マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

新たな産業界の戦略的取組み:インダストリアル・インターネット

写真1 横須賀ヴェルニー公園
写真1 横須賀ヴェルニー公園
写真2 砕氷艦しらせを背景に
写真2 砕氷艦しらせを背景に
写真3 ヴェルニー公園のバラ
写真3 ヴェルニー公園のバラ

 この度、インダストリアル・インターネット シンポジウムが、2014年10月29日(水)に、慶應義塾大学 日吉キャンパスにて、一般社団法人日本OMGとSysML利活用協議会の主催、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)とUMLモデリング推進協議会(UMTP)の後援により開催されました。日本OMGのご配慮により、TTC会員の参加特典をいただき参加してきました。

  欧米を中心とする先進各国では、産業・製造業の再躍進を目的とする国家およびグローバルレベルの戦略的取り組みが始まっています。米国ではインダストリアル・インターネット、ドイツではインダストリー4.0と称し、蒸気機関による産業革命を第一波として始まり、今回の波を、その後の第3次または第4次と呼ぶ産業革命と位置づけています。インダストリー・インターネットは、産業をシステムとして捉え、IoT(Internet of Things)を活用してビッグデータを分析し、産業・製造業に革新をもたらそうとするものであり、新しいサービス創造と、より強力な経済成長、雇用の質と量の改善、生活水準の向上の実現を目指すものと理解しています。

  シンポジウムのプログラムは表1のとおりで、初めに、今年3月に米国で設立されたIndustrial Internet Consortium(IIC)のCTOであるStephen Mellor氏(写真4)によるIICの紹介、次に、ドイツが中心となって推進しているIndustrie 4.0 の活動のご紹介、最後にIICの創設メンバーであるGE(General Electric)によるインダストリアル・インターネット活動推進の背景について紹介が行われました。講演と質疑を通じて、日本における取り組み、製造業の高度化、グローバル標準への対応などについて専門家の方々を交えての意見交換を行う機会が得られました。

写真4-講演中のMellor氏
写真4-講演中のMellor氏

 IICは、AT&T、CISCO、GE、IBM、INTELの米国5社が創設メンバーとなって、産業市場におけるモノのインターネット(IoT:Internet of Things)関連の標準推進団体として2014年3月27日に設立されました。現時点で90社を超える企業や団体が加入しているようです。IICのCEOは、技術標準化団体「Object Management Group(OMG)」CEOのRichard Soley氏、CTOはStephen J. Mellor氏が務めます。今回のシンポジウムにはMellor氏が招待されました。米国の標準化団体であるOMGがIICの事務局を務めています。

  IICが焦点を置くユースケースは、エネルギー、ヘルスケア、製造、運輸、行政などの領域を対象としています。2020年には、インターネット接続機器の数は500億台を超えると予測されており、IoTの共通アーキテクチャーを策定し、IoTに関連する各種の標準化団体に会員企業の要望を伝えることにより、多くの企業が相互運用性を実現し、IoT向け規格の標準化とテストベッドによる検証の環境構築を推進することにあります。コンソーシアムへの参加費用は、年間2500~5万米ドルで、大学などは2500米ドル。収益が5000万米ドル以上の企業で、運営委員にも参加したい場合には5万米ドルとなっています。

  日本の各企業は、インダストリアル・インターネットは新しいグローバルな産業界のトレンドとして関心は出てきたが、今後、どう活用でき、どう付き合うかについては検討中という状況ではないでしょうか。

  IICの創設メンバーであるGEからは、インダストリアル・インターネットを、18世紀の産業革命、第二のインターネット革命に続く第三の産業革命として捉え、現在の最重要課題として検討していることが紹介されました。インダストリアル・インターネットがビジネスにもたらすメリットとしては、

  1. 効率向上、コスト削減  
  2. 新しいカスタマーサービスの創造 
  3. リスク回避  

の三点を挙げています。センサー技術とIoT技術の向上により、今まで得られなかった情報を収集し、機器やプロセスの最適化を図ることができ、さらに、大量のデータがネットワークを介して、安く、安全に収集・分析することにより、お客様のアウトプットの最大化と顧客資産の最適化が図れる新たなビジネスが創造される、と解説されました。

  次に、「Industrie 4.0」は「Industry」ではなく、「Industrie」はドイツ語で「産業革命」の意味で、ドイツ政府が2011年から推進している「High-Tech Strategy 2020 Action Plan(高度技術戦略の2020年に向けた実行計画)」というドイツ政府の戦略的施策の1つです。同政策によるプロジェクトには、ドイツの主要企業を含む産官学の多くの企業や団体が参加し、新たなモノづくりの形、IoTによる工場のスマート化、デジタルファクトリを模索しています。

  デジタルファクトリの解釈としては、センサーネットワークなどによる現実世界(Physical System)と、サイバー空間の高いコンピューティング能力(Cyber System)を密接に連携させ、コンピューティングパワーで現実世界をより良く運用するという考え方に基づいています。モノづくりでは、設計や開発、生産に関連するあらゆるデータをセンシングなどを通して蓄積しそれを分析することで、自律的に動作するようなインテリジェントな生産システムが想定されています。「高度技術戦略 2020年に向けた実行計画」には、5つの重点分野が定義されており、「気候・エネルギー」「健康・食品」「モビリティ」「セキュリティ」「通信」などにおいて、今後10~15年を見据えた中期的な科学的・技術的な目標が具体的に掲げられています。

  今回のインダストリアル・インターネット シンポジウムには、私としては、インダストリアル・インターネットは、通信業界だけによらない産業界の新たなチャレンジでありグローバルな戦略的な取組みと捉え、勉強のために参加しました。その実現にはIoT(モノのインターネット)やビッグデータがキーテクノロジーとして大きく関わることになります。TTCにおいては、現在、M2M/IoTの標準化を推進し、また、ビッグデータにおける標準化課題の洗い出しを進めているところですが、インダストリアル・インターネットは、M2M/IoTの標準化にとって、ユースケースとして把握すべき課題であり、標準化への要求条件を明確にするうえでも注視すべき動向と考えています。IICの情報を収集し、標準化機関としての役割を明確にするうえで、IICとTTCとの連携の在り方について、今後検討していきたいと考えています。

表1 インダストリアル・インターネット シンポジウムのプログラム

時間
講演タイトル・講演者
13:00 ~ 13:20
オープニング
日本OMG 代表 吉野 晃生 氏
13:20 ~ 14:50
Industrial Internet Consortiumの取り組みと動向
Stephen Meller氏, CTO, Industrial Internet Consortium
14:50 ~ 15:10
休憩
15:10 ~ 16:10
Industrie 4.0: Siemens社の取り組み
シーメンスインダストリーソフトウエア(株)
部長 山本 広則 氏
16:10 ~ 17:10
インダストリアル・インターネットが変える製造業
日本GE(株)GEコーポレート専務執行役員 田中 豊人 氏
17:10 ~ 17:30
クロージング 
慶應義塾大学 教授 西村 秀和 氏