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頭文字SDGシリーズ:タイにおける稲作農家における温室効果ガス削減の取り組みとジェンダーギャップ解消に向けた人材育成の取り組みについて

  9月18日、19日にバンコクにおいて、BSG専門委員会とカセサート大学の共催により、IoT human resources development~ Bridging the gender gap ~のワークショップを開催しました。今回のワークショップは、IoTを活用した社会課題を解決する取り組みの共有、IoT女性専門家の育成、若手IoT人材育成のためのアイデアソンのテーマ設定を目的として実施しました。今回のワークショップは、マレーシアでアイデアソンを実施したサラワク大学と女性のIoT技術者の普及を行っている(株)aglink.labの協力で実施されました。

  18日の午前中に、バンコクから約100km北部に位置するスパンブリー県の女性稲作従事者のコミュニティを視察しました。このコミュニティは、2018年からタイ農業協同省とドイツ政府が連携し、温室効果ガス排出削減に向け10万の稲作農家を支援している“Thai Rice NAMA(Nationally Appropriate Mitigation Action) “プロジェクトサイトです。

  コミュニティのサワニー代表より、本プロジェクトの主な技術的な取り組みとして、1)レーザ光を活用した土地の平準化による収穫率向上、2)水田の水位調整によるメタンガス発生抑制、3)土壌のNPK(窒素・リン・カリウム)の測定および最適な肥料散布による収穫率向上と肥料費の削減、4)藁の肥料や加工材への有効利用、藁焼き抑制による二酸化炭素排出抑制について説明頂きました。

写真1 水位測定用塩ビ管
写真1 水位測定用塩ビ管
写真2 水位の状態を示す手段(旗)
写真2 水位の状態を示す手段(旗)
写真3 現地視察地での集合写真
写真3 現地視察地での集合写真

  今回の視察では、写真1にあるように、水田に設置した穴をあけた塩ビ管の水位を測定、調整することにより、メタンガス発生を抑制するというアナログ技術の取り組みに感動しました。そもそもメタンガスが水田から発生していること、そしてメタンガスが温室効果ガスの14%を占めるという認識が薄かったのですが、水田からのメタンガスの発生抑制の取り組みは日本でも行われているのを最近の報道番組で知りました。土壌中のメタンは、水を張ったり抜いたりを繰り返し、土壌に酸素を与えることで、メタンの発生量を減らすことができるため、コミュニティの方々が水位を見ながらコントールしてメタンガスの発生を抑えています。この活動によりコミュティにはカーボンクレジットの収入が得られるとともに、米の収穫向上、肥料費の削減、気候変動抑制への貢献等、良い循環ができているのを感じました。今回IoT女性人材育成をテーマに視察させて頂きましたが、写真2にあるように、水位の状態を示す表示により旗の色で示し、周辺の稲作農家の方々がサイトに出向いて旗の色で対応するのをお聞きしました。紹介して頂いた環境配慮の取り組みは、アナログ的な取り組みが多かったのですが、普段から利用している携帯電話を活用して、画像で一斉に配信する等、アナログとデジタルの技術を融合し、より温室効果ガス抑制効果の高い取り組みにできると思いました。今後開催する若手人材育成のアイデアソンでも議論されることを期待しています。

  19日の午後は、カセサート大学で、タイとマレーシアのIoT専門家からIoTを活用した社会課題解決ソリューションの事例の紹介を頂きました(表1、表2)。20日の午前中には、(株)aglink.labから日本のモバイルネットワークを活用した社会課題解決ソリューションの事例について紹介して頂き、各国のIoTを活用した社会課題の解決ソリューションの事例を紹介頂きました。

表1 Day 1(19日)15:10-16:00     
(Share activity from Thailand Expert)

No.
Time
Title
Speaker
1
15:10-15:20
Smart building/livestock farming with edge/cloud computing
Asst. Prof. Dr. Prapaporn Rattanatamrong 

2

 15:20-15:30

Introducing IWING laboratory, KU

Assoc. Prof. Dr. Anan PHONPHOEM

3

15:30-15:40

Landslide Monitoring

Asst. Prof. Dr. Chaiporn JAIKAEO

15:40-15:50

IoT for Cattle/Dog Tracking

 Dr. Withawat TANGTRONGPAIROJ

5

15:50-16:00

Small Fishing Boat Tracking

Asst. Prof. Dr. Aphirak JANSANG

表2 Day 1(19日)16:10-16:40
           (Share activity from Malaysian Expert)

No.
Time
Title
Speaker
1
16:10-16:20
Solar surveillance system, cultural mapping, telecentre setup
Crocodile conservation surveillance system
Tan Chong Eng (UNIMAS)
2
 16:20-16:30
Image processing and detection, usage of drones
Jacey-Lynn Minoi (UNIMAS)
3
16:30-16:40
Using MOOCs for knowledge& cultural preservation
 Jaya Laxshmi (UNIMAS)

  19日の午前と午後の後半に、(株)aglink.lab主導でワークショップを開催しました。前日に視察したスパンブリー県の女性稲作従事者、タイ・マレーシアのIoT専門家、BSG専門委員会をメンバとする3グループで、午前のセッションではICTを用いた社会解決事例、午後のセッションではつなげる人材事例をテーマに、グループワークを実施しました。本ワークショップは、現地での社会課題解決に向けたIoTソリューションを主導するために、現地住民とIoTソリューションの繋ぎを推進するアーキテクト、ブリッジ的役割を果たす人材育成を目的に開催しました。今回のワークショップでは直接現地の社会課題をヒヤリング、多くのIoTを活用した社会課題を解決してきた大学の先生、日本の通信オペレータ、ベンダの専門的な知見を融合した建設的な議論が行われました。なお、本年11月には、今回と同様のジェンダーギャップ解消に向けたAPTの人材研修を、日本で開催することを予定しております。

  また、19日午前前半には、来年カセサート大学で実施予定のIoT若手・ジェンダーギャップ解消人材育成を目的としたアイデアソンのテーマについて議論しました。

  近年の世界規模での気候変動の影響で、温暖化による水不足や、局地的な豪雨による農作物収穫量の減少とそれによる価格高騰は、実感されていると思います。温室効果ガス削減の課題は、日々の意識と持続的な活動無しには達成されません。今回のタイ視察で再認識する事ができました。

  BSG専門委員会では、アジア太平洋地域を中心に地域の社会課題を解決するIoTの活用事例の実施、人材育成を実施しております。是非、興味のある会員内外の皆さまに参画頂ければ幸いです。

写真4 ワークショップ模様
写真4 ワークショップ模様
写真5 ワークショップ修了後の集合写真
写真5 ワークショップ修了後の集合写真