WTSA-24に向けた第3回TSAG会合報告
1月22日(月)から1月26日(金)まで、ITU-TのTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)会合がジュネーブのITU本部とオンラインのハイブリッドで開催されました。本会合は、2024年10月に開催されるWTSA-24に向けた第3回目の会合になります。
本ブログでは、TSAGの全体概要と今回の主要トピックであった、SG(Study Group)の再編、Network of Women(NoW)およびNew BSG プログラムのサイドイベントについて報告します。TSAG会合全体の結果については、TTC国際連携アドバイザリーグループのTSAG対応タスクフォース会合で報告・審議しますので、関心のある方はTTCにお尋ねください。
1.TSAG全体概要
今回のTSAG会合には58か国から約330名(内オンライン約120名)の参加者がありました。日本からは、総務省国際戦略局通信規格課の戸部絢一郎課長補佐を団長として、総務省、国内各社・団体(KDDI、NEC、NICT、NTT、NTTドコモ、OKI、日立、TTC)から12名の現地参加と、総務省、KDDI、NICT、日立、富士通、日本ITU協会から9名のリモート参加がありました。
TSAG会合は、ITU-Tにおける全てのSG(Study Group)の標準化活動を検証するとともに、会議規則や他の標準化機関との連携に関する手続きなどの見直しを行い、今後ITU-Tが取り組むべき標準化課題の分析を基に、次会期に向けたSG体制案の検討を行い、2024年のWTSAへの提案を検討しています。
表1 会合スケジュール
2.主要トピック
2. 1 TSAGマネージメント
- TSAG副議長・WG1議長のTobias Kaufmann氏(ドイツ)がMihail ION氏(ルーマニア)に交代
- TSAG副議長・RG-WTSAアソシエートラポータのIsaac Boateng氏(ガーナ)がSamuel Agyekum氏(ガーナ)に交代
- TSAG-RG-DTラポータにAhmad Sharafat氏(イラン)、アソシエートラポータにAhmed Said氏(エジプト)が新任、Cynthia Lesufi氏(南アフリカ)が再任
- Victor Manuel氏(メキシコ)がTSAG-RG-SOPラポータに就任、アソシエートラポータにBruce Gracie氏(カナダ)とDao Tian氏(中国)が就任
2. 2 新規ラポータグループ
- RG-SOP(Strategic and Operational Planning)の設立が承認
- このラポータグループは、ITU-Tにおける主要な戦略的優先事項を特定と参加者が拡大する戦略計画案の反映、年次ITU-T運用計画をレビューするためのフォーカルポイントとして機能
- 第1回会合は6月18日にオンラインで開催予定
2. 3 SG再編
- 再編:SG9とSG16を一つのスタディグループに統合し、WTSAまでの道筋の合意
2. 4 SG・TSAG議長の国バランス
- 議長は1ヵ国1名とするTSB案が合意
2. 5 フォーカスグループメタバース(FG-MV)
- FG-MVの有効期間を2024年6月まで延長し、承認された成果物をSGに割り当てる
- SGはメタバースに関する作業の開始と質問テキストの更新を検討する (詳細はTSAG-TD480-R1を参照)
3. 1 WP1の主要トピックス
3. 1. 1 作業方法 RG(Work Methods)の主要結果
- 勧告A.8(新規および改訂ITU-T勧告のための代替承認手続き): TAP決定
フォーラム、コンソーシアム、その他のSDOとの協力:
- 勧告A.7(フォーカスグループ:設立と作業手続き):TAP凍結
- 勧告A.4(フォーラム・コンソーシアムとの連絡手続)、A.6(各国及び地域標準化団体との連絡手続):削除決定(A.24にマージされる)
- 勧告A.24(他SDOとの連携): A.Supp.5の勧告化
- 新Work Itemを提出する際に必要なサポート国数の見直しに関し、今回日本から最低3か国のサポートを必須とする提案を提出したが、合意に至らなかった。中国からの提案で、日本が今回行った統計的なアプローチを参考に全SGの統計データを取ったうえで再度議論することとなった。次回TSAGに持ち越し。
- 文書内で「Chairman」を「Chair」への使用は一部の国からの反対もあり、扱いについては理事会で検討するように要請することとなった。
- A.1改訂案(ITU-Tの作業方法について)の改善を継続する。
3. 1. 2 WTSA準備RG(WTSA Preparations)
- WTSA-20における58の決議(Resolutions)に対する409のアクションプランの進捗状況についてTSBから報告があった(TD410) 。2024年1月現在全体の3%が完了、67%が進行中、26%が検討中、4%が未着手となっている。
- リエゾン(TSAG-LS15:on draft analysis of operational parts (resolves, instructs etc.) of WTSA/PP/WTDC Resolutions)に対する回答(分析結果)について全SG議長より報告があった。
- 草案A.SupWTSAGL(WTSA preparation guideline on Resolutions)の更なる修正についてサウジアラビアより提案あり(TD472R1)。草案を改善し、次回7月TSAG会合で合意を目指すこととなった。
- 草案A.BN(Briefing note on how to chair WTSA Sub-committee/Ad Hoc Group meetings)の更なる修正についてサウジアラビアから提案あり(TD473R1)。「コンセンサス」の定義に関する議論の結果、次回7月TSAG会合で合意を目指すこととなった。
3. 2 WP2の主要トピックス
3. 2. 1 作業項目・再編、SG作業 / 調整RG(Work Programme and Restructuring, SG work, SG Coordination)
- WTSA-20における決議99( (ITU電気通信標準化部門研究会の組織改革の検討 ジュネーブ、 2022):TSAGは、加盟国およびITU-T部門メンバーからのTSAGへの貢献に基づいて、ITU-T研究会再編の分析を管理する責任がある。)を考慮し、SG再編議論を本RGの活動を行っている。
- ラポータ永沼美保氏より、引退したアソシエートラポータのRatta氏への謝辞が述べられた。
- 韓国より、TSAGがITU-T SGが量子耐性に取り組むよう推奨すべきという提案(C65)を説明。議論の結果、本件はJCA QKDNにて議論し、その結果を韓国より次回TSAGで報告してもらうこととなった。
- シグナリング認証のセキュリティに関するドラフト勧告Q.TSCAについての新Work ItemについてはSG2とSG11間で議論を継続することとなった。SG2議長がリエゾンをドラフトする。(TD347, TD367, TD461)
- 各SG議長より、前回TSAGから現在までの期間における各SG状況報告が行われた。
- SG再編に関し、今回日本から提案したSG9とSG14の統合の案が採用されることとなった。これに伴い、ラポータより以下のスケジュールで進めるよう指示があった。
- 2024.02-03 : 第1回Joint Leadership Meeting開催
- 2024.04 : SG16会合
- 2024.05 : SG9会合
- 2024.04-05 : 第2回Joint Leadership Meeting開催
- 2024.06: RG-WPR
- 2024.7末 : TSAG(Joint Leadership Meetingから報告)
3. 2. 2 産業界とのエンゲージメント、メトリクスRG(Industry Engagement, Metrics)
- 4月19日ジュネーブにて開催予定の産業エンゲージメントワークショップに関して運営委員会(IEWSC)より内容についての説明があった。これまで3回のeミーティングを行い、調整を行っている。本ワークショップの目的は、ITU-Tの意思決定機関(TSAG及びWTSA)に実用的なフィードバックを提供すること。
- ITUの価値強化についての提案(C62)がBroadcomから説明された。
- ITU-T標準化への次世代の参加のさらなる強化について提案(C57)がChina/Ugandaから説明された。
- 新規および新興テクノロジーに関するRG-IEM ToR項目3を進展させる提案(C84)がBroadcomから説明された。
3. 2. 3 デジタルトランスフォーメーションRG(Digital Transformation)
本期間中RG-DTのセッションは設けられていませんでしたが、1月22日 のWP2プレナリにおいてラポータより前回TSAG以降に実施した中間会合での進捗報告がありました。主な内容は以下の通りです。
- デジタルトランスフォーメーションに関する新規WTSA決議案について作業を実施中。次回TSAGで最終草案を提出することを目標としている。
- 全ITUセクター及び他SDOに依頼しデジタルフォーメーションに関連する活動について情報を集めギャップ分析を実施する。現時点でITU-DのSG1,2及びITU-TのSG9,11,20から回答を受領している。
3.3 FG-Metaverse
FG-Metaverseの活動期間について、日本から2025年3月までに延長の提案を行った結果、2024年6月までの活動延長と成果物の各SGへの移管が決定しました。これに伴い、各SGはメタバースの検討開始と課題テキストの更新を行うこととなりました。
4.サイドイベント
4. 1 Network of Women Breakfast
「Network of Women Breakfast」が、韓国の電子通信研究所(ETRI)の支援で、 1月23日(火)08:00-09:30(現地時間)、電気通信標準化諮問グループ(TSAG)会議と同時にジュネーブのITU本部及びオンラインで開催されました(イベントへの参加は、ITU加盟国、セクターメンバー、アソシエイト、学術機関に限定されました)。以前はWISEとして知られていたNetwork of Women in the Telecommunication Standardization Sector(ITU-TのNoW)は、WTSA決議55(ジュネーブ、2022年)に沿って、ITU-Tの作業におけるジェンダーの包含を促進することを目的としています。パネルディスカッションには、日本からTSAG副議長であるNECの永沼美保氏が登壇されました。女性はチャンスをつかむ準備ができている必要があり、積極的なネットワークが不可欠です。永沼さんは「今、ITUでは女性がチャンスをつかみ、スキルを向上させる機会がたくさんあります」と述べられました。
ITU-TにおけるNetwork of Women (NoW) の役割と、世界電気通信標準化会議 (WTSA-24) に向けたキャンペーンの目標は以下の通りです。
4)次の4年間の研究期間中に、ITU-Tの主要な指導的地位に指名される女性の増加。
関連記事:
Network of Women Breakfast @ TSAG (itu.int)
4. 2 New Bridging the Standardization Gap (BSG) Program
1月23日(火)の14:00-14:30にNew BSGプログラムセッションが開催されました。尾上誠蔵TSB局長から、New BSGプログラムの紹介および日本政府からのプログラムへの支援に対しての感謝が示されました。Eun-Ju Kim氏より新興国と開発国とのギャップやジェンダーギャップの現状と解消のための新BSGプログラムについて説明やMentimeterを用いてBSGに関するアンケートを行いました。New BSGプログラムの詳細は以下URLより確認下さい。
5. 今後の予定
表2にTSAGのRGの日程を示します。第2回IRMは2024年7月25日にオンラインで開催予定です。第4回TSAG会合は、2024年7月29日から8月2日ジュネーブで予定されています。なお、WTSA-24およびGSS会合は2024年10月14日から24日までインドのニューデリーで開催されます。RGM(ラポータグループ会合)の日程は随時更新されますので以下URLより確認下さい。
https://www.itu.int/net/ITU-T/lists/rgm.aspx?Group
表2 TSAG RG会合スケジュール
No. |
ラポータ |
開催日 |
開催場所・ |
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1
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RG-WM
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21 Feb 2024
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Virtual
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Draft ITU-T A.RA (TSAG-TD396R1)
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2
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13 Mar 2024
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Virtual
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Draft A.SupplSGA (TSAG-TD385R1)
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3
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03 Apr 2024
|
Virtual
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Draft revised A.1 including Appendices II and III (TSAG-TD478)
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4
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26 Apr 2024
|
Virtual
|
Draft ITU-T A.RA (TSAG-TD396R1)
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|
5
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14 May 2024
|
Virtual
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Pending issues from previous rapporteur group meetings
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6
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02 July 2024
|
Virtual
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A-Suppl.4; pending issues from previous rapporteur group meetings
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7
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RG-WTSA
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18 Apr 2024
|
Virtual
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Progress draft new A.SupWTSAGL and A.BN; review proposals on concrete implementation of streamlining of WTSA Resolutions and Opinion.
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8
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20 June 2024
|
Virtual
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Progress draft new A.SupWTSAGL and A.BN; review proposals on concrete implementation of streamlining of WTSA Resolutions and Opinion.
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9
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RG-WPR
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19 June 2024
|
Virtual
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Preparation status on the consolidation of ITU-T SG9 and SG16
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10
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RG-IEM
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20 Feb 2024
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Virtual
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Workshop status
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11
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19 Mar 2024
|
Virtual
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Emerging technology mechanism
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12
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07 May 2024
|
Virtual
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Workshop results
|
|
13
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17 June 2024
|
Virtual
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Emerging technology mechanism
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14
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RG-DT
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05 Mar 2024
|
Virtual
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- Progress a gap analysis on the activities and studies on digital transformation;
- Consider inter alia, definitions, concepts, system architectures, use-cases, fundamental underlying technologies, interoperability, and the ecosystem of digital transformation;
- Progress draft new Resolution WTSA on digital transformation;
- Submit RG-DT report to TSAG.
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15
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23 Apr 2024
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Virtual
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16
|
31 May 2024
|
Virtual
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||
17
|
16 July 2024
|
Virtual
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18
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RG-SOP
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18 June 2024
|
Virtual
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1. Review the results of the Industry Engagement Workshop, particularly the value proposition for ITU-T;
2. Determine an appropriate methodology for the review of the ITU-T Operational Plans;
3. Establish a work plan for RG-SOP pre- and post-WTSA-24.
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19
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第4回TSAG
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29 July-02 Aug
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ジュネーブ/Hybrid
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6.おわりに
1月後半の寒い時期でしたが、ジュネーブの路上には雪は在りませんでした。現地の方々からお話をお聞きすると、前週は寒く雪も舞ったようでしたが、会期中は東京と同じ気候でした。今回、日本からの現地参加者は12名で、ジュネーブに到着するまでには、フライトがキャンセルされて到着が遅れた方、到着したが荷物が届かなかった方、乗り継ぎ時間ギリギリで間に合った方など、様々なトラブルにあった方がいらっしゃいましたが、最後はみなさん無事に到着されました。今回のTSAG会合の大きな成果として、日本提案のSG9とSG16の統合の実現があります。15年ぶりのSG統合であり、TSAG議長から日本への御礼がありました。提案を合意に導いたTSAG副議長の永沼美保さん、SG9議長の宮地悟史さん、SG16山本秀樹さんのご尽力に感謝いたします。