アジア太平洋地域標準化活動:第22回ASTAP会合に参加して
台風18号の影響で日本に近づくにつれて飛行機内での大きな揺れを体験しましたが、タイのバンコクから9月15日に帰国しました。その台風は、敬老の日の16日に東海地方に上陸し、大雨の影響で京都の桂川の一部が氾濫するなど、各地で数十年に一度、想定外と言われる被害をもたらしました。およそ2年前、タイのチャオプラヤー川流域で洪水が発生し、バンコク市内が水に浸かった景色を思い出してしまいました。被害に遭われた皆様方には心からお見舞申し上げます。
さて、タイのバンコクのCentral WorldにあるCentara Grandホテルにて、9月9日 から14日の期間に、ConformanceとInteroperabilityに関するAPTとITUの合同イベントと第22回ASTAP会合が開催されました。また、この会合に合わせて、TTCのBSG(Bridging Standardization Gaps:標準化格差是正)専門委員会がホストするSHARE会合を開催しました。
APT(Asia-Pacific Telecommunity)とは、アジア太平洋地域の電気通信に関する協調連携を図る組織で、現在、38ヶ国が加盟しています。その中で電気通信に関わる標準化を扱う組織としてASTAP(APT Standardization Program Forum)があります。TTCは2008年よりASTAP会合のAffiliateメンバーとして加盟登録し、アジア太平洋地域での標準化の普及推進活動に取り組んでいます。
ASTAPは16の作業グループ(WG: Working Group)と専門家グループ(EG: Experts Group)で構成され、課題は多岐に分かれます。会合は最大4グループが並行して進行しますので、一人で全ての項目をカバーすることはできませんので、日本団としての連携した情報収集が必要です。本ブログでは、TTCとの関係課題を中心にASTAP会合の主要動向について概説します。本ブログでは、全ての課題はカバーできていませんので、それぞれの技術課題の審議状況については、TTCや国内の関連委員会での報告を参考にしてください。
1.適合性と相互接続性(C&I: Conformance& Interoperability)イベント
今回のASTAP会合の最大の特徴は、APTでの標準化検討の活性化と産業界の関心を高めるために日本が提案したC&Iイベントの開催です。9月9日と10日に「適合性と相互接続の試験」と「C&Iワークショップ」を、さらにASTAP会合に並行して12日まで「C&I展示会(ショーケース)」を実施しました。今回のテーマは、NGN、IPTV、光アクセスで、試験・展示には英国からの1社を含む日本企業6社が参加しました。C&I試験実施においては、日本のHATS推進会議の関係者が大きく貢献しました。イベントには19カ国から120名を超える参加者があり、参加者にアンケートを実施しましたが、C&Iイベントへの評価は高く、ASTAPとして継続実施を検討することになりました。
TTCでは、C&I技術は、NGN&FN専門委員会、IPTV専門委員会、情報転送専門委員会が関連するとともに、インターオペラビリティアドバイザリーグループが関連します。途上国にとって、ネットワークインフラをC&Iによりマルチベンダ・マルチキャリア環境で構築できることは大きな魅力であり、C&Iに熱心な企業がグローバルビジネスでのチャンスをより広げられることが期待されます。
C&I展示会(ショーケース)
2.将来網(EG on Next Generation Networks)
EGのグループタイトルを“NGN”から“FN&NGN (Futures Network and Next Generation Networks)”に変更し将来網の検討を強化することを合意しました。また、この課題検討の中で、SDN(Software Defined Networking)を扱っていくことを確認しました。中国からは、前回ブログで触れたCJKのSDNワークショップで紹介された中国国内でのSDNに関する検討状況の情報提供があり、SDNへの関心は高まっています。TTCではNGN&FN専門委員会に関連した課題です。
また、ITU-T SG15でのホットトピックの一つである「MPLS-TPのパケット転送ネットワークにおけるリニアプロテクションの標準化提案」については、日本と中国が、ITU-Tでの検討加速を図るためにアジア連携の力を活用しようとした提案でしたが、韓国はIETFでの検討との整合性を図ることを理由に反対しました。結論は次会合まで継続課題とすることにしました。この提案はTTCの情報転送専門委員会のSWG1301が扱う重要課題の一つです。MPLS-TPの標準化背景については、ITU-T総会WTSA-12に関するブログをご覧ください。
3.音声自動翻訳(EG on Speech and Natural Language Processing)
音声翻訳の対象言語として、アジア太平洋地域言語をさらに拡張するため、新規言語を対象に、①音声言語データの収集、②他言語の既存モデルの適応、③ネットワーク型音声翻訳通信プロトコルの公開、を行うことを合意し、APT各国政府による継続的かつ安定した研究開発支援を求めて行くことを合意しました。本課題は日本のNICTが推進する研究課題であり、ITU-T標準では勧告F.745と勧告H.625が関連します。TTCではマルチメディアアドバイザリーグループが関連します。今後、音声翻訳の対象言語をAPT地域を中心に発展させ、7年後の東京オリンピックにおけるグローバルな音声翻訳システムの実現を目指す活用としても期待されます。
4.セキュリティ(EG on Security)
ITU-T SG17でのセキュリティ関連の課題を扱うEGで、TTCではセキュリティ専門委員会が関連します。EGでは、今までの提案寄書の情報を元に、「エンドユーザ向けセキュリティハンドブック」を作成することを合意しました。ハンドブックでは、スマートフォンの安全な利用、インターネットバンキングサービスの安全な利用などセキュリティ課題について扱う予定です。
5.光アクセス(EG on Seamless Access Communication Systems)
今までミリ波システムを扱っていた”EG on Millimeter-Wave Communication Systems”が、無線周波を光ファイバ上で伝送させるRadio over Fiberの技術を用いた地上用シームレスアクセスシステムの研究を目指すことからグループ名と役割を見直し、”Seamless Access Communication Systems”に変更することを合意しました。Radio over Fiber技術のアクセス網への適用についてはITU-T SG15で扱い、TTCでは情報転送専門委員会のSWG1304に関連する課題です。
6.M2M(WG on Machine-to-Machine Application/Services)
ASTAPにおいて新設されたM2M WGの第一回会合が開催されました。ITU-TでのFG-M2Mの活動の他、アジア諸国におけるM2M関連の標準化動向を把握することを狙いとしています。TTCではスマートコミュニケーションアドバイザリーグループが関連します。WGでは、M2Mにおける様々なユースケースをまとめる予定であり、当面、e-Health白書とスマートグリッド白書を作成することを合意し、初期ドラフトの作成に着手しました。
7.ITU-T課題(WG on ITU-T Issues)
このWGはITU-Tのハイレベルな戦略的課題をAPTとして検討するグループであり、TSAGやWTSAなどのAPTとしての対処方針について検討する役割を持ちます。ITU-Tでの主要課題の動向を把握するために、定期的にITU-Tの役職者でアジアから選出された議長または副議長により、ITU-Tの各SGの最新動向の報告が行われました。私はReview委員会の議長としての進捗報告を行いました。ITU-Tの戦略関連課題の検討は、TTCでは国際連携アドバイザリーグループが関連します。
また、C&IについてはITUとの連携課題であり、このWGが関連するWGやEGと連携して議論をリードすることとなります。今回のC&Iイベントの開催準備に加え、今後の方針を判断するため、C&Iイベント実施評価のために、参加者質問アンケートを作成、集計し、ASTAPプレナリーに一次評価報告を行いました。詳細報告は作成中ですが、参加者の評価は高く、C&Iイベントの来年の開催を前提に今後の計画を検討することになっています。
8.ASTAPアドバイザリーボード
ASTAP議長と副議長及びAPT事務局長に対して、ASTAPの検討方針などを助言するグループとしてASTAPアドバイザリーボードが規定されています。このボードメンバーには、APT地域から選出されたITU-Tの役職者が含まれますが、昨年のWTSA-12におけるITU-T組織再編に伴い、メンバー条件の改定が行われました。新規定のボードメンバーには、ITU-TのTSB局長、APT地域選出のSG議長およびTSAGとReview Committeeの議長・副議長を対象とすることが合意されました。私はReview Committee議長として参加することとなります。
9.標準化格差是正課題:BSG(WG on Bridging the Standardization Gap)
TTCは、2008年5月からAPT会員(Affiliate member)となり、特に、東南アジアの開発途上国との連携強化とBSGと呼ばれる標準化格差是正の検討に貢献することを目的に、ASTAPでの標準化活動に取り組み、BSG WG会合に参加しています。TTCでは、今年度から普及推進委員会はBSG専門委員会として新体制を立ち上げ、引き続き、アジア地域における標準化格差是正に向けた検討を継続します。
このWGでは、今までに実施してきたAPTプロジェクトでの経験を基に地域への展開に役立つ情報を集め、過疎地域社会に教育、医療、農水産業、環境などへのICTソリューションを導入するためのガイドラインとなるハンドブックを作成することを合意しています。今回TTCからハンドブックのドラフトを提案し、CASE STUDY TEAMメンバー(インドネア、マレーシア、フィリピン、ベトナム、タイ)との意見を図り、今後さらにハンドブックのアップデートしていくことを合意しました。
10.ASTAP会合の今後の予定
次回のASTAP-23会合は2014年3月3日から7日でバンコクでの開催が計画されました。この会期中の3日には、韓国が企画提案する”e-waste”と日本が企画提案する”smart social infrastructure”をテーマに午前と午後で構成するIndustry Workshopを開催する予定です。また、次次回のASTAP-24会合の開催日程として8月25日-29日を暫定的に決め、この機会にはITU-TとAPTとの合同企画によるBSG Forumを開催する予定です。
最後に、冒頭で触れましたSHARE会合について補足します。
TTCではBSG専門委員会を中心に、”SHARE” (Success & Happiness by Activating Regional Economy) をスローガンとしたアジア各国との連携を推進しており、アジア各国の過疎地域での情報格差の解消に向けたICTを活用したソリューションの普及と、共生・互恵社会の実現を目指した標準化活動を推進しています。このスローガンを冠し活動の中核となるアジア各国のキーパーソンが一堂に会する会議を“SHARE会合”と呼び、その第9回会合をTTCがホストして9月10日(火)にバンコクで開催しました。
SHARE会合の参加国は、日本の他、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムですが、ASTAPでのBSG WG会合とC&Iイベントに参加する機会が得られるように、タイのメンバーとAPT事務局の協力を得て、ASTAPと同じ会場で開催しました。SHARE会合の詳細については、今後のTTCレポートで報告する予定です。