マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

ITU-T総会WTSA-12会合に向けたAPT準備会合に参加して

 7月30日(月)から8月4 日(土)まで、タイのバンコクで開催されたAPTAsia-Pacific Telecommunity)関連の会合に参加してきました。会場はバンコク市内のホテルAmari Watergate Hotelで、バンコク市内のショッピングセンターが集まる賑やかなエリアですが、多くの寺院がある観光エリアへはタクシーで10分程と近く、便利な場所です。写真1、2は、会議前日の日曜日午後の王宮回りの散策写真です。昨年秋にバンコク中央を流れるチャオプラヤ川が氾濫し、会場のホテル辺りを含めた市内の多くが洪水の被害を受けましたが、現状、市内はきれいに整備され、洪水の傷跡もなく、人々の活気に満ちていました。

写真1 王宮回りの混雑
写真1 王宮回りの混雑
写真2 チャオプラヤ川から王宮を臨む
写真2 チャオプラヤ川から王宮を臨む

 APTとは、アジア太平洋地域の電気通信に関する協調連携を図る組織で、現在、38ヶ国が加盟しています。その中で電気通信に関わる標準化を扱う組織としてASTAPAPT Standardization Program Forum)があり、その第20回ASTAP会合が8月1日 (水) まで開催されました。さらに引き続いてITU-Tの世界電気通信標準化総会WTSA-12(World Telecommunication Standardization Assembly 2012)に向けたAPTとしての最終準備会合が8月4日 (土)まで開催されました。

(参考)前回の会合結果は、ブログ「第19回ASTAP及び第2回WTSA-12準備会合に参加して」に掲載しています。

 国連において193ヶ国が加盟するITU-Tの総会WTSAは4年に一回開催され、次回のWTSA-12は2012年11月20日から29日まで、アラブ首長国連邦のドバイで開催されます。WTSAが決議する国際標準化の方針に日本提案を反映するためには、日本提案をAPT共同提案にすることにより、加盟国の約20%にあたる38ヶ国支持の提案となり、国際の場で、欧州、アメリカ、アラブ、アフリカ等の地域レベルでの駆け引きが有利になります。その意味において、APTでの議論はITU-Tへの標準化対処のアクションとして、参加が必要な会議であるとともに、今回の会議がWTSA-12に向けたAPT共同提案を議論する最後の会合であり、アジア太平洋地域の団結のために大変に重要な意味を持つ会議と考えられます。

 今回のブログでは、WTSA-12に向けた準備会合の課題に焦点を当て、定例で開催されているASTAPにおける個別課題の各専門家委員会での審議概要については、今後発行される「TTCレポート」の報告を参考にしていただき、以下では、11月のWTSA-12で決定見込みの事項とアジア共同提案として議論された主要トピックの動向について解説します。

 まず、WTSAの第一の課題は、次期研究会期のSGとTSAGの議長、副議長を選出することでしょう。議長、副議長の任期は2期8年を限界とする「決議35」のルールがあることから、今回のWTSAでは、私のSG15を含め、SG2とSG3の議長は任期満了で退任し、また情報では、SG12議長は1期のみで退任するということから、4つの議長席は新規の方が選出されます。各国からの議長、副議長立候補の最終締切が9月20日であることから、まだ全候補が揃っているわけではありませんが、アジアでは日本、中国、韓国からの候補がほぼ明らかになりつつあります。TSAGと10個のSGの議長候補については、各々複数候補がなければ承認だけで済みますので平和的で良いので、現状、日本からのSG16議長候補の内藤悠史さん(三菱電機)とSG3議長候補の津川清一さん(KDDI)については対立候補は無いようですので安心しています。TSAG議長については、現職のカナダからの議長に加え、韓国からの立候補があり、今後の動向が注目されます。

 次会期の議長、副議長の選出以外の話題で、APT共同提案に基づく決議に関する議論ポイントとなる課題動向について以下に述べます。

1)SG構成の再編について: 欧州を中心に、SG9とSG16、SG11とSG13のSG統合の意見は残っているものの、APTとしては現状の10個のSG構成を維持することを提案することになりました。またSG統合の意見を考慮し、SG9とSG16、SG11とSG13については同地開催の原則を追加することとし、その同地開催の制約条件を緩やかにするために、必須ではなく「will normally hold collocated meetings with」とすることを提案することになりました。

2)議長、副議長の任期に関する決議35改訂について: WTSAで副議長に専任されても、4年間の任期期間に実際の会議にほとんど参加しない副議長が一部にいることから、本会議への出席率が一期目で50%以下の場合は、二期目での任命を受けられない制約を、任期規定に追加するよう決議35の改定を提案することになりました。

3)フォーカスグループの運営規定(勧告A.7)の改訂について: 標準化の新規課題を立ち上げるための準備組織であるフォーカスグループ運営について、現状では、ITU-T事務局の予算を使わないで、フォーカスグループとして独自財政の運営を原則としています。しかし近年、身体障がい者が会議に支障なく参加できるように支援するための課題(アクセシビリティ)や途上国の参加者への支援の必要性が認識され、そのための支援費用が会合ホストへの負担問題になっています。APTとしては、フォーカスグループの運営支援として、ITU-T事務局の予算活用を可能にする財政的運用の柔軟化を求める勧告A.7の改定を提案することになりました。

4)MPLS-TP関連勧告G.8113.1の承認について: SG15が勧告化を推進するMPLS-TP(Multi Protocol Label Switching – Transport Profile)のOAM (Operations, Administration and Maintenance)に関する勧告草案G.8113.1の承認をAPTとして支持すること合意しました。この提案は中国と日本の提案に基づくもので、TTCでは情報転送専門委員会でアドホックを構成して対応してきた課題であり、IETF(The Internet Engineering Task Force)とITU-Tとの間での懸案事項でもあります。WTSAでの最終承認に向けて、各国との連携など引き続き対処していく必要があります。

5)新規課題SDN(Software Defined Network)に関する決議提案について: 中国の提案により、SDNに関する標準化課題の検討をITU-Tで促進するための決議を提案することを合意しました。SDNは従来の通信網とは異なり、交換やルーティング機能などのネットワーク機能がソフトウェアで実現され、物理的なハードウェアと分離されるネットワーク概念であり、将来的に、通信サービスの提供のあり方、ネットワーク機器の構成やネットワークの運用形態などに大きな影響を与えるとともに、より柔軟なサービス提供の実現が可能になるネットワークの標準化課題として期待されています。SDNの検討を推進するにあたっては、既に業界フォーラムとしてONF(Open Networking Foundationが立ち上がっており、また、SDNのひとつの実現技術としてOpenFlowが検討されており、これらとの連携が重要となるでしょう。

6)Conformance and Interoperability testingに関する決議76の改訂について: 決議76は、標準仕様との適合性と相互接続試験に関する検討を加速させるための決議であり、APTとして、今後の更なる進展を図る必要がある課題であり、決議改訂の提案を合意しました。Conformance と Interoperabilityの課題はSG11がリードすることとなっており、TTCとしてもIPTVやNGNの領域での検討を推進している課題です。WTSAでの決議改訂の合意を目指していきたいと考えています。

 私のブログでは、WTSAに向けた動向に関して、アジア地域以外の提案状況や準備会合の情報を入手し次第、今後も発信していきますので、ご関心を持っていただければと思います。今回のブログの最後に、写真3はASTAP会合の日本団集合写真、写真4はASTAP会合会場風景です。会合参加の皆さん、ご対応ご苦労様でした。

写真3 ASTAP会合参加者
写真3 ASTAP会合参加者
写真4 会場風景
写真4 会場風景