専務理事再任にあたって
公園の一角には曼珠沙華(まんじゅしゃげ)の花の中で蜜を味わう蝶が舞っていました。二十四節気の「秋分」の季節を迎え、昼と夜の長さが同じになる季節から、秋風が吹き、徐々に夜長を楽しむ季節に変わりつつあります。平成22年10月1日にTTCの専務理事に就任し、早くも4年の月日が経過しました。先の第166回理事会において、会長職に羽鳥光俊先生、専務理事職に前田が各々再選定されましたので、4周年を機に、ご挨拶申し上げます。
TTCは、一般社団法人として、「情報通信ネットワークに係る標準を作成することにより、情報通信分野における標準化に貢献するとともに、その普及を図ること」を目的としています。1985年にTTCが設立され、間もなく30周年を迎えますが、設立当時のTTC組織の狙いや期待は現時点でのそれらとは異なってきており、TTC会員数の維持と更なる拡大を図るためには、TTCの位置づけの再確認や取り組むべき課題の取捨選択を検討する時期に来ていると思っています。TTCの本来のミッションを果たすためにも、その組織としての在り方をタイムリーに見直していきたいと思います。
近年の大きな変化の一つとしては、標準化対象エリアが通信インフラ領域での物理・伝達エリアからアプリを含む上位レイヤに移ってきたことです。さらに、それらの課題は従来のITU、ISO、IECといった棲み分けを越えたところにあり、情報通信だけでは対応できなくなっています。業界を跨った課題に取り組むことが必要であり、関連組織との役割分担と連携方法を検討し、TTCの活動エリアを明確にする必要があるでしょう。その中で、国内でのマルチキャリア相互接続実現のための国内標準制定やITU-Tを中心とするデジュール標準化活動におけるアップストリーム活動推進の基地として、TTCの存在意義を見出していきたいと思います。
更に、通信インフラの物作りでは、日本の情報通信系会社が世界をリードできない現実が続いており、改めて国内各社の標準化を活用したグローバルビジネス戦略に役立つため、TTCの新たな役割について考えていきたいと思います。TTCの場を使っていただき、戦略的な新規テーマを抽出し、標準化の早期段階からユースケースや要求条件などについて意見交換や協調連携し、グローバル市場に発信していく環境の創造に貢献できればと思っています。
グローバルビジネスでは、新興国で採用される傾向が高いデジュール標準の価値は重要であり、ITU-Tと結びつきが強いTTCの標準化活動の意義がより理解されることを祈っています。新興国としては、今までの普及推進委員会やBSG専門委員会での東南アジア(フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナム等)諸国やCJK(中国、日本、韓国)間での標準化連携をベースに、アジア地域での普及活動に取組んでいきたいと思います。
ICTを取り巻く環境の変化やICTイノベーションへの期待が高まる中にあって、セキュリティ、環境、アクセシビリティ等では、国という枠組みとしての国内標準の意義があり、また環境が変化しても、情報通信の根っこにある相互接続性、ネットワークサービスの安定運用、品質や安全確保については、引き続きTTCが取り組むべき課題であると思います。
TTCは、平成23年4月に一般社団法人に移行し、運営体制に大きな変化がありました。移行と共に、標準化活動に関しては、業界横断的な新規ビジネスに関する課題発掘と戦略検討を行う『業際イノベーション本部(I3C:Inter-Industry Innovation Center)』を立ち上げ、ITU-Tへのアップストリーム活動の拡充・効率化を図るため、専門委員会とアドバイザリーグループの再編を行ってきました。 今後も、標準化動向にあわせたタイムリーな体制強化を実施し、これから標準化が本格化する、IoT(Internet of Things)/M2M(Machine to Machine)、スマートグリッド、ITS(Intelligent Transport Systems)、e ヘルス、ビックデータ/クラウドコンピューティング、SDN(Software Defined Networking)、災害に強い通信ネットワーク、将来モバイルネットワークを支える新世代ネットワーク等の課題に対して、迅速かつ柔軟に標準化検討を行なっていきます。
標準化の推進と普及活動を通じ、TTCが我が国の競争力の向上に少しでも貢献できればと考えております。これまでと同様に、ご指導とご支援を賜りますようお願いを申し上げます。