ITU-T総会WTSA2012に向けたTSAG最終会合に参加して
7月2日(月)から4日(水)まで開催されたITU-TのTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group)会合に出席のためジュネーブに出張してきました。初夏の爽やかな気候のジュネーブでの滞在を期待していましたが、ジュネーブ空港に到着したのは夜の10時過ぎにもかかわらず、外気気温は25度以上あり、日本でいう熱帯夜でした。ジュネーブはスイスの山々に囲まれ、レマン湖の畔で避暑には快適なところで、夏もクーラーいらずの土地のはずです。私がジュネーブに出張するようになって20年以上になりますが、ここ数年、夏に35度を越える日が度々あるようになったと感じます。ただ、ジュネーブには未だにエアコンのないホテルが多く(私の定宿もそうですが)、暑さ対策は今後の課題ではないでしょうか。到着初日の夜は時差もあり快適睡眠とはいきませんでしたが、幸いにも翌日からの雨で気温も多少下がり、TSAG会合期間中は、無事夏の暑さからは乗り切れました。海外出張の際には、事前に、そして日々、現地の気象情報を把握し、自然の変化に備えることをお薦めします。私はジュネーブ出張の際にはこの現地の気象情報を参考にしています。
ITU-TのTSAG会合は、ITU-TのSG横断的な標準化戦略や新しい標準化課題への対処方針、また勧告作成に関わる作業方法(勧告Aシリーズで規定)について検討するグループで、国際標準化における検討体制や新課題への取り組み方針を決定する上で重要な会合です。TTCにとっては、それぞれのStudy Groupへのアップストリーム活動を行う上で、Study Group間の連携や新課題の取り組み方針に密接に関係すると共に、Study Groupの体制見直しを議論する場であることから、会合に参加して動向を把握することは有益です。個別の技術課題を超えたハイレベルな日本としての標準化戦略をITU-Tの標準化計画に反映する対処にとっても重要な会合と言えるでしょう。
今回のTSAG会合には、参加国48ヶ国から政府代表者、世界各地域の各標準化機関、IETFやIEEE等の民間標準化機関、そしてITU-Tメンバー会社の代表者など、総計182名の参加がありました。日本からは総務省情報通信国際戦略局通信規格課を代表に、19名で日本代表団を構成して会合に臨みました。私はITU-TのSG15議長と総務省参与の立場で参加しました。
TSAG会合の会場となったITUタワーの会議室POPOVについては以前のブログで紹介しましたが、写真1は会議室前方を見た議長演壇の写真で、スクリーンに写っているのがTSAG議長のBruce Gracie氏とカウンセラーのReinhard Scholl氏です。写真2と3は日本団の皆さんで、写真2はスクリーンに映し出されたところです。発言者は自動的にスクリーンに映し出される仕掛けになっており、うっかり居眠りはできません。
2012年は2009年から4年間のITU-T研究会期の最後の年で、TSAG会合は今回の7月会合が最終会合となりました。今年の11月には4年に1度開催されるITU-Tの総会であるWTSA(World Telecommunication Standardization Assembly)会議がアラブ首長国連邦のドバイで開催されます。WTSAでは、次の研究会期の標準化計画を審議し、Study GroupやTSAGの議長、副議長の選出も行われます。TSAG会合は、WTSA会議での決定に向けた提案の準備をする役目を持っており、TSAG会合での議論は、WTSAでの標準化方針を左右する重要な意味をもっています。
今回のTSAG会合では、WTSAで決定する次会期のStudy Group構成と決議案(Resolutions)の改訂等が議論されました。本ブログでは、特に、TTCの専門委員会やアドバイザリーグループの活動に関する動向を中心に、概要を報告します。
1)次期研究会期のStudy Group構成
WTSAで最も重要な決定事項は、4年間の会期のStudy Group構成とそのマネジメントを行う議長と副議長を選出することです。前回のWTSA-08会議では、13個あったStudy Groupを10個に統合削減する大きな再編が行われ、議長・副議長の選挙にも大きな影響がありました。前回のWTSAでも課題となりましたが、欧州からは引き続き、SG9とSG16、SG11とSG13を統合すべきという意見があります。これらのStudy Groupは日本、中国、韓国が議長や副議長を占める重要なStudy Groupであり、現状の10個のStudy Group構成を維持することがアジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia-Pacific Telecommunity)としての希望であり、APTとしての統一意見となっています。
今回のTSAGでは、アジアの他、ロシアやアラブ地域の諸国も現状の10SG構成を支持することが表明され、ITU-T事務局としても、現状維持を基本とすることが大勢の意向であることが報告されました。しかし、アジアのAPTに対応したヨーロッパの欧州郵便電気通信主管庁会議(CEPT:European Conference of Postal and Telecommunications Administrations)の代表からは、今回のTSAGには間に合わなかったが、WTSA会議での再編提案の可能性をほのめかされ、SG構成の最終合意はWTSA-12での審議に先延ばしされました。
2)ITS通信標準に関する連携
TTCのスマートカーWPが対応をしているITS(Intelligent Transport System)における通信標準関連のCollaborationグループの検討については、議長のRuss Shields氏から活動報告が行われ、現状の検討体制を継続することを提案し、来年6月の第1回TSAG会合までの継続が承認されました。また、このCollaboration会合の次回会合と自動車に関連するDriver Distractionに関するFG会合が、TTCがホストで8月21日-23日に東京で開催されることが案内されました。
3)e-healthに関するWHO(世界保健機関)との連携・協力
TTCのスマートコミュニケーションAGで扱う健康・高齢化に関する課題で、ITU-Tで関心が高まっているe-Healthに関する課題については、ITU-TのFG-M2Mでの検討が進められています。この検討が開始された背景には、WHOからITU-Tに対して「e-Healthの標準化と相互運用性」の実現に向けた協力要請があり、WHOとの連携関係が確立されました。そして4月26日-27日にはWHOと共同の第1回e-healthワークショップが開催され、日本からも多数の講演参加がありました。今TSAG会合の報告で、2013年の初めに、ITU-TとITU-Dとの合同e-healthワークショップを日本がホストして日本で開催する計画であるとの案内がありました。
4)「教育と標準化」に関するアカデミアに関する新課題
ITUとアカデミアとの関係については4月26日のブログで触れましたが、標準化における大学との連携に関心が高まってきています。ITUのアカデミア会員には現在、46の大学、研究機関が加入しています。そのうち32はITU-Tのアカデミア会員であり、日本では早稲田大学と東京大学が加入しています。標準化において大学に期待する役割としては、「教育と研究」の側面があり、将来の標準化テーマを発掘するための先進的研究を支援するためにITU-Tでは、Kaleidoscopeの企画があります。一方、人材育成を含めた教育については、標準化に関するカリキュラムや教材の充実が必須であるという問題認識があり、如何にこのギャップを埋めるかが課題となっています。
今回のTSAG会合では、デンマークのAalborg大学のRamjee Prasada教授(インドのGISFI創設者)から「標準化と教育」に関するFG設立の提案があり、その是非を議論しました。この提案に対して、ITU-TのTSB局長が関心を示し、日本やチュニジア、エジプトなどが支持しましたが、ドイツやフランスからの反対もあり、議論形態については様々な意見が出されました。結局、FGとしての形態ではなく、TSB局長が直接運営するアドホックとして開始することを合意しました。2013年4月に京都で開催するKaleidoscope国際会議では、日本の電子情報通信学会との連携により、「標準化と教育」に関するワークショップを企画しており、活発な議論が期待されます。TTCとしては、標準化人材の育成や標準化戦略に関するスキル習得が大学生の段階から行われることは、標準化リソースを充実させる上にも有益であり、時間はかかることではありますが、今後もアカデミア関連の活動には貢献して行きたいと考えています。
5)IETFとの連携関連:MPLS-TP標準化動向
私が議長を務めるSG15の研究課題で、勧告承認手続きの一部がWTSAの審議に回されることになりましたが、MPLS-TPに関する標準化の現状に関して、米国代表からTSB局長に対して質問が出されました。質問への回答としては、SG15議長としてTSB局長と連携して報告書を作成しました。質問にはMPLS-TPにおけるOAM(保守運用規定)に関する勧告草案G.8113.1と勧告草案G.8113.2が関連しており、G.8113.1についてはWTSA-12での最終承認を図ること、G.8113.2については9月のSG15会合で勧告凍結合意を図ること、が期待されているとの報告を行いました。
TTCでは情報転送専門委員会での関心事項であり、CJKの三国間で連携した対処を検討しているところです。本件は、ITU-TとIETFとの間での連携課題でもあります。
6)適合性と相互接続性
標準化仕様との適合性を図ることで、異社装置間での相互接続の実現を促進させるCIT(Conformance and Interoperability Testing)に関する課題の重要性が増しているが、活動の促進を望む途上国と相互接続実現の難しさの懸念を表明する先進国の大手ベンダとの対立課題となっています。一方、日本としては、グローバルビジネスにおいての海外市場参入を可能にするための一要素として重要視しており、日本のCIAJ(情報通信ネットワーク産業協会)配下のHATS(高度通信システム相互接続)推進会議で、CITの検討を推進しています。来る7月11日-13日にはTTCが協賛する「HATSにおけるNGNインターオペラビリティイベントとワークショップ」の開催を企画しており、TSAG会合でも案内されました。
7)災害救援とネットワーク復旧に関するFG(FG-DR&NRR)関連
TTCでは、スマートコミュニケーションAGの傘下で新設準備をしている「災害対応WP」に密接なFG-DR&NRR(Focus Group on Disaster Relief and Network Resilience and Recovery)に関して、FGの検討スコープの補強提案があり合意されました。災害対応のFG会合については第1回会合が開催されましたが、ITU-TではSG2、 SG5、SG11、SG13、SG15、SG16、SG17がそれぞれ関連課題を有し、また、ITU-RやITU-Dとの連携の必要性が認識されており、今後の検討の本格化が期待されます。
8)GISFI(Global ICT Standardization Forum for India (GISFI)の動向
TTCと昨年8月にLoI(Letter of Intent)の国際連携関係を締結したGISFIからITU-Tとの連携に関する議題において、GISFIはITU-Tのセクタメンバーとなり、インドの標準化組織としてITU-Tに貢献できる組織であるというアピールの寄書が寄せられました。GISFI創設者のRamjee Prasada氏との会合を持ちましたが、インド国内のTelecommunications Standard Development Organization (TSDO)として、まもなく正式に承認される見込みであるという情報もあり、今後の動向が注目されます。
9)JCA(Joint Cordination Activities)関連動向
ITU-TにおけるSG横断的な課題に対して連携協力の関係を整理するJCAにおいて、IPTVに関するJCAの主管をSG13からSG16に移行することが承認されました。
NGNに関するJCAとGSIについては当初の目的を達成したということで終結を了承しました。
Cloud Computingに関するJCAについては、SG13、SG17、SG11で以下の課題が新設または改訂されることが了承されました。
Q.26/13 “Cloud computing ecosystem, inter-cloud and general requirements”
Q.27/13 “Cloud functional architecture, infrastructure and networking”
Q.28/13 “Cloud computing resource management and virtualization”
Q.8/17 “Cloud computing security”
Q.CL/11“Use cases and scenarios for interoperability testing of cloud computing”
以上、TSAG会合結果から、TTCの専門委員会やアドバイザリーグループの活動に関する関連する課題動向を中心に概要を報告しました。この他に、WTSAで決定する決議案(Resolutions)の改訂等が議論されましたが、詳細については総務省の関連報告をご覧いただくか、直接TTC事務局にお尋ねください。