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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

LSP(線スペクトル対)の「IEEEマイルストーン」認定記念式典に参加して

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 皐月の時期となり、そろそろ鯉のぼりの役目も終わりに近づき、山々に咲く「サツキ」の花が美しい季節になりました。

 音声の線形予測係数を表現するパラメータで、高圧縮音声符号化のための要素技術である「LSP:Line Spectrum Pair(線スペクトル対)」が、栄誉あるIEEEマイルストーンに認定され、NTTが受賞されました。TTC会員であるNTTの受賞は、大変に喜ばしいことであり、受賞されたNTTをはじめ、関係された総務省、学会や企業の皆様に心よりお祝い申し上げます。

 「IEEEマイルストーン」とは、電気・通信・電子・情報工学関連の世界最大の学会であるIEEEにより、それ関連分野における画期的な技術革新の中で、開発から25年以上にわたり国際的に高い評価を受けてきた技術革新の歴史的業績を称える表彰制度で、1983年に設立されました。「IEEEマイルストーン」は今までに145件の受賞があり、過去の受賞例では、19世紀における電話やエジソン研究所、マルコーニの無線通信など、近代化の基盤となった歴史的施設・技術や、20世紀では、テレビ、コンピュータ、インターネットなど情報通信を支える技術が認定されています。このうち日本では、八木アンテナを初めに25件が含まれていますが、アジアでは日本が23件、インドが2件受賞しています。最近の「国際標準化」に関連する受賞では、2012年4月11日のマエダブログで紹介した「G3ファクシミリの国際標準化」に続く栄誉であり、今回の受賞は標準化関係者にとっても大変に意義深いものであると思います。

 5月22日午前、パレスホテル東京にて、IEEE東京支部主催による「IEEEマイルストーン贈呈式」が開催され、IEEE本部のRoberto de Marca会長からNTT鵜浦博夫社長に、IEEEマイルストーン銘板が贈呈されました。

IEEE Roberto de Marca会長とNTT 鵜浦博夫社長
IEEE Roberto de Marca会長とNTT 鵜浦博夫社長

 その後の祝賀会においては、国内の標準化組織を代表して、僭越ながら前田が祝辞を述べさせていただきました。午後からは、IEEE東京支部による記念講演会が開催され、以下の3講演が実施され、LSPの発案背景やビジネスでの技術の普及状況の解説が行われました。

表:IEEEマイルストーン記念講演会プログラム

 
タイトル
写真
「IEEEマイルストーン概要」
白川功 氏
Japan Council History Committee Chair、
兵庫県立大学
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「線スペクトル対LSPの普及状況」
守谷 健弘 氏
NTTコミュニケーション科学基礎研究所フェロー
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「線スペクトル対LSPの発案の経緯」
板倉 文忠 氏
元NTT電気通信研究所、名古屋大学名誉教授
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 今回受賞のLSP技術はNTTの電気通信研究所の大先輩である板倉文忠博士らにより1975年に発明された数理理論に基づいた要素技術で、音声合成や音声符号化のための重要な技術です。1980年にはLSPに基づく音声合成チップが作成され、1990年代に開発されたほとんどの国際音声符号化標準には必須の技術となりました。標準化に関わる者として、研究開発と標準化とビジネスが有機的に連携した成果であり、国際標準化の意義を若い方々に伝え、今後の標準化活動への元気を与えてくれるものとして大いに評価させていただきたいと思います。 

 国際標準化においては、ITU-T、MPEG、3GPP、IETF、GSMなどの多くの標準化機関において開発された音声符号化方式に採用されました。TTCの関連では、メディア符号化専門委員会が関連し、ITU-TのSG16で審議された高能率音声符号化方式の要素技術として、1996年3月に、ITU-T勧告のG.723.1およびG.729として国際標準に採用されました。

 国内のTTC標準では、JT-G723.1とJT-G729の低ビットレート音声符号化方式として、1996年11月に制定されました。いずれも、音声を直接デジタル化して伝送するPCM方式に比べ、1/10以下の情報量で良好な音声の再現を可能とするものです。さらに、LSP方式の応用標準としては、同年、テレビ電話端末などを対象とした標準JT-H324、2002年には、「AMR-WBと呼ばれる適応マルチレート広帯域方式を用いた音声符号化」の標準JT-G722.2として制定され、携帯電話でのGSMや第三世代携帯電話システムの標準音声符号化方式として、地球規模で幅広く利用されています。

 LSP関連の標準化が実現した1996年当時、私は、NTTの伝送関連の研究開発に従事しており、SDHやATMなど高速広帯域システムや光ファイバーアクセスの研究開発が盛んであり、伝送帯域はメガビットオーダーと豊富になる中で、キロビット単位の高能率音声符号化の研究はどこで陽の目を見るのだろうと感じていたのが正直なところです。当時から今まで、音声符号化方式の国際標準化を推進してこられたNTTコミュニケーション科学基礎研究所フェローの守谷健弘さんとは同期入社で、独身寮が同じだったころ、低ビットレート符号化技術の研究の位置づけについて悩みを含め議論したことが思い出されます。ところがその技術が、今や通信ビジネスの核となる携帯電話やIP電話ビジネスを支える主要な技術となり、相互接続を可能とするための国際標準化としての大きな意義を示してくれた成功例であると再認識したいと思います。

 現在、TTCでは、従来のネットワークインフラに関する標準化課題に加え、「スマートグリッド」、「ITS」、「M2M」など、「エネルギー」、「交通」、「健康・医療」といった業界の垣根を越えた分野での標準化に取り組んでいます。これらの分野でも日本が国際標準化活動をリードし、四半世紀後のIEEEマイルストーン賞の候補が生まれるよう、精力的に取り組んでいければと思います。