ITU-T局長主催 CxO会合の概要速報
1.はじめに
ITU-TのTSB局長(Chaesub LEE氏)が主催するCxO会合が、12月7日、UAE(アラブ首長国連邦)のインターコンチネンタル・フェスティバル・シティ(ドバイ)で、Telecom Review出版社とUAEの通信オペレータであるDUの共同ホストにより開催されました。
COVID-19の影響を考慮し、現地参加とリモート参加のハイブリッド形式での開催となりました。今会合は、Telecom Review出版社が企画するTelecom Review Leaders Summit(12月8日開催)との併催で実施されました。
CxO会合は、2016年のWTSA(世界電気通信標準化総会)決議68に基づき、TSB局長が主催する産業界の上級幹部(CxO)との会議で、標準化の展望、標準化の優先課題及び民間企業のニーズや標準化状況について議論するための会議として位置づけられます。
CxOとは、CTO(Chief Technology Officer)やCEO(Chief Executive Officer)などを含む上級幹部のことで、技術のみならず経営、情報管理などの幅広い視点で、産業界の優先課題と関連標準化について意見交換を行うことが期待されています。
前回のCxO会合は2019年12月にドバイで開催され、2020年はCOVID-19の影響で開催を見送りましたが、今回はハイブリッド形式ですが、ドバイでの連続開催となりました。TSB局長にとって、2020年3月以降、COVID-19の移動制限で、ジュネーブ以外での物理的に参加する会合として最初の会合となったということです。
2.会合セッション構成
今会合の主要テーマは、各CxOからの提案をもとに、IMT-2020/5G、オープンRAN、光通信、人工知能 (AI) および機械学習 (ML) 、環境効率、サプライチェーン・セキュリティ、ネットワーク・インフラ共有などの分野における業界の優先事項と、デジタル変革(デジタルトランスフォーメーション)との関係に視点がおかれた標準化課題について議論しました。また、CxOは、特にAI/ML分野における情報通信技術 (ICT) の開発と応用における産学間の相乗効果の拡大を支援し、活用する手段について意見を共有しました。
これらのテーマを議論するために、今回のCxO会合は、表1のセッションテーマと講演者により構成され、CxO間で共有された今後の課題について、共同声明(コミュニケ)としてまとめました。以下に議論概要を報告します。
表1 セッションテーマ構成
セッションテーマ | 発表者 | |
---|---|---|
1
|
Executive Briefings
1. WTSA-2020: Updates
2. Outcomes from previous CxO meeting
|
TSB
|
2
|
Theme: 5G
1. Building 5G Network to Accelerate Monetization
2. Monetarizing 5G/role of private networks – ‘’5G Big Inversion’’
3. Network sharing
4. 5G Empowering Digital Transformation
5. Update on LCA & LiFi
6. Open RAN
|
DU
Nokia Bell labs
China Telecom
ZTE
pureLiFi
Etisalat
|
3
|
Theme: ICT energy efficiency and carbon reduction requirements
1. Green networks (Orange)
|
Orange
|
4
|
Theme: AI, ML and Academia involvement in the ICT sector
1. AI & ML as future game changers in MENA
2. AI & Multimedia
3. AI and Road Safety
|
DU
Huawei
Autonomous Drivers Alliance
|
5
|
Theme: ICT Supply Chain
1. SCS 9001 Supply Chain Security Standard
2. Threat Intelligence Informed Supply Chain Security
3. 5G Supply Chain Standard
|
TIA
Sama Partners
ATIS
|
6
|
Theme: Network performance
1. Network Performance in Global Comparison
|
Umlaut
|
7
|
Adoption of Communiqué
|
TSB
|
3.会合の主要結果
3.1 ITU-Tの活動報告
前回のCxO会合の成果の振り返りを行うとともに、2022年3月1日~9日にスイスのジュネーブで開催されるITU世界電気通信標準化会議(WTSA)および2022年2月28日に開催されるITU世界標準シンポジウム(GSS)の会合準備状況に関する紹介が行われました。
前回のCxO会合で議論された課題は、IMT-2020/5G、5Gセキュリティ、5G対応の機械学習アプリケーション、AIと自動運転、ユーザ認識QoS、自律ネットワーク、ネットワークインフラストラクチャ共有、オープンRANでした。これらのテーマについては、2019年12月のCxO会合以降、関連SGでの新規課題の検討に反映されたり、検討を加速するための新規FG(Focus Group)を設立するなどの動きに反映されていることが紹介されました。
3.2 デジタル変革のための5G基盤
オンライン小売、メディア、銀行などのデジタル業界は、デジタル化の可能性の大部分を実現してきていますが、5GはICTの進化により、製造、医療、輸送、物流、鉱業、エネルギー事業などのフィジカルな業界に新しいデジタル化の機会をもたらしています。
CxOは、5G資産の価値創出とそれに伴う収益化は、ネットワーク事業者がさまざまな業界のニーズに合わせて差別化されたサービスを提供することによって推進され、COVID-19の世界的流行と需要と供給の急激な変化に対応する業界の能力を考慮すると、安全性、生産性、効率性の向上という点で、業界のデジタル化によって大きな価値が生み出されることを強調しました。
CxOは、5Gはデジタル変革の基盤を提供するが、フィジカルな業界の変革は、5GテクノロジとAI/ML、ビッグデータ、IoTなどの分野のテクノロジとの統合にかかっていることを認識しています。この認識を受けて、CxOは、デジタル変革を推進する分野横断的なパートナーシップと、スマートシティ、保健、エネルギー、交通、農業、金融などの分野におけるデジタル変革のためのITUのICT標準策定を支援するITUの取り組みを強調するようになりました。CxOはまた、低炭素の未来と国連の持続可能な開発目標を追求する上で、この作業の重要性を強調しました。
CxOは、汎用ハードウェア、標準化されたインターフェイス、仮想化されたネットワーク要素で構築された 「オープンRAN」 は、イノベーションと新しいコスト効率を促進する多様な基盤となるビジネスエコシステムによって特徴付けられるべきであると強調しました。CxOが克服すべき課題として挙げているのは、オープンなRANインターフェースと機能の間で、標準化されたソリューションとセキュリティの相互運用性を確保する必要性です。CxOは、調和されたオープンRAN仕様の重要性を強調し、ITUが特に、O-RANアライアンス、Telecom Infra Project、Open Networking Foundationの作業を検討し、ITU標準化作業への影響を特定し、協力の可能性を探ることを提案しました。
CxOはまた、WiFiを補完する光通信の価値についても議論し、容量、遅延、セキュリティ、サービス品質に関する光通信の強みと、ますます混雑する無線周波数スペクトルの負荷を軽減する価値に言及しました。CxOは、2019年に提供された高速屋内可視光通信用のITU標準に準拠した製品の入手可能性に言及し、光通信用の今後のIEEE標準について説明しました。
ネットワーク・インフラストラクチャの共有がもたらす機会と課題は、5Gの導入に関するCxOの議論のもう1つの重要な要素でした。CxOは、事業者のCAPEXとOPEXを削減するためのネットワーク・インフラ共有の可能性について議論し、5G展開に存在するネットワーク機器の高度化と密度に関連するコストの増加に言及し、ITU標準化作業がこの点に関して業界に適切なガイダンスを提供できることを示唆しました。
TSB局長Chaesub LEE氏は、会合の中で交換された5Gによるデジタル化に関連する経験と課題を共有し、すべての産業と政府の利益を図るために、ITUにアドホックグループを設立することを提案しました。CxOはこの提案を支持し、その実施についてさらに詳細に議論することに同意しました。
3.3 複雑なICTエコシステムにおける環境効率とセキュリティ
CxOは、ICTの環境への影響を低減するために、業界関係者間の協力と関連する標準化活動の重要性を強調し、消費電力をどのように測定し制御するか、またICTメーカーの間でエコデザインと循環型経済の原則をどのように主流化するかという重要な指針となる問題を指摘しました。
CxOは、ITUで進行中の関連標準化作業の関連性と、GSMA(Global System for Mobile Communications Association)、およびNGMN(Next Generation Mobile Networks)との協力を支援することの価値に言及しました。ITUで進行中の標準化作業をレビューする中で、CxOは、ネットワーク機器の簡素化された環境フットプリント評価システムと、ネットワーク機器ライフサイクル評価のモデリングルールを提供する新しい標準の開発を検討するようITUに提案しました。
CxOは、ICT業界のサプライチェーンの複雑さ(5Gアプリケーションの多様性によって複雑さが増幅される)は、サプライチェーンのセキュリティへの関心を高める必要があると強調しました。CxOは、TIA(Telecommunications Industry Association)とATIS(Alliance for Telecommunications Industry Solutions)で進行中のサプライチェーン・セキュリティ標準化プロジェクトについて説明を受け、いくつかのCxOはこのテーマに関するさらなる国際対話を奨励しました。CxOは、今日のICTサプライチェーンを構成する多種多様なベンダーと技術クラスを認識し、サプライチェーンのセキュリティのソフトウェア、ハードウェア、およびサプライヤ構成について、グローバルに調和した理解を構築することの重要性を強調しました。
3.4 AI/MLとデータの育成の必要性
我々の経済全体にわたるデジタル変革の加速に関連する多様な範囲のICTアプリケーション及びサービスの共存を支援するために、ネットワークが複雑になるにつれて、ネットワークの最適化はますます困難になり、ますます重要になっている。
CxOは、ネットワークの最適化において、AI/MLが重要な役割を果たすとの見解を共有し、同時に、この点で産学間の協力が増えていることの価値と、ITU AI/ML in 5G Challengeなどのイニシアチブが提供するこの協力への支援の重要性を強調しました。
CxOによると、5Gと「Beyond 5G」の接続性を、AI/ML、IoT、高度なクラウドコンピューティング環境と組み合わせることで、業界のさまざまな分野における将来のICTユースケースを実現できるという。この認識を受けて、CxOはITUに対し、AI/MLのトレーニングと評価に必要なコンピューティングリソースと高品質データへの広範なアクセスをサポートするために必要な協力を促進するよう要望しました。
CxOは、中東・北アフリカ地域(MENA:Middle East & North Africa)とITUのAI/MLサンドボックスとの相互作用を促進し、ITUとGSMAはAI/MLに関する協力を強化することを推奨しました。
業界内および業界間の協力の重要性は、AI/MLの進歩に伴うマルチメディアおよびインテリジェント交通システムの新たな可能性に関するCxOの議論の主要なテーマとして認識されました。CxOは、ITU、ISO、IECがこの分野で主導的な役割を果たしていることを認識し、AI/MLに富んだマルチメディア標準の開発に貢献しているコミュニティ間の緊密な協力を促進するため、ITUへの支援を強調しました。
CxOはまた、自動運転車を制御するAIシステムの行動性能を継続的に監視するための新たな基準に向けたITUの取り組みへの支持を強調し、ITUと国連事務総長の道路安全担当特使および技術担当特使がパートナーシップを組んで主導する新たな 「AI for Road Safety」 イニシアチブへの強い期待も強調しました。
4.参加した団体
- AT&T【米国】;
- Alliance for Telecommunications Industry Solutions (ATIS) 【米国】;
- Autonomous Drivers Alliance (ADA) 【香港】;
- Benya Group【エジプト】;
- Catronic Enterprise【カナダ】;
- China Telecommunications Corporation【中国】;
- Cisco System, Inc. 【米国】;
- Citibeats【スペイン】;
- CommScope【UAE】;
- Emirates integrated telecommunication du【UAE】;
- Emirates Telecommunication Corporation – Etisalat【UAE】;
- Ericsson【スウェーデン、米国】;
- Fujitsu, Ltd【日本】.;
- Futurewei【米国】;
- HPE; Huawei Technologies Co., Ltd【米国、スイス】;
- IBM【米国】 ;
- Insikt Intelligence 【スペイン】 ;
- JSC "Kryptonite" 【ロシア】;
- Juniper Networks【米国】 ;
- NBN Corporation Limited 【オーストラリア】;
- Nokia【フランス】;
- Nokia Bell Labs【米国】;
- Ookla【米国】 ;
- Orange SA【フランス】;
- Organisation Arabe des TIC【チュニジア】 ;
- pureLiFi Ltd.【英国】 ;
- Rohde & Schwarz【ドイツ】;
- SAMA PARTNERS【チュニジア】 ;
- Samsung Electronics【韓国】;
- Sofrecom - Orange Group【UAE】 ;
- Spark NZ Ltd【ニュージーランド】;
- Sumitomo Electric Industries, Ltd. 【日本】 ;
- Telecom Review【米国】;
- Telecomm & Digital Gov Regulatory Authority (TDRA)【UAE】;
- Telecommunications Industry Association (TIA) 【米国】;
- TOGOCOM【トーゴ】;
- Trace Media【UAE】;
- TTC Japan【日本】;
- Tunisie Télécom【チュニジア】;
- Türk Telekom【トルコ】;
- umlaut communications GmbH【UAE、南アフリカ】;
- Zenaciti【米国】;
- ZTE Corporation【中国】
5.まとめ
5.1 CTOコミュニケ
今回のCxO会合の議論概要はコミュニケとして公開されます。このコミュニケの内容は、2022年1月のTSAG会合に展開され、今後のITU-Tでの標準化戦略の検討に反映される予定です。
5.2 今後の予定
ITU-Tの扱う課題とそれらを議論するメンバーの範囲が拡大しつつある中で、産業界の技術動向と要望に対応したITU-Tの組織構成の議論が重要であり、CxO会合で強調された動向を把握することが重要と考えます。WTSA-20での合意に反映できるように、TSAG会合を活用し、ITU-TのSGの役割と体制の見直しについて検討していく必要があります。
執筆 : 前田 洋一
TTC専務理事を退任し、2021年1月より参与となりました。
引き続き会合速報などをたまに執筆してまいります。