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韓国TTAとの共催ワークショップとChung-Ang大学訪問

1.はじめに

  2024年6月12日(水)から6月14日(金)まで韓国の標準化団体であるTTA(Telecommunications Technology Association)等を訪問しました。TTAでは、新設されたグローバルコラボレーションセンタの国際連携プログラムとして、TTAとTTCで関心の高い人材育成をテーマに、共催の形でワークショップを行いました。また、Chung-Ang大学では、標準化教育の取り組みについて意見交換等を行うことができました。

2.韓国Chung-Ang大学への訪問

   6月12日(水)の午後にChung-Ang大学(中央大学、CAU)のYou-Kyu Lee教授を訪問しました。CAUはソウルの有名私立大学で、1961年に設立、学生数32,619人の幼稚園から大学院まである大学です。Lee教授は、標準政策学科に所属しており、標準およびTBT専門人材の育成を推進しています。訪問した際は、教授の通常講義1コマを使い、約20名の大学院生に対して、Lee教授からCAUでの標準&TBT専門人材育成プログラムの開発の紹介、TTC(吉野絵美企画部長)からTTCでの人材育成の取り組み、ITU-T SG16ラポータの川森雅仁氏から学生向けに標準化の意義やITUの特徴についてわかりやすく説明いただきました。CAUでは、標準化だけでなくTBT専門人材の育成を推進しており、経営学部、エンジニアリング部、経済学部、法学部の学内の先生、TTA、KSA(韓国標準協会)、法律事務所、適合性評価機関の外部の講師を迎えて講義が実施されており、日本の大学における標準化を含めたグローバル人材教育に大変参考になりました。

  講義の後に、TTA、TTCとLee教授との間で、CAUとTTCの連携や日本の他の団体・大学との将来的な標準化人材育成の取り組み検討について意見交換を行いました。韓国の大学における標準化教育がどのようにして普及したかとともに、教育を受けた人材が関連の職に就く事の難しさ等を知ることができ有意義でした。今後は、標準化人材育成の共通課題解決に向けた連携のため、MoU締結も含めて検討する予定です。

韓国Chung-Ang大学への訪問の様子
韓国Chung-Ang大学への訪問の様子

3. TTA・TTC共催ワークショップ

  6月13日(木)10:00~16:40に2024年度情報通信月間参加行事としてTTA-TTC Collaborative workshop on next-generation experts and key ICT issues (AI/Metaverse) ~新興技術における国際ルール形成の課題と次世代のルールメイカー育成 ~をZoom WebinarおよびTTA会場(ソウル・韓国)のハイブリッドで約120名が参加し、日韓同時翻訳で開催しました。

表1 ワークショッププログラム

司会: Kihun Kim氏(Head, Global Standards Cooperation Center)

時間 プログラム

10:00~10:05

導入(午前の部)

10:05~10:10

開会挨拶
Dr. Boomi Kang
Director, AI Convergence Standardization Dept, Telecommunications Technology Association(TTA)
岩田 秀行 一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)

10:10~10:30

韓国での標準化人材育成プログラム
Mr. Seokkyu Kang
Standard Promotion Dept, Standardization Division, Telecommunications Technology Association(TTA)
Ms. Hyejin Lee
ICT Standards HRD Team Manager, TTA Academy

10:30~10:50

標準化能力育成フレームワーク(CBFS)作成の取り組み紹介
吉野 絵美 一般社団法人情報通信技術委員会(TTC) 企画戦略部長

10:50~11:10

標準化人材のキャリアマップや職務記述書の作成の取り組み
Mr. Donggeun Choi
Korea Standard Association (KSA) Standard Policy Center Manager

11:10~11:30

日本における大学での標準化教育
和泉 章 氏
国立大学法人 東京工業大学 アントレプレナーシップ教育機構キャリア教育実施室 特任教授

11:30~12:00

ディスカッション/Q&A
【韓国】 
  • Mr. Seokkyu Kang (TTA)    
  • Ms. Hyejin Lee (TTA Academy)  
  • Mr. Donggeun Choi (KSA)    
   【日本】
  • 和泉 章 氏(東京工業大学 特任教授)
  •  丹 康雄 氏(北陸先端科学技術大学院大学 副学長 教授)
  • 川森 雅仁 氏(ITU-T SG16 ラポータ)
  • 岩田 秀行(TTC)
  • 吉野 絵美(TTC)
12:00~13:30
休憩
13:30~13:40
導入(午後の部)

13:40~14:00

韓国でのAIの標準化活動
Dr. Seonghan Kim
Electronics and Telecommunications Research Institute (ETRI)
Chair of TTA PG 1005(AI)

14:00~14:15

韓国でのMetaverseの標準化活動
Prof. Hyunwoo Nam
Dongdeok women Univ, Chair of TTA PG 610 (Metaverse)

14:15~14:30

ISO/IEC JTC1におけるMetaverseとAIに関する標準化活動の概要
蔵田 武志 氏
国立研究開発法人産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 副研究センター長

14:30~14:50

TTCにおけるAI活用専門委員会の活動の概要
宮澤 雅典 氏
TTC AI活用専門委員会 委員長、KDDI株式会社 次世代システム企画部 部長

14:50~15:10

Clusterから見たメタバースプラットフォームの現状と最新動向
平木 剛史 氏
クラスター株式会社 メタバース研究所 シニアリサーチサイエンティスト
国立大学法人 電気通信大学 情報理工学研究科 連携准教授
15:10~15:30
休憩

15:30~16:30

パネルディスカッション:新たな標準化活動者の参加を促す取り組み
モデレータ: 川森 雅仁 氏
【韓国】
  • Mr. Inseop Lee (IB&S Consulting)
  • Ms. Jisu Kang (klleon)
【日本】
  • 本堂 恵利子 氏(KDDI株式会社)
  • 山口 智史 氏(富士通株式会社)
  • 西尾 美哉(TTC)

16:30~16:40  

 

閉会挨拶
Dr. Daejoong Kim
Vice President, Telecommunications Technology Association (TTA)
岩田 秀行 一般社団法人情報通信技術委員会(TTC) 代表理事専務理事

   今、AIをはじめとする新興技術の普及に従い、国際的なルールづくりを通じた技術の統制を求める声が高まっています。また、国際的なルール形成の手段としての標準化の活用が世界的に広がる中、標準化活動の担い手に求められる能力やその人材像は大きく変化し、多様化が進んでいます。ワークショップ午前セッションでは、日本と韓国それぞれでの標準化に関わる人材育成の取り組みを共有しました。TTAには、人材育成や普及活動を行う組織(TTAアカデミー)があり、標準化に関わり始めた方々を対象にした初級者向け研修プログラム、標準化の策定に関わる中級者向けのプログラム、議長等の役職者向けの上級プログラムに分けて実施されています。

  午後の前半のセッションでは、新興技術をテーマとして、AIとメタバースについて、両組織の担当の専門委員会の活動や両国の取り組みの情報共有を行いました。国際会合では、提案書レベルの情報ですが、国内での審議体制や検討項目の内容やプロセスを理解することができ、国内審議体制の構築に大変参考になりました。

  午後の後半のセッションでは、新たな標準化活動者の参加を促す取り組みのパネルディスカッションを実施し、モデレータの川森 雅仁 氏からの課題提起に対して、日韓のパネリストから以下のとおり意見を頂きました。

1) 新たな標準化活動者の参加障壁

  経験や情報不足のため、若い世代や新たな標準化参加者は困難を感じるため、“経験の共有”の必要性を唱えた。解決策として、政府の支援、教育と広報の必要性、組織内の雰囲気作りが提案された。

2) 標準化活動の有用性

 標準化の成果が多くの人々に使われると、若い世代も関心を持つ。標準化の有用性や実際の事例を通じて若い世代が標準化の重要性を共感できるようにする必要性がある。標準化活動が技術ロードマップを描くのに有用であることを強調し、社内のメンバーの参加を促すべき 。標準化活動は技術の発展や会社の未来の方向性を設定する上で重要な役割を果たす。

3) 標準化活動の評価と報酬

  評価の難しさとして、標準化活動は短期間で成果を出すのが難しいため、経営陣の支援と理解が必要。評価して報酬を与えるのは難しい。標準化活動が会社の売り上げに直接結びつかない場合が多く、評価や報酬に結びつけるのが難しい。

  標準化活動を始める者に対して、継続的な支援や教育を提供するメンター制度を運営することが重要。

4) 教育との連携

  大学の標準化教育(連携)を通じて、未来の人材が標準化についての理解を含め、実際の産業で適用できるようにすること、学生が標準化の重要性と必要性を認識することが重要。

  標準化活動に関する情報や資料を提供し、学生が標準化活動に関心を持って参加する機会を広げる必要がある。

5) 国際協力と経験の共有

  韓国と日本の協力を通じて標準化活動に対する視点と解決策を共有することは重要。国際協力を通じて各国の経験と知識を共有し、標準化活動の効果を最大化する。

  国際標準化会議に実質的に参加して、様々な意見を交換し経験を積むのが重要。様々な国との協力の機会を得て、標準化活動のグローバルネットワークを形成が可能。

 ご多忙中に関わらず日本からオンラインで講演頂きました東京工業大学の和泉章先生、北陸先端技術大学院大学の丹康雄先生、産業技術総合研究所 人間拡張研究センター 蔵田 武志副研究センター長、KDDIの宮澤 雅典 TTC AI活用専門委員会委員長、 クラスター株式会社 平木 剛史 電気通信大学 連携准教授、パネリストとして参加頂きましたKDDIの本堂 恵利子氏、富士通の山口 智史 氏、現地で参加頂きました井上友二TTC顧問、ITU-T SG16ラポータ 川森雅仁氏に感謝申し上げます。

会場での講演者、参加者の皆様
会場での講演者、参加者の皆様
リモート講演の皆様
リモート講演の皆様
パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

4.TTA理事長表敬/試験・認証センター

   6月14日(金)午前に、TTAのSon理事長を表敬しました。人材育成や新興技術領域での連携を含め、数十年前に締結したMoUの現状を考慮した更新を進めていくこと、次回の連携企画として日本でMoU締結式とワークショップを行うことについて意見交換しました。

  また、TTAの試験・認証センターを視察しました。約500名のスタッフで、携帯端末の認証試験からソフトウエアの認証試験等を行っており、技術的な工夫点や韓国の認証ビジネスの構造等について学ぶことができました。

TTA理事長表敬訪問と試験・認証センターの見学
TTA理事長表敬訪問と試験・認証センターの見学

5.ラップアップミーティング・今後の予定

  ラップアップミーティングでは、今回の共催ワークショップの相互評価や次回のワークショップの企画について議論しました。その結果、2024年11月25日の週に、日本(東京)において、TTCホストで次回の共催ワークショップを開催することになりました。あわせてMoU締結式を開催すること、共催ワークショップのテーマを、標準化を活用した社会課題解決・環境課題対策への取り組みとすることという案があがりました。また、標準化の普及・広報の取り組みを共有して行くこととしました。

  今回のワークショップの運営をはじめ、TTAの皆様には、多大なるご尽力を賜り、感謝申し上げます。