標準化とアカデミア : ITU-T Kaleidoscope学術会議に参加して
TTCの前田ブログにアクセスいただきありがとうございます。昨年12月末にTTCのホームページのリニューアルを行い、本年1月から本ブログを始めましたが、月に一回以上の更新ができるように頑張りたいと思います。ブログで何を語るかは、試行錯誤で、まだ不慣れですが、今後をお楽しみにしていただければと思います。今回は、昨年12月に開催されたITU-T Kaleidoscope Academic Conferenceをネタに、「標準化とアカデミア」についてお話をしたいと思います。
ITU-T Kaleidoscope Academic Conference とは、ITU-Tの標準化活動に、若手研究者や大学関係者の皆さんに関心をもっていただき、国際標準化に若い息吹、最先端技術課題を取り込むことを狙いとしたITU-Tが企画するイベントです。将来に向け様々に変貌する革新技術を自由に展望する意図から“万華鏡”を意味するKaleidoscopeとネーミングしました。年一回の開催で、毎回テーマを決めて論文募集を行い、査読結果として採録された論文の講演発表による学術会議の形式で、2008年から開催され、私は第一回会議から総合議長を務めてきました。テーマとしては、情報通信技術だけではなく、サービス創造や社会経済学の観点からの課題で、5年から10年先の標準化に向けた将来課題を扱いますから、何でも自由に議論することができます。ITU-Tの標準化専門家とアカデミア(大学や研究機関)の若手研究者が一緒に議論することで、新しいコミュニケーションが生まれ、相互の連携を深める場が提供されます。
今までのKaleidoscope会議を通じて、標準化にとっての大学や研究機関の若手が関わることの重要性が認識されるとともに、アカデミアの人たちがITUに参加しやすい環境が必要であることが認識され、2010年10月のITUの最高意思決定機関である全権会議では、アカデミアのための割安な新たな会員資格(正規会費の十分の一以下の新規会費)を決定しました。また、第二回のKaleidoscope学術会議で基調講演をされた青山友紀先生(慶応大学)の提言がきっかけで「Future Networks」に関するFocus Groupが設立されました。これらは、ITU-Tの標準化活動とアカデミアの活動が連携し始めてきた良い兆しと言え、これからも継続強化していくべき施策であると思います。
今回の第3回Kaleidoscope学術会議の内容は、ITU-Tのホームページ(URL:http://www.itu.int/ITU-T/uni/kaleidoscope/2010/programme.html)で得られますので、ここでは概要のみ触れます。2010年12月13日から15日まで、インド政府の招聘により、ムンバイの近く、大学施設が多く集まるプネのSTES (Singad Technical Education Society)のホストで開催され、26カ国から335名を超える標準化活動者と大学関連の参加者が得られました。また、会議に並行して、IPTVの標準化会議と相互接続実験イベントも開催することで大盛況なイベントとなりました。特に、現地のインドからの参加者が多く、国内標準化組織を立ち上げつつある新興国インドの熱気を大変強く感じることができました。
今回の会議のテーマは、“Beyond the internet – Innovations for future networks and services”とし、将来のインターネットに関するネットワークの変革技術、サービス創造、社会経済学の観点からの課題などについて議論しました。本会議には、3件の基調講演と4件の招待論文に加え、論文募集に対して115件の論文投稿があり、厳しい査読審査の結果、23件の講演発表と14件のポスターセッション発表が行われ、その中で、最優秀論文賞として、上位3件の論文が選定され、総額10,000ドルの賞金が提供されました。今回も日本からの論文が上位に入賞し、基調講演には斉藤忠夫先生(東京大学名誉教授)、招待講演には安田浩先生(東京電機大学教授)にご参加いただき、本会議への日本の貢献は大変に大きいものです。
本会議はITU-Tが主催で、資金スポンサーとしてシスコ、ノキアシーメンスネットワーク、MYFIRE(インド)に貢献していただき、また協賛としてGISFI(インドの新しい標準化組織)、インドITU-APT財団、インドCMAI協会の協力を得ました。今後、日本の企業の皆様にも、スポンサーとして、参画していただく良い機会になるのではないかと思っております。また、IEEEの通信ソサイエティ(IEEE ComSoc)が協催し、本会議の論文集はIEEE Xploreを通じて入手できるようにするとともに、優秀論文と招待論文はIEEE Communication Magazineに特集号として、2011年6月号ごろに掲載される予定です。IEEE Communication MagazineはIEEEで最も購読数の多い雑誌であり、論文採択率は大変厳しいものとして有名ですので、論文投稿者には魅力的なおまけといえるのではないでしょうか。
私は、第1回から3回まで総合議長として企画運営に携わってきましたが、本イベントも軌道に乗り始めてきたことと、2010年10月から新たにTTCの本業に就き、稼働の制約も考慮し、今回をもって議長職を引退することとしました。ただ、TTCの標準化においても、今後のアカデミアの皆さんとの連携の重要性は同じであり、大学や学会などとの繋がりを強くするための企画に知恵を出していきたいと思います。また、まだ思いつきレベルですが、TTC会員の規程の中にも、アカデミア会員の特別枠をどのように実現するかも検討していきたいと思っております。皆様のご意見をお聞かせ頂ければと思います。
次回第4回のKaleidoscope学術は、南アフリカからの招聘希望があり、2011年12月(日程と場所は調整中)に、"The fully networked human? − Innovations for future networks and services"をテーマに開催される予定です。論文募集の情報はITU-Tのウェブサイトにありますので(http://www.itu.int/ITU-T/uni/kaleidoscope/2011/index.html)積極的に参加してください。よろしくお願いいたします。