頭文字SDGシリーズ:APT標準化人材オンライン研修
2023年11月27日(月)から12月1日(金)まで、日本政府拠出によるAPT研修 “Training Experts in Standardization of ASTAP and related organizations~Sharing trends of emerging technologies in standardization~” を開催しました。
背景と実施概要
本年4月に開催された第35回ASTAP会合でのBSGエキスパートグループにおいて、TTCを含むAPT地域のSDOから標準化人材育成の取り組み紹介と必要性についての議論が行われました。ASTAPへより多くの参加国・参加者を増やすためには、参加しやすい環境と参加者の育成が必要であること、APT地域から国際標準化機関の役職を担う機会を増えてきており、必要最小限な知識を身につけることなどの課題があります。この研修では、ASTAP会合に初めて参加するための知識を身に着けて頂くとともに、関連の国際標準化団体に関する知識や参加の仕方、最新技術の標準化動向についての情報取得、実際の標準化会合に参加するための提案文書の書き方、提案の仕方、実際の模擬会議による体験研修を行いました。
参加者
10ヵ国(アフガニスタン、キリバツ、バングラデシュ、ブータン、インド、モンゴル、サモア、スリランカ、シンガポール、タイ)から18名が参加しました。ASTAP会合への出席が少ない国からの参加者が多く、ASTAP会合への参加ニーズを伺えました。
研修プログラム
今回はオンライン研修でしたが、参加国のアフガニスタンとサモアの間では時差が8時間となるため、日本時間の10時から16時を研修時間と設定しました。
1.カントリーレポート
研修生に対して、レポートに自国の国際標準と国内標準の標準化プロセスについて盛り込んで頂くようにしました。アフガニスタン、シンガポール、インド、スリランカ、ブータンの5ヵ国からのプレゼンテーションがありました。インド以外の国々とはSDOの関係も無いため、各国の標準化プロセス等を知ることができ、我々としても有意義な報告でした。
2.政府の標準化戦略、国内外の標準化団体の紹介
総務省国際戦略局 寺山由希子様から総務省における情報通信技術の標準化戦略、小職から国内標準化機関としてTTC、NICT 釼吉薫様からASTAP及びITU-T、情報規格調査会技術委員会 河合和哉委員長からISO/IEC JTC1についてそれぞれ紹介を行いました。
特に、釼吉様からのASTAPとITU-Tについての紹介では、各団体のHPにアクセスして文書を取得する方法や参加ツールの紹介等、初めて参加する方々にとって有益な情報をご提供頂きました。研修生には各HPのアクセス権を持っていない場合が多かったことから、まずはアクセス権の取得方法についての案内を行いました。
3.最新技術の標準化動向
最新技術の標準化動向について、メタバースをNICT 今中秀郎様、QKDN(量子鍵配送ネットワーク)を釼吉薫様、自律性ネットワークを楽天モバイルのWong Leon様、SDGsをNTT 原美永子様からご説明頂きました。最新技術の標準化動向をまとめて知ることができて研修生にとって有意義のようでした。
4.標準化提案文書の策定、標準化模擬会議体験
釼吉様からASTAPやITUの文書の事例を紹介して頂き、それらを参考にして研修生に標準化提案文書を作成して頂きました。その文書を用いて提案・議論を行う模擬標準化会議を実施しました。シンガポールの研修生からは生成AIの検討の必要性の提案、インドの研修生からは量子鍵配送ネットワークの提案、スリランカの研修生からもAIの検討の必要性についての提案がありました。提案は3名からでしたが、文書の完成度や技術的な内容も実際に提案できるレベルでした。また議事進行を務めたシンガポールの2名の研修生とスリランカの研修生の対応は非常にスムーズなものでした。
今後の課題
今回初めて実施した標準化人材育成のAPT研修は、より多くの研修生に参加して頂くためにオンラインで実施しました。参加国(者)は、普段ASTAP会合への参加機会の少ない国からであり、会合への参加国・参加者を増やすという目的に一定の貢献はできたと思います。会合自体がコロナ禍によりオンラインで開催されることが定着し、コロナ禍後もより多くの参加者ができるようにハイブリッドで開催されることが増える中で、模擬標準化会議も含めオンラインで研修を実施できたことも良かったと思います。
しかしながら、APT地域の広さを改めて実感する8時間の時差は、一部研修生の負担となってしまい、フル参加できない結果となってしまったこと、研修生への個別の指導が難しかったことなど課題はありました。参加者からは対面での開催の要望を頂いているので次年度企画に反映したいと思っています。
また、内容面でも、作成された標準化提案書と模擬会合に参加した人数からも、参加者のレベルの差を考慮する必要があると感じています。ITU-Tでは各会合で初参加者向けのセッションを開催しています。そのコンテンツを使ってITU-T会合への参加情報の説明を釼吉様から行って頂きましたが、ASTAPの場合該当コンテンツが不足しています。現在ASTAPの将来の方向性が議論されているところであり、参加者を増やすために当該コンテンツや研修の充実化の必要性を示して参ります。
最終日には、模擬標準化会合に参加頂いた研修生には修了証をお渡ししました。すべての研修生に修了証を渡せるように、研修後もフォローして行く予定です。
今後も国内外の標準化人材の育成に貢献できるように尽力して行きたいと思います。引き続きのご支援をお願い致します。