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ITU-T インダストリーエンゲージメントワークショップ報告

1.はじめに

  2024年4月19日(金)にジュネーブのITU-T本部でITU-Tインダストリエンゲージメントワークショップが開催されました。

  ITU尾上誠蔵TSB局長は産業界との関係強化を推進しています。今回のワークショップはTSAGのインダストリーエンゲージメントのラポータグループが企画し、アジア太平洋地域のワークショップ運営委員を日本から山本浩司氏(NTT)が務め、実施されました。

  今回、山本氏がチェアを務める標準化指標のセッションにTTCが招待され、TTCにおける標準化活動の指標やITU-Tへの貢献を紹介しました。

  このワークショップは、ITU-Tへの産業界の関心向上に向けた議論を進めることを目的とし、ITU-Tと国際標準の開発に積極的または関心のある、あらゆる地域、あらゆる規模の民間組織の代表者が招待され、対面形式で58名が参加、意見交換や提案がなされました。

  ワークショップのプロラムはProgramme (itu.int)を参考下さい。

図1  ワークショップ模様
図1 ワークショップ模様

2.基調講演

2.1 尾上誠蔵TSB局長

  尾上誠蔵TSB局長は、その基調講演において、標準化の価値は、標準の実装と広範な普及によって得られるが、産業界は標準の実装において重要な役割を果たす、標準化は、ビジネスが市場で成功するため手頃な価格で自分の要求を満たす世界を構築するための強力なツールである、と述べました。

2.2 ドロップマン ノキア(フィンランド)標準化責任者

  ドロップマン氏(ノキア)は、ITU-Tは国際標準化の最適な場であるが、伝送・アクセス系および映像符号化の分野で優位である一方、クラウド、プロトコル、セキュリティ分野での優位性に欠けている、と指摘しました。そのうえで、今後のITU-Tの関与を期待する分野として、環境、量子ネットワーク、メタバースを挙げ、イノベーションの好循環にはIPRポリシーの整備が重要であること、他の標準化機関の技術成果の活用が必要であることなどを述べました。

3.セッション

3.1 セッション1(業界の関与に関する現在の展望:議長 ベルトミュー氏(ノキア)

  • 目的:ITU-Tへの産業界の関与を高めるため、利用可能な機会の範囲を理解するために必要な背景を提供すること
  • パネラー:ファーウエイ(中国), ブロードコム(米国), シスコ(米国), ベライゾン(米国), ローデ・シュワルツ(ドイツ)
  • 主な議論:デジタル経済からインテリジェント経済の移行には省エネルギー技術が重要。ITU-Tへの民間が柔軟に参加可能な形態の検討や参加の利点を強調するための宣伝とマーケティング強化、標準化作業のアジャイルプロセスへの変革イノベータとの積極的な関与が必要。標準化の指標として、ビジネス目標の観点に加え、定性的な成功事例(実用性、独創性、普遍性、特異性)を提案。過去SGで扱っていた課題の実作業が他の場で行われている。

3.2 セッション2(指標と産業界のエンゲージメント:議長 山本浩司氏(NTT))

  • 目的:産業界のエンゲージメントの影響を測定する方法を理解すること
  • パネラー:IEEE, ITU-T, TTC
  • 主な議論:TTCから、ITU-T勧告を日本語化したTTC標準(JT)の最近7年間のダウンロード総数(図2)とTTC専門委員会で審議したITU-Tへの審議文書数(図3)を提示して、一国のSDOにおけるITU-T勧告の活用実績を定量的に示した。一国のITU-T勧告の活用状況を示すダウンロード数および多くのダウンロード数の勧告の技術分野の情報がITU-Tにとって有効な指標であることが認識された。
図2 TTC JT標準(ITU-T勧告日本語版)の最近7年のダウンロード総数
図2 TTC JT標準(ITU-T勧告日本語版)の最近7年のダウンロード総数
図3 TTC専門委員会で審議されたITU-T提案寄書数
図3 TTC専門委員会で審議されたITU-T提案寄書数

  また、最近7年間におけるTTC標準上位ダウンロード総数の1位、2位のダウンロード総数(図4)を示して、ダウンロード総数が2万を越え、多数の方々がTTC標準を活用している現状を明らかにした。標準文書は通信基盤インフラを支える技術であり、あらためてTTCの社会への貢献すべき期待を認識する機会となった。

図4 最近7年間でのTTC標準上位ダウンロード総数
図4 最近7年間でのTTC標準上位ダウンロード総数

3.3 セッション3(業界参加のための価値提案:議長 タダイ氏(英ブロードコム))

  • 目的:現在のITU-Tの価値提案をレビューし、産業界がITU-Tの標準化作業を主導/参加/拡大するようにITU-Tブランドを強化するためのアイデアを検討すること
  • パネラー:ITU-T TSB,  エリクソン(スウェーデン), TMT(スイス), アリババ(中国), チャイナモバイル(中国), サレス(フランス)
  • 主な議論:ITU-Tの強みの領域を特定する必要性。民間セクタがメンバである唯一の国連機関。コンソーシアムとSDOの明確化が必要。ITU-T独自の価値を示すものがない。

3.4 セッション4(標準化プロセスと業界の関与:議長 マンスフィールド氏(エリクソン・カナダ))

  • 目的:推奨事項の開始、進行、承認、公開に使用されるプロセスに焦点を当てること
  • パネラー:ZTE(中国), CICT(中国)
  • 主な議論:ITU-Tのコンセンサスベースの文化では公平性と妥協を促す柔軟性を備えた代表が必要。標準の開発と保守を迅速化するためのオープンソースツールとソフト化が必要。標準化を構築する方法を、国際的な視点でアジャイルなソフトウェアスタイルの文化を提供することで専門家や産業界を呼び戻すことが可能。

4.まとめ

 ラポータグループでの本ワークショップ運営委員会の総括は以下の通りです。

  • ITU-T には、国際標準を作成するための安定で成熟したプロセスがあるものの、これは一部のアジャイル ソフトウェア アプリケーションにとっては遅すぎる可能性があり、これが次世代を引き付ける際の障害となる可能性がある。
  • ITU-T は加盟国と良好な関係を築いているものの、ITU-Tが対象としている分野の専門家や能力は、焦点を絞ったソリューションに特化したフォーラム等に取り込まれているのが現状である。
  • 産業界がソリューションを特定できるよう、ITU-T のエンドツーエンドの性質をさらに活用する必要がある。 ただし、作業項目は顧客の要件に基づく必要があり、ITU-T は業界の製品管理担当者がこれらの要件を話し合う場を提供する必要がある。
  • ITU-Tには、国際標準を作成する方法がいくつか用意されているものの、地域ごとの多様な要件や世界的な互換性の評価がなければならず、また新規検討着手のハードルが低すぎる等の課題もある。
  • ITU-T には製品と価値に対する認識がほとんどないため、産業界は能力のある他のフォーラム等に引き寄せられているのが現状。ITU-T の内容をマーケティングおよび宣伝することで、これを変えることが出来ると期待。
  • 指標 (参加数、寄書数、ダウンロード数) は定量的な指標になり得るものの、ITU-T の産業界への影響は定性的な評価にとどまらざるを得ず、これらをどう客観的に捉えるかも課題。

  全体総括として、産業界から有益な情報が提供され、多くの参加者からこのワークショップは成功であったとの声が聞かれました。また、このようなワークショップを今後も開催すべきと提案がされ、満場一致で合意されました。

  TTCでは、他の産業を含め、産業界の関心を持たれている分野の国内のエキスパートの方々が議論できる場として選択頂けるように、努力して参りますので、ご指導、ご参画をお願い致します。