北米地域CTOグループ会合
ITU-TのTSB局長(Chaesub Lee氏)が主催し、ICT産業界を代表する民間企業の最高技術責任者(Chief Technology Officers:CTO)の集まりであるCTO グループ会合(以下、CTO会合)が、3月30日(木)、米国カリフォルニア州サンノゼのシスコシステムズの本社で、シスコシステムズのDavid Ward氏(CTO兼チーフアーキテクト)のホストにより開催されました。
CTO会合は、ITU-TのWTSA-16で継続決議68となったTSB局長に課せられたアクションの一つで、標準化の優先課題を議論し、今後の国際標準化の戦略的方針と標準化活動の効率化を図るための意見交換の場です。CTO会合には、ITUテレコムと併催の「グローバルCTO会合」の他、アジアやアラブなどの「地域毎CTO会合」がありますが、今回は北米地域での初めての開催となりました。CTO会合参加組織を表1に示しますが、アメリカから8組織の代表者とITU-T局長とTSB幹部が参加しました。参加組織では、Bill & Melinda Gates Foundation、Huawei Technologies、Knowles Electronics、Qualcommの参加も予定されていましたが欠席となりました。
今回のCTO会合は、北米に拠点を置くITU-TセクターメンバーがITU-T局長と業界のニーズおよび関連する標準化の優先事項について意見交換を行う貴重な機会となりました。私は、2017-2020年新研究会期におけるITU-Tの標準化戦略TSAGラポータグループ(RG-SS)のパネルメンバーとして、ITU-T局長の招待を受け、今回のCTO会合に参加しました。
今回のブログでは、CTO会合でのICT産業界が高い関心を寄せる今後の標準化課題に関する議論を紹介します。
1.5Gビジョンの実現に向けて
今回のCTO会合の主テーマは「5Gビジョンの実現」 で、5Gネットワークのインフラストラクチャの側面と5Gのアップリケ―ションとサービスに関する側面の標準化課題を議論しました。CTO会合参加者からは、ITU-Tが取り組むべき5Gインフラストラクチャとサービスに関する標準課題について、以下の点が指摘されました。
- 固定・無線コンバージェンス: 固定ネットワークとワイヤレスネットワーク間のシームレスな通信の実現が重要であり、アクセス形態に依存しない統一されたネットワーク管理フレームワークによるシームレスなサービス運用と固定・モバイル横断的なネットワーク提供の実現が必要であり、ITU-Tが標準化課題として、WiFiセルラー統合(同時無線)、アンカーレスモビリティ、アンカーレスコンテンツ、QoE分析・制御できるアクティブエンドポイントの実現など、必要なネットワーク機能の標準化が重要であることが指摘された。
- 5G要求性能条件が及ぼす半導体産業への影響: ITU-Rが示す「IMT-2020無線インタフェースの技術的性能に関する最低限の要件」における重要な5Gの能力と性能要件は、デジタル信号処理プラットフォームの性能を限界まで押し上げなければ実現できないものであり、 高性能の信号処理を可能にする効果的な新規チップアーキテクチャの採用、柔軟性、セキュリティ、消費電力の低減、およびチップサイズの制限などの技術課題があることが指摘された。
- ICN (Information-Centric Networking): 音声、ビデオ、データサービスを含むダイナミックでQoE (Quality of Experience)保証が可能なパフォーマンスと品質管理を実現し、より迅速でより堅牢なコンテンツ配信を可能にする技術としてICNが期待され、ICNのフレームワーク、要件および能力に関する標準を行い、スケーラビリティ、モビリティ、セキュリティなどの問題に対処する標準化活動を加速することを提案した。
- オープンソースとの連携: コンテンツ配信を最適化するための実現可能なアプローチとして、FGでのPOC (Proof of Concept)により、ICNがどのように構成できるかが示された。ICNソフトウェアがオープンソースであり、現在世界中の研究ネットワークで検証されており、 ITUがICN技術の発展に貢献し、ICT革新を推進するオープンソースのコミュニティとの連携を拡大することを提言した。
- 様々なQoEの実現: 5Gシステムとソフトウェアベースのネットワーキング機能の主な利点は、セッションごとのパフォーマンスを最適化する能力である。様々なサービスにおいて高品質のエンドユーザーエクスペリエンス(QoE)を実現するために、サービス間のユーザー中心のセッションで、複数のメディアとメタデータストリームを高品質なQoEで管理できるようにする必要があり、ターゲットユーザーエクスペリエンスの定義方法について「パフォーマンス、QoS、QoE」を扱うSG12に検討するよう促しました。 また、インサービスのQoEモニタリングのメカニズムの研究の必要性が指摘されました。
- 音声品質劣化問題: 移動通信のユーザが知覚する音声品質が近年劣化しているという事例が紹介された。この劣化は ITU-T P.800.1で定義されているMOS(平均オピニオンスコア)が着実に低下していることで証明される。 これらの劣悪な音声品質は技術的な制約よりはオペレータのリソース割当て設計に依存するが、エンドユーザエクスペリエンスの測定、ロギング、レポート作成が可能な標準を策定することで、音声品質の向上に大きく貢献できる可能性があることを指摘しました。
TSB局長からは、5G(IMT-2020)の非無線関連の標準化課題はWTSA-16の決議92の検討促進課題であることと、IMT-2020のネットワーク側面に関するFG(Focus Group)の予備検討が終了し、5G課題はITU-T SG13に移行し、その中で、5Gアーキテクチャ、固定モバイルコンバージェンス、ソフトウェア定義ネットワーク(SDN)の拡張、エンドツーエンドのネットワーク管理、ICNの課題として取り組まれており、CTOメンバーへの標準化検討への寄与が要請されました。
2.5Gモバイルに関連するIoT/BD/AIについて
5G以外としてIoT/BD/AIに関して、参加CTOより以下の提案が提起されました。
- Internet of Things(IoT)デバイス識別を容易にするためのITU-TのSG2が割り当てる国際番号リソースの効率的で持続可能な利用の重要性が指摘された。
- セキュリティ/プライバシーに対する脅威の緩和に対する対策の標準化が必要であり、SSL(Secure Sockets Layer)/TLS(Transport Layer Security)などの既存のプロトコルを更新または拡張する可能性が指摘されました。
- IoTサービスとデジタル金融サービスの提供における分散型元帳技術の価値が示されるとともに、ITU-Tがブロックチェーンの可能性とそのセキュリティへの影響を調査することを推奨しました。
TSB局長から、IoT/BD/AIに関するITU-Tの取組について最新の情報が紹介されました。
- SG20会合(2017年3月)で、IoTにおけるセキュリティとプライバシーを扱う課題Q6/20を設立することが紹介された。また、「スマート都市におけるデータ処理と管理を研究するためのフォーカスグループ」 FG-DPM(Focus Group on “Data Processing and Management to support IoT and Smart Cities & Communities”)が設立されることが紹介されました。 このFG-DPMの優先事項は、データセットとデータ管理システムの相互運用性をサポートするメカニズムを提案することで、既に確立されたデータ管理技術と同時に、ブロックチェーンなどの最新動向を調査し、システムデータの管理に対する効率的でスケーラブルな方策を検討する。
- ビル&ミランダ ゲーツ財団の提案により2014年6月に設立され、2016年12月に検討を終了したFG-DFS(Digital Financial Systems)について紹介がありました。このFGでは、DFSのエコシステムに関する28件の技術レポートが作成され、今後、FG-DFSの作成文書は関連するSGに展開され、勧告化の検討が開始される予定である。また、新しい動きとして、ITU、ビルゲーツ財団、世界銀行、国際設置銀行の協力によるFIGI(Financial Inclusion Global Initiative)の設立が予定されており、「デジタル金融サービスと金融インクルージョンに関するITUワークショップ」が4月19日にワシントンD.C.で開催される予定で、今後の動向が注目される。
- SG17は金融関係のブロックチェーン技術を使ったセキュリティについて検討を行う予定であり、2017年3月21日にはジュネーブにて“Workshop on Security Aspects of Blockchain”が開催されました。
- ITU-Tでセキュリティ課題を専門に扱うSG17の3月会合において、自動車のソフトウェアアップデートにおけるセキュリティに関する最初の勧告ITU-T X.1373: “Secure software update capability for ITS communication devices”を合意しました。さらに、ITSセキュリティに関する専門課題Q13/17 “Security aspects for Intelligent Transport System”の設立を合意したことが報告されました。
3.TTCでの活動体制
上記の課題等に関連しては、3GPP(3GPP専門委員会、移動体通信網マネジメント専門委員会)をはじめ、ITU-T SG13(Network Vision専門委員会)、SG17(セキュリティ専門委員会)、SG2(番号計画専門委員会)、SG12(網管理専門委員会通信サービス品質評価SWG)にて検討しております。ITU-T、3GPP、ETSI等各標準化団体での、IMT-2020/5G Mobile関連議論の動向や状況等の情報共有や意見交換を関連専門委員会で行う「5G標準化連携連絡会」を行っています。また、ITU-Tが新たに取り組もうとしているDPMやDFSなどの新規課題のハイレベルな対処方針などについては、TSAGでの対処方針の検討として、国際連携アドバイザリーグループでの検討を行っていく予定です。
今後のCTO会合に関して、TSB局長は、今年のITU Telecom World会場である韓国釜山で、2017年9月24日にグローバルCTO会議を開催する予定を案内しました。また、来年3月頃に北米地域で二回目のCTO会合を開催することを仮合意しました。
以上、今回のCTO会合での議論概要を解説しました。CTO会合での議論概要はCOMMUNIQUÉ(共同声明)として公開されていますので、より詳細な内容に関心のある方はご覧下さい。このコミュニケの情報は全てのSGと標準化戦略に関するTSAGラポータグループに展開され、今後の標準化戦略の検討に反映される予定です。
表1 北米地域CTO会合参加組織
No.
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企業・団体名
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国名
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1
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Cisco Systems
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アメリカ
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2
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Dolby Laboratories
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アメリカ
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3
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Ericsson
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アメリカ
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4
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InterDigital
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アメリカ
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5
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Juniper Networks
|
アメリカ
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6
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Symantec
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アメリカ
|
7
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TELUS
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カナダ
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8
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Xilinx
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アメリカ
|
9
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TTC, TSAG RG-SS
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日本
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10
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ITU
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