マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

第23回ASTAP(アジア・太平洋電気通信標準化機関)総会に参加して

パタヤ北部のホテル・コンドミニアム群
パタヤ北部のホテル・コンドミニアム群

 ASTAP総会に参加するために3月3 日(月)から7 日 (金)までタイのパタヤに出張しました。パタヤを訪れたのは数年ぶりでしたが、まず今回驚いたのが、パタヤにロシア人観光客が多く、レストランやお店にはロシア語の看板がメインに掲げられていました。海岸沿いにはホテルだけでなく高層のコンドミニアムが立ち並び、そのオーナーはロシア人ということでした。今回の会場がパタヤの繁華街から離れた北部のナクルア地区特有の特徴かとも思いましたが、現地の情報を集めると、南部のジョムテイン地区も同様のようで、この変化の原因は2005年に合意されたタイとロシアとの間のビザ廃止がきっかけであり、さらに近年の原油などの資源価格の上昇によるロシア経済の急成長が背景にあると思われます。

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会場Pullmanホテル

 タイのバンコク市内の一部では、昨年12月9日の大規模な反政府デモの後、いまだに政府側と反政府デモ側との対立した状態で政情不安があることから、通常、ASTAP総会の会場となるバンコク市内のホテルを離れ、バンコク市内から車で二時間くらいのパタヤ北部にあるPullmanホテルが会場としてAPT事務局によりアレンジされました。会場のホテルはプライベートビーチを有するリゾートホテルで、海水浴と日光浴を楽しむロシア人観光客が多い中で、我々だけスーツを着ての会議には不似合いな場所でしたが、喧騒とは隔離され、バンコク市内の政情不安の影響もなく安全な場所という印象でした。

 ASTAP総会参加者は、APT(Asia-Pacific Telecommunity:アジア・太平洋電気通信共同体)加盟国38ヶ国の内、16か国の主管庁代表を含め、参加は99名で、政情不安の影響はあまり受けた様子はなく、会議は無事に開催されました。本ブログでは、私が関係しているASTAPの運営企画関連課題とTTCに関係が深い課題を中心に、ASTAP総会の主要動向について報告します。

ASTAP総会プレナリー会場全景
ASTAP総会プレナリー会場全景

1.ASTAPアドバイザリーボード委員会(ASTAP諮問委員会)

 ASTAP運営方針についてASTAPの職権役員であるASTAP議長と副議長及びAPT事務局長に対して助言するグループとしてASTAPアドバイザリーボードがあります。この委員会規定が改訂され、ボードメンバーには、ASTAP職権役員であるASTAP議長と副議長及びAPT事務局長を含み、WTSA準備会合の議長と副議長、APT無線グループ議長、ITU-T事務局長、APT地域から選出されたITU-TとITU-RのStudy Group及びReview Committeeの役職者が対象となります。私は、Review Committee議長として参加が要請されています。

ASTAP総会会場
ASTAP総会会場

 今回のアドバイザリーボード委員会の主な諮問内容としては、1)ASTAP組織を構成する作業部会(WG:Working Group)と専門家グループ(EG:Expert Group)の数が多くなり、参加者の分散化とグループ議長などのリソース不足などの問題がみられる傾向があることから、作業の効率化を図るためにグループの統合化を含めた再編が必要であり、次回総会までに検討すること、2)毎年開催するインダストリ・ワークショップの企画について、ワークショップ開催は有益であるが、開発途上国からの会員のより多くの参加を得られるように各WGとEGの議長間の意見交換を強化して魅力あるテーマを選定すること、3)2016年のWTSA-16会合に向けたAPT準備会議の体制は構築されたが、ITU-T再編などの重要課題は取り組みに時間を要することから、早めにAPT地域の意見を反映できるよう準備検討を早めに着手することが望ましく、次回のASTAP総会から議論することが提案されました。アドバイザリーボードの提案はプレナリーとしての承認を経て有効となります。

2. ASTAPの作業方法改訂

 ASTAPの組織構成、役割、会合手順などは、ASTAP作業方法(Working Method)で規定されています。上記のアドバイザリーボードの役割やメンバー構成の規定についても作業規則で規定されています。今会合でその改訂内容について合意されましたが、ASTAP組織構成の再編は次回総会までの検討課題となったことから、その組織変更を実施した場合はASTAP作業方法の規定に影響があります。現状のASTAP組織は、全体会合に相当するプレナリーの下に、分野ごとに作業部会(WG)、専門家グループ(EG)を構成し、それぞれグループ議長と副議長で運営されます。関連技術課題の連携強化と検討の効率化を図るために、それぞれのグループ議長と副議長で構成する調整委員会(JCG: Joint Coordination Group)を組織することができます。現在、8作業部会、3調整委員会、8専門家グループがありますが、これらの組織構成はASTAP作業方法の規定であり、作業方法の最終承認は本年11月開催のAPT管理委員会で行われることから、その前の8月の次回ASTAP総会まで作業方法の改訂作業は継続することとしました。

3.インダストリ・ワークショップ

 ASTAP総会初日の3月3日は「インダストリ・ワークショップ」が開催された。テーマとしては、午前のセッションは韓国が企画提案した「レアメタルとE-waste」、午後は日本が企画提案した「スマート社会インフラ:M2MとIOT」を課題として、専門家による講演により以下のプログラムで構成されました。講演資料は第23回ASTAP総会の公式サイトから入手できます。

「レアメタルとE-waste」 に関するワークショップ プログラム

講演タイトル
講演者
Malaysian Industry Experience for e-Waste Recycling Project
Mr. Alex Kuik Teck Seng, MTSFB、マレーシア
Strategy and R&D Trend on Rare Metals
Dr. Bum Sung Kim
KITECH、韓国
The Recycling of Rare Earth Resources from the Downstream Applications
Dr. Hyun Seon Hong
IAE、韓国
e-Waste Activities in Thailand
Dr. Kanokwan Komonweeraket
タイ
Sustainable Development in Mining of Energy Resources
Prof. Sun-Myung Kim
Shinhan University、韓国

 

「スマート社会インフラ:M2MとIOT」 に関するワークショップ プログラム

講演タイトル
講演者
e-Health: ICT for Medical and Healthcare Services- NICT, NTT and NEC in Japan
NICT
日本
The New Ecosystem of Healthcare and Application of m-Health
Continua Health Alliance
ITU-T Focus Group on M2M Service Layer
NEC Corporation
日本
M2M Related Activities in Japan – Smart Grid and HEMS
Mitsubishi Electric
日本
Report of ITS World Congress Tokyo 2013
NTT Corporation
日本
Internet of Things in China
CATR
中国
OneM2M: Delivering Global Standard for M2M Service Layer Platform
Fujitsu Lab.
日本

 「レアメタルとE-waste」の課題は、今後ASTAPではICTと気候変動(“Green ICT and EMF exposure”に改名)WGで扱う課題であり、ITU-TのSG5においても勧告化が始まっている課題ではありますが、APT地域として今後何を議論するのか、この課題を積極的に提案する韓国の狙いは何なのか、今後注目していく必要があります。

 また、「スマート社会インフラ」の課題は、ASTAPではM2M WGで扱う課題であり、M2MとIoTの標準化動向と具体的なサービス事例としてのE-Health、ITS、Smart-Gridについて、それぞれの講演情報はWGが作成中のWhite Paperに反映される予定です。本テーマは今後のワークショップでも継続していきたい課題であり、White Paperへの反映を想定した技術課題の選定が必要です。

4.ITU-T課題WG

 このWGはITU-Tの戦略的課題をAPTとして検討するとともに、ITU-Tの主要技術動向についてのAPT地域の開発途上国メンバーの教育目的でもある情報共有を推進するグループです。定期的にITU-Tの役職者でアジアから選出された議長または副議長により、ITU-Tの各SGの最新動向の報告を行い、今回はSG11,SG12、SG13の動向が紹介されました。加えて、私はReview Committee議長として、1月に開催された第二回レビュー委員会の主要結果について進捗報告を行い、特に、TSBサーキュラーで公開されたITU-T再編に関するオンライン質問集への回答参加を推奨しました。

 また、C&I(Conformance & Interoperability)イベントについては、次回第24回ASTAP総会でも実施することがAPT管理委員会において決定され、その準備調整委員会の議長に釼吉薫氏(NEC)が指名されました。次回C&Iイベントでは、APTにおけるより多くの開発途上国の主管庁とネットワーク事業者の参加が得られるプログラム構成を目指し、対象技術としては、M2M/IoT/e-Health、NGN (IMS) NNI interoperability、Language translationが候補として考えられており、引き続き日本が強力に主導していくことが期待されています。C&Iイベントは相互運用試験の他、ショーケースとワークショップで構成する予定です。

5.標準化格差解消WG (BSG:Bridging the Standardization Gap)

 TTCは、2008年からAPT会員(Affiliate member)となり、アジアの開発途上国との連携強化と標準化格差解消の検討に貢献することを目的に、ASTAPでの標準化活動に取り組み、TTCのBSG専門委員会を中心にBSG WGの活動を積極的に推進しています。このWGでは、過疎地域社会に教育、医療、農水産業、環境などへのICTソリューションを導入するためのガイドラインとなるハンドブックを作成中であり、次回会合での完成を目指す予定です。また、次回のASTAP総会では、ITUとAPTとのBSGに関するフォーラムを開催する計画であり、日本としてのリーダーシップを示していきたいと思います。

6.今後のASTAP総会の予定

 この他の技術課題については、ICTと気候変動、M2M、将来網と次世代ネットワーク、セキュリティ、音声翻訳・自然言語処理、シームレスアクセス、インターネット、防災災害復旧システム、次世代ウェブ、アクセシビリティなど順調な議論の進展が図られましたが、個々の標準化技術課題の審議状況については、TTCや国内の関連委員会での報告を参考にしてください。

 次回のASTAP-24総会は2014年8月25日から29日までバンコクでの開催が予定されています。この開催初日には、C&Iの相互運用試験関連の作業に並行して、ITUと合同のBSGに関するフォーラムを行い、二日目はC&Iイベント(ショーケースとワークショップ)、最後の三日間がASTAP総会の予定です。

 最後に、現在、ASTAP議長はSeyed Mostafa Safavi氏(イラン)、副議長は田中謙治氏(日本)とHo-Kun Moon氏(韓国)が担当されていますが、その役職任期は一期二年間で最大二期までを担当できますが、次回8月開催の第24回ASTAP総会が任期満了となります。そこで次回会合の最終プレナリーで、新規のASTAP議長と副議長の選出が行われる予定です。現状ではまだ候補者は明確になっておらず、選挙結果が注目されます。

【参考:ASTAPとは】

 ASTAPとは、既に過去のブログ(例えば2013年9月18日号)でも解説しましたが、APT Standardization Programで、アジア・太平洋地域における電気通信分野における標準化プログラムのことで、1998年に発足しました。その主な目的は、アジア・太平洋地域内の標準化おける協力・協調体制を構築し国際標準化に貢献すること、地域内の標準化活動者を育成するとともに、地域内メンバー、特に開発途上国メンバーの電気通信分野のスキル開発を支援すること、ITU等の国際標準化機関へ地域として共同提案を行うなどを目的としています。

 193カ国が加盟するITUにおいて、標準化政策や標準化機関の役職人事など重要な事項で各国主官庁の投票により決定される場合、アジア・太平洋地域として38ヶ国の意見集約と連携ができればITUでの決定に影響力を発揮することが可能となります。また、アジア・太平洋地域は36億人という人口を抱えており、開発途上国も多く、今後の発展が期待できる潜在的な市場であることから、アジア・太平洋地域の要望を考慮した標準化技術の展開と支援が重要となると考えます。ASTAPでは技術的審議の運営に関しては日本と韓国と中国が主導していますが、その中で日本が、アジア地域での仲間作り戦略と途上国への貢献の場として、ASTAPをどのように活用していくか、日本としての戦略が重要であり、皆さんのASTAP活動への関心の一層の高まりを期待しています。

パタヤの夕日
パタヤの夕日
パタヤの夕日2(加工画像にあらず)
パタヤの夕日2(加工画像にあらず)

【参考:ASTAPのExpert GroupsとWorking Parties構成(2014年3月3日時点)】

 8 Working Groups、3 Joint Coordination Groups、8 Expert Groupsの名称を以下に示す。

Expert Group on  Future Network and Next Generation Networks (FN&NGN)

Expert Group on Internet Related Topics (IRT)

Expert Group on Disaster Risk Management and Relief System (DRMRS)

Expert Group on Seamless Access Communication Systems (SACS)

Expert Group on Security (IS)

Expert Group on Next Generation Web (NGW)

Expert Group on Speech and Natural Language Processing (SNLP)

Expert Group on Accessibility and Usability (AU)