TTCセミナー「5Gモバイルネットワークの標準化動向」を開催
暦の上では「小雪(しょうせつ)」を過ぎ、そろそろ雪も降り始め、本格的な冬が訪れる季節となりました。札幌では62年ぶりの大雪という知らせも届いていますが、関東では、まだまだ秋の景色が残っています。TTC周辺の芝公園のイチョウは黄色く色づき、寒椿の花が彩を華やかにしてくれています。
TTCでは、11月26日の午後、5Gモバイルネットワークの標準化動向に関して、国内外での検討状況、特にITU-Tにおけるフォーカスグループ(FG:解説1)のFG IMT-2020での活動状況及びその活動成果を共有するために、セミナーを開催しました。100名近くの参加をいただき盛況な会となりました。今回のブログでは、セミナーを通じて紹介された5Gネットワーキングの位置づけと今後の課題について解説したいと思います。
セミナーでは、NGN&FN専門委員会委員長の後藤良則氏(NTT)に司会進行をお願いしました。セミナー講師としては、TTC会員企業の他、アカデミア(東京大学、早稲田大学)、総務省から、産学官を代表する専門家をお招きし、5Gに関する日本としての取り組み方針、5G技術に関連する標準化活動の最新情報と今後の検討課題などについて、ご講演をいただきました。セミナーのプログラムを表1に示します。
表1;セミナープログラム
時間
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講演内容・講師
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14:00~14:05
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開会挨拶
藤田 和重 氏(総務省 情報通信国際戦略局通信規格課 課長)
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14:05~14:25
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「第5世代移動通信システムを支える次世代ネットワークの標準化について」
影井 敬義 氏
(総務省 総合通信基盤局電気通信技術システム課 課長補佐)
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14:25~14:50
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「ITU-T FG IMT-2020の概要(GAP分析)」
今中 秀郎 氏 (NTT-AT(株)、FG IMT-2020 副議長)
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14:50~15:15
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「想定される5Gの用途と要求諸元(Usecase、High Level Architecture、E2E QoS)」
江川 尚志 氏
(日本電気(株)、NGN&FN専門委員会 副委員長)
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15:15~15:40
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「将来型IP-NWの5Gへの展開(ICN / CCN)」
津田 俊隆 氏(早稲田大学客員教授)
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15:40~16:05
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「5Gに向けたSDN/NFVの拡張技術(Network softwarization)」
中尾 彰宏 氏(東京大学教授)
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16:05~16:30
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「5Gの実現に向けた次世代Mobile Fronthaul/Backhaul」
可児 淳一 氏
(日本電信電話(株))(アクセス網専門委員会 委員)
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16:30~16:55
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「将来のモバイルネットワーキングに関する検討会活動概要(TTCにおけるアドホック活動の成果と今後展開)」
林 通秋 氏(KDDI(株)、FMN-Ph2 AH リーダ)
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16:55~17:05
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閉会の挨拶
前田 洋一(一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)専務理事)
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17:10~
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意見交換会
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5Gは、第5世代モバイルネットワーク(5G:5th Generation Mobile Network)の意味ですが、ITUでは、第3世代を「IMT-2000」、第4世代を「IMT-Advanced」と呼称したのに対して、第5世代を「IMT-2020」と呼ぶことを、10月下旬にジュネーブで開催されたITU無線通信総会(RA-15)において決議しました。合わせて、2020年までに行う5G無線インターフェイス勧告などの策定プロセスに関する原則が決議されました。これにより、今後、国内外での検討が精力的に進められる環境が整ったと言えると思います。
日本では、5Gは、様々なサービスに柔軟に対応するための将来の重要な情報通信システムになると考えられており、産学官連携により、その研究開発や標準化の検討を推進する場として、「第5世代モバイル推進フォーラム」(5GMF:The Fifth Generation Mobile Communications Promotion Forum)が設立されています。
5Gは、従来のモバイル技術の延長線上の「超高速」や「大容量」だけでなく、「超低遅延」、「多数同時接続」という新たなネットワーク要件を備え、すべてのモノがインターネットに接続されるIoT(Internet of Things)の実現に不可欠な基盤技術として期待されています。特に、自動運転制御、ヘルスケアにおける遠隔診断、ホームセキュリティや家電の遠隔制御など、IoTを支えるユースケースでの新しい無線アクセスの実現が期待されています。5Gネットワークの実現には、無線技術だけでなく、有線技術を含めた双方の技術的ブレイクスルーが必須となります。TTCでは、5Gネットワークを支えるモバイルフロントホールやコアバックボーンのネットワーク課題も含め、無線と有線技術が連携したトータルな通信ネットワーク技術に関する検討について、5GMFでのネットワーク委員会(委員長:中尾彰宏教授(東大))での検討を推進するとともに、関連する標準化課題については、TTCの関連専門委員会の活動を通じて、ITU-Tをはじめとする国際標準化への反映に積極的に取り組んでいます。5GMFによりオールジャパンでの検討体制が確立し、国内標準化組織として、TTCはARIBと連携し、本活動を支援していく方針です。
ITU-Tでは、Future Networks技術の将来モバイルネットワークへの適用と、モバイル網における有線と無線の連携技術についての検討を主管するSG13において、本年4月に、IMT‐2020に関する FGが設立され、わずか5か月間に4回の実会合と25回の電子会議を開催し、5つの技術トピック
- ネットワーク・ソフトウェアライゼーション
- アーキテクチャ
- エンド-エンドQoS
- モバイルフロントホール/バックホール
- ICN/CCN(Information/Contents Centric Network)
に関する標準化ギャップ分析が行われました。
日本としては、5Gの早期実現を目指す上で、ITU-Tでの検討における光アクセス技術のモバイルアクセス網への活用と、SDN(Software Defined Networking)やNFV(Network Function Virtualization)技術を発展させたNetwork Softwarization(解説2:ネットワーク・ソフトウェアライゼーション)の新概念の検討加速が必要であると考え、5GMFのネットワーク委員会およびTTCとして積極的に寄書提案を行いました。
TTCでは、昨年度「将来のモバイルネットワーキングに関する検討会(FMN)」アドホックを設立し、将来のモバイルネットワークの実現に必要な技術課題の抽出と、国内外の研究機関、標準化団体で検討されている要素技術との関係を分析し、TTCホワイトペーパーとしてまとめました。また、5GMFのネットワーク委員会の検討成果についてもホワイトぺーパーとしてまとめられています。FG会合に対しては、ホワイトペーパーの内容を基に提案を行い、成果文書の作成を推進してきました。これらのホワイトペーパーはTTCホームページからダウンロードできます。
今回のセミナーを通じて、5Gモバイルネットワークを支える要素技術として、日本の5GMFが提唱するネットワーク・ソフトウェアライゼーションが、様々な新たなサービス要求条件を柔軟に迅速に実現するためのネットワーク技術のトレンドとして共通認識として定着してきたと思っています。また、ネットワークのハイレベルアーキテクチャ、エンド-エンドQoS、モバイルフロントホール/バックホール、新技術としてのICN/CCN(Information Centric Network/Contents Centric Network)に関する検討の今後の重要性が本セミナーによって十分に伝えられたのではないかと思います。
TTCでは、より多くの皆様にご参加いただき、これからの5Gネットワーキングの検討を盛り上げていただければと思います。TTCへの入会に関心のある方は入会案内をご覧いただき、TTCまでお問い合わせください。
【解説1】 FG: ITU-Tにおいて新規課題を始めるにあたり、勧告策定前の基礎調査や情報収集を行うための時限的な組織体制で、ITUメンバー以外の参加も可能なオープンな審議の機会です。
【解説2】 ネットワーク・ソフトウェアライゼーション(NetSoft): IEEE学会の中で使われ始めた用語(http://sites.ieee.org/netsoft/)で、SDNやNFV(網機能仮想化)、ソフトウェアベースクラウドコンピューティングなどを含めたネットワークのソフトウェアプログラム化による実現を目指す広い概念。FG-IMT2020では以下の定義が示されています。
Network softwarization is an overall transformation trend for designing, implementing, deploying, managing and maintaining network equipment and network components by software programming, exploiting characteristics of software such as flexibility and rapidity of design, development and deployment throughout the lifecycle of network equipment and components, for creating conditions that enable the re-design of network and services architectures; allow optimization of costs and processes; and enable self-management.