ITU-T CxOs会合報告
1.はじめに
ITU-TのTSB局長(尾上誠蔵氏)が主催するCxOs会合が、12月5日、UAE(アラブ首長国連邦)のルメディアンホテル(ドバイ)で、Telecom Review出版社とUAEの規制庁であるTelecommunications and Digital Government Regulatory Authority (TDRA)、UAEの通信オペレータであるdu、カナダの通信オペレータのTELUS、HUAWEIの共同ホストにより開催されました。CxOとは、CTO(Chief Technology Officer)やCEO(Chief Executive Officer)などを含む上級幹部のことで、技術のみならず経営、情報管理などの幅広い視点で、産業界の優先課題と関連標準化について意見交換を行うことが期待されています。
CxOs会合は、2016年のWTSA(世界電気通信標準化総会)決議68に基づき、TSB局長が主催する産業界の上級幹部(CxOs)との会議で、標準化の展望、標準化の優先課題及び民間企業のニーズや標準化状況について議論するための会議として位置づけられています。今回は、尾上TSB局長の意向で、対面形式のみのCxOsレベル限定での開催となり、34の企業・団体から参加がありました。
2.議論テーマ
主要テーマは、事前に開催された4回の準備会合で各CxOsからの提案をもとに決められ、表1のセッションテーマと講演者により構成されました。会合の結果、CxOs間で共有された今後の課題が共同声明(コミュニケ)としてまとめられました。その主な内容は次項で説明します。
表1 セッションテーマ構成
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Networking welcome coffee
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14:00
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1.
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Opening remarks and welcome
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14:30-15:00 (30min)
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2.
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Adoption of Agenda
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3.
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Short briefing by TSB on key 2024 events
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4.
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Connectivity Standards
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10min/presentation
(5min pres. +5min Q&A)
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Networking Coffee Break and Group Photo
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16:30-17:00
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5.
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Sustainable Digital Transformation Standards
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6.
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Regulatory & Security Standards
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7.
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Adoption of Communiqué and Closing
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18:00-19:00 (60min)
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Networking Dinner, Great Ballroom, section 3
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19:00-21:00
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3.コミュニケの主な内容
CxOsは、光ネットワーク、人工知能(AI)、セマンティック通信に必要なIMT-2030(6G)のサポートについて議論しました。また、デジタルデバイドへの対応、非地上ネットワーク、スマートモビリティ(例えば、車両からすべてのモノへの通信及びその規制要件)、パワーライン通信、災害対応、マシンビジョン技術、ブロックチェーン、不正行為の緩和、量子情報技術に関する展望を共有しました。これらに加え、CxOsは、2024年5月30日から31日にスイスのジュネーブで開催されるAI for Good Global Summit、2024年10月14日から24日にインドのニューデリーで開催されるITU世界電気通信標準化総会(WTSA)及びそれに先立って開催されるITUグローバル標準化シンポジウムの準備に関してエグゼクティブ・ブリーフィングを受けました。
3.1 6G向けの光、AI、セマンティック通信
6G向けに想定されているワイヤレスアプリケーションや、自動運転、スマート工場、メタバースなどの分野における新興アプリケーションでは、高いネットワーク容量、予測可能な低遅延、最適なエネルギー効率が求められます。CxOsはITUに対し、6Gのニーズを満たすためのトランスポートネットワークの標準開発においてリーダーシップを発揮するよう奨励し、6G機器の密度とユビキタス接続を達成するという目標には、非常に大量の費用対効果の高い光学機器が必要であることを強調しました。
CxOsは、Mobile Optical Pluggable Alliance(モバイル光学)、Institute of Electrical and Electronics Engineers(Ethernet)、Internet Engineering Task Force(MPLS、セグメントルーティング、IP)、IOWN Global Forum(オールフォトニックネットワーク等)など、革新的な光及び無線ネットワーク(IOWN)をサポートする専門家コミュニティとITUが連携することの重要性を指摘しました。
徐々に多様化する情報通信技術(ICT)アプリケーションとサービスの共存をサポートするためにネットワークが複雑化するにつれて、AIと機械学習がネットワーク最適化においてますます重要な役割を果たしています。CxOsは、この傾向が加速し続けることに同意して、ITUに対し、AIネイティブの6Gネットワークインテリジェンス(例えば、フォーカスグループ)、機械可読AIナレッジベース、AIパフォーマンス検証をサポートするための探索的な「標準化前」研究を開始するよう奨励しました。
十分に訓練されたナレッジベースによってサポートされるセマンティック通信は、ネットワークトラフィックの量が増加し続ける中で、ネットワーク容量への圧力を制限することがかなり有望であることを示しています。
CxOsは、6Gを見越して、セマンティック通信を統合するために無線ネットワークに必要なアーキテクチャとフレームワークに取り組む将来のITU標準化作業を視野に入れて、研究開発を支援するようITUに要請しました。
3.2 非地上ネットワーク(NTN)の採用
衛星や航空機を利用したプラットフォームを活用し、モバイルデバイスに直接接続できる非地上ネットワーク(NTN)は、遠隔地や海上でのICTサービスや、さまざまなモノのインターネット(IoT)デバイスをサポートできます。CxOsは、NTNが大規模なIoT接続、公共の安全、生産性、気候変動の監視、その他の重要な産業アプリケーションを含むユビキタス接続に貢献する可能性に合意しました。CxOsは、ITUに対し、手頃な価格の直接デバイス間接続の採用を促進できるガイダンス、新しい技術、規制フレームワーク、国際標準の交差に対処するガイダンスを策定するよう奨励しました。標準とそれに関連する適合性評価は、ソリューションの相互運用性とサービス品質に有益なサポートを提供する可能性がある、とCxOsは強調しました。想定されているスマートフォン、ウェアラブル機器、IoTデバイスの展開の大規模さを考慮し、地上及び非地上ネットワークによって実現されるIoT接続のための3GPP標準の関連性を指摘し、CxOsは、固定、モバイル、及び衛星ネットワークのコンバージェンスに関する迅速なITU標準化作業への支持を表明しました。
3.3 スマートモビリティ
交通安全を向上させるための車両の接続性と自動運転は、モビリティの未来に不可欠であると考えられています。CxOsは、関連するITU標準化作業への支持を表明し、ITUが関連する専門家コミュニティ間の効果的な協力を促進するためのリーダーシップを提供し続けることを奨励しました。CxOsは、この点に関して、高度道路交通に関連するすべての標準化団体が代表を務めるITU主導の高度道路交通システム(ITS)通信規格(CITS)の価値を強調しました。CxOsはまた、ITUに対し、車両と道路交通のための世界的な規制構造を提供する国連機関である国連欧州経済委員会(UNECE)と協力して、ITS革新への支援を拡大する機会を探るよう奨励しました。
3.4 電力網通信ネットワーク
電力網通信ネットワークは、エネルギー効率を最適化し、再生可能で低炭素なエネルギーを最大限に活用するために、自律的に行動を適応させることができるスマートグリッドを支えています。CxOsは、IoT、無線アクセス技術、ブロードバンド通信における最近の進歩を考慮して、ITUに対し、国際標準がこの分野の最新の発展を包括的に支援することを保証するために、電力網通信ネットワークに関する標準化研究を更新するよう求めました。
3.5 自然災害に対応する全国公共ネットワーク
全国公共ネットワークは現在、公共の安全の基本となっています。CxOsは、災害対応へのサポートが5Gの最も魅力的なユースケースの1つであり、重要なグローバルな課題に対処するために既存のICTインフラを活用する機会であると強く主張しています。CxOは、ITUに対し、すべての国のニーズを満たすことができる標準化されたネットワークアプローチとアーキテクチャを使用して、関連する官民パートナーシップを支援し、自然災害に対応するためのコスト効率の高いグローバルネットワークの開発を促進するよう求めました。
3.6 マシンビジョン技術
マシンビジョン技術は、デジタル農業、スマート工場、スマートシティなどの分野で応用されています。この技術は、ネットワーク容量の増加、遅延時間の低下、高いセキュリティとサービス品質を保証する新機能の登場に伴い、洗練されていきます。CxOsは、ITUに対し、マシンビジョン技術の標準化作業を包括的に支援し、関連する専門家コミュニティ間のコラボレーションを促進するリーダーシップを提供するよう奨励しました。G3 Allianceと協力して作業することで、グローバルに調整された標準化作業に貴重な支援を提供できるとCxOsは提案しました。
3.7 ブロックチェーン
ブロックチェーンは、ビッグデータとAIの時代に信頼を強化する潜在力があります。CxOsは、データ要素の循環に対するブロックチェーンの価値を強調しています。CxOsは、ITUに対し、データ要素の流通にとって今日重要な課題となっているデータセキュリティと相互運用性をサポートできる標準を開発するよう奨励しました。CxOsはまた、相互運用性、セキュリティ、技術開発の調整に関して克服すべき重要な課題があると考えているブロックチェーンとWeb3.0エコシステムとの関係に対処するためのITU標準化作業を求めました。
3.8 音声トラフィック詐欺
音声トラフィック詐欺による企業やエンドユーザーの損失は、かつてない規模に達しています。この問題は、海外からの攻撃の実行よってさらに悪化しています。CxOsは、グローバルに調整された対策が必要である一方、詐欺リスク管理のための共通のしきい値ベースのルールと個別のAIベースのソリューションが不十分であることを考慮して、ITUに対して、グローバルなソリューションを提供するためのリアルタイムコール検証の可能性を迅速に探求するよう求めました。CxOsは、ITU標準をサポートするために、コール制御プロトコルを詳細に記述する必要があることを提案しました。
3.9 生体認証SIMカード登録
モバイルデバイスは現在、金融サービス、教育、医療、緊急サービスなどへのゲートウェイとなっており、信頼できるモバイルIDの重要性とSIMカード詐欺による脅威の重要性が強調されています。CxOsは、このような脅威の軽減に大きな成功を収めているソリューションとして、生体認証SIMの識別を強調しました。
3.10 量子情報技術
量子情報技術は、将来のネットワークアーキテクチャに変革的な影響を与えると期待されています。CxOsは、量子情報技術のネットワークとセキュリティの側面に関するITU標準化作業への支持を表明し、新たな標準化要求と予想される標準化要求に関するITU研究の継続を奨励しました。また、CxOsは、ITUに対し、関連する標準化団体間で進行中及び将来の標準化プロジェクトの調整を促進する上で、引き続きリーダーシップを発揮するよう求めました。
参加組織は次のとおりです。
4.おわりに
今回のCxOs会合では、IWON Global Forumの代表としてNTTが提案したIOWN技術仕様のITU-Tでの標準化推進、JIIA(日本インダストリアルイメージング協会)が提案したマシンビジョン技術の標準化に関する業界標準化団体のG3 Allianceとの協力の推進について合意されました。TTCはITU-Tへのアップストリームの国内審議団体として支援して参ります。また、新興国CxOから直面する課題として、音声トラフィック詐欺や生体SIMカード認証についての対応の重要性が確認されました。CxOs会合で提言された内容はTSAGに報告されます。産業界のニーズに沿ってITU-Tの標準化活動が活性化されることを期待します。