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頭文字SDGシリーズ:APT標準化人材研修

  TTCでは、2023年度、APT(Asia-Pacific Telecommunity:アジア・太平洋電気通信共同体)が日本からの特別拠出金で実施している研修に提案し、採択され、ASTAPに参加する人材育成を目的としたオンライン研修“標準化の専門家の育成と新興技術の紹介”を実施しました。2024年度も同研修が採択され、今回対面形式で実施しましたので、報告します。

1.  APT標準化人材育成研修の概要

  2024年度の研修は、2024年12月9日(月)から12月13日(金)までの間、TTC会議室等において“Training Experts in Standardization of ASTAP and related organizations~Sharing trends of emerging technologies in standardization~”というタイトルで対面形式により実施しました。研修生として、バングラディシュ、ブータン、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、モンゴル、ネパール、スリランカの9ヵ国から情報通信行政や規制、標準化に関わる11名が参加し、表1に示すプログラムで実施しました。

表1 研修プログラム

2.  カントリーレポート

  研修生からは、自国の情報通信行政の紹介に加え、国内の標準化の体制やプロセスについてご紹介いただきました。研修生が作成した報告書には、組織、ミッション、権限、構造、戦略、ポリシー、運用の概要が述べられていたほか、テレコム、FTTx、衛星、サイバーセキュリティ、AI、試験、認証などの標準化に対する高い関心が示されていました。

  また、参加9か国のうちマレーシア以外はSDOとなる団体が存在していませんが、この報告書により、各国における標準化プロセス等がどのようなものかについての理解が深まりました。あわせて、研修生からは日本の標準化のプロセスについての質問もいただきました。​​​

図1 研修生と講師の皆さま
図1 研修生と講師の皆さま

3.  政府の標準化戦略、国内外の標準化団体の紹介

  研修では、総務省 国際戦略局 澤田 和幸様から、総務省の情報通信技術の標準化戦略(講義2)、小職から日本国内の標準化機関(TTC)の活動紹介(講義1)、NICT 釼吉 薫様からICTの標準化(講義4)、地域標準・ASTAPの標準化(講義5)及び国際標準化・ITU-T(講義6)、勧告草案の作成と提出のスキル(講義7)、日立 三宅 滋様からISO/IEC JTC1の活動紹介(講義3)といった、標準化戦略や標準化団体の紹介を行う講義が行われました。

4.  新興技術の視察

  今回の研修では、NTTドコモの展示ルーム(Future Station)を訪問し、研修生に最先端技術を体験してもらいました。新体感パビリオンでは、大画面で5G回線を使ったリアルタイムビジョン映像、多階層空間VRでは、限られた実空間をVR空間で多階層に拡張した5G活用のコンテンツ、人間拡張基盤技術では、自身の触れた感覚を他者に共有する技術等を体験してもらいました。

図2 人間拡張基盤技術の体験
図2 人間拡張基盤技術の体験

5.  新興技術の標準化動向

  新興技術の標準化動向の紹介として、メタバースについてNICT 今中 秀郎様から(標準化講義1)、AIを活用したネットワーク管理技術について楽天モバイルのWang Leon様から(標準化講義2)、最新の標準化動向について講義して頂きました。研修生は、これら日本の専門家を通じて、最新の技術やそれらの標準化に関する動向についての有益な情報が得られたと思います。

6.  標準化提案文書の策定、標準化模擬会議体験

  釼吉様がコーディネーターとなり、研修生を2つのグループに分け、以下の2つの寄書を作成してもらいました。

  • グループA (バングラディシュ、ブータン、カンボジア、インドネシア、ラオス)、タイトル:国内電気通信の枠組みにおけるIMEI( International Mobile Equipment Identity)登録ポリシーの強化に関する提案
  • グループB (ネパール、スリランカ、モンゴル、マレーシア)、タイトル:偽造品対策におけるITUの役割に関する提案

  模擬会議では、各グループの研修生に持ち回りで議長(報告者)、寄稿者、支持者、反対者の役割を務めてもらいました。この模擬会議は、ITUとAPTの会議規則に従って行われ、最初に議長役の研修生が議題を確認して議論を開始し、次に寄稿者役の研修生が自分のグループで作成した寄書の内容を説明し、その後参加者間で活発に議論を行いました。最後に、コーディネーターが会議でコンセンサスを得るための所見と提案を行いました。非常によく組織されており、本物の国際標準化会議のようでした。なお、TTC BSG専門委員会のメンバが模擬会議に参加し、議論をサポートしました。​​​​​

図3 模擬会議の様子
図3 模擬会議の様子

7.  研修修了書の授与

  研修の修了後、釼吉様から各研修生に対して、修了証が授与されました。​​​​

図4 研修生への修了証授与
図4 研修生への修了証授与

8.  研修生からのフィードバック

  研修生は、標準化活動への参加や標準化団体の役職者への関心を持っていました。今回の研修については、自国の国内標準に国際標準を実装するのに役に立つ内容だった、模擬試験で地域や国際標準化会議での提案を行える知識を得ることができた、などの前向きなコメントがあった一方で、食事のロジスティックスに対する改善の要望を頂きました。

9.  今後の課題

  2023年度に初めて実施した標準化人材のAPT研修はオンラインで実施したため、時差により研修時間の制限があったり参加できなかったりする研修生もありました。今回は対面形式により開催したため、各研修生を直接支援することができました。2回目であったことから、前回のフィードバックを踏まえて研修コンテンツも充実していたかと思います。一方で、食事などロジスティックスの面での課題については改善に努めて参りたいと思います。

  本研修を通じて、アジア太平洋諸国からのASTAPへの参加や提案への貢献が増えることを期待します。また、研修生の中から地域・国際標準化団体で将来役職者になる方々が生まれることを期待します。​​​