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頭文字SDGシリーズ:ジェンダー格差解消APT研修

   2025年2月3日(月)から7日(金)まで、2023年度に引き続き、 APT研修「ジェンダー格差解消と地域課題に対応するモバイルソリューションアーキテクトの養成のためのワークショップ」を東京と山梨で実施しましたので、報告します。

1.  背景と実施概要

  ITUの統計情報によると、世界的に見て女性と男性のインターネット利用者数はほぼ同じですが、新興国では先進国に比べて女性のインターネット利用者がわずかであり、またアジア太平洋地域ではデジタルジェンダー格差が拡大しています。

  TTC BSG (Bridging the Standardization Gap) 専門委員会では、2023年度、日本政府からの特別拠出金の支援を受けて情報通信行政に携わる女性専門家を集めたAPT研修 を初めて開催しました。2024年度も同研修がAPTで採択され、実施されることとなりました。本研修は、アジア・太平洋地域で特にデジタルジェンダー平等の実現を支援するために、ICT分野の女性専門家を育成することを目的としています。

  2024年度は10カ国(バングラデシュ、ブータン、イラン、ラオス、マレーシア、モンゴル、ネパール、スリランカ、タイ、トンガ)から10人の研修生が参加しました。研修では、現地視察、ディスカッション、グループワーク、講義を通じて、各国の女性ICT専門家の活躍状況に関する報告、活躍を促進するために必要な政策に関する知見の紹介、日本の女性ICT専門家との間での意見交換などが行われました。

  研修プログラム「ジェンダー格差解消と地域課題に対応するモバイルソリューションアーキテクトの養成のためのワークショップ」では、アジア・太平洋地域の情報通信行政分野の女性が参加し、ICTのユースケースを視察、日本の女性ICT専門家との間で議論する機会を持ちました。

研修参加の皆様
研修参加の皆様
  2月2日(日)
2月3日(月)
2月4日(火)
2月5(水)
午前
到着
オープニング、カントリーレポート報告
KDDI施設視察
総務省表敬訪問
午後
カントリーレポート報告(続き)&九州工業大学による講演
KDDIミュージアム視察、KDDIによる講演&ディスカッション
NTTアグリテクノロジー施設視察、NTTアグリテクノロジーによる講演&ディスカッション
 
2月6日(木)
2月7日(金)
2月8日(土)
午前
東京→山梨
最終プレゼンテーション&クロージング・サマリー

出発

午後
NTTによる講演、グループワーク
山梨→東京

2.  研修概要

2.1   カントリーレポート報告

 

カントリーレポートは、以下の課題の内容を含むように研修生に作成を事前に依頼しました。

  • 第一次産業におけるIoTを含む情報通信技術の活用、現状と課題
  • ICT分野で活躍する女性専門家の割合と数、具体的な課題
  • ICT分野における女性専門家の育成状況 (既存の取り組みの紹介)

  研修生からは、ラオスの国家デジタル経済発展ビジョン、戦略計画、トンガの女性支援プロジェクトなど、第一次産業におけるICT活用やAPT地域におけるICT分野の女性専門家の現状について報告されました。各国のカントリーレポートの内容は、日本にとっても参考になるとともに、研修での議論の提言のベンチマークとしても有用でした。

2.2   講演

  2024年度の講演では、日本の第一次産業におけるICTの利用について、さまざまなトピックが取り上げられました。その一部を以下に要約します。

  初日の2月3日(月)午後、以前SHAREの視察、意見交換で大変お世話になった九州工業大学の石井 和男教授より「スマート農業に向けたIoTデバイスによる温室効果ガスの環境監視と制御に関する演習」と題し、人手不足や大量の手作業の必要性などの問題に対処するためのスマート農業(ロボット、AI、IoTなどの先端技術を活用した農業)について講演頂きました。

  2日目の2月4日(火)午後、KDDIミュージアムを視察した際に、KDDIより「サステナビリティ×オープンイノベーションイニシアティブ」と題し、持続可能な成長と企業価値の好循環を創造・実現するためのKDDIのサステナビリティ経営への取り組み、すなわち経営計画の中心としてのサステナビリティ経営について講演頂きました。

  3日目の2月5日(水)午後、NTTアグリテクノロジーの施設を視察した際、同社よりDX・GXによる新たな農業のあり方への挑戦について講演頂きました。講演では、NTTアグリテクノロジーの食品・第一次産業に特化した技術活用におけるNTTグループの取り組みを紹介いただきました。参加者は、NTTアグリテクノロジーのミッション、イノベーション、インパクトの概要に加えて、主要なプロジェクト、成果、今後の目標について学ぶことができました。産業の発展におけるテストファームの取り組みの重要性が強調されました。

  4日目の2月6日(木)午後、ICTは環境問題やSDGsにどのように貢献できるか について、NTTから講演を頂きました。講演では、生物多様性の重要性、サーキュラーエコノミー、気候変動への対応における緩和と適応の重要性について紹介がありました。また、水田のIoTを活用したスマート農業や食品素材の地域循環システムなど、グリーントランスフォーメーション(GX)の事例も紹介されました。

  これらの講演では、ICTが第一次産業の課題解決にいかに役立つかが強調されました。参加者からは、日本では多くの取り組みが試行されていることを知ったという声が多く聞かれました。

2.3   表敬訪問、現場見学

  2日目の2月4日(火)、研修生はKDDI多摩センタビルを訪問し、KDDIネットワーク監視センタ、KDDIミュージアムを視察しました。ネットワーク監視センタでは、研修生から災害時のネットワークの迅速な復旧体制について関心が寄せられました。ミュージアムでは、国際電信電話の歴史から最新のサービスまでを知ることができました。歴代の携帯電話端末の陳列は圧巻でした。

歴代の携帯電話端末
歴代の携帯電話端末

   3日目の2月5日(水)午前、研修生は、総務省国際経済課を表敬訪問しました。同課からは、日本政府としてのジェンダー平等の重要性と本研修の有用性についてご説明頂きました。研修生からは、日本政府へ研修実施の支援についての感謝の意が示されました。

  3日目の2月5日(水)午後、研修生は、NTTアグリテクノロジーの施設NTT e-City LaboにおいてNTTアグリテクノロジーの「最先端農業ハウス」「レタス栽培工場」「都市型バイオマスプラント」「遠隔農業指導コックピット」「地産エネルギー×地域産業振興」「AI収穫予想」「野菜自動販売機」「電圧冷蔵庫」「スマートストア」「ドローン」など農業技術の実際の活用方法を体験しました。食品残渣から再生可能エネルギーを生成する「都市型バイオマスプラント」は、メタンガスを発生させて発電や給湯に利用します。産業廃棄物処理コストの増加や食品廃棄物焼却における環境悪化の解決に役立つとともに、発電を温室に利用し、資源循環モデルを構築しています。今回の研修のテーマである「ICT×農業×気候変動」に大変参考になる視察でした。​​​​​​​​​​​

NTTアグリテクノロジーの施設見学
NTTアグリテクノロジーの施設見学

2.4   グループワークとディスカッション

  研修生は、研修コース全体を通したグループワークとディスカッションを行いました。

  2日目の2月4日(火)午後、KDDIの視察後に同社の女性ICT専門家と、視察についての感想やサステナビリティの取り組みについて意見交換を行いました。参加者との意見交換では各国の通信・データセンターの電力問題について議論されました。一部の国では水力発電が45%を占めるなど、再生可能エネルギーの活用状況に違いがあることが共有されました。日本の通信会社はカーボンニュートラル目標に積極的である一方、バイオプラスチックについては素材ごとの特性から用途が限定され、普及途上であることが課題として挙げられました。

  3日目の2月5日(水)、NTTアグリテクノロジーの視察後、研修生に同社の女性社員の方々が加わり2つのグループに分かれて、自国における農業分野における課題(人手不足、後継者育成や技術継承、育成者、助言者不足、自然災害、気候被害へ復興、輸送コスト、CO₂排出量等)の共通点と異なる点、視察した項目の自国への展開可能性と実装の際の課題、自国の農業に関する課題を解決する将来ビジョンやソリューションについて意見交換を行いました。

  4日目、5日目の2月6日(木)、7日(金)には、日本のICT女性専門家5名(三菱電機、NTT、NTTドコモ、電通総研等)にもご参加いただき、全体的なディスカッション、サイト訪問、講義を踏まえ、以下の2つのトピックについてのグループワークを行いました。6日午後には各研修生で検討を行いました。

トピック1:あなたの国で女性のICT専門家を増やすために考えられる政策

トピック2:「ICT×農業×気候変動」気候変動の影響を受ける農業に対応する、自国で実施できるICTソリューション

  図1はトピック1で最も多く言及されたアイデアを示しています。​​​​​​​​​

図1 研修生からのアイデア
図1 研修生からのアイデア

  トピック2については、ドローン、スマート灌漑システム、天気予報、IoT、GISなどのキーワードが多く言及されました。

  最終日には、前日検討した2つのトピックについて研修生毎にプレゼンテーションを行った後、参加者が2つのチームに分かれ、トピック1の女性ICT専門家を増やすための共通の解決策について議論しました。

  グループAは、経済的支援を通じたスキル開発への投資、コーディングなどのオンデマンドスキルの育成に焦点を当てたセミナー、ワークショップ、トレーニングセッションなど、女性に特化したICTトレーニングプログラムの提供の重要性を強調しました。「公平な環境」の育成も重要な要素であると結論付けられましたが、これは、ジェンダー平等の推進からリモートワークの機会の提供にまで及んでいました。

  グループBは、女性ICT専門家の増加のための3つの主要な分野は、政策、教育、リーダーシップであると発表しました。「政策」には、ジェンダーを含む政策、規則、規制、法律の実施、ジョイントベンチャーとコラボレーション、「教育」には、STEMプログラムの強化、奨学金と助成金の提供、「リーダーシップ」には、地域、国内、国際のあらゆるレベルの研修、ワークショップ、会議の利用が含まれていました。

  両グループで言及された解決策はある程度異なっていましたが、女性のICT専門家の増加には、財政的支援と研修セッションが共通の優先事項と考えられていました。

2日目の様子
2日目の様子
3日目の様子
3日目の様子
4,5日目の様子
4,5日目の様子

3.  研修生からのフィードバック

  5日間のプログラムを通してアンケートを実施し、研修生からは現地視察、講演、グループワークに関する様々なフィードバックを頂きました。頂いたコメント例を示します。

「この5日間で多くのことを学び、母国で実施する必要があることを実感しました。具体的には、通信技術を活用した新しい製品やサービスを生み出す際には、環境に配慮し、人々が使いやすいものにすることを重視すべきです。しかし、人々の考え方や物事に対する姿勢を変えるためには、私たちが努力する必要があることもわかりました。この研修から多くの新しいアイデアを得て帰ってくることができ、とても感謝しています。今回の研修を企画してくださったAPTとTTCのチームに改めて感謝申し上げます。」

「このワークショップが、ジェンダー平等とICTに関する意識を高め、行動を促す機会であったとすれば、重要なポイントは、従来男性が支配的であった産業におけるジェンダーギャップを埋める上で、テクノロジーがゲームチェンジャーになり得るということでしょう。」

4.  まとめ

  今回の研修では、研修生に、自国で女性のICT専門家を増やすために考えられる政策と近年の気候変動による気温上昇や豪雨による農作物の収穫への悪影響への課題を解決する「ICT×農業×気候変動」のICTソリューション案を策定して頂きました。

  研修生には、本研修コースの内容を参考にして、母国の女性IoT開発者の育成に役立ててほしいと思います。また、女性ICT専門家を増やす政策や地球規模の気候変動対策については、アジア・太平洋地域で議論し、具現化することが重要です。今回は、研修生にはそれぞれの国の言葉で「また会いましょう」を意味する言葉を書いて頂きましたが、約1週間、日本を含めた11ヵ国の異なる国のメンバで議論してきたことを再認識しました。

  今回の研修を実施するにあたり、ご協力いただいた講師の皆さま、 視察の機会とご対応いただいた企業の皆さま、ワークショップにご参加いただいた皆さまに御礼申し上げます。

各国の言語で「また会いましょう」
各国の言語で「また会いましょう」