第10回CTOグループ会合速報 (南アフリカ共和国ダーバン開催) 第一弾
今回のブログは2回にわたり、南アフリカ共和国のダーバンで開催されたCTOグループ会合(以下CTO会合)の模様を、ITU-Tで議論された中で優先的に検討すべき今後の標準化課題を中心にお伝えします。
目次
1.CTO会合とは
1.1 CTO会合の概要
1.2 CTO会合の目的
2.第10回CTO会合
2.1 第10回CTO会合の開催概要
9月9日(日)、南アフリカのダーバンにあるICC(International Convention Center:国際会議センタ)で開催されました。9月10日から13日まで、ITU テレコムワールド2018がダーバンで開催される機会を活用して、CTO会合はテレコムの開会式前日に同会場で開催されました。
今回議論された主な課題は、SDGs(国連の持続可能な開発目標)、スマートIoT、量子暗号、OTT(Over-The-Top)、ネットワーク2030などです。
2.2 参加組織
今回のCTO会合に参加した組織一覧を表1に示します。
企業を含む13組織の代表者とITU-T局長、TSB幹部が参加しました。加えて、今回のトピックに密接に関係するITU-TのStudy Groupから、品質を扱うSG12議長(Kwame Baah-Acheamfour氏、ガーナ)、将来網を扱うSG13議長(Leo Lehman氏、スイス)、マルチメディアを扱うSG16議長(Luo Noah、中国)が、また、データ処理管理に関するフォーカスグループFG-DPM議長(Gyu Myoung Lee氏、韓国)が参加しました。初参加メンバーとしては、量子通信を扱うスイスのID Quantique社などの参加がありました。
表1. 第10回CTO会合参加組織
No.
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企業・団体名
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国名
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1
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Communications and Information Technology Commission
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サウジアラビア
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2
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Ericsson
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スウェーデン
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3
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Huawei Technologies
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中国
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4
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IEEE Computer Society
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米国
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5
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ID Quantique
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スイス
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6
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Mzansisat
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南アフリカ
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7
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NEC
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日本
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8
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NICT
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日本
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9
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Nokia
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フィンランド
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10
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Rohde & Schwarz
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ドイツ
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11
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SK Telecom
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韓国
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12
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TTC
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日本
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13
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Tunisie Telecom
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チュニジア
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14
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ITU-T FG-DPM議長(Data Processing & Management)
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韓国
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15
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ITU-T SG11議長
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ガーナ
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16
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ITU-T SG12議長
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ガーナ
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17
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ITU-T SG13議長
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スイス
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18
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ITU-T SG16議長
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中国
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ITU幹部(TSB局長、次長、部長など)
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2.3 日本からの参加者
NICTの富田二三彦様、NECの原崎秀信様が参加されました。私はTSB局長からの招請を受け、TTC代表およびTSAGの標準化戦略ラポータグループのラポータとして参加しました。
3.第10回CTO会合のオープニング
3.1 Zhao氏のオープニングスピーチ
節目となる第10回CTO会合のオープニングでは、Zhao事務総局長が挨拶を行いました。その中で、ITUの責任者として、ITU加盟国の首脳レベルの幹部に対し、機会あるごとに、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の実現における情報通信技術(ICT)の重要性をアピールするとともに、オープンな議論の場としてのITUの活用を奨励してきたことを話されました。
3.2 Zhao氏のメッセージ
ITUの成果の一例として、2018年9月3日から開催された「中国アフリカ協力フォーラム2018北京サミット」の開会式での中華人民共和国の習近平国家主席の基調講演を挙げ、中国とアフリカのインフラ開発協力において、エネルギー、輸送、情報通信、水資源の協力強化に焦点を当てる、との習主席のメッセージがあり、インフラ開発の対象として初めて「情報通信」が明示されたという点と、このフォーラムにITUがオブザーバーとして招待された点を強調されました。
また、Zhao氏は、ITUの特徴として、独自の官民パートナーシップとしての歴史があり、民間部門の技術的専門性が組織としてのITUの使命を達成するために不可欠であることと、ITUの場をネットワークオペレーター、中小企業、OTT(Over-the-Top)サービスプロバイダーの相互協力を促進する中立的な多国間プラットフォームとして活用できることを強調されました。
中国だけでなく、韓国や日本を含めITUの活用と価値について再認識して欲しいというメッセージもありました。
3.3 ITUの持続可能な開発への貢献
Zhao氏のメッセージを受け、今回のCTO会合では、持続可能な開発の4つの柱のエネルギー、輸送、情報通信、水資源の重要性を再確認するとともに、これらの柱は、ICTで繋がることによるネットワーク効果により、その発展が加速されると認識されました。すなわち、エネルギー、輸送、水資源の広範囲な情報へのアクセスがICTにより実現可能になることです。また、デジタル化(Digitalization)と、特にデータへのアクセスは、IMT-2020(5G)システムの普及により、今後10年間で同様のネットワーク効果をもたらすであろうという共通認識が得られました。
4.アプリケーションセキュリティと耐量子暗号
4.1 アプリケーションセキュリティの必要性
OTTサービスの重要性が増しており、機密情報の個人データ交換、電力グリッドや道路輸送インフラなどの重要インフラストラクチャへの関連性が高まると、アプリケーションセキュリティに注意を払う必要があります。アプリケーションセキュリティの客観的測定法と、その結果を評価するためのフレームワークが標準として必要となると考えられます。アプリケーションセキュリティの標準は、「信頼のラベル」を提供できる可能性があり、大企業やそれほど知られていない小さなプロバイダーであるかを問わず、エンドユーザーにすべてのアプリケーションプロバイダーがデータを適切に処理しているという「信頼」を提供することが期待されます。
4.2 耐量子暗号の重要性
量子コンピューティングの到来により、セキュリティへの重大なリスクがもたらされることが懸念され、耐量子暗号はそのリスク対処への準備として不可欠と考えられます。公開鍵暗号は、パブリックネットワーク上での認証の基礎ですが、量子コンピューティングは、ほとんどすべての公開鍵暗号がその拠りどころとしている素因数分解や離散対数問題などを迅速に解いてしまいます。耐量子公開鍵暗号の重要性が高まっていることを認識し、相互運用可能な量子安全通信、特に対称暗号方式の鍵の安全な配布において、ITU標準の活用が期待されます。
4.3 ITUがセキュリティ課題を主導する意義
CTO会合では、アプリケーションセキュリティと耐量子公開鍵暗号を含むエンドツーエンドのセキュリティを考慮するプラットフォームとしてのITUの価値を見出しました。さらに、アプリケーションセキュリティ、インフラストラクチャセキュリティ、相互運用可能な認証、およびサイバーセキュリティに対処する研究を行う、Financial Inclusion Global Initiative(FIGI)の一環として、ITUが主導するセキュリティ研究の意義を共通認識として得られました。
4.4 量子通信(Quantum Communication)に関する新課題
CTO会合では、韓国のSTテレコム社が商用LTE基幹網に量子鍵配信を適用している事例紹介が行われるとともに、SKテレコムに装置を供給しているスイスのID Quantique社から最新の量子通信の技術動向が紹介され、今後の新課題としての関心が示されました。
このようなセキュリティ動向を踏まえた新しい動向として、CTO会合の前日の9月8日に終了したITU-TのSG17(セキュリティ)会合(8月29日から9月7日、ジュネーブ開催)において、量子通信に関する2件の新しいワークアイテム(Quantum Noise Random Number Generator ArchitectureとSecurity framework for Quantum Key Distribution in Telecom network)の設立を合意したという速報がありました。なお、SG17では、相互接続可能な耐量子通信に関する新課題(Security aspects of interoperable quantum safe communications)の設立提案がありましたが、今後の扱いについては継続案件になっています。
こぼれ話:ダーバンについて
開催地ダーバン
ダーバンは、南アフリカ共和国でヨハネスブルクに次ぐ人口を有する都市で、南部アフリカ有数の外港都市であり、インド洋に面し、海沿いにリゾートホテルが立ち並び、国際会議施設やスポーツ施設が整った近代都市といった印象です。2010年にはFIFAワールドカップの会場の一つになりました。
人々は明るく親切で、言葉はイギリス領だった過去もあり、英語が通じるので居心地は大変良かったです。ただ、外務省海外安全ページでの危険度レベル1の注意地域であることもあり、治安への不安は拭い切れませんでした。そのため、空港からホテルへの移動はテレコム主催者側が用意したバスを利用し、ダーバン滞在中はホテルと会場内での活動に制限自粛することとしました。
Uber初挑戦!
帰国の際のホテルから空港への移動は早朝でしたのでタクシーを利用しようと思いましたが、地元の方から、お勧めは「Uber」だと言われ、初挑戦しました。朝6時でしたが、スマホからアプリを立ち上げ、配車3分、料金はタクシーの半額で安全に移動できました。
料金支払い処理はインターネット上で事前に扱えますので、現地通貨を用意したり、チップをいくら払うのかなど悩むこともありません。ドライバーとの話では、料金のうちの25%がUber社に割り当てられるということでしたが、ドライバーの取り分としてはタクシーより条件は良く満足しているということでした。Uberの開発途上国での活用は有益であり、グローバルの広がりのパワーを実感する機会となりました。