マレーシアにおけるRFIDを用いたCOVID-19感染拡大による救急外来の逼迫解消プロジェクトの紹介
TTCのBSG(標準化格差解消)専門委員会は、アジア諸国とのICTを利活用した社会課題の解決に取り組んでいます。昨年よりマレーシアのサラワク大学、サラワク工科大学、サラワク総合病院(サラワク州クチン市)と総務省が支援するAPT International Collaborative Research Programme (Category-I)で “ Behavioural analytics and real-time tracking of patients using IoT and RFID ” のプロジェクトを実施しています。7月21日(木)にプロジェクト成果の現地への引渡式をサラワク総合病院において実施しました。このプロジェクトの概要を紹介させて頂きます。
今回のプロジェクトは、COVID-19の感染拡大による救急外来の診療体制の逼迫を、ICTの利活用により解決する研究プロジェクトです。(現地視察を通じてCOVID-19以前からの慢性的な課題であることを実感しました。)
図1に示すように、患者さんにRFIDタグを装着してもらい、各ゲートで人の流れをモニタリングして、混雑や待ち時間の解消等に役立てるのが目的です。
図2の救急外来窓口での患者さんの受付では、大きなノートに手書きで情報を記入しています。これまで、患者さんの受付後の待ち時間データは、把握されてませんでしたが、今回の実証実験により、待ち時間が10時間に及ぶケースがあることが明らかになり、得られたデータから、診療体制の見直しの検討がなされることが期待されます。
従来のプロジェクトでは、実施国の専門家が日本のケーススタディサイトを視察し、日本の専門家との意見交換、また逆に日本の専門家が実施国を現地視察し提言を行う形で実施してきました。今回は残念ながらコロナ禍のために、プロジェクト期間中に相互に視察、意見交換を行う事はできませんでした。しかしながら、ほぼ月1回毎に両国の専門家がオンライン会議を持ち、また、相互訪問の意見交換の場の代わりとして、昨年11月に「Healthcare and IoT Solutions during the time of COVID-19」を開催しています。
本プロジェクトは、COVID-19への対策プロジェクトでしたが、パンデミック環境におけるプロジェクト遂行過程において、頻繁なオンライン会議による進捗管理や意見交換や公開形式での上記ウェビナー開催によるプロジェクトメンバ外からの意見を頂く事などICTを利活用した運営ができました。
一方で、今回引渡式の機会を得て、現地の緊急医療センタを訪問しましたが、現地に訪問して今更ながら次のようなことを知る事ができました。マレーシアには日本のような医療保険制度は無く、公立病院では、1マレーシアリンギ(現在約30円)の初診料で診察できる仕組みを知りました。今回のRFIDを用いたトラッキング(図3)での試験運用データからの事例で、1日600名以上の患者のエントリーしていました。日本のように電話で予約して診察すれば、病院内の混雑は解消できると思ってはいましたが、医療保険制度が無い現場を見ることで、そのニーズは一目瞭然でした。民間病院では100マレーシアリンギ程度の診察料と高額なので公立病院に人が集中する背景も理解できました。余談ですが、今回日本帰国のための搭乗72時間前のPCR検査は、公立病院であれば、安価に検査できるものの、判定に3日要するため、高額な民間病院を利用することになりました。
今後のプロジェクト遂行では、コロナ禍で定着した、オンラインでの意思疎通手段の副産物と、現地でしか得られない情報を得る機会の組み合わせにより、今後のプロジェクトの質が向上される事と思います。
BSG専門委員会ではICTを利活用して社会課題解決の取り組みを諸外国と連携して活動しております。持続可能な社会を形成するためには、日本だけでなく全世界的な取り組みが必要ですので、是非参加頂きICT技術が果たす社会的価値を高めていきましょう。