第28回ASTAP会合速報:ASTAP議長に再選
第28回ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program)総会がタイ王国の首都バンコクのチャオプラヤー川沿いに建つミレニアム・ヒルトンホテルで、3月6日~10日の期間に開催されました。今回のASTAP総会には、APT(Asia-Pacific Telecommunity:アジア・太平洋電気通信共同体)加盟国38ヶ国の内、16か国の主管庁代表と23の企業・団体を含め、計142名が参加しました。
2016年10月13日にタイ王国のプミポン・アドゥンヤデート国王(His Majesty King Bhumibol Adulyadej)が崩御され、今年の1月に訪れた時には市内の多くの広告塔や看板は国王への弔意を示すモノトーンのものになっていましたが、5か月が過ぎ、タイの政府機関は1年間の喪に服しておられますが、市内の街並み、ネオンサインや掲示物などは少しづつ彩を戻しつつあるようです。3月5日には、日本の天皇・皇后両陛下がプミポン前国王陛下の御弔問のためタイをご訪問され、地元の新聞では大きく報道されていました。本ブログでは、ASTAP会合の主要結果概要について報告します。ASTAPの歴史については、過去のブログで紹介していますので、参考にしていただければと思います。
1.ASTAP議長・副議長選出
今回のASTAP総会では、まず議長と2名の副議長の選出が行われました。現状の会議規則では議長・副議長の任期は2年間で、最大二期となっています。今会合が一期目(2017年3月まで)の任期満了となり、役職選挙が行われました。議長には、総務省推薦で前田(TTC)が、副議長には、韓国と中国からそれぞれ現職の立候補があり、対立候補は無く、いずれも二期目役職者として総会での指名承認が得られました。
また、事務局から役職任期を2年から3年間に拡大する変更案が提案され、総会での承認が得られ、一期3年最大二期までの任期規定はAWG(APT Wireless Group)と同等の議事規則となりました。私の場合、2020年3月までがASTAP議長任期となります。
2.ASTAP役職者構成
ASTAPを構成するWG(作業グループ)およびWG配下のEG(専門家グループ)の役職者の最新情報を表1に示します。
ASTAPは、プレナリー、WG、EGの3階層で構成されます。標準化課題を11の専門家グループ(EG)で分担し、EGの複数グループを束ねて、「ネットワークとシステム」、「サービスとアプリケーション」、組織横断的課題である「政策と戦略的調整」の三つのWGを構成します。WGが配下のEGの成果の取りまとめとEG相互間の調整機能を持ちます。また、ASTAPの運営について助言をするアドバイザリーボードを有するとともに、ASTAP全体のプロモーションや作業方法などの運営管理はASTAP議長の判断で時限的なアドホックグループを構成することができます。
表1.ASTAP組織の役職者体制
組織・WGs/EGs
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議長(WGs・EGs副議長省略)
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ASTAP議長
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前田 洋一 (日本)
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ASTAP副議長
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Ms. Haihua Li (中国)
Dr. Hyoung Jun Kim (韓国) |
WG PSC (Policy and Strategic Co-ordination)
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Mrs. Nguyen Thi Khanh Thuan (ベトナム)
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EG BSG (Bridging the Standardization Gap)
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Mrs. Nguyen Thi Khanh Thuan (ベトナム)
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EG PRS (Policies, Regulatory and Strategies)
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Mr. Felix Rupokei (パプアニューギニア)
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EG GICT&EMF (Green ICT and EMF Exposure)
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Dr. Sam Young Chung (韓国)
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EG ITU-T (ITU-T Issues)
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釼吉 薫 (日本・NEC)
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WG NS (Network and System)
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Dr. Joon-Won Lee (韓国)
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EG FN&NGN (Future Network and Next Generation Networks)
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Dr. Joon-Won Lee (韓国)
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EG SACS (Seamless Access Communication Systems)
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小川 博世 (日本・ARIB)
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EG DRMRS (Disaster Risk Management and Relief Systems)
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千村 保史 (日本・沖電気)
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WG SA (Service and Application)
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Dr. Seyed Mostafa Safavi(イラン)
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EG IOT (Internet of Things)
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今中 秀郎 (日本・NTT)
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EG IS (Security)
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永沼 美保 (日本・NEC)
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EG MA (Multimedia Application)
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山本 秀樹 (日本・沖電気)
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EG AU (Accessibility and Usability)
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Dr. Jee-In Kim (韓国)
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11の専門家グループで扱う技術課題については、標準化政策・規制・戦略、標準化格差解消、ICTと気候変動、ITU-T課題、将来網と次世代ネットワーク、セキュリティ、シームレスアクセス、防災災害復旧システム、IOT/M2M、次世代ウェブを含むマルチメディアサービス、アクセシビリティなどの議論を扱いますが、EG議長をはじめASTAP専門家グループには、なるべく日本の専門家の方々に参画、主導頂ければと考えます。なお、個々の標準化技術課題の審議状況については、TTCや国内の関連委員会での報告を参考にしてください。
3.インダストリー・ワークショップ
今回のASTAP総会は5日間開催でしたが、初日の3月6日に、「IoTとスマートシティ」をテーマとして、APT地域におけるIoTに関するユースケースの紹介などの講演を通じて、今後の標準化課題を議論するためのインダストリー・ワークショップを開催しました。
オープニングセッションでは、APT事務局長のAreewan Haorangsi氏の歓迎挨拶の後、ITU-T局長のChaesub Lee氏とトヨタIT開発センター会長の井上友二氏による基調講演が行われました。ワークショップは4セッションで構成され、プログラムを表2に示します。
表2.“IOT and Smart Cities”に関するIndustry Workshopプログラム
09:10-10:30 (セッション1) オープニングと基調講演 (モデレータ: Dr. Hyoung Jun Kim)
10:50-12:30 (セッション2) Innovation and Transformation (モデレータ: Ms. Michiko Fukahori)
14:00-15:30 (セッション3) Consideration for deployment of IoT and Smart Cities
15:50-18:00 (セッション4) 標準化 (モデレータ: Ms.Haihua LI)
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セッションモデレータとして、日本からはNICTの深堀道子氏にご貢献いただきました。ワークショップ後のアンケートを実施しましたが、評価は高く、今後も開催を望む声が多く、扱うべきいくつかのトピックの提案もありました。次回のワークショップ(ASTAP-30)の企画については、副議長のKim氏をリーダーとするアドホックグループを構成して検討することとなりました。
今回のテーマである「IoTとスマートシティ」は、将来の社会経済開発の重要な原動力であり、世界には非常に多くの活動があります。 今回のワークショップでは、中国、フィリピン、日本、韓国、ベトナム、シンガポールの「IoTとスマートシティ」の先進的なイニシアチブと経験が紹介され、アジア太平洋地域各国におけるこの分野の高い関心と積極的な取組が示されました。 APTメンバーにとって、地域の他の国々のイニシアチブや経験を習得するのに非常に役立つことから、ASTAPは情報共有を継続し、「IoTとスマートシティ」の活動を地域として促進・拡大することをワークショップの総括としました。講演の詳細内容に関心のある方は、TTC事務局にお尋ねください。また、総務省およびTTCの関連委員会での報告会をご参考ください。
4.ASTAPでの主要な審議結果
プレナリー会合では、11のEGの4日間、25のセッションで作成され、WGで合意された成果物最終承認が行われました。ASTAPの成果文書としては、勧告、APTガイドライン、APTレポート、リエゾン文書などが分類としてありますが、今回は以下の11件の文書が承認されました。
APTレポート: 3件「APT地域におけるEヘルスの事例集」「光ファイバーによる無線信号伝送技術(ROF)を用いたフロントホール/バックホール」「光ファイバーによる無線信号伝送技術(ROF)を用いたマルチサービス信号伝送に関する調査報告」
APTガイドライン:2件「ITデバイスとサービスの安全な利用に関するセキュリティガイドライン」「ICTソリューション導入管理におけるガイドライン」
リエゾン文書:6件「AWGへのVoLTE相互接続に関する検討」の他、ITU-TのSG16、SG20、SG2との連携強化のための文書
この他、各EGの今後の作業計画、今後の調査に資するためにAPTメンバーに送付される質問状(Questionnaire)として、将来の伝送網技術に関する要求条件、スマートシティ応用に関するユースケース調査のための質問状2件を承認しました。
また、TTCとしての成果関連では、TTCは2007年よりアジア地域の5か国と連携してAPTプロジェクトに参画し、ルーラルエリア(過疎地域)における医療、教育、農水産業、環境などの社会的課題をICTにより解決するICTソリューションへのニーズや有用性をASTAPの場に展開する活動を進めてきました。この度、この成果は、APTのICT政策と開発のための出版プログラムにおいて、“Handbook for ICT Projects for Rural Areas”のハンドブックとしてまとめられたことが報告され、会合中にハンドブックが各国代表に配布されました。
DRMRS専門家グループにTTCが提案する「災害時に自動車を活用したICTシステムに関する勧告」に関しては、勧告草案を次回会合までに完成させる計画を合意しました。このEG議長には千村氏(沖電気)が指名されるとともに、勧告案エディタとして、TTCから大西氏(トヨタ開発センタ)、眞野氏が指名され、日本のリーダーシップが期待されます。
5.ASTAPの今後の課題
ASTAPは標準化組織の分類では地域標準化機関として分類されますが、果たして地域標準として、何を議論し、何を決めるべきでしょうか?TTC、ARIB、TTAなどのAPT各国の標準化機関(SDO)とASTAPとの関係についても、今後の在り方を含め考えていかなければいけないと思います。
193カ国が加盟するITUにおいて、標準化政策や標準化機関の役職人事など重要な事項で各国主官庁の投票により決定される場合、アジア・太平洋地域として38ヶ国の意見集約と連携ができれば、ITUでの決定に影響力を発揮することが可能となります。先般のWTSA-16総会においても、日本提案をAPTとしての共同提案とすることにより総会での提案合意に大きく貢献することができました。常日頃からアジア・太平洋諸国との交流が図れるASTAPの場は貴重な機会と考えることができるでしょう。また、アジア・太平洋地域は約40億人の人口を抱えており、開発途上国も多く、今後の発展が期待できる潜在的な市場であることから、アジア・太平洋地域の要望を考慮した標準化技術の展開と支援が重要となると考えます。
ASTAPでは、日本の技術面での質の高さへの信頼は得られていますが、ビジネスに発展させるためには、アジア・太平洋地域での仲間作り戦略と途上国への一層の貢献が期待されています。今後、日本の皆さんがASTAPをいかに活用していくか考えて頂き、その上で、皆さんのASTAP活動への関心が高まることを期待しています。
TTCは、今後ともITU-T、APTおよびその他の標準化機関・団体との連携を図りながら、グローバル標準の実現に向けた標準化活動の推進とアジア・太平洋地域への普及活動を推進していく予定です。私は今まで、ITU-T SG13副議長、SG15議長、ITU-Tレビュー委員会議長を務めて参りましたが、今後はITU-Tと連携しながら、ASTAPの地位向上に貢献できるように関連課題に取り組んでいきたいと思います。
6.今後の予定
次回ASTAP-29は8月22日~25日、タイ王国バンコクでの開催予定です。次回のASTAP-29では、はじめに半日の「標準化ワークショップ」を企画することとし、各国のSDOを招待し、それぞれの国が関心を持つ活動を共有するするとともに、ICT標準化における途上国の課題や•課題に取り組むためのベストプラクティスを特定し、APTにおける標準化連携の在り方を議論する予定です。
最後に、今回会場となったホテルからの昼と夜との眺めをお送りします。この中で、今回初めて気づいた奇妙な形(積み木崩し)のビル(写真5)を紹介します。2016年8月29日、バンコクでタイ国内最高層ビル(313メートル)として完成した「マハナコン:Maha Nakhon」です。実は、展望台等はまだ完成しておらず一部開業という噂もあります。バンコクではこれから高層建築が続々と完成予定のようで、2019年には最高層建築物(615メートル)となる「Super Tower(スーパータワー)」の建設が予定されており、今後のバンコク訪問の楽しみの一つになるかもしれません。