第9回CTO会合速報:AIのネットワーク活用について
ICT産業界を代表する民間企業の最高技術責任者(Chief Technology Officers:CTO)の集まりであるCTO グループ会合(以下、CTO会合)の第9回会合が、ITUテレコムワールド2017(韓国の釜山で9月25日~28日に開催)の会場となった釜山国際展示場(BEXCO)で、テレコム開催直前の9月24日(日)の午後に開催されました。写真は会場となったBEXCOの外観です。
CTO会合は、ITU-TのTSB局長(Chaesub Lee氏)が主催する活動の一つで、ICT業界をリードする各社のCTOが集まり、標準化の優先課題を議論し、今後の国際標準化の戦略的方針と標準化活動の効率化を図るための意見交換の場です。今回のCTO会合には、ITU-Tに加え、ITU-Rの局長と事務局幹部も参加しました。第9回CTO会合の参加組織を表1に示します。今回のブログでは、CTO会合でのICT産業界リーダーが関心を寄せる今後の標準化課題に関する議論概要を紹介します。
まず、会合の初めに、TSB局長から、過去のCTO会合において、5Gは最重要課題として提案され、この3年間に、5Gのネットワーク課題について、ネットワークのソフトウェア化とインテリジェント化の検討が進展したことが紹介されました。CTO会合の提案がITU-Tの標準化の戦略的な取り組みの検討に貢献するとともに、今後もその貢献の重要性が指摘されました。
私は、TTC代表およびTSAGの標準化戦略ラポータグループのラポータとして、ITU-T局長の招待を受け、今回のCTO会合に参加し、本年5月に開催されたTSAG標準化戦略ラポータグループの会合結果を報告しました。この報告の中で、標準化戦略ラポータグループとCTO会合との連携を提案し、CTO会合の提言がITU-Tの新しい標準化活動を推進する要となることが紹介されました。
今回のCTO会合の主な課題は、1)ネットワークにおけるAI(人工知能:Artificial Intelligence)の活用と、2)コンバージェンスによる伝送ネットワークの新たな展開、が議論となりました。ネットワークにおけるAIの活用については、ベンダー(エリクソン)とオペレータ(KT)からの提案がありました。伝送ネットワークの新たな展開については、ベンダーのノキアとHuaweiから、5Gを支える光ネットワークの発展の重要性と、OTT(Over The Top)やバーティカル業界からの要望として、データセンター間相互接続などを想定した様々なコンバージェンスがもたらす新たなネットワークへの要求条件に関し、光伝送ネットワークへの取り組みの強化が必要であることが認識されました。
1) AIによるネットワークの自動化と機能拡充
「AI」 については、機械学習やAI技術の活用によるデータ駆動型のインテリジェントで堅牢で安全なネットワークの実現が目標であり、ネットワークの運用経費の削減やネットワークの利用と運用保守性の向上への期待が議論されました。将来の5Gシステムとの関連では、AIにより、ユーザとネットワークの両方の振る舞いをよりよく理解し、不十分な無線リソースの使用を最適化したり、変動予測することが可能になります。ネットワーク異常や非効率なインシデント発生の自動検出とその解決は、事前予測型の保守を可能とするとともに、ネットワーク事業者および他のサービスプロバイダーの運用コストの削減に貢献すると期待されます。
また、TSB局長からは、ITUでは、コミュニケーションネットワークにおけるAIの活用について議論を開始しており、本年6月に「AI for Global Summit」を開催するとともに、今回のITUテレコムワールド2017において、Smart ABCプログラム(AはAI、BはBanking、CはCitiesを表す)を企画し、AIに関する幅広い議論を開始したこと、またITUが新たに発刊するITUジャーナル誌「ICT Discovery」の創刊号の特集はAIであることが紹介されました。
CTO会合では、5Gシステムと電気通信分野における機械学習とAIによるインテリジェンスに関する標準化の必要性をより理解し、特定するために、AIを適用できるシナリオやネットワークの検討課題の洗い出しから始め、ITU-Tで今後さらなる研究を行うことが合意されました。これらの研究には、AIに関する用語定義やこの分野における既存および新興の標準および仕様の検討状況に関する分析を行うことと、さらに、インテリジェンスの利用に必要なアーキテクチャー、インターフェース、機能エンティティー、サービスシナリオ、プロトコルなどの検討が含まれます。今後、ITUにおけるAIに関するFocus Groupの設立などの提案に結びつくことが予想されます。ITUにおけるAIの今後の動向についてはTTCとしてもフォローし、会員の皆様に共有していきたいと考えています。
2) 柔軟なネットワーキングソリューションのためのコンバージェンス
CTO会合では、ネットワークエッジでのインテリジェンスと仮想化技術の活用が、バーティカル業界と通信業界とのコンバージェンスの実現のために必要であるとの提案がありました。ITU-TのSG15は、伝送ネットワークに関する標準化については技術的なリーダーシップを発揮できており、今後もその強みを生かしていくことが期待されますが、今後の新たな取り組みとして、急速に成長するOTTプレーヤー(GoogleやFacebookなど)やその他の業界が求める柔軟でプログラマブルでスケーラブルなネットワーキングソリューションを提供するために、OTTプレーヤーなどの新しい要求条件に対応していくことが期待されます。その具体例としては、短距離で広帯域で低コストなデータセンター相互間接続のための要求条件、エッジクラウド相互のインターネットワーキング、5Gシステムの展開を支える新たなfront-haulおよびmid-haul技術など、ITU-TのSG15において、新しい要求条件を考慮した標準化作業が必要であることが提案されました。
5Gシステムにおけるネットワークのソフトウェア化やスライシング、モバイルエッジコンピューティング技術に機械学習などのAIが加わることにより、更なるネットワークの変革が促進されると思います。ITU-TがOTTおよびバーティカル業界の団体と連携して、彼らの要求条件を適時かつ正確に理解し、対応していくことが必要でしょう。
今後の予定
今後のCTO会合に関して、TSB局長は、CTO参加者に対して、2017年12月7日にUAE(アラブ首長国連邦)のドバイで予定されている他の業界セクターの幹部を含めたCxO会合を開催することが案内されました。
CTO会合での議論概要はCOMMUNIQUÉ(共同声明)として公開されていますので、より詳細な内容に関心のある方はご覧下さい。
この共同声明の情報は全てのSGとTSAGメンバーに展開され、私がリーダを務めます標準化戦略に関するTSAGラポータグループで更なる分析を行い、AIに関するFocus Group設立の提案を含め、今後のITU-Tでの標準化戦略の検討に反映していく予定です。
表1 第9回CTO会合参加組織
No.
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企業・団体名
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国名
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1
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Ericsson
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スウェーデン
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2
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ETRI
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韓国
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3
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Fujitsu
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日本
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4
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Hewlett Packard Enterprise
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米国
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5
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Huawei Technologies
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中国
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6
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KDDI
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日本
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7
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KT
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韓国
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8
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NEC
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日本
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9
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NICT
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日本
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10
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Nokia
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フィンランド
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11
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Orange Middle East & Africa
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エジプト
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12
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Samsung Electronics
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韓国
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13
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Telekom Indonesia
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インドネシア
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14
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Trace Media
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UAE
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15
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TTC
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日本
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16
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Tunisie Telecom
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チュニジア
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17
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ITU
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