ITU-T総会WTSA-20結果
WTSA(World Telecommunication Standards Assembly: 世界電気通信標準化総会)は、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)における標準化活動の方向性を決める最高意志決定会議として、4年に1度開催され、次研究会期(2022年-2024年)の研究課題の承認、具体的な標準化活動を行う研究委員会(SG:Study Group)の議長・副議長の指名、勧告・決議の承認などが行われる会議です。
2022年3月1日(火)から9日(水)まで、スイス連邦(ジュネーブ)において国際電気通信連合(ITU)世界電気通信標準化総会(WTSA)が開催されました。
WTSA-20は、2022~2024年の研究会期のITU-Tの体制を決定するための総会であり、ITU-Tの運営方針の最高意思決定会議であるWTSA-20は、2020年11月インドのハイデラバードで開催予定でしたが、コロナ禍の影響で2度延期され、最終的にインドでの開催は中止となり、2022年の3月1日~9日にITU本部のあるジュネーブでの開催となりました。会場はITU本部に隣接するCICG(ジュネーブ国際会議場)とITU本部のモンブリアンビル会議室を使用しました。
WTSA-20には101か国のメンバー国代表を含む146ヵ国から約1680名が出席し、日本からは重野分析官を団長に、総務省の担当課の他、尾上TSB局長候補、前田参与、NTT、KDDI、沖電気、日本電気、日立製作所、富士通、三菱電機、情報通信技術委員会(TTC)、情報通信研究機構(NICT)等から58名が出席しました。本ブログでは、総会の会議模様を速報します。
WTSA-20直前の2月28日には、GSS(Global Standards Symposium)が開催されました。今回のGSSのテーマは「デジタルトランスフォーメーションを可能にし、持続可能な開発目標を達成するための国際標準」で、現地参加とオンライン参加による多くの参加のもと開催されました。
現状のWTSA会議規則では、WTSA-20全体会議での採決は各国代表者の物理的参加者のみにより執り行われ、オンライン参加者は賛否採決や投票に参加することができませんが、コロナ禍の影響を考慮し、WTSA-20における全ての会議について、リモートオンライン形式での議論への参加を可能とし、全体会議のモニタリングや各アドホック会議での事前審議には参加可能で実施されました。会議当初は、すべてのアドホック会議が、オンラインで参加できない状況もありましたが、殆どの会議にオンラインでの参加可能でした。
WTSA-20総会の日本としての主要結果については、3月11日付で総務省から報道資料が公開されています。
(1)総会構成
会議は全体会議(プレナリ会議)配下に、COM1(運営)、COM2(予算)、COM3(作業方法)、WG3A(Res.1A.1)、WG3B(連携)、COM4(検討体制、作業プログラム)、WG4A、WG4B、COM5(エディトリアル)で構成されます。従来WTSAの全体議長は、ホスト国から選出されますが、今回はジュネーブでの開催となり、TSAG議長であるBruce Gracie 氏(カナダ)が務められました。日本からは、全体会議の副議長として、APT WTSA準備会議議長である前田総務省参与(TTC参与)、COM2の副議長として総務省長屋推進官が務められました。
(2) 主要な新規決議(Resolution)
総会の成果は、主に決議(Resolution)として、会議の意思を文章でまとめたものを反映したものとして扱われ、今後の政策推進や変更などに影響を与えるものです。WTSA-20においては、40件の決議が修正または新規に合意され、そのうちWTSA-17から引き続き変更がないものが10件、修正決議が38件、新規決議が2件、また4件の決議が目的達成で廃止、Aシリーズ修正3件となりました。
新規決議の内容については、
- ITU-TのSGの組織改革に関する検討
- アフリカのための共通の緊急電話番号
2件が新規に作成されました。
これらの結果の詳細については、総務省及びTTCで計画されている関連会議で報告審議の予定ですが、WTSA-20の公式の成果である決議文書と修正勧告、議長と副議長の指名結果、SG(研究委員会)の課題(Question)構成をまとめたITU-T事務局からの会議報告(Draft Proceeding)をご参考にいただければと思います。
(3) SG議長・副議長指名
日本から選出されたSG議長・副議長については表1にまとめました。皆様方の今後のご活躍をお祈り申し上げます。
また、今会期を務めたSG議長、副議長に対しては、感謝状が贈呈されました。SG3議長の津川 清一 氏(KDDI)、SG13副議長 後藤 良則 氏(NTT)、SG15副議長 荒木 則幸 氏(NTT)は、議長、副議長任期完了の2期を務められました。長い間ご苦労様でした。また、ロシアからのSG議長、副議長候補者に対しては、信任投票の結果否認されました。
表1 任命された我が国のTSAG・SG議長・副議長
SG等 | 活動内容 | 役職 | 氏名(所属) |
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SG9
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音声映像コンテンツ伝送及び統合型広帯域ケーブル網
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議長
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宮地 悟史(KDDI)
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SG13
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将来網及び新興ネットワーク技術
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議長
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谷川 和法(NICT)
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SG3
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料金及び会計原則並びに国際電気通信・ICTの経済及び政策課題
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副議長
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本堂 恵利子(KDDI)
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SG5
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電磁界、環境、気候活動、持続可能なデジタル化及び循環型経済
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副議長
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高谷 和宏(NTT)
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SG12
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性能、サービス品質及びユーザー体感品質
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副議長
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山岸 和久(NTT)
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SG16
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マルチメディア及び関連デジタル技術
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副議長
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山本 秀樹(沖電気工業)
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SG17
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セキュリティ
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副議長
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三宅 優(KDDI)
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SG20
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IoT並びにスマートシティ及びコミュニティ
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副議長
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山田 徹(NEC)
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TSAG
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ITU-Tの活動の作業方法、優先事項、計画
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副議長
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永沼 美保(NEC)
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(注)SG15議長に、荒木 則幸 氏(NTT)、SG11副議長に釼吉 薫 氏(NICT)が立候補されたが、SG議長数、副議長の地域バランスの制約等から辞退し、各々WP議長として活動を継続される予定。
(4)今回のWTSAで審議された新決議案の紹介
今回のWTSAで審議された新決議案の中から、合意できなかった以下の4決議案についての審議結果を報告します。
- パンデミック対策
- ITU-Tへの産業界の関与の強化
- SMART海底ケーブル
- AI
パンデミック対策の新決議案については、ITU全体として取り組む事項として、PP全権会議で扱うことを要請することとなった。ITU-Tへの産業界の関与の強化の新決議案については、決議68:ITU-Tにおける産業の役割の進化の改訂案と併せて議論を行ったが、改訂の合意には至らなかった。SMART海底ケーブルの新決議についても合意に至らなかったが、関連SGへの照会、TSAGへの関連SGの活動報告、TSB局長に対して他のSDOの重複活動が無いかを求めた。AIの新規決議については、既にFGやSGでAI関連の課題を検討、決議2(ITU電気通信標準化部門研究グループの責任及び権限)において各SGにAIが反映されている等もあり、合意に至らなかった。
(5) 関連のイベント
1)GSS(Global Standards Symposium)
WTSA開催の前日の2月28日(月)にGSSが開催されました。「デジタルトランスフォーメーションを実現し、持続可能な開発目標 (SDGs) を達成するための国際標準」をテーマにエストニアのNele Leosk外務省デジタル担当大使を議長で実施されました。以下の8つのセッションから構成され実施されました。セッション6の医療サービスへの公平なアクセスのためのデジタルヘルステクノロジのモデレータとして慶應義塾大学の川森先生が務められました。本シンポジュームのレポートが公開されております。
セッション1:SDGsのための持続可能なデジタルトランスフォーメーションに関する世界標準協力最新情報
セッション2:国際標準に基づくSDGsのためのデジタルトランスフォーメーションの可能性を最大限に引き出すためのハイレベル対話
セッション3:人間中心の都市とコミュニティに向けて:分野横断的なデジタルイノベーションとトランスフォーメーションの推進
都市とのU4SSC
セッション4:デジタルトランスフォーメーションを持続可能にするには?
セッション5:交通安全のための人工知能
セッション6:医療サービスへの公平なアクセスのためのデジタルヘルステクノロジ
セッション7:デジタルトランスフォーメーションによる全員のための金融包摂の促進
セッション8:GSSレポートの採択と閉会
2)各国レセプション
WTSA期間中の日本をはじめ昼食時、会議終了後に各国のレセプションがCICG内等で開催されました。開催された各国レセプションは以下のとおりです。コロナ禍でレセプション招待者は従来の会議に比べ限定されて実施されましたが、スイスでの会議直前の緩和政策で当初よりは多くの招待者を招いて実施されました。日本レセプションでは、TSB局長尾上候補、在ジュネーブ山崎大使、zhao事務総局長等、多くの各国のHoDが参加なされました。
- 3/1(火)昼 チュニジア、夜 ドイツ、サウジアラビア
- 3/2(水)昼 アラブ首長国連邦、夜 日本
- 3/3(木)昼 韓国、夜 米国
- 3/7(月)昼 コモンウェルス、ガーナ
3)THE WOMEN IN STANDARDIZATION EXPERT GROUP(WISE)イベント
ITU-Tにおけるジェンダ公平性の推進(決議55):ITU-T活動における女性参加促進、女性役職者の増加、Women in Standardization Expert Group (WISE) プログラムの推進の一つとして、今回、WTSA-20開催中の国際女性の日である3月8日(火)に第2回女性標準化専門家グループ (WISE)を「標準策定において性別が重要な理由」をテーマにITUのモンブリアンビル2Fで開催しました。オーストラリアのアマンダ・ゴリー国連大使のキーノート、オーストラリアーITU間の覚書締結、ミシガン州立大学教授のAnjana Susarla氏よりITU-Tにおけるジェンダーに関する報告、表彰式、パネルディスカッション:標準策定においてジェンダーが重要な理由が開かれました。
パネルディスカッションには、NEC永沼氏がパネラーとして参加、ITU-T標準化活動への貢献<リーダーシップ>にて、TSB局長より表彰されました。引き続きTSAG副議長等のご活躍を期待しております。
(6)会議を終えて
今回の会議には、現地で参加する方々とオンライン参加する方々がおりましたが、双方の参加者にとって大変だったと思います。現地で参加された方々は、出発前のコロナ接種証明書の取得において、スイスの直前にコロナ対策緩和によりスイス国発行のコロナ証明書の必要がなくなった事もあり、取得の必要有無への不安や、帰国においても、滞在中に日本への入国のコロナ対策緩和により入国後は、3日間の待機が宿泊施設から自宅に変更や、入国での検査当日に公共交通機関での利用可、3回接種された方は1日のみの待機期間の緩和がされました。また、航空便においては、航空会社のシステム障害により、ジュネーブへの到着が遅れた方々や、滞在中にウクライナ情勢により、ロシア上空の航路回避の影響で、帰国便が運休などで出発便の制限や、航路変更による16時間半の長時間のフライトで帰国された方々もいらっしゃいました。滞在中、ジュネーブ市内では、公共交通機関以外でのマスク着用は義務づけられていない状況で、飲食店でのマスク着用の必要もなく、アクリル板の遮蔽体や席の間隔をとることを目にすることも無く、特に日本のようにテレビのニュースで毎日の感染者数を伝える番組もなく、日常の生活に戻りつつある事を実感しました。会議については、主会場のCICGでは、7時から19時までの使用時間が制限されました。オープニングのプレナリ会議で、極力現地参加者やオンライン参加者への負担軽減から、土日の会議の開催等を抑える議論はありましたが、多くの決議に対してのアドホック会議が開催されました。なお、Zhao事務総局長より日曜日の昼に会議参加者に対してサンドイッチが支給されました。日本からのオンラインでの参加者の方にとって、時差が8時間あり、主会議のコアタイムが、日本時間の夕方4時(ジュネーブで朝8時)から、深夜の1時半(17時半)なり、かつアドホックの会議が3時(19時)までに開催されるなど、日本から参加者の方々には、深夜の会議が続き健康面で大変な負担をお掛けしたと思います。現地参加、日本からのオンライン参加者の皆さまの御苦労に感謝いたします。役職者の人事交渉や背景情報、現地での各国の動き、会場での議長の表情等やはり現地でないと調整が難しい事を実感しました。APT地域からの役職者候補が重複する中、日本からの役職者を得られた成果は、総務省の方々、前田総務省参与の現地でのTSBやAPTの方々との直接交渉があって実現されたものと思います。現地でのご案内や帰国関連等様々なのサポートを頂きました、ジュネーブ在住のIEC事務局出向されている三宅氏(日立)、KDDIの千葉氏に感謝申し上げます。なお、次回WTSA-24会議のホストとしてインドが予定されております。参加者の皆さまご苦労様でした。