ITU-T総会WTSA-12は成功裏に終わる
11月26日のブログで報告しましたITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)総会、WTSA-12(世界電気通信標準化総会)が、ドバイでの10日間の会議を終え、11月29日14時過ぎに閉会しました。本ブログでは、総会の最終プレナリーの様子を中心に、速報します。今回のWTSAの主要結果については、既に、総務省の報道発表(11月30日)で報告がありましたが、日本にとっては、提案がほぼ反映され、実り多い結果が得られたといえるのではないかと思います。
WTSAの最終決定を行うプレナリー会議(写真1)は11月28日(水)と29日(木)に開催されました。プレナリーへの最終提案を準備するCommittee(委員会)レベルでの審議は27日(火)に終えましたが、WTSA議長Mohammad GHEYATH氏は、急遽28日の18:00―22:00に夜のプレナリーセッションを追加することで審議の加速を図りました。おかげで29日午前中には、新研究会期の議長と副議長の選任も行われ、大きな懸案事項は解決されましたので、会場では何となく和やかな雰囲気を感じましたが、この良い雰囲気の原因としては、12月2日がここアラブ首長国連邦(UAE)の41回目の建国記念日(1971年12月2日独立)で、金曜日と土曜日はイスラム圏の週末であることから建国を祝う3連休が盛り上げているのかと思いました。写真2は建国記念日を表す装飾の掲示が飾られていました。
TTCの今後の標準化検討にとって、WTSAの結果について、主な重要点について簡単に触れたいと思います。
1) ITU-Tの戦略的組織検討を行う委員会(レビュー委員会)の新設については、日本提案が支持され、実現することになり、新議長に私が任命されました。TTCでは、昨年、スマートグリッドやM2M等の情報通信技術の急速な進展や市場ニーズの変化にタイムリーに対応した標準化を推進するために「業際イノベーション本部」を設立しましたが、ITU-TでもStudy Groupの構成や他の標準化組織との連携のあり方を見直す検討を推進していきたいと考えています。
2) 新決議として、SDN(Software Defined Networking)に関する検討を加速させることになりました。SDNについてはWTSAに関するプレスリリースを参考にしてください。ITU-TではSG13、TTCではNGN&FN専門委員会での検討を加速できればと考えています。
3) 新決議として、ITU-T活動におけるジェンダーに関する決議が2010年に国連女性機関(UN Women)が設置されたことを受けて、ITU-Tの活動における女性の参加を更に促すための決議改訂を提案し承認されました。今後の日本からの女性の活動者の増加に期待します。
4) SG15からWTSAに勧告承認のために提案を行なった4つの勧告草案(G.8113.1、G.8113.2、G.9980、G.9901)については、前回のブログで触れましたが、全て予定通りの承認を得られました。また、SG13から提案されていたY.2770については、Deep Packet Inspection (DPI)技術に関するもので、プライバシーへの影響を懸念するドイツの反対で承認が遅れていましたが、WTSAでは引き続きドイツの抵抗があり、勧告のAppendixの削除とスコープの記述を修正する妥協案で承認が行われました。
5) Study Group構成については、日本が提案した現状の10個のSG構成を維持することを決定しましたので、大きな変動はなくて済みましたが、個別課題の整理統合を図り、検討の効率化を図りました。特に、日本が中心となって推進している「将来網(新世代ネットワーク)」課題については、SG13における従来の1つの研究課題を3つの研究課題に分割拡大し、研究体制が強化・拡充されました。この中で、将来網、クラウドコンピューティング、セキュリティ、M2M、適合性と相互接続性試験(インターオペラビリティ)、スマートグリッド、ITSなどの課題が明確化され、これに伴い、以下のようなSGの責任と課題分担の見直しが行われました。
(ア)インターオペラビリティ(Conformance and Interoperability Testing)に関する課題はJCA-CITの主管担当を含め、SG17からSG11に統合され、SG11の責任が明確になりました。本課題はTTCではインターオペラビリティアドバイザリーグループでの課題ですが、今後は信号制御専門委員会との連携が深まっていくと考えられます。
(イ)クラウドコンピューティングの主管はSG13であることが明確になりましたが、クラウドに関するセキュリティに関しては、今後、SG17の関係を検証していくことが確認されました。TTCでは、NGN&FN専門委員会、セキュリティ専門委員会とクラウドコンピューティングアドバイザリーグループとの連携が重要となります。
(ウ)欧州がSGの統合を要求していたSG9とSG16、SG11とSG13との関係については、CATVを扱うSG9とSG12やSG16との関係は、既存の課題分担を継続することで合意されましたが、ジュネーブでの開催時にはそれぞれのSGを同地開催することとなりました。また、SG11とSG13はジュネーブでの開催時にはそれぞれのSGを同地開催することとで妥協することができました。
(エ)スマートグリッドについては、SG15におけるホームネットワークを扱う課題が主管となることが明確にされました。TTCでは、次世代ホームネットワーク専門委員会の活躍が期待されます。
他のSGとの連携を必要とする課題のITU-Tにおける責任主管SG(Lead study group)については以下のように整理されました。【TTCの関連委員会を参考に示します】
SG2
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サービス定義と番号計画、電気通信管理【番号計画】、災害対応【スマートコミュニケーション】
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SG5
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EMC(電磁的な不干渉性および耐性)【情報転送】、ICTと気候変動【ICTと気候変動】
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SG9
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CATV網
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SG11
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信号プロトコル【信号制御】、M2M信号プロトコル【スマートコミュニケーション】、適合性と相互接続性試験【インターオペラビリティ】
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SG12
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QoSとQoE【網管理】、安全運転支援と車内通話【マルチメディア】
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SG13
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将来網、NGNと移動管理、クラウドコンピューティング【NGNとFN】
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SG15
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アクセス網【DSL、情報転送】、光通信技術【光ファイバー伝送】、光伝達網【情報転送】、スマートグリッド【次世代ホームネットワーク】
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SG16
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メディア符号化とアプリ、IoTアプリ、身障者アクセシビリティ、ITS【マルチメディア】、IPTV【IPTV】
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SG17
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セキュリティ、ID管理【セキュリティ】、記述言語
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6) SG議長と副議長の指名について、日本からの立候補者の当選結果は以下のとおり(敬称略)で、議長を3名確保した国は日本だけ(米国が2名、他国は1名)となりました。ITU-Tにおける日本の影響力を発揮するには望ましい体制強化が図れたのではないでしょうか。SGとTSAGの議長・副議長の指名結果についてはITU-Tのプレスリリースを参考にしてください。
SG3議長: 津川 清一(KDDI)
SG16議長: 内藤 悠史(三菱電機);再任
SG9副議長: 宮地 悟史(KDDI);再任
SG11副議長: 釼吉 薫(日本電気);再任
SG12副議長: 高橋 玲(NTT);再任
SG13副議長: 後藤 良則(NTT)
SG15副議長: 荒木 則幸(NTT)
SG17副議長: 中尾 康二(KDDI);再任
SG3アジア・オセアニア地域グループ副議長: 松田 康典(KDDI)
新組織:Review Committee議長: 前田 洋一(TTC)
審議修了後の閉会式典では、会合参加国の中から主要国や地域標準化組織の代表者からの謝辞表明がされましたが、写真3(会場のスクリーン映像)は、総務省の深堀分析官が久保田総括審議官の隣で、謝辞表明の発言をされているところで、日本の貢献、リーダーシップの存在感をアピールするのに大変有効であったと思います。
写真4は総会終了後の日本団の集合写真。写真5は総会終了後、トゥーレ事務総局長から今回のCommittee4議長の仕事に対して労いの言葉をいただいた際の記念写真。写真6はWTSA議長とジョンソンTSB局長夫妻との記念写真です。