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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

ITU-T SG15での光アクセス新勧告草案G.eponの合意について

 前回ブログでも触れた時候の挨拶と二十四節気について言えば、7月23日は「大暑」で、この厳しい暑さは8月7日の「立秋」まで続きそうです。暑中見舞いとして、海上花火の夏模様をお届けし、「暑中お見舞い申し上げます。」

  さて、ITU-TのSG15Study Group 15会合の新研究会期(2013年から2016年)の第一回会合が7月1日から12日までジュネーブで開催されましたので、今回のブログでは、このSG15会合の中から日本提案で、合意の進展があった光アクセスシステムの新勧告草案G.epon(G.9801:Ethernet passive optical networks using OMCI)について解説をさせていただきます。

 光アクセスの標準化課題はTTCの「情報転送専門委員会」が扱う重要課題の一つであること、昨年まで私はこのSG15の議長を担当してきたことから、新研究会期の第一回会合の進捗に関心がありました。そこで私は日本において、インターネットからアクセスできる各国の寄書を分析するとともに、Webcastでインターネット生中継されましたSG15全体会合の模様を遠隔でモニタしながら会合結果をフォローしてみました。

 今回のSG15会合の参加者数は343名(33ヶ国)、寄書数は437、会合中に作成された文書(Temporary Document)数は463と、前会期に引き続き大変に活発な会合でした。参加国数が33国と倍近い数になっている点は、ITU-Tへの途上国の関心が高まってきている現象と考えられます。また、主要な参加国の上位は、中国、米国、日本の順位は変わっていませんが、中国80名、米国72名、日本38名で、日本は健闘していますが、中国と米国でほぼ半数を占める参加者の多さは際立っており、中国と米国の両国のSG15への関心の高さを示していると思われます。

 SG15は、3つのWP(作業部会)(WP1:アクセスとホームネットワーク伝送、WP2:光伝送網技術と物理インフラ基盤、WP3:伝送網構成技術)の下に18の研究課題を有しています。第一回会合では新研究会期のSG15のWPレベルの議長、副議長と各研究課題をリードするラポータ(Rapporteur)と呼ばれる役職者が任命されました。その中で役職者のリストを見ると、前会期までは欧米の所属であった何人かのベテランのラポータが、Huaweiなど中国企業所属の役職者として登録されているのを見て驚きました。

 さて、光アクセスシステムは、日本が世界に先駆けて研究開発や導入を行なってきており、ITU-TやIEEEなどの国際標準化活動の場においても、比較的高いプレゼンスを発揮してきた分野です。ブロードバンドの進展に伴いPON (Passive Optical Network) を用いた光アクセスシステムの利用が拡大しており、日本では、特にEthernetベースのPON(EPON)の普及が進み、2013年3月末において、光回線の加入者数は2385万加入を超えています。

 光アクセスシステムの標準仕様にはITU-TとIEEEの2系統が存在しますが、グローバルな市場に進出するためには、WTOのTBT協定 (Agreement on Technical Barriers to Trade、通称TBT協定と呼ばれる貿易の技術的障害に関する協定のこと。各国の規格や適合性評価手続きが不必要な貿易障害とならないよう、国際規格を基礎とした国内規格策定の原則、規格作成の透明性の確保を規定) などの影響もあり、国際的なデジュール標準であるITU-T標準としての位置づけを得ることが重要となります。日本で広く商用展開されているギガビットクラスのPONはIEEE仕様(1G-EPON:IEEE 802.3ah)ですが、これらのシステムを海外に展開する場合、ITU-T仕様のG-PON(Gigabit capable PON)との比較と競争が行われます。G-PONのデジュール標準での位置付けとの差により、EPONは開発途上国での調達仕様において不利であり、グローバルビジネス展開で厳しい戦いを強いられていると言えるでしょう。

 これまでのEPONの標準は物理層やMAC層に限定されており、これらを除いたシステム仕様はベンダ毎の実装に依存していました。また、ベンダ間を跨いでシステムを構築したいキャリアにとっては,新たなファームウェア開発やハードウェア改造が必要であり、ベンダにとっても標準準拠の装置を開発しても相互接続が確保できないため,特に日本ベンダにとってグローバルなビジネス展開が上手くいかないという課題がありました。これに対し、日本が中心になって、2010年よりEPONの相互接続性の向上を目的としたシステムレベルの標準化 (※) を進めてきて,その結果、IEEE標準P1904.1として、日本仕様をSIEPONパッケージBに反映することができました。

【注※】IEEE P1904.1 Service Interoperability in Ethernet Passive Optical Network (SIEPON)

 さらに、今後のグローバルビジネスで他ベンダとの差別化を得るためには、低価格で高品質な製品を目指すだけではなく、標準化仕様との適合性試験に加えて、ベンダ間相互接続試験を推進することにより、ベンダが協調して海外展開ができる環境を整えることが重要となります。EPONでの相互接続性の問題を解決するために、それぞれの標準において適合性試験手順 (SIEPON Conformance) の制定とその認定プログラム (SIEPON Certificate Program) の実施、相互接続試験のための実装ガイドライン (G.epon Implementers' guide) の制定を計画しています。

 勧告草案G.epon(G.9801)は、IEEEのフォーラム標準からデジュール標準の位置づけを確保できるように反映したものです。光アクセスシステムとしては、IEEE802.3標準における1G-EPON、10/1G-EPONと10/10G-EPONを対象とし、IEEE標準P1904.1のパッケージBと整合しています。

 今回のSG15会合において、勧告草案G.eponのAAPの承認手順におけるConsent(合意)ができたのはIEEEとITU-Tの両方に標準化連携を精力的に働きかけてきた成果と言えるでしょう。最終承認はAAPにおける4週間のLast Call(照会期間)を経て最終判断がされる予定です。

 今後の光アクセス市場を検討するにあたり、欧州での光アクセスの本格導入はまだ時期尚早とみるのが現実的と言えるでしょう。また、途上国においてはサービス需要とインフラ整備の環境の立ち上がりにさらに時間がかかると予想されます。日本で成熟させた光アクセス技術を安く新興国に提供することで、新興国の通信インフラの発展に寄与する視点での投資が期待されます。日本が先行してきた光アクセスシステム開発の優位性を維持した上で、新たなビジネスチャンスとして新技術を取り入れた研究開発のチャレンジを継続していく必要があり、また、海外における動向を調査・把握し、国際動向に整合した光アクセスの検討を行なっていく必要があります。

 また、今会合では、10Gbpsを超える次世代の将来光アクセスシステムに関しても各種方式が検討され、WDM技術の採用と既存の光ファイバー媒体網の継続的使用の観点から、TWDM-PON (Time & Wavelength Division Multiplexing-PON) 方式に基づくNG-PON2の検討も進んでおり、次回WP1会合(2013年12月予定)までに勧告草案の最終版が検討される見通しです。

  上記の光アクセスに関する詳細検討は、TTCの情報転送専門委員会における光アクセス網サブワーキンググループ(SWG1304)で検討していますので、関心のある方はTTC事務局までお尋ねください。