ブログ

「自律型ネットワーク」に関するフォーカスグループ(FG-AN)の概要

maeda-tubuyaki.png
 

はじめに

 1月に開催された第7回TSAG会合報告(マエダ日記2021年1月20日号)のITU-Tの新規FG(フォーカスグループ)活動動向の中で、Autonomous Networks(自律型ネットワーク)に関するフォーカスグループ (FG-AN)を紹介しました。FGの動向は、WTSA-20での次会期のSG体制における新規課題の検討体制と密接な関係が予想され、今後の審議動向を把握することが重要となります。

 本FG-ANの設立は2020年12月のSG13会合の決定で、日本の楽天モバイルからの新規提案によるものです。FG議長はLeon Wong氏(楽天モバイル)で、第1回FG-AN公式会合が2021年2月2~4日にバーチャル会議で開催され、FGの検討課題と検討体制が議論されました。第2回会合は2021年4月13~16日に予定され、本格的な検討が開始されます。本FGでは、公式会合の間で毎週木曜日に電子会議を開催し、時間的制約で公式会合ではカバーしきれなかった課題を議論します。

 今回のマエダ日記では、今後のITU-Tの新規標準化トピックとしての「自律型ネットワーク」課題に関心を持っていただき、日本発のFG活動に積極的に参加いただくために、FGのTerms of Reference(委託事項)文書をもとに、FG-ANの背景を概説し、FGの最新の検討状況を紹介します。

目次

1 FG-ANの検討背景
2    FG-ANの活動目的
3    FG-ANのWG(作業部会)検討体制
4    FG-ANの会合文書
5 組織関連事項
6    マネジメント体制
7    今後の予定

1 FG-ANの検討背景

 現在および将来の通信ネットワークは、日常生活の中心にある社会基盤であり、研究からビジネス、娯楽から緊急サービスに至るまで、さまざまな形態の情報交換を支えるものです。通信ネットワークの需要が、加入者数の増加と新しいサービスの期待によって増大してきており、通信オペレータは運用コストを考慮しながら、同時に、これら需要変化に対処する新しい方策を見い出していかなければなりません。

 ソフトウェアによる仮想化へのデジタル変革により、通信オペレータは、ネットワークを管理するメカニズムを提供しながら、通信インフラストラクチャの統合と簡素化を進めてきました。しかし、これらメカニズムの制御は、依然として主に人間であるオペレータ、または、きちんと定義された自動化プロセスによって行われています。人間によるオペレータは、ネットワークの需要変化に対してタイムリーな応答ができない、事前定義された自動化には、刻々と変化する環境や、最新の通信ソフトウェアネットワークに見られる問題に適応する機能がない、という課題があります。ゆえに、将来ネットワークが自律性を有するネットワーク(autonomous networks)に発展していく必然性があります。

 自律型ネットワークとは、自動による監視、運用、復旧、修復、保護、最適化、および自己再構成の能力を持つネットワークのことです。自律性がネットワークに与える影響は、ネットワークの計画、セキュリティ、監査、棚卸、最適化、オーケストレーション、体験品質を含むすべての分野におよびます。同時に、自律性が、顧客に対して非人間的な判断を行った場合に、責任ある対応ができるのかという疑問があります。

 通信分野における仮想化とクラウド技術の進歩により、自律的なソフトウェア制御への道が開かれました。クラウドコンピューティング技術とソフトウェアによる仮想化によって実現されるネットワークアーキテクチャは、機械学習(ML:Machine Learning)技術の統合により適しており、自律的な動作を実現します。ITU-TのSG13で行われた5 Gを含む将来のネットワークにおけるクラウドコンピューティングとAI/ML統合のユースケース、要件、アーキテクチャに関する検討は、このFG‐ANの提案と良く整合しています。

 FG-ANは、ITUや他のSDO、産業界、学術界の専門家間の相互連携を可能にし、適切な人材、知識、経験の相乗効果を可能にし、将来のネットワークにおける自律性にタイムリーに対応する自律型ネットワークに関する標準化の事前検討のためのオープンプラットフォームとして機能します。FG-ANは、オンライン進化メカニズムを活用し、適応を自律的ネットワークを達成するための触媒として可能にする創造的なインテリジェンス技術を探求します。FG-ANは、自律的なネットワークを実現するために、探索的進化、創発的振舞い、リアルタイムでの応答実験などのアプローチを探求し、研究します。併せて、これらは自律性への触媒として進化メカニズムをもたらし、新たな抽象化レイヤを提供するでしょう。この取り組みは、SDO、学界、オープンソースグループ、および業界研究者による既存の作業を補完し、相互運用することを目的としています。

2 FG-ANの活動目的

 自律型ネットワーク(Autonomous Networks:AN)の重要な概念は、探索的進化、リアルタイム応答型実験、動的適応の3つで、FG-ANの主な目的は、これらのトピックに関連する標準化に関する事前検討を実行し、必要に応じて他の技術を活用するためのオープン・プラットフォームを提供することです。

  • 探索的進化: ネットワーク内の動的変化に対応するために、クローズドループ自動化の 「制御」 は、目の前のタスクをより適切に解決するために、オンライン(リアルタイム)で更新または進化できなければなりません。
  • リアルタイム応答型実験: ネットワークは予期せぬ、現実的な状況を実験し、学習する必要があります。
  • 動的適応: ネットワーク(新しい技術、用語、インターフェース、アーキテクチャ、分類法など)において、上記の概念をどのように適用し、実現するかを検討します。

以下に、具体的な検討内容を解説します。

  • 自律型ネットワークの意味と特性を調査
  • 特に、自律型ネットワークにおける創造性に関する概念定義、IMT-2020を含む将来ネットワークにおける自律性の実現手段としての閉ループ又は「制御」、自律型ネットワークにおける探索、実験及び適応、並びにFG-ANにおける研究の一部として開発されたその他の不可欠な概念定義の検討に焦点を当てる。
  • 【注】 閉ループ、コグニティブループ、MAPE-K(共有ナレッジ上での監視-分析-計画-実行) 、OODA(観察-仮説構築-意思決定-実行) などさまざまな名前があります。
  • キーコンセプトを実現するために、技術的イネーブラーによって使用される人間または機械が作成した分類法またはオントロジーを学習する。
  • 自己適応の文脈における自律型ネットワークの概要に関する成果物を作成する。
  • 自律型ネットワークの進化を可能にする技術検討と提案
    • 他のグループで行われた作業を分析し、将来ネットワークで自律型ネットワークを実現する際の作業ギャップを特定する。
    • 将来ネットワークにおける自律性のためのキーコンセプトに基づいた関連したギャップと、他のグループからの既存のソリューションの再利用の可能性を検討する。キーコンセプトには、探索的進化、リアルタイム応答型実験、将来環境への動的適応、技術とユースケースなどさまざまな要素があります。
    • 上記を踏まえ、ネットワークにおける自律性のための技術的実現手段を提案する。
  • リアルタイム応答実験を通して、より高いレベルの自律性を実現するためのガイドラインを提供する。
    • 次のことが可能なアーキテクチャ概念のPoC(概念実証)またはガイドラインを作成する。
      • 進化した成果物を受け入れる(上記の発展の成果)。
      • これらの進化した成果物を適切に検証するために、新しいリアルタイム応答実験を構築する。
      • 進化した成果物を検証する。
    • 機械学習サンドボックスなどのITU標準化技術と連携して、シミュレーション、健全性チェック、堅牢性など、リアルタイム応答性実験を実現するための既存の取り組みの活用に関し報告する。
    • リアルタイム応答実験を自動化するだけでなく、新しい実験の必要性を分析することを可能にするアーキテクチャメカニズムを研究する。
    • このような実験を文書化するために必要な仕様言語/表現について報告する。
  • 自律性を実現するために、将来ネットワークに適応するための要件とアーキテクチャを規定する。
    • 特に機械学習機能オーケストレータ (MLFO) のようなオーケストレーション手法を使用して、マルチドメインシステムの自己適応に関する進化の限界を理解する。
    • 自律性と将来ネットワークとの関係を、相互作用点、データ共有と速度、安全な運用範囲に関して特定する。
    • 人間の介入なしに新しいユースケースを検証するための相互運用可能なインターフェイスの作成を可能にする。
  • 他の組織との連携
    • 自律型ネットワークに関連する標準化活動やオープンソース活動、特にユースケース、要件、アーキテクチャ、PoCに貢献する可能性のある他の組織との連携や関係を確立する。
    • 現在および将来のネットワークにおける自律性のための既存の技術、オープンソースプロジェクト、プラットフォーム、ガイドライン、および標準を研究、復習、調査する。​​​​​
作業部会 作業項目 成果物
WG1
ユースケースと要件の分析
  • 非機能的な側面を含むユースケースの収集、分析
  • ユースケース分析に基づく自律ネットワークの一般的な要件を研究
ユースケース要件と分析に関する技術レポートと仕様
WG2
アーキテクチャコア技術要素
探索的進化
  • 進化のさまざまな推進要因とメカニズムを研究
  • 進化的概念をさまざまなユースケースに適用するためのガイドラインを作成
  • 相互運用性とオープン性の特徴を持つ進化的メカニズムの適用を特定
リアルタイム応答実験
  • 実験の自動化を可能にするメカニズムを研究し、新しい実験の必要性を分析
  • その実験を文書化するために要求される仕様言語/表現に関する報告
  •  実験を応用するためのガイドラインを作成
動的適応と自律性
  • 探索的進化とリアルタイム実験に基づく自律的抽象化レイヤのための一般的なアーキテクチャモデルと参照アーキテクチャの統合
  • 人間の介入なしに新しいユースケースを達成するために、自律的な相互運用可能なインターフェースの作成を可能にするメカニズムを研究
  • 自律的な動的適応を目的として、アーキテクチャまたはそのサブエレメントを記述するために必要な分類法、オントロジー、または仕様言語を定義/文書化
アーキテクチャ、技術イネーブラ、及びシステムに関する技術レポートと仕様
WG3
概念実証(PoC)
  • ユースケースとアーキテクチャに沿った実証可能なPoCの実現
  • 既存のプロトタイプ、オープンソース、プラグフェスト、ハッカソン、その他のイベントに関して、他のグループと協力し、積極的なコラボレーションを実施
技術レポートとそれを支援するデモンストレーション

4  FG-ANの会合文書

 FG会合の文書(寄書) は、フォーカスグループのSharePointサイト(https://extranet.itu.int/sites/itu-t/focusgroups/an/SitePages/Home.aspx)の入力文書サイト (https://extranet.itu.int/sites/itu-t/focusgroups/an/input/Forms/AllItems.aspx) から入手可能です。

5 組織関連事項

 FG-ANの親グループはITU-TのSG 13 「IMT-2020、クラウドコンピューティング、および信頼できるネットワークインフラに焦点を当てた将来のネットワーク」であり、SG13と緊密に連携し、可能であれば同じ場所での会議開催を推奨します。

 FG-ANに関する組織規程は勧告ITU-T A .7に従い、他の関連するグループや団体と必要に応じて協力します。これには、地方自治体、非政府組織 (NGO) 、政策立案者、SDO、業界フォーラム、コンソーシアム、企業、学術機関、研究機関、オープンソース団体、およびその他の関連組織が含まれます。

6 マネジメント体制

  • 議長:
    Leon Wong氏 (Rakuten Mobile;日本)
  • 副議長:
    Xu Dan 氏(China Telecom;中国)
    Salih Ergut 氏(Turkcell;トルコ)
    Gyu Myoung Lee 氏(KAIST;韓国)
    Vishnu Ram OV 氏(Independent Expert;インド)
    Cao Xi 氏(China Mobile;中国)
  • FG-AN 事務局: ​​tsbfgan@itu.int​​​​​​​

7 今後の予定

  • 第2回FG-AN会合:2021年4月13~16日(日本時間:19:00~23:30)
  • FG-ANへの今後の対処については、TTCにおいて情報交換を図り、日本がより貢献できるアドホックグループを構成するなどの案があり、皆さま方の積極的な参加を期待します。​​​​

執筆 : 前田 洋一
TTC専務理事を退任し、2021年1月より参与となりました。
引き続き会合速報などをたまに執筆してまいります。