ネットワーク)
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Dr. Joon-Won Lee (韓国)
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EG SACS (シームレスアクセス通信システム)
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小川博世 (日本・ARIB)
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EG DRMRS (防災・災害復旧システム)
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田中進 (日本・NEC)
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WG SA (サービスとアプリケーション)
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Dr. Seyed Mostafa Safavi (イラン)
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EG M2M (マシン・ツー・マシン)
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今中秀郎 (日本・NTT)
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EG IS (情報セキュリティ)
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永沼美保 (日本・NEC)
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EG SNLP (音声翻訳・自然言語処理)
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深堀道子 (日本・NICT)
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EG MA (マルチメディアアプリケーション)
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山本秀樹 (日本・沖電気)
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EG AU (アクセシビリティとユーザビリティ)
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Dr. Jee-In Kim (韓国)
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個々の標準化技術課題の審議状況については、TTCや国内の関連委員会での会合報告を参考にしてください。
2.新APT WTSA-16準備会合の役職者の選出
来年秋に予定されているITU-Tの全体総会にあたるWTSA-16会合に向け、APTの共同提案を含む対処方針の検討を行うAPT WTSA-16準備会合は、自国の提案をAPT提案に反映する機会として有益です。
この準備会合は、プレナリと、3つの作業グループ(WG)で構成され、それぞれ議長と2~3名の副議長で構成されます。WGは、ITU-T作業方法(WG1)、ITU-T新体制(WG2)、政策や規制などの標準化全般課題(WG3)を扱う3つのグループに分類されます。新体制において、日中韓の連携協調が図れる体制を築くことが出来ました。役職者は今後のITU-TのTSAGおよびReview Committeeの議論動向を踏まえた議論の推進が求められます。
表2.APT WTSA-16準備グループの新体制
組織・WGs
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議長(敬称略)
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WTSA-16準備グループ議長
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前田洋一 (日本)
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WTSA-16準備グループ副議長
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Dr. Hyoung Jun Kim (韓国)
Ms. Weiling Xu (中国) |
WG1議長 (Working Methods)
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釼吉薫 (日本・NEC)
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WG1副議長
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Mr.Muhammad Neil El Himan
(インドネシア) |
WG2議長 (Work Organization)
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Dr. Seungyun Lee (韓国)
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WG2副議長
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荒木則幸 (日本)
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WG2副議長
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Mr Abdul Karim Abdul Razak (マレーシア)
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WG3 議長 (Standardization Issues)
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Mr SI Xianxiu (中国)
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WG3副議長
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Dr. Seyed Mostafa Safavi (イラン)
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WG3副議長
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TBD (ベトナム)
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WG3副議長
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深堀道子 (日本・NICT)
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3.ブルネイ・ダルサラム共同声明
APTでは、次期3年間の活動の重要な指針となる戦略計画、財政計画等を総会で決定しており、2014年11月の第13回APT総会において、2015年―2017年の戦略計画を作成しました。
戦略計画は、2014年9月にブルネイで開催されたAPT大臣級会合で採択されたブルネイ共同声明 (「ICTによるスマート・ディジタルエコノミーの構築に関するブルネイ・ダルサラム声明」“Brunei Darussalam Statement of the Asia-Pacific ICT Ministers on Building Smart Digital Economy through ICT”)の内容を踏襲して策定されており、具体的には、ブルネイ共同声明で規定された6つの優先分野を達成するため、8つの作業項目(Work Items)を設定し、各項目毎に具体的な行動計画が盛り込まれています。
共同声明は、APTによる域内協力の促進について言及すると共に、域内におけるスマート・デジタルエコノミーの構築に向けたブロードバンド、ICTインフラ及びサービスの発展に向けたガイドラインとなるものであり、以下の6つの優先分野を掲げています。
A. ICTの持続的な成長及びスマート・デジタルエコノミーに向けた政策
B. ICTを通じた安心・安全な社会
C. ICTにおける信頼と信用
D. イノベーションのための持続可能なICTエコシステム
E. 能力向上及び組織強化
F. ICT発展に向けた地域協力の強化
この共同声明の優先分野を実現するために、APTが取り組む戦略的作業項目としては、1.政策と規制、2.ICT開発、3.災害管理、4.サイバーセキュリティ、5.無線通信、6.標準化、7.能力開発人材育成、8.ICT開発における地域連携、の8つが挙げられています。
ASTAPでは、地域での標準化連携を通じ、災害管理、サイバーセキュリティ、ICT基盤の技術開発を推進するとともに、地域での標準化と人材育成に貢献していくことを方針として確認しました。
TTCは、今後ともITU-T、APTおよびその他の標準化機関・団体との連携を図りながら、グローバル標準の実現に向けた標準化活動の推進とアジア・太平洋地域への普及活動を推進していく予定です。