第24回ASTAP総会の結果報告:次期ASTAP議長に就任
暑さも峠を越え、夜風はずいぶん涼しくなってきました。皆様の夏休みは終わりましたでしょうか。私は8月中旬に富士山の周りの花景色を求めてドライブを楽しみました。夏休み後、8月21日から東南アジアに出張しましたが、インドネシアでの出張については前号ブログで報告をしました。その後、インドネシアからタイ王国に移動し、バンコクで開催されたAPTとITUとの合同フォーラムと、C&Iイベント、そして、第24回ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program)総会に参加しました。
今回のASTAP総会には、APT(Asia-Pacific Telecommunity:アジア・太平洋電気通信共同体)加盟国38ヶ国の内、24か国の主管庁代表を含め、約170名が参加しました(写真はASTAP総会の開会式。左からAPT山田事務局長、ITU-Tジョンソン局長、ASTAP Safavi議長、ASTAP田中副議長)。本ブログでは、8月27日~29日に開催されたASTAP総会における次期議長選挙と新体制に関する会合結果について報告します。
ASTAPは、アジア・太平洋地域における電気通信分野における標準化プログラムのことで、1998年に発足し、①アジア・太平洋地域内の標準化における協力・協調体制を構築し、国際標準化に貢献すること、②地域内の標準化活動者を育成するとともに、地域内メンバー、特に開発途上国メンバーの電気通信分野のスキル開発を支援すること、③ITU等の国際標準化機関へ地域標準化機関として共同提案を行う、などを目的としています。1998年発足時の初代ASTAP議長はBob Horton氏(オーストラリア)で、現在のSeyed Mostafa Safavi氏(イラン)が2010年に就任された2代目議長です。
1.次期ASTAP議長の選出
現ASTAP体制の議長はSafavi氏(イラン)で、副議長は田中謙治氏(日本)とHo-Kun Moon氏(韓国)が担当されてきました。2010年のASTAP作業方法規則の改訂により、その役職任期は1期2年間で最大2期4年間となり、今回の第24回ASTAP総会が任期満了となりました。前回の第23回ASTAP総会で議長選挙への立候補の案内が出され、私は、日本からの議長候補として立候補することになりました。今会合までに、ASTAP議長への立候補は日本以外はありませんでしたので、私は、第24回ASTAP総会の最終プレナリーでの承認を経てASTAP議長に選出されました。この議長選出結果については、総務省からは9月1日付けで報道発表をして頂きました。
Safavi議長は、4年前にASTAPがAPTのStudy Groups(SG)プログラムと統合した際の前SG議長で、SGを統合した新しいASTAPの円滑な運営を実現してくれました。また、日本提案が韓国など他国提案と対立する場合も日本提案に耳を傾けてくれ、公正な会議運営を推進してくれました。日本が現在取り組んでいるインダストリーフォーラムやC&Iイベントの活動が活発化したのは、途上国の立場でのSafavi議長の理解と支持による積極的な企画推進のお蔭と考えています。
この度一緒に退任される田中副議長は、ASTAP発足の1998年から参加され、総務省のASTAP活動を指導・助言されてきました。副議長としてSafavi議長の会議運営を支援するとともに、ASTAPの組織と作業方法規則の改訂を扱うOWM(Organization and Working Methods)-WG議長を務められ、今回の組織再編案の作成を完了し、ASTAP新体制を構築するという大きな貢献をされました。1998年から今まで、日本団参加者へのご指導に心から御礼を申し上げます。
2.ASTAPの今後の課題
ASTAPは標準化組織の分類では地域標準化機関として分類されますが、果たして地域標準として、何を議論し、何を決めるべきか?ASTAPの今後の在り方について考えていかなければいけません。
TTCは、2008年からAPT会員(Affiliate member)となり、アジアの開発途上国との連携強化と標準化格差解消の検討に貢献することを目的に、ASTAPでの標準化活動に取り組み、TTCのBSG専門委員会を中心にBSG-WGの活動を積極的に推進しています。特に、2007年よりアジア地域の5か国と連携してAPTプロジェクトに参画し、インドネシア、フィリピン、マレーシアの3カ国で、ルーラルエリア(過疎地域)における医療、教育、農水産業、環境などの社会的課題をICTにより解決するICTソリューションのパイロットプロジェクトを通して、ルーラルエリアでのソリューションへのニーズや有用性を把握し、その成果をASTAPの場に展開する活動を進めています。
193カ国が加盟するITUにおいて、標準化政策や標準化機関の役職人事など重要な事項で各国主官庁の投票により決定される場合、アジア・太平洋地域として38ヶ国の意見集約と連携ができれば、ITUでの決定に影響力を発揮することが可能となります。ITU等の国際標準化機関へ地域標準化機関として共同提案を実現するためには、常日頃からアジア・太平洋諸国との交流が図れるASTAPの場は貴重な機会と考えることができるでしょう。
また、アジア・太平洋地域は約40億人の人口を抱えており、開発途上国も多く、今後の発展が期待できる潜在的な市場であることから、アジア・太平洋地域の要望を考慮した標準化技術の展開と支援が重要となると考えます。ASTAPでは、技術的審議の運営に関しては日本と韓国と中国が主導していますが、その中で日本が、アジア地域での仲間作り戦略と途上国への貢献の場として、ASTAPをどのように活用していくか、日本としての戦略が重要であり、皆さんのASTAP活動への関心の一層の高まりを期待しています。
3. ASTAP組織構成の見直し
ASTAPの組織構成、役割、会合手順などは、ASTAP作業方法(Working Method)で規定されています。前会合でASTAPの組織構成を見直すことを合意し、今会合での合意に全力を挙げて審議しました。今までのASTAP組織体制は、全体会合に相当するプレナリーの下に、分野ごとに8つの作業部会(WG)、8つの専門家グループ(EG)を構成し、さらに、関連技術課題の連携強化と検討の効率化を図るための3つの調整委員会(JCG: Joint Coordination Group)で構成されていました。APT事務局が現状体制を検証した結果、WGとJCGの機能の見直しと、WGとEGの活動の効率化を図るための見直しを図ることとなりました。
新体制では、プレナリー、WG、EGの3階層構成としたハイアラーキを導入しました。標準化課題を12の専門家グループ(EG)に再編し、EGのグループを、ネットワークとシステム、サービスとアプリケーション、組織横断的に関連する政策と他組織との戦略的連携、の三つのWGに分類し、WGが配下のEGの成果の取りまとめとEG相互間の調整機能を持つこととしました。また、ASTAPの運営について助言をするアドバイザリーボードを有するとともに、ASTAP全体のプロモーションや作業方法などの運営管理はASTAP議長の判断でアドホック的に運営することとなりました。今回のASTAP作業方法の規定改訂は、11月開催のAPT管理委員会で最終承認を得て実効に移る予定です。
表1は、ASTAP組織の暫定新体制案を示します。ASTAP副議長と3つのWGの議長と副議長の指名は、APT管理委員会で新体制の承認が得られた後、個別調整をする予定です。標準化個別課題の検討作業が行われるEG(専門家グループ)の議長と副議長については、今会合と次会合の間でも継続作業があることから、現状の役職者をベースに暫定議長を指名させていただき、正式指名は次回の第25回ASTAP総会のプレナリーで承認することとなります。
組織・WGs/EGs
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議長(EG議長は暫定)
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ASTAP議長
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前田 洋一(日本)
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ASTAP副議長
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未定(中国)
未定(未定) |
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WG PSC(Policy and Strategic Co-ordination)
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未定(未定)
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EG BSG(Bridging the Standardization Gap)
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Mrs. Nguyen Thi Khanh Thuan(ベトナム)
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EG PRS(Policies, Regulatory and Strategies)
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Mr. Felix Rupokei(パプアニューギニア)
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EG GICT&EMF(Green ICT and EMF Exposure)
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Dr. Sam Young Chung(韓国)
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EG ITU-T(ITU-T Issues)
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釼吉 薫(日本・NEC)
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WG NS(Network and System)
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未定(未定)
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EG FN&NGN(Future Network and Next Generation Networks)
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Dr. Joon-Won Lee(韓国)
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EG SACS(Seamless Access Communication Systems)
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小川 博世(日本・ARIB)
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EG DRMRS(Disaster Risk Management and Relief Systems)
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田中 進(日本・NEC)
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WG SA(Service and Application)
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未定(未定)
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EG M2M(Machine-to-Machine Application/Services)
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今中 秀郎(日本・NTT)
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EG IS(Security)
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永沼 美保(日本・ラック)
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EG SNLP(Speech and Natural Language Processing)
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堀 智織(日本・NICT)
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EG MA (Multimedia Application)
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山本 秀樹(日本・沖電気)
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EG AU(Accessibility and Usability)
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Dr. Jee-In Kim(韓国)
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EGで扱う技術課題については、標準化格差解消、ICTと気候変動、M2M、将来網と次世代ネットワーク、セキュリティ、音声翻訳・自然言語処理、シームレスアクセス、防災災害復旧システム、次世代ウェブを含むマルチメディアサービス、アクセシビリティなどの議論を扱いますが、EG議長には、なるべく多くの日本の専門家を配し、日本が主導できる環境を維持したいと考えます。なお、個々の標準化技術課題の審議状況については、TTCや国内の関連委員会での報告を参考にしてください。
TTCは、今後ともITU-T、APTおよびその他の標準化機関・団体との連携を図りながら、グローバル標準の実現に向けた標準化活動の推進とアジア・太平洋地域への普及活動を推進していく予定です。私は今まで、ITU-T SG13副議長、SG15議長の役職を経て、現在、ITU-Tレビュー委員会議長を務めて参りましたが、今後はITU-Tと連携しながら、ASTAPの地位向上に貢献できるように関連課題に取り組んでいきたいと思います。