中国での智能電網(スマートグリッド)国際会議2011に出席しました
「Smart Grid World Forum 2011」という国際会議が、9月27日から29日まで、北京のオリンピック競技場隣に建つ中国国家会議センターにて開催されました(写真1:会議会場。写真2:会場から見た隣のオリンピックスタジアム)。この会議は、中国で最大の電力公社であるState Grid Corporation of China(中国国家電網公司:以下ではSGCCと表記します)と電気・電子分野における世界最大の学会であるIEEEの共催によるもので、会議に併せてスマートグリッド関連企業の展示会(写真3:展示会風景)も開設され、盛大に開催されました。
この会議に、私はプレナリーでの基調講演者の一人として招待され、各標準化機関の代表が講演するプレナリーセッションにおいて、ITUを代表して講演しました(写真4:講演後の演壇前で)。
参加者の多くは中国の方々で、全ての講演は英語と中国語の同時通訳付きで、プレゼン資料も中国語翻訳版が用意されました。展示会を含めた総参加者数は把握出来ていませんが、プレナリーへの参加者は400名(海外から約150名)を越え、中国の関心の高さを印象づける大きな会議でした(写真5:プレナリー会場の模様)。
この会議のテーマであるスマートグリッドは、「Smart Grid = Grid + ICT」と定義され、電力配信と電気通信の技術が融合することが必要であることを意味しており、TTCではスマートグリッドアドバイザリーグループで取り組んでいるホットトピックです。また、ICTの側面において、私が議長を務めるITU-T SG15でのホームネットワーキング伝送方式(勧告G.hnシリーズ)の標準化課題に密接な課題を含んでおり、ITU-Tだけでなく、IECやIEEEの標準化機関とも密接に関連する課題です。
オープニングプレナリーは二部に分かれ、前半では、主催者のSGCCとIEEEのビデオ紹介と幹部の挨拶に加え、中国における国家電気規制委員会、科学技術省、情報通信産業省、商務省などの幹部の挨拶があり、中国のスマートグリッドが国家戦略の下で行われていることが明確でした。また、欧州代表の中国大使、アメリカ合衆国の中国大使、日本の中国大使の挨拶もあり、各国がスマートグリッドに関する中国の将来市場に強い関心を示し、中国との関係を尊重している現れと感じました。
オープニングプレナリーの後半では、IEEE、IEC、ITUの代表の講演があり、私はITUを代表して講演し、スマートグリッドにおけるICTのグローバル標準の必要性を提言し、それぞれの標準化組織がスマートグリッドの標準化に関し、連携協力することの重要性を提言し、協調関係の必要性について共有することができました。
オープニングプレナリー後の技術セッションは、6つの技術グループに分かれ、3セッションがパラレルで半日ずつ、二日間にわたり開催されました。6つのセッションは以下の課題を扱いました。私はTTCの関連課題の点からセッション3と6に関心があり、参加しました。
セッション1: 超高電圧送電を含むスマート電力送電
セッション2: スマート発電と給電
セッション3: EV(Electric Vehicle;電気自動車)充電と蓄電池交換方式
セッション4: スマート配電と分散電源統合
セッション5: 電力需要管理
セッション6: ICT(情報通信技術)
参加したセッション3では、自動車メーカのGMとダイムラーの講演もあり、スマートグリッドと電気自動車の充電関連の話題に関心が集まり、EV充電プラグインタフェースの標準化と蓄電池の交換(swapping)について議論されました。日本のCHAdeMOの発表もあり、日本での実績をアピールしていましたが、既に、直流と交流方式の違いを含め世界中で8種類もの地域・国別仕様があり、果たして充電プラグの標準化はどうなるのか?また、充電方式として、中国SGCCは、異なるEV車に対して蓄電池を共通仕様化し、充電済の蓄電池を交換する方式(写真6:蓄電池を交換する様子をデモする展示の模様)を推進しており、今後の充電方式の標準化検討に影響を及ぼすことが予想されます。
セッション6では、スマートグリッドにおけるICTの役割と通信技術に関わる課題が扱われ、通信アーキテクチャからPLC(電力線伝送)技術まで幅広い課題が議論されました。その中で、中国SGCCは、光ファイバと電力線を混在した複合ケーブルを利用した新しいアクセスインフラの適用を提案しており、それらに関わる中国標準を国際標準の議論に提案してくる見込みであり、今後、それらの標準仕様間の連携が必要になると思います。
技術セッション後の最終日の午後半日は、クロージングプレナリーが開催され、各技術セッション座長がセッションのまとめを報告し、最後に、共同声明に相当する「会議録」が発表され、丸二日間の会議を終了しました。
今回のブログの終わりに、本会議を通じて、日本の今後の対処について強く感じたことは、以下の3点です。
- スマートグリッドが国の重要なインフラとなると共に、新ビジネス創造の機会として期待され、米国、韓国、中国などが国家レベルでそれぞれの国での研究開発や実証実験を推進している中で、日本も国レベルでの戦略として、電力系と通信系の連携を図った検討支援をさらに強化することが必要です。
- 中国の国家レベルでのスマートグリッドの積極的な展開戦略は、将来の膨大な中国市場とのビジネスを期待させるものであり、世界中が、如何に中国とのビジネス関係を確立しようかを模索している。日本企業のグローバル展開を加速させるとともに、日本は国際的にどう付き合っていくのか、よく考えることが必要です。
- 中国独自の国内標準仕様を放置すると、市場規模的にはデファクトとして「中国仕様=国際標準」となる可能性があり、中国に主導権を握られてしまう可能性があります。中国での標準化検討を早期の段階で国際標準化での議論と連携させられるように、標準化での国際連携を推進することが必要です。
今週の北京の空は、晴れの日でもスモッグというか、霞がかかったような視界の悪い日々が続いていましたが、帰国の日、9月30日は珍しく青空が広がり、爽やかな秋の日となりました。10月1日は中国の国慶節で祝日。多くの会社は一週間の休日となるようで、帰省、観光で中国国内が最も混雑する時期ということで、混雑を前に帰国しました。