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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

第7回ITU-T SG15会合のジュネーブからの経過速報です

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 私が議長をしているITU-TのSG(Study Group)15会合に参加するために、12月1日から18日まで、ジュネーブに出張しております。このブログを書いている今は、2週間にわたるSG15の開催中で、第一週目を終え、やっと週末を迎えたところです。

  ジュネーブ市内はクリスマス飾りが多くあり、年末の雰囲気に包まれていますが、雪はなく、気温は0℃から12℃の範囲で比較的あたたかな年末ではないでしょうか。この一週間はほとんど雨か曇の暗い天気でしたが、写真1のITU本部タワーの写真のように、この週末は青空が広がっています。ただ、多くの会合参加者は、一週間の議論を踏まえた勧告草案への反映のための文章編集を行うドラフティング会合のため、この週末もITUタワーに集まっています。写真2はITUタワーの最上階にあるレストランからのレマン湖湖畔の市街の眺めで、レマン湖のシンボルである噴水と遠くに雪を覆ったモンブランとシャモニ方面の山々が見えます。

写真2ーITUタワーからのレマン湖噴水とモンブラン
写真2ーITUタワーからのレマン湖噴水とモンブラン

 本SG15会合は、2009年から2012年までの研究会期における第7回会合です。ITU-Tには、全権会議での選挙で指名される議長と副議長の役職任期は、最大2会期とするルールから、今研究会期が二期目となる私にとっては、来年9月のSG15会合が最終会合となります。ジュネーブに足を運ぶようになり22年。何とかSG議長の任務を無事終えることができるように、と祈っているこの頃です。

 SG15は、ITU-Tにおいて、光伝達網とアクセス網インフラストラクチャに関する標準化を責任とする研究グループです。今会合の参加登録者数は370名を超え、会員が提出する提案(寄書と呼びます)数は400件を超え、また、標準化仕様となるITU-T勧告の今会合での完成目標数は70件以上で、これらの数字はITU-Tにおける10個のSG会合の中で最大規模であり、最も活発なSGであります。

  参加者の国別では、中国が91名、米国が73名、日本は36人で全体の第三位の参加者数を維持していますが、近年の中国の急増と突出した存在感はSG15の特徴と言えるでしょう。また、国別参加以外に、ISOCから7名もの代表が参加している背景には、ITU-TとIETFとの間での連携関係課題があり、今回特に、MPLS-TPに関する懸案事項の審議が予定されているからです。

SG15は18の課題グループに別れていますが、その中で入力寄書数の多い上位4課題は以下の通りです。[総件数:402件]

順位
課題No.
タイトル
TTCの担当
専門委員会
1
(31%)
課題9
2
(22%)
課題13
3
(15%)
課題10
4
(12%)
課題4

 ITU-Tの標準化は寄書が最も重要(Contribution driven)なので、課題の活動活発さの一例として示しましたが、議論が収束し、勧告草案が完成に近づくと寄書数は減ってきますので、必ずしも寄書数ばかりが尺度ではない、ということを断っておきます。寄書が50件を越える課題は物理的にも議論時間が不足しますので、これらの課題グループは、二週間フルに議論し、夜中やこの週末も会合を開催することになります。

  ITU-TのSG会合に向けた日本からの寄書提案の検討(アップストリーム活動と呼びます)や日本としての対処方針の技術審議は、今年から、総務省の情報通信審議会の決定により、TTCの委員会で技術審議を行い、総務省の電気通信システム委員会での承認を経て、ITU-Tに提案を行なうことになりました。TTCでは、ITU-TSG15への課題対処については課題が多岐にわたることから、情報転送専門委員会光ファイバー伝送専門委員会次世代ホームネットワーク専門委員会DSL専門委員会が課題をそれぞれ分担して対応しております。

  今会合において、勧告草案の承認判断に関わるような技術的ホットトピックを挙げると、1)MPLS-TPパケット伝送用のOAM方式、2)ホームネットワーク内の高速伝送網の遠隔制御プロトコル、3)スマートグリッドに用いられるPLC(Power line communication)用の狭帯域伝送仕様、4)10 Gb/s PON方式の光アクセスシステム、が挙げられます。

 これらの課題の中で、議長として最大の悩みの課題は、MPLS-TPに関連した勧告草案の承認実現です。この背景には、4年近く前から、ITU-TとIETFはMPLS-TPに関して協力連携して方式を開発することを約束して、共同の検討を進めてきました。しかしながら、IETFが検討を進めるIPベースのOAM方式とITU-Tが4年前から提案しているイーサーベースのOAM方式の扱いについて、関連する装置ビジネスの競合と標準化組織間のポリシーの違いが標準化のさまたげとなってきました。イーサーベースのOAM方式は中国を中心に既に展開実績があり、ITU-Tとしては、オペレータの要求条件を踏まえ、二つのOAM方式のどちらかを選択するのではなく、ネットワークの適用条件と期待できる性能が異なることから、2方式を認めるべき、という妥協案を支持しています。一方、IETFは、IPルータベンダを中心に、IETFでのIPベースのOAM方式のみを認め、ITU-TでのMPLS-TPのOAM方式は認められない、という姿勢を強硬に主張し、各国の主官庁を巻き込んだ議論となっております。議論の結果によっては、ITU-TとIETFとの国際標準化組織としての対立的な状況が顕在化するかもしれません。

 議長としては、議論における公平性と中立性を確保しなければいけませんし、最終判断は12月16日の最終プレナリーにて行なわれる計画ですので、今回のブログでは、これ以上の技術課題と審議の予想に触れることは控えさせていただきますが、次回以降のブログの中で、適宜ご報告させていただきたいと思います。

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 今回のブログの最後に、1980年代からITU会合(古くはCCITTと呼ばれていた)に参加されていた人には馴染みのITUタワー地下二階にある最大の会議室Room Bは大きく模様替えをし、最新設備を備えた会議室 Room POPOV(ポポフ)に11月から変わりましたのでお知らせします。ロシアの全額寄付による設備更改が行われたということで、ロシアの有名な無線通信技術者Alexander Popovの名前が付けられました。

 写真3は会議室の名前の由来をしめすプレートです。

 写真4は会議室全体の後方席からの眺めで、中央に議長団席とプロジェクタースクリーンが二枚、その左右には発言者が自動制御で映し出されるハイビジョンテレビ画面(9台のTVで構成)が設けられています。

  写真5は会場前方斜めからの眺めです。収容人員数は約300名、パソコンのインターネット接続はワイヤレスLAN、各席には電子投票のためのボタン、電源コンセント、マイクとイヤホーン、国連六ヶ国言語(英語、フランス語、スペイン語、アラビア語、ロシア語、中国語)の選択スイッチが備えられています。会議室側面の二階は通訳のためのブースです。

写真4 会議場Popov全景
写真4 会議場Popov全景
写真5 会議場風景
写真5 会議場風景

 最後の写真6は、今会合の開会プレナリーの議長団の写真で、私が議事進行をしているところです。会合の報告は別の機会にさせていただきますので、今後のブログもご愛読いただければと思います。

写真6 SG15会合議長団
写真6 SG15会合議長団