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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

ITU-TのCTO会合に参加して

写真1 CTO会合模様
写真1 CTO会合模様
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写真2 CTO集合写真

 ITU-T局長が主催し、ICT産業界の民間企業の代表者の集まりであるCTOグループ(Chief Technology Officers’Group)会合(以下、CTO会合)が、11月18日の午後、タイ・バンコクで開催されました。私はITU-T局長より招待され、レビュー委員会の議長としてCTO会合に初めて参加しました。今回は、CTO会合としては第5回の会合でした。開催場所がバンコクということもあり、欧米のCTOで都合のつかないメンバもいましたが、今回のCTO会合には12社(Fujitsu、Huawei、KDDI、KT、Microsoft、Mitsubishi、NEC、NSN、NTT、Orange、Telecom Italia、Verizon:アルファベット順)とITU-T事務局から、幹部とその顧問を含め23名が参加しました。写真1はCTO会合の会合模様、写真2は参加者集合写真です。本ブログではCTO会合で話題となった、いわばICT産業界が高い関心を寄せる今後の標準化トピックについての概要を紹介します。

 CTO会合は、2008年のWTSA-08(ヨハネスブルク)総会での決議68に基づき実施されるITU-T局長に課せられたアクションの一つで、ICT産業界の民間企業を代表するCTOが集まり、標準化の重要優先課題を議論し、今後の国際標準化活動の効率化を図るための意見交換を図るものです。年一回の開催で、それぞれのCTO会合の結果はCommuniqué(コミュニケ)としてまとめられ、今回の会合結果はCOMMUNIQUÉとして公開されています。

 私が議長を務めるレビュー委員会は、CTO会合の結果を産業界の意見としてレビューし、今後のITU-Tの標準化戦略と組織再編に活かす提案をすることが委託されています。今回のCTO会合では、レビュー委員会の活動状況を紹介する機会を得るとともに、CTOの方々に、E-Health、ITS、Smart Gridなど”Verticals”を含めた新たなICTの標準化において、ITU-Tの現状体制の見直しが必要であり、ITU-Tの新体制を確立するうえで、レビュー委員会の場を活用することが合意された点が、レビュー委員会議長としてCTO会合に参加した意義が有りました。今回のCTO会合で、特に特筆すべき今後の標準化課題としては、以下の5項目にまとめ、解説をします。

1)ITU-Tの役割

 ITU-Tは今後のICTの標準化展開の中で、政府間(intergovernmental)機関としての重要でユニークな役割を有しており、新たな標準化課題の検討において他の標準化機関との相互連携を推進する役割を継続すべきである、という認識をCTO会合として再確認しました。また、現在ある地域・国家標準化機関との連携の枠組みであるGSC(Global Standardization Collaborationの役割とその体制の見直しの必要性が議論されました。GSCは国際標準策定に貢献するものの、今後はより標準化連携における運用管理の役割を強化することが重要であり、そのために、既存メンバであるSDOの範囲を見直し、特にIEEE、IETF、ISO、IEC等を含めた体制拡大を検討していく方向性を合意しました。TTCはGSCのメンバであり、CTO会合の意向も踏まえたGSCの組織改革に貢献していくつもりです。

2)5G次世代モバイルに向けたネットワーク課題

 モバイルブロードバンドネットワークに対して、2020年までに、各個人が一日に1ギガバイトのデータを扱う目標を実現できるネットワークを確実に展開するためには標準が必要です。そのネットワークへの要求条件としては、容量で1000倍、数ミリ秒オーダーの低遅延性能、消費電力の省エネ化などの幅広い検討が必要となります。また、モバイルデータトラヒックの急増に伴うエンド-エンドQoS/QoEの品質確保のための移動網と固定網との連携の仕組みと標準が必要となります。CTO会合では、世界的に需要が高まるモバイルアクセスに関する要求条件の把握と課題を明確化するために、2014年に「高速ブロードバンドモビリティ」に関するワークショップをITUが企画することが有益であると提案することになりました。5Gと呼ばれる次世代移動網の実現に向けては、TTCに関連のあるモバイルバックホール・フロントホールなどのアクセス網構成やQoS/QoEの品質管理制御などのいくつかの技術的課題に取り組んで行く必要があります。

3)ビッグデータ(Big Data)

 近年話題となっているビッグデータについて、CTO会合の主な関心は、ビッグデータを活用したネットワーク設計と最適化、障害診断と予防、リアルタイム輻輳管理、容量管理など網運用管理であり、ビッグデータにより、網品質の向上と網運用経費や網構築投資の経済化を実現することを期待していることが明らかになりました。その実現のためにはビッグデータの標準化戦略の明確化が必要であり、まず、ビッグデータがITU-Tの各SGの検討にどのような影響があり、他の標準化機関とどのような連携が必要であるかを分析することが提案されました。TTCではNGN&FN専門委員会を中心にビッグデータの検討が加速されることを期待しています。今後の検討にあたっては、ITU-Tが最近発行したTechnology Watchレポート”Big Data – big today, normal tomorrow”を参考とすることが推奨されました。みなさんも一読いただけたらと思います。

4)光アクセス統合PON(Passive Optical Networks)システム

 現在、ITU-T、IEEE、BBFで積極的に検討されているPONシステムの標準化について、現状の市場ではITU-TのG-PONとIEEEのGE-PONが競合しており、今後は、統合PONシステムの実現に向けた連携を図るべきであるという提案がされました。特に、市場の分離を収束し、量産効果による更なる経済化を目指ざすためにも、将来システムの開発では、ITU-TとIEEEの連携の要望が示されました。私見ではありますが、次世代PONシステムとして検討が始まっているNG-PON2が、波長多重技術の活用により、異なるシステムの混在を可能とする統合型PONシステムとして有望ではないかと考えており、TTCの情報転送専門委員会での検討に期待しています。

5)IPR(Intellectual Property Right)ポリシーの改訂

 ITU-TではIPRに関する局長アドホックで、ISO/IEC/ITU共通パテントポリシーとガイドラインの改訂を検討していますが、CTO会合としては、この検討を評価するとともに、標準における必須特許について、IPRの実装における使用権と特許保有者の利益確保との間の適切なバランスを考慮したパテントポリシーの改訂を望んでいることが確認されました。TTCのIPR委員会では、IPR局長アドホックでの議論をフォローしていく予定です。

 以上、今回のCTO会合でのトピックを解説しましたが、今回会合では、前回CTO会合の結果についてもレビューを行いましたので補足します。前回会合は、2012年11月にドバイで第4回CTO会合として開催されました。会合では、Standardization landscape(標準化展望)、ITS (Intelligent Transport System)、M2M(Machine to Machine)、Cloud Computing、SDN、Broadband backhaul for beyond 4G、Smartphone securityなどの重要課題が取り上げられ、他の標準化機関との連携協調のあり方の検討を含めて標準化の推進を図ることが提案されました。その後、WTSA-12総会があり、いずれの課題も新会期のITU-Tの標準化新体制に反映され、その後の関連SG会合において検討は進展していることを確認しました。より詳細な内容に関心のある方は、今回の会合結果であるCOMMUNIQUÉをご覧下さい。

 最後に、今回のCTO会合の開催に当たりバンコクが選ばれた理由を補足します。わずか一日のCTO会合に、非常に多忙なCTOの方々に参加いただくには多くの制約があります。そこで、CTOのみなさんの参加を容易にするために、主要なITU関連イベントとの併催が考慮されました。今年、タイのバンコクでは、11月18日にThe Connect Asia-Pacific Summitが、11月19日から22日まではITU Telecom World 2013のイベントが開催されることから、その谷間の18日午後にCTO会合を開催することになりました。The Connect Asia-Pacific Summitには、ITUのハマドゥーン・トゥーレ事務総局長、タイのインラック・シナワトラ首相をはじめ、アジア・太平洋地域の大統領、首相や大臣、各企業の幹部も出席され、ハイレベルなイベントが開催されました。また、ITU Telecom World 2013は、展示会とフォーラム(各種パネルセッションやワークショップなど)による四日間で構成されます。私はCTO会合参加者に与えられた一日参加券を利用し、その初日だけ見学する機会を得ました。TelecomにはJapanパビリオンが構成され、日本から多くの参加がありましたので、私からの報告は省略します。次回のCTO会合は、韓国の釜山で、Korea Telecomのホストで、ITU全権会議(Plenipotentiary Conference 2014:10月20日~11月7日開催)の直前に開催される予定です。